プロローグ②
ー/ー
城へ通じる正面の大門は崩れ去り、中へ入ることができなかった。
アクリスとファランクスは城壁の脇を通り、使用人が利用する中庭へ通じる裏口へと向かう。その道のりはまるで誘い込まれているかのよう、人が1人通れるよう片付けられた後のようだった。
ここまでの道中はひどい有り様で、生きている者は見当たらず、炎をなるべく避けるように瓦礫の上を進まざるを得なかったのに。
裏口も崩されてはいたが、ぽっかりと穴が開いた状態だった為中へ入ることができた。中庭に続く道は燃え尽きた木材や樹木、多少の瓦礫が脇にある程度で、異様なほど通りやすくなっていた。
「他の被害からみてこの状態は異常です…」
今まで以上に警戒しながら2人は進み、中庭への角を曲がる。
そこには―男が1人。
「来たか…!」
男がこちらを振り向くと、男を囲うように炎が激しく、まるで巨大な王座の如く、男を称えるよう明るく大きく燃え上がる。
「父…………う……え?」
「あぁ、そうだ。我が息子アクリ――……ふっ、ふふっ!ははははっ!」
アクリスの見つめるその男の容姿は父そのものであった。しかし、言葉と眼光に父の面影1つすらない。
アクリスは、突然笑いだしたその父らしき人物に戸惑いを隠せないでいた。が、ふらふらと一歩ずつ近づいていく。
「王子!その男はもはや王では……!!」
アクリスを止めようと踏み出したファランクスの足元に、カシャンという音と共に赤い方陣が現れ、黒い棘が全身に絡み付く。強く締め付ける棘のトゲが肌に突き刺さり、鮮血を滲ませる。痛みに耐える声を漏らすと、
「いけませんわ?父と子の感動の再会を邪魔しては……」
ファランクスの肩を滑るように手を這わせ、後ろから現れた女、メイアは「エルフ族の耳はいつみても素敵ですわ」とふぅっと耳元に息を吹きかけニヤニヤと笑う。抵抗しようにも動けず、棘の毒か術そのもののせいか、声も出せない。
「さぁ、ご一緒に。見届けましょう?」
ゾクゾクと興奮し、下卑た笑みを浮かべるメイアを横目で睨み付けるが、身動きのとれないファランクスはアクリスのゆく先を見届けるしかなかった。
「ふっ……ははっ!いやぁすまない、愛しい我が息子に会えた喜びでつい笑いが、な。どうした?抱擁を交わそうではないか?さぁ、父の腕に飛び込むといい!はははは!」
男は両腕を広げ、歩み寄るアクリスを招き入れようとしていた。
「今、いきます。父上っ!!」
アクリスのおぼつかなかった足取りが一転し、腰に下げていた剣を握りしめ走り込み一気に距離を詰めた。
キィィ…ン―
と剣同士がぶつかり合う音がこだまする。
「ほぅ?騙されてはいなかったか?残念だ。」
「くっ…騙すも何も無いだろうっ!父はその様な下品な発言も笑い方もしない!!」
ギリギリと音を立てお互いの剣が軋む。
「ふむ、なかなかに良い太刀筋のようだがまだまだ若い……ぬるいわぁっ!!」
男が叫び、アクリスを振り払う。
呆気なく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「がはっっ」と血を吐き出し、全身に走る痛みにもがきながら、男を睨み付ける。
「……よい目だ。感じるぞ、憎しみと悲しみを。ふはははは!実によいではないか!やはり人間とは面白い生き物だ、飽いた我の心を満たしてくれる!」
もっと恨めと言わんばかりに、横たわるアクリスの肩に剣を突き刺しグリグリと抉る。流れた血が地面に染みる。呻き声をあげるアクリスを見ながら男は続ける。
「しかしなんだ?違和感があるな?まだ若いせいか?期待していたのだが残念だ。さて、どうしたものか……」
メイアに目配せをし意見を求めているようだった。メイアは残念そうな顔をしながら答える。
「わたくしとしては……早々に殺してしまうのがよいのですけれど。我が君、どうなさるかもうお決めになっていらっしゃるのでしょう?いじわるですわ。」
ぷくりと少しむくれたメイア。
「可愛い奴よ!さすが我妻であるな!」と言い、アクリスから剣を引き抜くと、ファランクスのいる方向へその体を蹴飛ばした。
「アクリス・ヴァン・カイザードよ……今は殺さずにいてやろう。これは余興よ、不様に生きて我を楽しませるがよい。くははははっ!」
ひらりと身を翻し、背を向け、嘲笑う。
「さ、参りましょう我が君。」
少し不機嫌そうに言うメイアがいつのまにか男の近くに移動し、ふわりと浮いている。持っていた杖を軽く降り鳴らすと二人の頭上に青色の法陣が現れ光に包まれる。移送法陣のようだ。
呆気なく、去っていった。
ファランクスの拘束が解け、ふらつきながら倒れるのをなんとか耐え、足を引きずりながらアクリスが倒れている横に寄り添う。
肩の傷口から溢れる血が止まらず、アクリスはすでに意識を失っていた。
ファランクスは懐から1枚の呪文が書かれた札を取りだし、発動する。先程の移送法陣と同じ光に包まれる。
「申し訳ありません…王子。まずは生き延びましょう。」
苦痛に歪む顔をし、アクリスを抱き抱え光の中に消え去った。
暗闇に呑まれていく意識の中アクリスは思う。
父が奪われた理由。
殺されなかったことで、自分が何をなさなければいけないのか。
ただひとつ、決まっていたことは、あの男の思い通りにさせてはいけないと言うことだ。
――意識は闇に沈んでいった。
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アクリスとファランクスは城壁の脇を通り、使用人が利用する中庭へ通じる裏口へと向かう。その道のりはまるで誘い込まれているかのよう、人が1人通れるよう片付けられた後のようだった。
ここまでの道中はひどい有り様で、生きている者は見当たらず、炎をなるべく避けるように瓦礫の上を進まざるを得なかったのに。
裏口も崩されてはいたが、ぽっかりと穴が開いた状態だった為中へ入ることができた。中庭に続く道は燃え尽きた木材や樹木、多少の瓦礫が脇にある程度で、異様なほど通りやすくなっていた。
「他の被害からみてこの状態は異常です…」
今まで以上に警戒しながら2人は進み、中庭への角を曲がる。
そこには―男が1人。
「来たか…!」
男がこちらを振り向くと、男を囲うように炎が激しく、まるで巨大な王座の如く、男を称えるよう明るく大きく燃え上がる。
「父…………う……え?」
「あぁ、そうだ。我が息子アクリ――……ふっ、ふふっ!ははははっ!」
アクリスの見つめるその男の容姿は父そのものであった。しかし、言葉と眼光に父の面影1つすらない。
アクリスは、突然笑いだしたその父らしき人物に戸惑いを隠せないでいた。が、ふらふらと一歩ずつ近づいていく。
「王子!その男はもはや王では……!!」
アクリスを止めようと踏み出したファランクスの足元に、カシャンという音と共に赤い方陣が現れ、黒い棘が全身に絡み付く。強く締め付ける棘のトゲが肌に突き刺さり、鮮血を滲ませる。痛みに耐える声を漏らすと、
「いけませんわ?父と子の感動の再会を邪魔しては……」
ファランクスの肩を滑るように手を這わせ、後ろから現れた女、メイアは「エルフ族の耳はいつみても素敵ですわ」とふぅっと耳元に息を吹きかけニヤニヤと笑う。抵抗しようにも動けず、棘の毒か術そのもののせいか、声も出せない。
「さぁ、ご一緒に。見届けましょう?」
ゾクゾクと興奮し、下卑た笑みを浮かべるメイアを横目で睨み付けるが、身動きのとれないファランクスはアクリスのゆく先を見届けるしかなかった。
「ふっ……ははっ!いやぁすまない、愛しい我が息子に会えた喜びでつい笑いが、な。どうした?抱擁を交わそうではないか?さぁ、父の腕に飛び込むといい!はははは!」
男は両腕を広げ、歩み寄るアクリスを招き入れようとしていた。
「今、いきます。父上っ!!」
アクリスのおぼつかなかった足取りが一転し、腰に下げていた剣を握りしめ走り込み一気に距離を詰めた。
キィィ…ン―
と剣同士がぶつかり合う音がこだまする。
「ほぅ?騙されてはいなかったか?残念だ。」
「くっ…騙すも何も無いだろうっ!父はその様な下品な発言も笑い方もしない!!」
ギリギリと音を立てお互いの剣が軋む。
「ふむ、なかなかに良い太刀筋のようだがまだまだ若い……ぬるいわぁっ!!」
男が叫び、アクリスを振り払う。
呆気なく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「がはっっ」と血を吐き出し、全身に走る痛みにもがきながら、男を睨み付ける。
「……よい目だ。感じるぞ、憎しみと悲しみを。ふはははは!実によいではないか!やはり人間とは面白い生き物だ、飽いた我の心を満たしてくれる!」
もっと恨めと言わんばかりに、横たわるアクリスの肩に剣を突き刺しグリグリと抉る。流れた血が地面に染みる。呻き声をあげるアクリスを見ながら男は続ける。
「しかしなんだ?違和感があるな?まだ若いせいか?期待していたのだが残念だ。さて、どうしたものか……」
メイアに目配せをし意見を求めているようだった。メイアは残念そうな顔をしながら答える。
「わたくしとしては……早々に殺してしまうのがよいのですけれど。我が君、どうなさるかもうお決めになっていらっしゃるのでしょう?いじわるですわ。」
ぷくりと少しむくれたメイア。
「可愛い奴よ!さすが我妻であるな!」と言い、アクリスから剣を引き抜くと、ファランクスのいる方向へその体を蹴飛ばした。
「アクリス・ヴァン・カイザードよ……今は殺さずにいてやろう。これは余興よ、不様に生きて我を楽しませるがよい。くははははっ!」
ひらりと身を翻し、背を向け、嘲笑う。
「さ、参りましょう我が君。」
少し不機嫌そうに言うメイアがいつのまにか男の近くに移動し、ふわりと浮いている。持っていた杖を軽く降り鳴らすと二人の頭上に青色の法陣が現れ光に包まれる。移送法陣のようだ。
呆気なく、去っていった。
ファランクスの拘束が解け、ふらつきながら倒れるのをなんとか耐え、足を引きずりながらアクリスが倒れている横に寄り添う。
肩の傷口から溢れる血が止まらず、アクリスはすでに意識を失っていた。
ファランクスは懐から1枚の呪文が書かれた札を取りだし、発動する。先程の移送法陣と同じ光に包まれる。
「申し訳ありません…王子。まずは生き延びましょう。」
苦痛に歪む顔をし、アクリスを抱き抱え光の中に消え去った。
暗闇に呑まれていく意識の中アクリスは思う。
父が奪われた理由。
殺されなかったことで、自分が何をなさなければいけないのか。
ただひとつ、決まっていたことは、あの男の思い通りにさせてはいけないと言うことだ。
――意識は闇に沈んでいった。