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銀狼の暗殺者

ー/ー



鮮やかな紅葉の樹木や果実をたわわに実らせた草木が、その存在を隠すように、実り溢れる大地にあるその洞窟は、異質であった。いつからそこにあったのかは、誰もわからない。

銀狼(ぎんろう)の洞窟】
魔狼と呼ばれている、魔物として生まれた狼と、魔族とエルフの遺伝子を祖に持つ特異な種族であるダークエルフが共存して暮らしている洞窟だ。基本的に洞窟から出ることのない種族で、この洞窟の中、地下深くまで、広く大きく、自分たちの国を築いている。その為、ある程度認知があるエルフの存在より、人々はダークエルフという種族の存在を知る者は少ない。

「シモン!暗いから松明に火をつけるんだぉ!」

「言われなくても今やってる。少し静かにしたらどうだ…。」

騒がしく、洞窟の中へ入っていく4人組…騒がしくしているのは約1名だったが…。

「わりぃなメディナさん、俺らいつもこんなんなんだわ…。」

「いえ、私は大丈夫ですが…ダークエルフたちに気付かれないようにしたほうがいいのかなぁと少し…思ったというか…」

「だよね…おい!気付かれるから静かにしろ!」

「あの…あは、あはは…はぁ。」

クロウの怒鳴り声が洞窟内にこだました。言った矢先にこれでは、と。メディナは不安を覚えた。

松明を手に、クロウが先頭を進む。
洞窟の中は少し湿り気があるが、ひんやりと涼しい。道は手が加えられているらしく歩きやすいが、所々地面を切り抜いたようになっており、そこには手作りの木のつり橋が作られ、その橋は大きく道幅はあるものの、足元の木材の建付けは所々隙間があり、うっかり覗いてしまうと、眼下に広がる底の見えない暗闇に吸い込まれそうになる。

「…シモォン~…寒い~…どうにかしろぉ~…」

「…知らん。まともに服を着ていないお前が悪い。」

「なんだぉ!ケチ!」

相変わらず、静かにするとは無縁らしい。

「クロウさん…コムさんの話し方って…。」

メディナは前を歩くクロウに近づき、小さい声で問いかける。

「あぁ…まぁ、気になるよな…あいつは、失話病(しつわびょう)なんだよ。まさかなぁ~エルフもかかるとは思わなかったけど…たぶんだけどよ、細胞からおかしいんだと思うんだ、あいつは。…だからってわけじゃないけど、『おしゃべり』なのは許してやってくれ、な?」

「いえ!私の方こそごめんなさい、変なことを聞いてしまって…。」

失話病(しつわびょう)
魔術師だけがかかる特有の病気で、徐々に話すことができなくなる。声は発することは出来るが、会話や単語の発音ができなくなる。つまり、詠唱が出来なくなり、魔術師は務まらなくなるという病。発病の原因は不明とされ、不治の病として、魔法を扱う者たちは知らない者がいない病気だ。

「そんなしょんぼりするなって!エルフだから長生きだろ?進行もめちゃくちゃ遅せぇから気にしなくていいよ。見てわかるように、めちゃめちゃ元気だしさ?」

「そうですね…本人が前向きなら、こちらが変に心配して、気を使うのは違いますもんね。あのポジティブさは、見習うべきものですね!はい!」

「あ…いや、メディナはそのままの方がいいと思うぞ…。」

静かに進むのはもう諦めたのか、メディナもなんだかんだ楽しく話をしながら洞窟の奥へ進んでいく。どれくらいの時間、進んだのだろうか。薄暗い洞窟の中では時間の流れを知るのは難しい。口数も減り、頭上にあるつららにように尖った鍾乳石をつたって落ちる、ポツン、ポツンと滴る水滴の音と、4人分の足音だけが響く。

徐々に深部へ近づいているのか、冷気が増しているを感じ始めた。ただ、それは単純な寒さではないことを、先頭を歩くクロウは真っ先に感じ取った。

一行の行く手を阻む、何かが潜んでいることを。

前方にある奥へ続く暗がりの洞穴、松明の明かりの向こう側に、光る複数の獣の目。

「こりゃまた大勢でのお出迎えだなぁ。」

「油断するなよ。」

「ふっ…まかせろぉ!」

「来ます…!」

2匹の中型の魔狼が飛び込んでくる。

クロウは向かってきた魔狼の攻撃を華麗に交わし、すれ違い様に魔狼の腹に向かって剣を差し込み、振り上げ、胴体を真っ二つに裂いた。残りの1匹はメディナ向かって行ったが、飛びかかる手前で、シモンが火の矢を放ち焼き殺した。

「はっ!おやおや、そこそこできるのが来たな?」

頭巾をかぶり、顔半分を布で隠した長身の怪しい人物。不格好な鉄の棒を杖のように使い、洞穴から姿を現した。
棒の先端から周囲に複数いる狼たちを繋げている鎖のようなものが繋がっているが…所々透明になって見えた。

そして、その後ろには狼以外に幾人か…こちらに殺意を向ける気配があった。

「そりゃこっちのセリフだな…殺す気満々ってか?」

「ダークエルフの魔狼使い…まさか先頭に立って出てくるとは思いませんでした。」

クロウたちが構え、警戒して出方を探る様子をニヤニヤと。それは布越しからでもわかる悪意に満ちた笑みだ。

「可愛い可愛い我が魔狼を、こうも簡単に殺してくれるとは…なんて酷いことを。」

「けしかけたやつが何を言っているのやら…。」

「そーだそーだ!自分のせいだろぉ!」

シモンとコムの煽りも効かずか…ジャラジャラジャラっと大きな音を立て、討ち死んだ魔狼を自らの前に引き寄せ、他の魔狼に喰わせている。グチャグチャと生肉を咀嚼する音と引きちぎる音がクロウ達の耳にまで届き、思わず顔を引きつらせた。

「こいつぁエグいことしてんなぁ、おい…。」

まともじゃない…誰もがそう思う光景だった。
そのせいで前方に気を取られてしまい、ほぼ一本道の後方から、どこから湧いて出てきたのか、魔狼を従えたダークエルフの部隊が現れ、道を塞がれてしまっていた。

「わっわっ!ちょ!シモン…!うしろからもきたぉ…!」

「チッ…俺としたことが。クロウ!前は任せるぞ。」

「おっけー!俺とメディナでどうにかすんわ!…いけるか?」

「もちろんです、合わせます…!」

クロウ達のいる場所は不利だった。
退路の洞穴と、進行方向の洞穴、間にあるその場所は幅が3mあるかないかの細い道、両サイドは空洞になっており、下手に動けば落下して命は無いだろう。魔狼使い達が、あえてここを狙って攻撃を仕掛けたのは明らかだ。

「さて、どう料理してくれようか…?」

「シモンは焼き物しかできないじゃ…わっ、にらまないでぉ!じょうだんだぉ!」

コムにツッコまれたのもあるが、まんまとはめられてこの状況にさせられたことが気に食わないと、普段無詠唱で簡単に魔法を放っているシモンが、あえて空中に方陣を描き、炎の魔法を発動させる準備をした。

「知っているか?正しく、乱れの無い方陣から放たれる…魔法の威力がどれほどのもか、を。」

意味有り気に方陣を描き終えたまま広げた手を添え、ダークエルフ達に威嚇するシモン。
そんなことは知ったことではないと言わんばかりに、魔狼と、武装したダークエルフ達が次々飛び出してシモンとコムを襲う。

「…愚かな奴らだな。」

シモンが構えている方陣から次々と火の(つぶて)がダークエルフ達に向かって飛んでいく。本人は特に狙って放っているわけではない、なぜなら…

「ぬわっ!とうっ!わぁぁ!シモン!髪焦げたぉ?!」

「こんなのいつものことだろう…?ちゃんと避けろ。」

「敵も味方も両方避けるとかどんなスパルタだぉぉ!!」

文句を言いながらも、コムは襲いかかる魔狼の目をレイピアで潰し、視界を殺してからシモンの魔法が当たる位置へ転がした。
バラバラな動きで統率の取れていないダークエルフの攻撃も、俊敏な動きと組み合わせ、魔狼と同様に魔法が当たる位置へ誘導。シモンが威力重視で攻撃を行えるように動くコム。

「す、すごい…コムさんってあんな動き出来るんですね…!」

「だろ?喋らなきゃ結構できるやつなんだよなぁ。ま、あの動きはシモンとだからできるやつ、なんだけどな。さ、こっちも行くぜっ!」

クロウは魔狼使いめがけて素早く走り込み、突っ込んでいく。しかし、そう簡単には近寄らせない、と、魔狼使いの後方から暗器がいくつも飛んでくる。が、走りながら器用に、そして簡単に剣で弾き落としていった。

「あらよっ…とぉ!」

「ちっ!!殺れぇ!!」

少し焦りが見える魔狼使い。後方に控えた部下達と、魔狼を突貫させたが、メディナの放った氷の魔法で凍てつかされ、攻撃が届く前に氷の塊となって転がり、止められる。

「ナイスだぜぇメディナ!さぁて?俺に殺意向けたのが間違いだったなぁ?おっさんよぉっ!!」

凍りついた魔狼を砕きながら止めを刺し、魔狼使いに一気に詰め寄ったクロウは首を狙って剣を振った。
ピシュっと刃が入り、首から血が吹き出して魔狼使いはその場に倒れたのだが…浅かった。

「グブォッ…ふ、はは…仕留めそこねたこと、を…後悔するがい…い。」

血を吐きながらも、未だ強く握る鉄の棒。最後の力か。右から左へ強く振り動かした。

「クロウさん!飛んで!!」

中央付近にいたメディナは最初に気付き、声を上げた。

「なっ…?!」

「落ちろぉぁ…ぐばぁっ!!」

メディナに言われた通り、宙に飛び上がるクロウ。

着地のついでに魔狼使いの首めがけて剣を突き刺して止めを刺す。しかし、魔狼の動きは止まらない。
残り香のように、纏わりついたその力の鎖の思うままに突貫していく魔狼。同時に、シモンたちが相手をしている側にいる魔狼使いも、タイミングを合わせて魔狼を放っていた。

前方後方の魔狼同士の鎖が絡み合い、空洞に架かる道を繋ぎ、魔狼使いの手の動きと連動するかのように2匹の魔狼はタイミングを合わせて(きびす)を返して走り出す。

絡み合った鎖が地面を擦り上げるジャリジャリという音が響き、土埃を舞い上げながら、暗闇の空洞へ魔狼は飛び込んでいった。

「わざと落としたのか?一体なぜ…?おい、コ―っ!?」

魔狼と道連れに落とす算段だったようだが、繋がれた場所が運良くシモンを避け、メディナとクロウは回避していた。
 
「はへっ…?」

「コムっ!!!」

鎖に引っかかったのはコムだけだった。薄くなって見えなくなっている鎖の部分もあった、見えないだけで、そこにあった鎖。それが運悪く、コムの足を巻き込んで、魔狼の後を追うように空洞へ落ちていく。

「なんでおでだけええぇぇぇ……」

情けない叫び声を上げ、コムは暗闇の空洞に消えていく。

「コ…ム…?」

方陣を消して、慌てて縁へ駆け寄ったシモンだったが間に合わなかった。もう見えなくなったコムに、暗闇に。手を伸ばしたまま、固まっている。

「コムさん…そんな…。」

「大丈夫だってシモン。アイツのことだから精霊の力借りて底の方でぴんぴんし…あっ…キレた…やべぇ。」

ゆらりと。
全身から漏れ出したシモンの魔力のオーラは、赤から蒼へと変わっていく。

「貴様ら…骨も残さず、焼き殺してやる。」

敵を見据える瞳にも狂気を宿している。

「メディナ…隠れた上でその氷の魔法で防壁作れるか?なるべく分厚いやつ!」

「え?出来ますが…何が…?」

「いーからはやく!こっち!キレたあいつは手に負えねぇんだ!!」

一瞬。閃光のような光が辺りを包んだ。

「こ…っわぁ。」

「ぎ、ぎりぎり。氷壁が意味ないくらい強い熱…どうしたんですかシモンさんは。」

半分以上溶けてしまってはいたが、滑り込むように岩陰と洞窟の壁の間に隠れ、言われたとおりに氷の壁を作って身を守ることができた。

「えーっとな、シモンはコムがちょー!大事なわけ。…滅多に表に感情出さない奴だけど、ああなっちまうと俺にも簡単にゃ止められないんだよ。にしても…骨どころか灰も残してやらねぇとかどんだけだよ…見境ねぇなぁ…たくっ…。」

洞窟の一部が溶けるほどの熱を炎と呼んでいいのかはわからない。シモンが放った魔法で魔狼使いの部隊は全員、消滅していた。

「はぁ…はぁ…はぁっ…!」

焦点が定まらない瞳で両手を見つめ、ワナワナ震えるシモン。再び炎が活性化しそうになったが、

「落ち着けシモン!あいつなら、精霊が守ってくれてるだろ!思い出せ!」

岩陰から出たクロウはシモンの元へ駆け寄り、もう一度爆発させそうになっているシモンに声をかけ、頭をバシッと叩く。
シモンは徐々に呼吸と、魔力の放出も収まっていき、正気を取り戻していく。

「ク…ロウ…?あぁ…そうか…っ…俺は…。」

「シモンさん、急ぎましょう?心配なら、早く底まで迎えに行かないと。」

メディナの言葉にうなずき、コムの無事を確かめる為、急いで底を目指して走り出した。

**********

ぽよんぽよん、と。

「マジで死ぬかとおもったぉ…。」

大きな水の玉の上にコムはいた。
クロウが言うように水の精霊の力を借りてクッションを作り、地面へ直接叩きつけられることはなかったようだ。涼やかに流れる水音をさせながら水の玉は地面に染み込んで消え、コムは立ち上がり周辺の確認をした。

「んー…風の精霊にでも頼まない限り上に戻るのは難しそうだぉ…。他に道は…ぉ?なぁに?あっちに?ほんとかぉ…?」

ひと粒の水が精霊…青い蝶のような形を成してコムに何かを伝えていた。案内されるように、後をついていく。

「ぅ…っ。」

淡く光る異様な大きさのキノコの横に人影と…血溜まりができているのが見えた。

「んなっ!こんなところに人…ちがうぉ…ダークエルフ…。」

恐る恐る近寄り、状態を確認する。

全身傷だらけ、腹部は深く噛みちぎられえぐられていた。血溜まりはここからの出血のようだ。

「こんなのほっとけないぉ…!お前たちもそうだからここまで案内したんだぉな!んんん…っ!」

血が流れ続ける腹部の傷跡に手を当て、意識を集中させる。

コポコポと水が湧き出る音を立てながら、倒れているダークエルフとコムを包み込む水の流れ。溢れた血もその流れに巻き込み…ダークエルフの傷口へ沁み込んでいく。

「出血さえ止まれば…いい感じだぉ!意識はどうかな…ぉあ?!この顔!」

傷口を塞ぎ終わり、か細かった呼吸の戻りと意識を確認するため顔を見たコムは驚いた。

ダークエルフ特有の褐色の肌をしていたが、その顔はメディナの生き写し。言うまでもなく、探していた姉のセルフィーナだった。

「何でこんなとこで傷だらけでいるんだぉ…?おい!おきろぉ!」

「ん…あ…?お、前は?」

「おではコム!お前セルフィーナだろ?メディナがさがしてるんだぉ!いくお!」

「メディ、ナ…?お節介な子に育ったな…ふふ。って、待ってくれ…まだ血が足りなくてフラフラし…ご、強引なやつ。」

お手柄は自分だと言わんばかりに元気いっぱいにセルフィーナの手を引っ張り無理やり立ち上がらせ歩かせるコム。

「フッフッフッ!まってろぉ!」

*********

不思議なことに奥へ進んでも、他のダークエルフが襲撃してくることはなかった。静まり返っていて逆に怖いくらいだ。

「水の…でも万が一…。俺が信じなきゃ…。なぜ動けなかった…くそ…!」

「まーだブツブツ言ってんのかよ…こっちの気が滅入るっつうの!」

「あはは…。それにしても本当に静かですね。さっきのは何だったのか…。」

「俺が気付けなかったから…すまない!」

「メディナ…違う話しよう、うん。」

「え、えぇ…そうですね…。」

シモンは自分の不甲斐なさにどんどん気を落として独り言をずっと。そんな様子にウンザリしながらクロウとメディナは暗く細い道を進んでいく。

淡く光る大小のキノコが出迎えるように怪しく点滅し、その先に開けた場所を見つける。

ほとんどボロボロになっているが家屋のようなものがあり、中央には井戸が見える。今は使われては居ないようだがダークエルフの村…居住スペースのようだ。

「少し休憩するか。さすがに疲れたわぁ…あの井戸水残ってるかな?」

「休んでる暇など!!」

コツンと裏拳で軽くシモンの頭を叩き、

「お前の頭を冷やすためだよ。冷静になれっつの。あいつに笑われるぞ?」

「そうですよ。一度状況を整理して、落ち着いてから。行きましょう?」

「…すまん。」

そう諭されたシモンはフラフラと井戸まで歩き、ぼんやりと底を覗き込む。その後ろからクロウも覗き込むが…水の気配はなく、枯れ井戸だったことに落胆してその場に座り込んだ。

「さて…一応ここが最深部、なのか?」

「いえ…恐らく中層ぐらいではないでしょうか…?壊れた家屋を見るに、恐らく警備に当たっていたであろう者たちの駐屯地的な場所…?今は使われてないみたいですが…」

「それもそうだろう…井戸が枯れてしまっているなら生活できまい。別の場所にするのが妥当…ん…?」

井戸から何か音が聞こえる。

ゴゴゴ…ザザザッ…

「んん…?あっ…?!」

「どうしたシモン?そんなに覗いたって水はねぇだ…」

ジュゴゴゴゴゴッ!!!!

クロウはシモンに釣られるようにもう一度井戸を覗き込んでしまった。そこにタイミングよく…間欠泉のように勢いよく水が吹き出してきた。

「んがッ…!!」

その勢いは凄まじく、クロウは頭がもげるくらいの衝撃を受けほどよく吹っ飛んでいった。間一髪避けていたシモンは、水しぶきを浴びながら見上げた先、吹き上がる水の頂点から聞こえる声と姿を確認した。

「お…?おぉ!シモーン!!おまいらもここにいたのかぉ!さすがだぉ!」

「コム…?」

「コムさん!!えっ…もうひとりはまさか…!」

そこに居たのはコム。それと、とんでもない行動をするコムに引き気味のセルフィーナだった。

少しずつ水が収まっていき、地面近くまで来たところで水の上から降りる2人。

駆け寄るメディナと、シモンの前に立つコム。

「さっき落ちたとこにいたんだぉ!ふふん!おでがみつけなかったらセルフィーナは死んでたかもしれないぉ!お手柄だぉな?」

「逆流登りは中々たのしめたよありがと…。それはそうとコムの言うとおり。道すがら話は聞いたよ、世話をかけたね。」

「姉さん…!無事で良かった!うっぅぅ…!」

「感動の再会だぉ…良かったよかっ…ふぇえ?!」

メディナはセルフィーナに抱きつくとわんわんと泣いてしまった。この洞窟の中は今、おかしな事になっているのが先程の襲撃からも分かっていたから尚の事、姉の無事が確認できたことに安堵した。そんなメディナをセルフィーナは困り笑顔で抱き返し、頭を撫でた。

その横ではシモンがコムを抱きしめていた。
突然の事でコムは固まり動けず、顔を真っ赤にして抱擁を受ける。

「ちょ…シ、シモン?どうしたんだぉ?は、恥ずかし…」

「また…失うかと…!俺がもっとちゃんと見ていれば…!すまない!無事で良かった…!!」

コムの耳元で囁くようにシモンが言うと、コムは両腕をシモンの背中にしっかりと回して、抱き返した。

「そう簡単におでは死なないぉ?…心配かけてごめんね、シモン。ただいま。」

その光景をジト目で見守るクロウ。首をゴキゴキさせながら…

「だーーーっれも俺の心配しないわけな?首もげるかと思ったわ…何だよあの水圧はよ…あーもー!いい加減イチャイチャやめてもらっていいですかね?!君たち?!」

声に気付いた4人は顔を見合わせ、照れくさそうにしていた。

移動と戦闘の疲労もあり、ひと晩ここで休んでから洞窟を出ることになった。火を起こして、それを囲む5人。

「それで?何でダークエルフの頭やってるお前がボロボロで倒れてたわけ?」

「それは…どこから話すべきだろうか。」

少し考え、言葉を詰まらせていたが、ゆっくりと話し始めた。

「ここよりもう少し奥に私たちの根城があるんだけどね、ちょっと前に年寄りの魔術師?が洞窟に迷い込んできてね。助けた同胞がお礼として貰った魔石があるんだけど、それがどうも原因みたいなんだ。」

「そもそもここに迷い込むっていうのもおかしな話ですよね…。」

「もぐもぐ…そぅだぉな?いふらはんへも…んぐんぐっ…こんなとこまよいこむとか。あーんっ…あまはへひのふとしても…」

「…こら。食ってから話せばいいだろう。」

洞窟ウサギの肉を頬張りながら喋ろうとしているコムを、隣にべったりくっついてるシモンが頭を軽く小突いて黙らせた。「またイチャつきやがって…」とクロウの口から漏れる。その様子をみて姉妹は同じほほ笑みをみせた。

「…んで?それから?」

「ふふ…えっと、どうやら【魅了(チャーム)】の魔法がかけられた物だったらしい。【魅了】といってもほぼ洗脳に近いレベルのものだったよ。どういう意図があったかはわからないけど、私らをバラバラにするのは簡単だった。」

仲間同士の争いによってダークエルフの秩序は乱れ、殆どが散り散りに。その後、洗脳された者同士で新たに築かれた新生ダークエルフの一団が牛耳るようになり、話し合いで解決しようとしたセルフィーナを襲って…突き落とされ、動けずにいたとのこと。

「もう少し早くにあれがヤバいもんだって気付いてたらこんなことにはならなかったはず…ここに来るまでに襲われたと聞いている。長として仲間たちをしっかりと見てやれなかった私の落ち度だ、すまなかった。」

「頭下げることはねぇよ。ちょうどいい運動だったしな?お前のほうが重症だったんだろ?俺たちのことはいいって!な?」

「え、えぇ?そ、そうです…かね?」

「何がいい運動だぉ!おではしにかけたんだぉ!」

「すまないコム、俺が…」

「あ、いや、シモン…そんなにおちこむなぉ…。」

楽しそうに笑うクロウと、苦笑いするメディナ。落ち込むシモンとオロオロするコム。

「…仲が良いんだな。とても微笑ましいよ。」

少し悲しそうにセルフィーナは口にした。

「おいセルフィーナ、おまいもおでたちといっしょにいこうぉ!」

「行くって…どこに?」

「俺が説明する、コムじゃ肝心なところが抜けそうだからな。」

「ぐぬぬ…っ!」

アクリス達のこと、不死の王のこと、仲間を集めてることをシモンがセルフィーナに伝えると、

「不死…なるほど。私を襲った奴らの1人が突き落としたあとに何か叫んでたんだわ、『不死の王万歳』みたいなことを、さ?」

ニヤリと笑うセルフィーナに、同じくニヤリと…悪い顔をするクロウが応える。

「ははっ…!ならもう、決まりか?」

「私はどんな理由があろうとここへ導いてくれたマエナスさんに報酬としてお仕えすることになりますけど…それが姉さんの為にもなるなら尚更。よろしく、ですね。」

「そうだね…いや、私はすぐに合流はできないな。」

「なんでだぉ?!」

「国盗りするんなら、ある程度の兵力も必要になるだろ?今は小規模な集まりでやれてるかもしれないけど、いずれは戦争になる、そうなった時どうする?」

セルフィーナの言うことは最もだった。『戦争』になった場合、10人程度の反旗を翻した集まりが、国を守る何千何万の兵に太刀打ちできるのか…それは否、である。

「そのときに備えて…私は兵を集めるよ。この洞窟は大陸中に広がってるから各地の長に会ってくる。それに、ここから離れて、生き延びてる奴らもいるだろうし、声をかけてみるよ。どこまで増やせるかわからないけど、いいかな?」

「これはマエナスも喜びそうな提案ではあるな。」

「だな。さすが頭はってただけあるな…えー…あと、マエナスには俺たちが報告しとくとして…メディナ、お前は姉ちゃんと行きたいんだろ?」

実はセルフィーナが話している間そわそわしていたメディナ。また離ればなれになるのが嫌なのと、またさっきのように襲われたら…と。そんなことを思っていたようだ。

「い、いいですか?やっぱりひとりじゃ危ないし…私でも役に立つと思う…セル姉さん、ついていってもいい?」

「そうね…危険な目に合わせちゃってて今更ここは安全だからひとりでいい、なんて言えないしね?私の方こそ…来てくれると心強いよ。」

こうして話はまとまった。

マエナスの判断を聞かずに決めてしまったが、恐らくマエナスには予見で見えていただろう。

翌朝。

この先のことを見据えたセルフィーナとメディナの姉妹は大陸の地下に広がる洞窟内を渡り、ダークエルフの兵を集める旅へ。

クロウ達3人はセルフィーナに出口まで送ってもらい、帰路へ。

「あー疲れた。戻ったら酒場行こうぜ酒場!」

「そうだな…俺も久々に飲み明かしたい気分だ。」

「おでもいくぉ!!こんだけ頑張ったんだぉ!アクリスのおごりでのむしかないんだぉ!」

「おっ!それいいな!…待ってろよぉアクリーース!」

「フッ…王子というのは大変だな。」

などと…談笑しながらラギルーガを目指し歩き出した。


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徐々に深部へ近づいているのか、冷気が増しているを感じ始めた。ただ、それは単純な寒さではないことを、先頭を歩くクロウは真っ先に感じ取った。
一行の行く手を阻む、何かが潜んでいることを。
前方にある奥へ続く暗がりの洞穴、松明の明かりの向こう側に、光る複数の獣の目。
「こりゃまた大勢でのお出迎えだなぁ。」
「油断するなよ。」
「ふっ…まかせろぉ!」
「来ます…!」
2匹の中型の魔狼が飛び込んでくる。
クロウは向かってきた魔狼の攻撃を華麗に交わし、すれ違い様に魔狼の腹に向かって剣を差し込み、振り上げ、胴体を真っ二つに裂いた。残りの1匹はメディナ向かって行ったが、飛びかかる手前で、シモンが火の矢を放ち焼き殺した。
「はっ!おやおや、そこそこできるのが来たな?」
頭巾をかぶり、顔半分を布で隠した長身の怪しい人物。不格好な鉄の棒を杖のように使い、洞穴から姿を現した。
棒の先端から周囲に複数いる狼たちを繋げている鎖のようなものが繋がっているが…所々透明になって見えた。
そして、その後ろには狼以外に幾人か…こちらに殺意を向ける気配があった。
「そりゃこっちのセリフだな…殺す気満々ってか?」
「ダークエルフの魔狼使い…まさか先頭に立って出てくるとは思いませんでした。」
クロウたちが構え、警戒して出方を探る様子をニヤニヤと。それは布越しからでもわかる悪意に満ちた笑みだ。
「可愛い可愛い我が魔狼を、こうも簡単に殺してくれるとは…なんて酷いことを。」
「けしかけたやつが何を言っているのやら…。」
「そーだそーだ!自分のせいだろぉ!」
シモンとコムの煽りも効かずか…ジャラジャラジャラっと大きな音を立て、討ち死んだ魔狼を自らの前に引き寄せ、他の魔狼に喰わせている。グチャグチャと生肉を咀嚼する音と引きちぎる音がクロウ達の耳にまで届き、思わず顔を引きつらせた。
「こいつぁエグいことしてんなぁ、おい…。」
まともじゃない…誰もがそう思う光景だった。
そのせいで前方に気を取られてしまい、ほぼ一本道の後方から、どこから湧いて出てきたのか、魔狼を従えたダークエルフの部隊が現れ、道を塞がれてしまっていた。
「わっわっ!ちょ!シモン…!うしろからもきたぉ…!」
「チッ…俺としたことが。クロウ!前は任せるぞ。」
「おっけー!俺とメディナでどうにかすんわ!…いけるか?」
「もちろんです、合わせます…!」
クロウ達のいる場所は不利だった。
退路の洞穴と、進行方向の洞穴、間にあるその場所は幅が3mあるかないかの細い道、両サイドは空洞になっており、下手に動けば落下して命は無いだろう。魔狼使い達が、あえてここを狙って攻撃を仕掛けたのは明らかだ。
「さて、どう料理してくれようか…?」
「シモンは焼き物しかできないじゃ…わっ、にらまないでぉ!じょうだんだぉ!」
コムにツッコまれたのもあるが、まんまとはめられてこの状況にさせられたことが気に食わないと、普段無詠唱で簡単に魔法を放っているシモンが、あえて空中に方陣を描き、炎の魔法を発動させる準備をした。
「知っているか?正しく、乱れの無い方陣から放たれる…魔法の威力がどれほどのもか、を。」
意味有り気に方陣を描き終えたまま広げた手を添え、ダークエルフ達に威嚇するシモン。
そんなことは知ったことではないと言わんばかりに、魔狼と、武装したダークエルフ達が次々飛び出してシモンとコムを襲う。
「…愚かな奴らだな。」
シモンが構えている方陣から次々と火の|礫《つぶて》がダークエルフ達に向かって飛んでいく。本人は特に狙って放っているわけではない、なぜなら…
「ぬわっ!とうっ!わぁぁ!シモン!髪焦げたぉ?!」
「こんなのいつものことだろう…?ちゃんと避けろ。」
「敵も味方も両方避けるとかどんなスパルタだぉぉ!!」
文句を言いながらも、コムは襲いかかる魔狼の目をレイピアで潰し、視界を殺してからシモンの魔法が当たる位置へ転がした。
バラバラな動きで統率の取れていないダークエルフの攻撃も、俊敏な動きと組み合わせ、魔狼と同様に魔法が当たる位置へ誘導。シモンが威力重視で攻撃を行えるように動くコム。
「す、すごい…コムさんってあんな動き出来るんですね…!」
「だろ?喋らなきゃ結構できるやつなんだよなぁ。ま、あの動きはシモンとだからできるやつ、なんだけどな。さ、こっちも行くぜっ!」
クロウは魔狼使いめがけて素早く走り込み、突っ込んでいく。しかし、そう簡単には近寄らせない、と、魔狼使いの後方から暗器がいくつも飛んでくる。が、走りながら器用に、そして簡単に剣で弾き落としていった。
「あらよっ…とぉ!」
「ちっ!!殺れぇ!!」
少し焦りが見える魔狼使い。後方に控えた部下達と、魔狼を突貫させたが、メディナの放った氷の魔法で凍てつかされ、攻撃が届く前に氷の塊となって転がり、止められる。
「ナイスだぜぇメディナ!さぁて?俺に殺意向けたのが間違いだったなぁ?おっさんよぉっ!!」
凍りついた魔狼を砕きながら止めを刺し、魔狼使いに一気に詰め寄ったクロウは首を狙って剣を振った。
ピシュっと刃が入り、首から血が吹き出して魔狼使いはその場に倒れたのだが…浅かった。
「グブォッ…ふ、はは…仕留めそこねたこと、を…後悔するがい…い。」
血を吐きながらも、未だ強く握る鉄の棒。最後の力か。右から左へ強く振り動かした。
「クロウさん!飛んで!!」
中央付近にいたメディナは最初に気付き、声を上げた。
「なっ…?!」
「落ちろぉぁ…ぐばぁっ!!」
メディナに言われた通り、宙に飛び上がるクロウ。
着地のついでに魔狼使いの首めがけて剣を突き刺して止めを刺す。しかし、魔狼の動きは止まらない。
残り香のように、纏わりついたその力の鎖の思うままに突貫していく魔狼。同時に、シモンたちが相手をしている側にいる魔狼使いも、タイミングを合わせて魔狼を放っていた。
前方後方の魔狼同士の鎖が絡み合い、空洞に架かる道を繋ぎ、魔狼使いの手の動きと連動するかのように2匹の魔狼はタイミングを合わせて|踵《きびす》を返して走り出す。
絡み合った鎖が地面を擦り上げるジャリジャリという音が響き、土埃を舞い上げながら、暗闇の空洞へ魔狼は飛び込んでいった。
「わざと落としたのか?一体なぜ…?おい、コ―っ!?」
魔狼と道連れに落とす算段だったようだが、繋がれた場所が運良くシモンを避け、メディナとクロウは回避していた。
「はへっ…?」
「コムっ!!!」
鎖に引っかかったのはコムだけだった。薄くなって見えなくなっている鎖の部分もあった、見えないだけで、そこにあった鎖。それが運悪く、コムの足を巻き込んで、魔狼の後を追うように空洞へ落ちていく。
「なんでおでだけええぇぇぇ……」
情けない叫び声を上げ、コムは暗闇の空洞に消えていく。
「コ…ム…?」
方陣を消して、慌てて縁へ駆け寄ったシモンだったが間に合わなかった。もう見えなくなったコムに、暗闇に。手を伸ばしたまま、固まっている。
「コムさん…そんな…。」
「大丈夫だってシモン。アイツのことだから精霊の力借りて底の方でぴんぴんし…あっ…キレた…やべぇ。」
ゆらりと。
全身から漏れ出したシモンの魔力のオーラは、赤から蒼へと変わっていく。
「貴様ら…骨も残さず、焼き殺してやる。」
敵を見据える瞳にも狂気を宿している。
「メディナ…隠れた上でその氷の魔法で防壁作れるか?なるべく分厚いやつ!」
「え?出来ますが…何が…?」
「いーからはやく!こっち!キレたあいつは手に負えねぇんだ!!」
一瞬。閃光のような光が辺りを包んだ。
「こ…っわぁ。」
「ぎ、ぎりぎり。氷壁が意味ないくらい強い熱…どうしたんですかシモンさんは。」
半分以上溶けてしまってはいたが、滑り込むように岩陰と洞窟の壁の間に隠れ、言われたとおりに氷の壁を作って身を守ることができた。
「えーっとな、シモンはコムがちょー!大事なわけ。…滅多に表に感情出さない奴だけど、ああなっちまうと俺にも簡単にゃ止められないんだよ。にしても…骨どころか灰も残してやらねぇとかどんだけだよ…見境ねぇなぁ…たくっ…。」
洞窟の一部が溶けるほどの熱を炎と呼んでいいのかはわからない。シモンが放った魔法で魔狼使いの部隊は全員、消滅していた。
「はぁ…はぁ…はぁっ…!」
焦点が定まらない瞳で両手を見つめ、ワナワナ震えるシモン。再び炎が活性化しそうになったが、
「落ち着けシモン!あいつなら、精霊が守ってくれてるだろ!思い出せ!」
岩陰から出たクロウはシモンの元へ駆け寄り、もう一度爆発させそうになっているシモンに声をかけ、頭をバシッと叩く。
シモンは徐々に呼吸と、魔力の放出も収まっていき、正気を取り戻していく。
「ク…ロウ…?あぁ…そうか…っ…俺は…。」
「シモンさん、急ぎましょう?心配なら、早く底まで迎えに行かないと。」
メディナの言葉にうなずき、コムの無事を確かめる為、急いで底を目指して走り出した。
**********
ぽよんぽよん、と。
「マジで死ぬかとおもったぉ…。」
大きな水の玉の上にコムはいた。
クロウが言うように水の精霊の力を借りてクッションを作り、地面へ直接叩きつけられることはなかったようだ。涼やかに流れる水音をさせながら水の玉は地面に染み込んで消え、コムは立ち上がり周辺の確認をした。
「んー…風の精霊にでも頼まない限り上に戻るのは難しそうだぉ…。他に道は…ぉ?なぁに?あっちに?ほんとかぉ…?」
ひと粒の水が精霊…青い蝶のような形を成してコムに何かを伝えていた。案内されるように、後をついていく。
「ぅ…っ。」
淡く光る異様な大きさのキノコの横に人影と…血溜まりができているのが見えた。
「んなっ!こんなところに人…ちがうぉ…ダークエルフ…。」
恐る恐る近寄り、状態を確認する。
全身傷だらけ、腹部は深く噛みちぎられえぐられていた。血溜まりはここからの出血のようだ。
「こんなのほっとけないぉ…!お前たちもそうだからここまで案内したんだぉな!んんん…っ!」
血が流れ続ける腹部の傷跡に手を当て、意識を集中させる。
コポコポと水が湧き出る音を立てながら、倒れているダークエルフとコムを包み込む水の流れ。溢れた血もその流れに巻き込み…ダークエルフの傷口へ沁み込んでいく。
「出血さえ止まれば…いい感じだぉ!意識はどうかな…ぉあ?!この顔!」
傷口を塞ぎ終わり、か細かった呼吸の戻りと意識を確認するため顔を見たコムは驚いた。
ダークエルフ特有の褐色の肌をしていたが、その顔はメディナの生き写し。言うまでもなく、探していた姉のセルフィーナだった。
「何でこんなとこで傷だらけでいるんだぉ…?おい!おきろぉ!」
「ん…あ…?お、前は?」
「おではコム!お前セルフィーナだろ?メディナがさがしてるんだぉ!いくお!」
「メディ、ナ…?お節介な子に育ったな…ふふ。って、待ってくれ…まだ血が足りなくてフラフラし…ご、強引なやつ。」
お手柄は自分だと言わんばかりに元気いっぱいにセルフィーナの手を引っ張り無理やり立ち上がらせ歩かせるコム。
「フッフッフッ!まってろぉ!」
*********
不思議なことに奥へ進んでも、他のダークエルフが襲撃してくることはなかった。静まり返っていて逆に怖いくらいだ。
「水の…でも万が一…。俺が信じなきゃ…。なぜ動けなかった…くそ…!」
「まーだブツブツ言ってんのかよ…こっちの気が滅入るっつうの!」
「あはは…。それにしても本当に静かですね。さっきのは何だったのか…。」
「俺が気付けなかったから…すまない!」
「メディナ…違う話しよう、うん。」
「え、えぇ…そうですね…。」
シモンは自分の不甲斐なさにどんどん気を落として独り言をずっと。そんな様子にウンザリしながらクロウとメディナは暗く細い道を進んでいく。
淡く光る大小のキノコが出迎えるように怪しく点滅し、その先に開けた場所を見つける。
ほとんどボロボロになっているが家屋のようなものがあり、中央には井戸が見える。今は使われては居ないようだがダークエルフの村…居住スペースのようだ。
「少し休憩するか。さすがに疲れたわぁ…あの井戸水残ってるかな?」
「休んでる暇など!!」
コツンと裏拳で軽くシモンの頭を叩き、
「お前の頭を冷やすためだよ。冷静になれっつの。あいつに笑われるぞ?」
「そうですよ。一度状況を整理して、落ち着いてから。行きましょう?」
「…すまん。」
そう諭されたシモンはフラフラと井戸まで歩き、ぼんやりと底を覗き込む。その後ろからクロウも覗き込むが…水の気配はなく、枯れ井戸だったことに落胆してその場に座り込んだ。
「さて…一応ここが最深部、なのか?」
「いえ…恐らく中層ぐらいではないでしょうか…?壊れた家屋を見るに、恐らく警備に当たっていたであろう者たちの駐屯地的な場所…?今は使われてないみたいですが…」
「それもそうだろう…井戸が枯れてしまっているなら生活できまい。別の場所にするのが妥当…ん…?」
井戸から何か音が聞こえる。
ゴゴゴ…ザザザッ…
「んん…?あっ…?!」
「どうしたシモン?そんなに覗いたって水はねぇだ…」
ジュゴゴゴゴゴッ!!!!
クロウはシモンに釣られるようにもう一度井戸を覗き込んでしまった。そこにタイミングよく…間欠泉のように勢いよく水が吹き出してきた。
「んがッ…!!」
その勢いは凄まじく、クロウは頭がもげるくらいの衝撃を受けほどよく吹っ飛んでいった。間一髪避けていたシモンは、水しぶきを浴びながら見上げた先、吹き上がる水の頂点から聞こえる声と姿を確認した。
「お…?おぉ!シモーン!!おまいらもここにいたのかぉ!さすがだぉ!」
「コム…?」
「コムさん!!えっ…もうひとりはまさか…!」
そこに居たのはコム。それと、とんでもない行動をするコムに引き気味のセルフィーナだった。
少しずつ水が収まっていき、地面近くまで来たところで水の上から降りる2人。
駆け寄るメディナと、シモンの前に立つコム。
「さっき落ちたとこにいたんだぉ!ふふん!おでがみつけなかったらセルフィーナは死んでたかもしれないぉ!お手柄だぉな?」
「逆流登りは中々たのしめたよありがと…。それはそうとコムの言うとおり。道すがら話は聞いたよ、世話をかけたね。」
「姉さん…!無事で良かった!うっぅぅ…!」
「感動の再会だぉ…良かったよかっ…ふぇえ?!」
メディナはセルフィーナに抱きつくとわんわんと泣いてしまった。この洞窟の中は今、おかしな事になっているのが先程の襲撃からも分かっていたから尚の事、姉の無事が確認できたことに安堵した。そんなメディナをセルフィーナは困り笑顔で抱き返し、頭を撫でた。
その横ではシモンがコムを抱きしめていた。
突然の事でコムは固まり動けず、顔を真っ赤にして抱擁を受ける。
「ちょ…シ、シモン?どうしたんだぉ?は、恥ずかし…」
「また…失うかと…!俺がもっとちゃんと見ていれば…!すまない!無事で良かった…!!」
コムの耳元で囁くようにシモンが言うと、コムは両腕をシモンの背中にしっかりと回して、抱き返した。
「そう簡単におでは死なないぉ?…心配かけてごめんね、シモン。ただいま。」
その光景をジト目で見守るクロウ。首をゴキゴキさせながら…
「だーーーっれも俺の心配しないわけな?首もげるかと思ったわ…何だよあの水圧はよ…あーもー!いい加減イチャイチャやめてもらっていいですかね?!君たち?!」
声に気付いた4人は顔を見合わせ、照れくさそうにしていた。
移動と戦闘の疲労もあり、ひと晩ここで休んでから洞窟を出ることになった。火を起こして、それを囲む5人。
「それで?何でダークエルフの頭やってるお前がボロボロで倒れてたわけ?」
「それは…どこから話すべきだろうか。」
少し考え、言葉を詰まらせていたが、ゆっくりと話し始めた。
「ここよりもう少し奥に私たちの根城があるんだけどね、ちょっと前に年寄りの魔術師?が洞窟に迷い込んできてね。助けた同胞がお礼として貰った魔石があるんだけど、それがどうも原因みたいなんだ。」
「そもそもここに迷い込むっていうのもおかしな話ですよね…。」
「もぐもぐ…そぅだぉな?いふらはんへも…んぐんぐっ…こんなとこまよいこむとか。あーんっ…あまはへひのふとしても…」
「…こら。食ってから話せばいいだろう。」
洞窟ウサギの肉を頬張りながら喋ろうとしているコムを、隣にべったりくっついてるシモンが頭を軽く小突いて黙らせた。「またイチャつきやがって…」とクロウの口から漏れる。その様子をみて姉妹は同じほほ笑みをみせた。
「…んで?それから?」
「ふふ…えっと、どうやら【|魅了《チャーム》】の魔法がかけられた物だったらしい。【魅了】といってもほぼ洗脳に近いレベルのものだったよ。どういう意図があったかはわからないけど、私らをバラバラにするのは簡単だった。」
仲間同士の争いによってダークエルフの秩序は乱れ、殆どが散り散りに。その後、洗脳された者同士で新たに築かれた新生ダークエルフの一団が牛耳るようになり、話し合いで解決しようとしたセルフィーナを襲って…突き落とされ、動けずにいたとのこと。
「もう少し早くにあれがヤバいもんだって気付いてたらこんなことにはならなかったはず…ここに来るまでに襲われたと聞いている。長として仲間たちをしっかりと見てやれなかった私の落ち度だ、すまなかった。」
「頭下げることはねぇよ。ちょうどいい運動だったしな?お前のほうが重症だったんだろ?俺たちのことはいいって!な?」
「え、えぇ?そ、そうです…かね?」
「何がいい運動だぉ!おではしにかけたんだぉ!」
「すまないコム、俺が…」
「あ、いや、シモン…そんなにおちこむなぉ…。」
楽しそうに笑うクロウと、苦笑いするメディナ。落ち込むシモンとオロオロするコム。
「…仲が良いんだな。とても微笑ましいよ。」
少し悲しそうにセルフィーナは口にした。
「おいセルフィーナ、おまいもおでたちといっしょにいこうぉ!」
「行くって…どこに?」
「俺が説明する、コムじゃ肝心なところが抜けそうだからな。」
「ぐぬぬ…っ!」
アクリス達のこと、不死の王のこと、仲間を集めてることをシモンがセルフィーナに伝えると、
「不死…なるほど。私を襲った奴らの1人が突き落としたあとに何か叫んでたんだわ、『不死の王万歳』みたいなことを、さ?」
ニヤリと笑うセルフィーナに、同じくニヤリと…悪い顔をするクロウが応える。
「ははっ…!ならもう、決まりか?」
「私はどんな理由があろうとここへ導いてくれたマエナスさんに報酬としてお仕えすることになりますけど…それが姉さんの為にもなるなら尚更。よろしく、ですね。」
「そうだね…いや、私はすぐに合流はできないな。」
「なんでだぉ?!」
「国盗りするんなら、ある程度の兵力も必要になるだろ?今は小規模な集まりでやれてるかもしれないけど、いずれは戦争になる、そうなった時どうする?」
セルフィーナの言うことは最もだった。『戦争』になった場合、10人程度の反旗を翻した集まりが、国を守る何千何万の兵に太刀打ちできるのか…それは否、である。
「そのときに備えて…私は兵を集めるよ。この洞窟は大陸中に広がってるから各地の長に会ってくる。それに、ここから離れて、生き延びてる奴らもいるだろうし、声をかけてみるよ。どこまで増やせるかわからないけど、いいかな?」
「これはマエナスも喜びそうな提案ではあるな。」
「だな。さすが頭はってただけあるな…えー…あと、マエナスには俺たちが報告しとくとして…メディナ、お前は姉ちゃんと行きたいんだろ?」
実はセルフィーナが話している間そわそわしていたメディナ。また離ればなれになるのが嫌なのと、またさっきのように襲われたら…と。そんなことを思っていたようだ。
「い、いいですか?やっぱりひとりじゃ危ないし…私でも役に立つと思う…セル姉さん、ついていってもいい?」
「そうね…危険な目に合わせちゃってて今更ここは安全だからひとりでいい、なんて言えないしね?私の方こそ…来てくれると心強いよ。」
こうして話はまとまった。
マエナスの判断を聞かずに決めてしまったが、恐らくマエナスには予見で見えていただろう。
翌朝。
この先のことを見据えたセルフィーナとメディナの姉妹は大陸の地下に広がる洞窟内を渡り、ダークエルフの兵を集める旅へ。
クロウ達3人はセルフィーナに出口まで送ってもらい、帰路へ。
「あー疲れた。戻ったら酒場行こうぜ酒場!」
「そうだな…俺も久々に飲み明かしたい気分だ。」
「おでもいくぉ!!こんだけ頑張ったんだぉ!アクリスのおごりでのむしかないんだぉ!」
「おっ!それいいな!…待ってろよぉアクリーース!」
「フッ…王子というのは大変だな。」
などと…談笑しながらラギルーガを目指し歩き出した。