「マジで来ちゃったよ……」
改札を抜けたところで、俺は誰にも聴かれないよう小声で呟いた。
美穂ちゃんが通っている聖ホイップル女子学院の最寄り駅。その改札口にはたくさんの人が歩いていて、当然のことながらホプ女の制服を着た生徒もいる。
今のところ彼女の姿は見えない。まだ帰ってないといいのだが。
とりあえずここまで来た以上行くしかない。俺はスマホの地図アプリを立ち上げて高校の場所を確認してのろのろ歩きだす。
駅から大通りに出てそのまままっすぐ。心なしか全然おっさんがいない気もするが、実際はそんなことないはず。女子高が近くにあるからって女性が多いなんてことはないだろう。
道を歩いているだけでホプ女の制服を着た女の子とすれ違う。そのたびに美穂ちゃんがいるか確認するのだが、それらしき姿は見えない。
ていうか勢いのまま出てきたけど、これどう考えても会えなくないか。俺が知っているのは彼女の名前と年齢だけ。1年生ということは分かるけどどの学科でどのクラスなのかもしらない。部活とかはやってるのだろうか。連絡先も知らないから確認もできない。
じゃあ校門付近で待ち伏せでもするのか。決まってる、答えはノーだ。リスキー過ぎる。
「……もっとちゃんと話せばよかった」
ガツガツと早歩きで道を行きながら呟く。
今更ながら後悔している。どうせ、ほっとけなくて助けようとすることなんて分かっていたのに、俺は一体なにを躊躇していたのか。
ある程度進んだところで、通りの反対側へ移る。
そっからまた少し進むと道が分かれているので通りから外れて中へと入っていく。
でっかい建物とマンションに挟まれた道を歩いていると、視界の奥にこれまたでっかい建物が見えてきた。
あれが、聖ホイップル女子学院。朱色の校舎に人工芝が敷き詰められた校庭。奥には2階建ての体育館と武道場、そして音楽ホールみたいな建物も見える。
東京という土地の特性上、学校といえども狭い敷地に高い建物みたいな組み合わせが大半だが、どうやらここは別みたいだ。
校舎もよくよく見ると高いというより広い。正門前の道路を挟んで向かいにある校庭もかなり広い。今も多くの生徒が部活動に勤しんでいる。
この中から美穂ちゃんを探し出す――いや無理だろ。
やたらめったら広いしなにより人が多い。ほとんど部活動なのだろうが、それにしたってこんなにもいるものなのか。
しかも当たり前だが全員女子高生だ。見渡す限りの女子。少し近くを通るくらいなら別になんて思ってたけど、それすらも場違いに思える。
チワワとかの散歩をしてるおっさんとかいないものか。通りへと入る前に周囲を見回すが、男なんてどこにもいない。
完全に別世界だ。いやしかしここまできたわけだし、少しぐらい様子を見たっていいだろう。
ふぅーっと息を吐き、俺は学校前の通りへと入る。
ゆっくり、しかし挙動不審にはならず、ただ前を見て歩く。
とはいえ、本来の目的を見失ってはいけない。あまり目立たないよう黒目をゆっくり動かして、学校の敷地内や校庭へと視線をやる。
美穂ちゃんの特徴といえば、小柄ながらも大きな――いや、あの大きなオレンジ色の瞳だ。すぐに分かるはず。
少しだけ歩くペースを落として念入りに確認する。しかし、彼女の姿は中々見つからない。
とうとう正門の前を通り過ぎる。ここからUターンで戻ったら絶対怪しまれるので、そのまま通り過ぎることにする。
正門を抜けて左側の道はあまり利用する生徒が少ないのか、一気に人通りが少なくなる。これならもう少し積極的に探しても良さそうだ。
校庭の方へと目線をやると、そこにはテニスコートがあった。俺は思わず足を止め、テニス部の練習風景を眺める。
4面のコートは1つだけクレーで3つはハードだった。人数はそこそこで、コートの数に対して部員がギリギリ足りていないような気がした。
まぁ人数よりも大事なのは腕前だ。コートで打ち合っている生徒を眺め、玉を目で追う。
一生懸命になって打つというよりは、楽しんでいる感じだ。コートの外で練習している子達もお喋りを交えつつラケットを振っていて、どこか朗らかな明るさがある。
俺がいたところとは大違いだ。いや、俺がいたころだってあんなふうに明るかったかもしれない。少なくとも、俺が1年の頃はまだそうだったと思う。
部の雰囲気が暗くて重い感じになったのはきっと――やめよう。思い出すべきじゃない。
フルフルと頭を振ってコートから顔を逸らした。