プロローグ①
ー/ー
小鳥たちの声と時折吹き抜ける風を全身に感じながら青年は眠っていた。青年の名はアクリス。澄みわたった空と同じ色の髪と目をした水の都【ハルト】の王家カイザード一族の第1王子だ。
遠くから声が聞こえる。彼が毎日聞いている聞き慣れた声。
「おーーぅじーー!!」
柔らかいウェーブがかった長い髪を振り乱し、森の中を歩き回り必死にアクリスを探し続け、少し涙目になっている彼はファランクス、王家に代々仕えるエルフの騎士だ。アクリスはそんなことは気にせずスヤスヤと眠り続けるが、
「王子!」
「うっわぁ?!」
突然耳元で大きな声が聞こえて飛び起きる。と、同時にファランクスの小言が始まった。
「王子、いくら領地内とはいえ森の中のしかもこんな奥まった国境付近までおひとりでお出掛けになるのは危険すぎます!しかもこんなところで昼寝など!近頃は魔物や魔族の数も更に増えているというのにあなたという人は無防備にも程があります!もう少し王家の人間として自覚を持って行動をしていただきたいものです!よいですか?先々代の――」
お目付け役でもあり、教育係でもあり、剣の師匠でもあり……小さい頃から共にいる兄のような存在でもあり、故に言いたい放題でもある。
「……んだぁ~!わかってるっ!でもさ、このあたりの気候はちょうどよーく眠気を誘う魔性の気候で――」
「そんなことは理由になりません!しっかり聞いてください!そもそも――」
言い訳は聞かないと言わんばかりに小言は止まらない。そんなときは奥の手を使う。
「……すまない、心配かけたな。」
「わ、わかっていただけたならよいのです。」
困り顔で上目遣いをし、申し訳なさそうに謝るとファランクスは静かになる。いつものこの流れでどうとでもなってしまう、どうしても甘いのである。
「さて、明日の準備もありますから戻りましょう。」
「あぁ。そうだ、道案内頼むよファラ。」
「本当は迷ってたんですか?!」とファランクスをからかいながらアクリスは楽しそうに森の中を抜けていく。木々の合間を抜け、少し開けた道へと出たところでアクリスがふっと、空を見た。
見上げる空が赤い。
赤い。
東の空が赤く染まっている。
「は……?」
見つめる先にあるのは間違いなく水の都【ハルト】。この異様な赤色にアクリスの心臓がドクンッと脈打つ。今までに感じたことのない不安が胸を貫くと同時にアクリスは自然と走り出していた。
夕陽が沈む僅かの時間見ることが出来る独特で美しい明るさとは違う、必要以上に赤々と燃える鬼気迫る空の先を目指し走り続けるアクリス。普段行き来している時はさほど遠くに感じることはなかった。
この時だけはとてももどかしく、ひどく遠い距離に感じていた。
突然走り出したアクリスの後を追うファランクスの目にもこの空はしっかりと映っていた。
「(魔族の襲撃か?……いや、我が国の鍛え上げられた兵士たちがこうなるまで劣るとは考えにくい……まさか――)」
後を追いながらファランクスは冷静に事態を把握しようと様々な考察をする。そして最悪の答えがでたその時、前を走っていたアクリスが立ち止まった。森はすでに抜けていた。
夏草が揺れる小高い丘、故郷の国がよく見える見晴らしのよい丘。
眼前に広がるのは地獄の業火に焼かれ、すべてを飲み込むかのように燃え上がる故郷。
「どういうことだ……?」
「王子……」
「恐らく……」とファランクスは自身の考えをゆっくりと冷静に受け止めるようアクリスに伝える。
不死の王の侵略、大国の破壊。なんの前触れもなく突如現れ、人々が気付く間もなく街や城は炎に包まれる。こうして不死の王は大国を破壊し、自身のものとしている。魔法で防護壁を築いていても無意味で成す術はないと。
アクリスは静かに、現状を受け入れたかのような表情をみせ答えた。
「……まだ生きている民がいるかもしれない、王の……父上や母上の身も心配だ。行こうファラ。」
自身の感情を無理矢理押さえ込み、王族としての振る舞いをしろと父に言い聞かされていたアクリスの少し震えながら放った精一杯のこの言葉。
「仰せの通りに。」
ファランクスは頷き、従う。
赤く包まれた自分の国を目にしっかりと焼き付けながら向かっていく。2人はまだ気付いていなかった。
炎揺れる城の上空に浮かぶ1つの黒い影がこちらを見つめていたことに。
*****
城内・中庭―。
整えられた植木と緑樹、石膏の女神を中心に噴水からは豊かな水が溢れ、憩いの場として愛されていた。
だが、その面影は今はない。
風に揺れていた木々は風を受け火柱となり激しく揺れ、噴水の女神は無惨にも下半分を残して砕かれていた。
「っんぅ~??……おぉ……ふむぅ?」
そこに死体が1つ、裸体が1つ。
「ふっ……くくくくっ!馴染む!馴染むうぅぅ!これは堪らないな!溢れでてくるこの感覚……興奮するぞ!!」
裸体の男が息を荒くして自分の体を嘗めるように確かめている。
少し筋肉質だが程よい体格、年齢は40代後半ぐらいだろうか、顔立ちも整っている。が、毛髪だけは似つかわしくないシルバーグレー……ほとんど白髪に近かった。
「クスっ!その様にはしゃいでは……はしたのうございますよ我が君。」
まるで新しい洋服を買ってもらった子供のように喜ぶ男に、ふわりと空から降りてきた黒髪の美しい妖艶な女が声をかける。
「メイアか……ここまでしっくりと来る体は久しいものでな、許せ。」
メイアと呼ばれた女はすっと頭を垂れ、裸体の男へ近づき耳元で囁く。
「もうひとり……参りますわ。」
怪しく微笑みながら伝えられた言葉に、男はニヤリと下品な顔をし、片手でメイアを抱き寄せ、唇を奪い叫ぶ。
「ははははははっ!来い!来るがいいっ!アクリス・ヴァン・カイザードぉっ!!」
高笑いが中庭に響く、炎が更に強く燃え上がる―――男との対面は目前に迫っていた。。
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遠くから声が聞こえる。彼が毎日聞いている聞き慣れた声。
「おーーぅじーー!!」
柔らかいウェーブがかった長い髪を振り乱し、森の中を歩き回り必死にアクリスを探し続け、少し涙目になっている彼はファランクス、王家に代々仕えるエルフの騎士だ。アクリスはそんなことは気にせずスヤスヤと眠り続けるが、
「王子!」
「うっわぁ?!」
突然耳元で大きな声が聞こえて飛び起きる。と、同時にファランクスの小言が始まった。
「王子、いくら|領地内《りょうちない》とはいえ森の中のしかもこんな奥まった|国境付近《こっきょうふきん》までおひとりでお出掛けになるのは危険すぎます!しかもこんなところで昼寝など!近頃は魔物や魔族の数も更に増えているというのにあなたという人は無防備にも程があります!もう少し王家の人間として自覚を持って行動をしていただきたいものです!よいですか?先々代の――」
お目付け役でもあり、教育係でもあり、剣の師匠でもあり……小さい頃から共にいる兄のような存在でもあり、故に言いたい放題でもある。
「……んだぁ~!わかってるっ!でもさ、このあたりの気候はちょうどよーく眠気を誘う|魔性《ましょう》の気候で――」
「そんなことは理由になりません!しっかり聞いてください!そもそも――」
言い訳は聞かないと言わんばかりに小言は止まらない。そんなときは奥の手を使う。
「……すまない、心配かけたな。」
「わ、わかっていただけたならよいのです。」
困り顔で上目遣いをし、申し訳なさそうに謝るとファランクスは静かになる。いつものこの流れでどうとでもなってしまう、どうしても甘いのである。
「さて、明日の準備もありますから戻りましょう。」
「あぁ。そうだ、道案内頼むよファラ。」
「本当は迷ってたんですか?!」とファランクスをからかいながらアクリスは楽しそうに森の中を抜けていく。木々の合間を抜け、少し開けた道へと出たところでアクリスがふっと、空を見た。
見上げる空が赤い。
赤い。
東の空が赤く染まっている。
「は……?」
見つめる先にあるのは間違いなく水の都【ハルト】。この異様な赤色にアクリスの心臓がドクンッと脈打つ。今までに感じたことのない不安が胸を貫くと同時にアクリスは自然と走り出していた。
夕陽が沈む僅かの時間見ることが出来る独特で美しい明るさとは違う、必要以上に赤々と燃える鬼気迫る空の先を目指し走り続けるアクリス。普段行き来している時はさほど遠くに感じることはなかった。
この時だけはとてももどかしく、ひどく遠い距離に感じていた。
突然走り出したアクリスの後を追うファランクスの目にもこの空はしっかりと映っていた。
「(魔族の襲撃か?……いや、我が国の鍛え上げられた兵士たちがこうなるまで劣るとは考えにくい……まさか――)」
後を追いながらファランクスは冷静に事態を把握しようと様々な考察をする。そして最悪の答えがでたその時、前を走っていたアクリスが立ち止まった。森はすでに抜けていた。
夏草が揺れる小高い丘、故郷の国がよく見える見晴らしのよい丘。
眼前に広がるのは地獄の業火に焼かれ、すべてを飲み込むかのように燃え上がる故郷。
「どういうことだ……?」
「王子……」
「恐らく……」とファランクスは自身の考えをゆっくりと冷静に受け止めるようアクリスに伝える。
不死の王の侵略、大国の破壊。なんの前触れもなく突如現れ、人々が気付く間もなく街や城は炎に包まれる。こうして不死の王は大国を破壊し、自身のものとしている。魔法で防護壁を築いていても無意味で成す術はないと。
アクリスは静かに、現状を受け入れたかのような表情をみせ答えた。
「……まだ生きている民がいるかもしれない、王の……父上や母上の身も心配だ。行こうファラ。」
自身の感情を無理矢理押さえ込み、王族としての振る舞いをしろと父に言い聞かされていたアクリスの少し震えながら放った精一杯のこの言葉。
「仰せの通りに。」
ファランクスは頷き、従う。
赤く包まれた自分の国を目にしっかりと焼き付けながら向かっていく。2人はまだ気付いていなかった。
炎揺れる城の上空に浮かぶ1つの黒い影がこちらを見つめていたことに。
*****
城内・中庭―。
整えられた植木と緑樹、石膏の女神を中心に噴水からは豊かな水が溢れ、憩いの場として愛されていた。
だが、その面影は今はない。
風に揺れていた木々は風を受け火柱となり激しく揺れ、噴水の女神は無惨にも下半分を残して砕かれていた。
「っんぅ~??……おぉ……ふむぅ?」
そこに死体が1つ、裸体が1つ。
「ふっ……くくくくっ!馴染む!馴染むうぅぅ!これは堪らないな!溢れでてくるこの感覚……興奮するぞ!!」
裸体の男が息を荒くして自分の体を嘗めるように確かめている。
少し筋肉質だが程よい体格、年齢は40代後半ぐらいだろうか、顔立ちも整っている。が、毛髪だけは似つかわしくないシルバーグレー……ほとんど白髪に近かった。
「クスっ!その様にはしゃいでは……はしたのうございますよ我が君。」
まるで新しい洋服を買ってもらった子供のように喜ぶ男に、ふわりと空から降りてきた黒髪の美しい妖艶な女が声をかける。
「メイアか……ここまでしっくりと来る体は久しいものでな、許せ。」
メイアと呼ばれた女はすっと頭を垂れ、裸体の男へ近づき耳元で囁く。
「もうひとり……参りますわ。」
怪しく微笑みながら伝えられた言葉に、男はニヤリと下品な顔をし、片手でメイアを抱き寄せ、唇を奪い叫ぶ。
「ははははははっ!来い!来るがいいっ!アクリス・ヴァン・カイザードぉっ!!」
高笑いが中庭に響く、炎が更に強く燃え上がる―――男との対面は目前に迫っていた。。