日中、マエナスはほとんど寝て過ごしている。
彼…彼女の元に占術の依頼をする為に訪れる客は、訳ありが多く、夜更けに来店する客ばかりだからだ。しかし、アクリス達が家に留まるようになり、今まで静かだった日中の睡眠時間が思うように取ることができず、寝不足で過ごす日々が続いたとある日、マエナスはある決断をした。
出入り口の壁に張り紙をするマエナスの姿がそこにあった。
「はぁ…収入が少なくなるが、仕方ねぇな…」
『占術の依頼は終了、今後承りません。』
簡潔にそれだけが書かれていた。
「あれ?マエナス…占い、辞めるの?」
「誰のせいだ、誰の…たくっ…」
張り紙をのぞき込み、キョトンとした顔で口にしたアクリスの発言に頭を抱えてたマエナス。
「夜の仕事は体に悪いからいいかなって思うけど、別に占術自体やめることはないんじゃ…あ!昼に変えるとかは?」
「昼間はお前らが騒ぐだろうが。んなところで接客なんぞ出来るかアホ。」
「ははっ…ごめん、気を付ける…」
「謝ることじゃねぇ…が…ま、そろそろ他人の未来を見るのにゃ、嫌気が差してたしな。未来なんてもんは、誰かに言われて進むもんじゃねぇ…自分で切り開くもんだ、だろ?」
パチンッとアクリスの額に微笑みながらデコピンをする。大きな紙袋を抱えていたアクリスは避けられず、額が少し赤くなってしまったが、
「…なんか変わった?マエナス。」
「誰のせいだ、誰の…それより、ちゃんとお使いやれたのか?」
そんな事は気にもとめず、得意げに持っていた紙袋の中身をテーブルに広げた。
食料品もいくつか出てきたが、袋の底から見慣れない薬草や、瓶に詰められた粉や液体。ゴツゴツとした謎の石が出てきた。
「…問題なく買えたみたいだな、褒めてやる。」
「あはっ!いつもはファラが買い出しをやってくれているから、ひとりで買い物なんて新鮮だったよ。…特にこれ!こんな小さい瓶に入ってる物なのに2万Gもするんだね。」
嬉しそうに話すアクリスが、値段の話をしだしたところで、マエナスの眉がピクリと反応し、眉間にシワを寄せた。
「これが…2万Gだって?…お前は…ほんっっっっとうに!世間知らずだな?!」
バッチィンッ!!と、デコピンをかます。先ほどより高らかな音を上げてアクリスの額が跳ねた。
「あいったぁっ!!」
さすがのアクリスも思わず両手で額をさすり、涙目になっていた。
「こいつはなぁ?大量生産されてる、ごく!一般!的な!薬草の!粉末だ!これがたかだか20グラム程度で2万Gもするわけねぇだろ!ボッタクられてんじゃねぇ!」
「だ、だって仕方ないじゃないか!俺には見慣れない品物だったし、店主が高純度の良品だとかいうから…」
はぁ~と、ため息をついて、マエナスは椅子に腰を下ろした。
「アクリスよぉ…」
「な、なんだよ…」
「人がいいのはわかるがなぁ…それだけじゃダメだぞ?相手にほだされて、騙されるだけだ。ファラに甘やかされてたとはいえ、買い物一つまともにできないんじゃこれから先が不安すぎる…もう少し相手を見る目を養え…」
「うっ…精進します…。」
買い物から学ぶ、相手がどんな人物なのか、を。実践を持ってアクリスに叩き込む。こんなことで身に付くのかと疑問に思うかもしれないが、マエナスいわく、近場で簡単に、身を持って体験できる1番の方法…らしい。
「…ってことは、これも、俺、騙されたのかな…火炎石、3個で12万G…」
たった今、占術の仕事を辞める事を決断し、今後の資金に不安を覚えた矢先だ。何とも言えない笑いが込み上げてくるマエナス。
「ク、クククッ…アイツにも後でお仕置きが必要みてぇだな…」
王室で交易関係から、軍事関係、戦法や、策の立て方等、座学で学び始めていた矢先に国を奪われたアクリスは、知識も感覚もまだまだこれから。
小さなことからかもしれないが、マエナスに教育し直され、アクリスは充実した日々を過ごしているようだ。