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サクラの逆襲(2)

ー/ー



 「サクラは、ユージ君に付いていく気はないの?」
 ステラの問いかけに、サクラは首を横に振った。
 「中道界は旅行先としては楽しいけど、住みたいかっていうと話は別だわ。それに」
 言いさして、サクラは悲し気に目を伏せた。
 「それに、もうすぐあたし達の子供が産まれるし。子供が大きくなるまでは、どうしたって中道界には行けないでしょ」
 「確かに、小さい子には渡航の許可なんか降りそうにないわね。大人だってひと苦労なのに」
 ふう、とステラは雄弁な溜息をついた。
 「ユージ君はそれがわかっているから、サクラに一緒に来てくれとは言えなかったのかも知れないわね」
 「でも、だからって、離婚まで考えなくてもいいじゃない。生まれてくる子供も俺には関係ない、サクラの好きにしてくれって言い草は酷過ぎるわ」
 サクラは口を尖らせて反論した。
 そして、思い出したように、
 「そういえば、アルファちゃん。ユージが『コウノトリ』には両親から受入を拒否された子供を養育する施設があるって言ってたけど、本当?」
 と、アルファに問いかけた。
 「はい。悲しいことですけど、本当です」
 アルファは顔を曇らせた。
 「出産を待っている間に夫婦仲がこじれたり、出産間近になってやっぱり子供は要らないって言い出す方もいて。以前は赤ちゃんを強制的に両親に引き渡していた時期もあったんですけど、その結果痛ましい事件が連続して起きてしまって――それで、今はどうしても無理という場合に限ってですが、そういった赤ちゃんを『コウノトリ』でお預かりすることにしているんです」
 「赤ちゃんには何の罪もないのに、人間ってどうしてそう勝手なのかしらね」
 三人はしばしの間、その痛みを思い、黙り込んだ。

 
 「あっ」
 ややあって、アルファが何か思い付いたように声を上げた。
 「お姉様。ちょっとごめんなさい」
 アルファはボストンバッグからタブレット端末を取り出すと、何やら操作し始めた。
 サクラとステラはお菓子を食べながらその様子を見守っている。
 「サクラお姉様、ステラお姉様。これを見て下さい」
 アルファは目当てのページを探し出すと、画面を二人に見せた。
 それは、魔界政府が提供するひとり親支援サービスのページだった。
 「魔界ではずっと出生率が下落しているので、その対策として、ひとり親でも安心して子育て出来るように力を入れているんです。パートナーがいない方にもこの制度を利用して子供を産み育てて欲しいというのが魔界政府の本音ですが、制度としては離婚してひとり親になった方でも問題なく使えるものです」
 「へえ、そんなのがあるのね。全然知らなかったわ」
 サクラはタブレット端末に記載されているサービス内容に目を通した。そして、
 「え、こんなに充実してるの?ベビーシッター無料でしかも利用制限なし、保健局の担当者が24時間体制で育児サポートしてくれて、おまけに助成金も出るの?それ以外にも……凄い!」
 と、目を丸くした。
 「そうなんです――もしかしたら、ユージお兄様はこの制度をご存じだったのでは、と思って」
 アルファの言葉に、サクラは息を呑んだ。
 「離婚すれば、あたしがこの制度を使って子育て出来るから――ってこと?」
 「だとしたら、愛されてるわね、サクラ」
 ステラはご馳走様、とばかりに微笑んだ。

 「……ったく、ばかじゃないの」
 サクラは振り絞るような声で言った。
 「だからって、あたしの気持ちも聞かずに一方的に離婚するなんて、どうかしてるわ。あたしはユージの邪魔をするつもりはないし、行きたいならジムルグでも何処でも行けばいいし。戻るまで待っててくれと言ってくれたら、何時まででも待っててあげるつもりなのに」
 サクラの目からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
 「ユージが居なくたって、子供の一人や二人、頑張って育てるわよ。あたしにもそれ位の覚悟はあるわ。それなのに、自分の思いだけで別れるって、酷いよ、酷すぎるよっ……!」
 サクラは両手で顔を覆い、嗚咽を嚙み殺した。
 「サクラお姉様……」
 サクラを見守るアルファも目を潤ませている。

 その様子を見ていたステラは、細く息をついた。そして、
 「私、個人の星読みはしないことにしているんだけど――サクラ。今日は特別にあなたとユージ君の星読みをしてあげるわ」
 と、席を立った。
 「ステラお姉様。星読みって何ですか?」
 興味津々なアルファに対し、ステラは小さく微笑みを返した。
 「そうね。一種の占いみたいなものだと思ってもらえばいいわ」
 ステラは部屋の棚から液体の入った小瓶を取り出した。
 「折角だから、後でアルファちゃんの星図も出してあげるわね。魔界に住んでいると、中々目にすることもないだろうし」
 
 『エトワール』のステラ。またの名を「星読みのステラ」――彼女もまた師匠の弟子のひとりで、当代一の星読みである。



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 「サクラは、ユージ君に付いていく気はないの?」
 ステラの問いかけに、サクラは首を横に振った。
 「中道界は旅行先としては楽しいけど、住みたいかっていうと話は別だわ。それに」
 言いさして、サクラは悲し気に目を伏せた。
 「それに、もうすぐあたし達の子供が産まれるし。子供が大きくなるまでは、どうしたって中道界には行けないでしょ」
 「確かに、小さい子には渡航の許可なんか降りそうにないわね。大人だってひと苦労なのに」
 ふう、とステラは雄弁な溜息をついた。
 「ユージ君はそれがわかっているから、サクラに一緒に来てくれとは言えなかったのかも知れないわね」
 「でも、だからって、離婚まで考えなくてもいいじゃない。生まれてくる子供も俺には関係ない、サクラの好きにしてくれって言い草は酷過ぎるわ」
 サクラは口を尖らせて反論した。 そして、思い出したように、
 「そういえば、アルファちゃん。ユージが『コウノトリ』には両親から受入を拒否された子供を養育する施設があるって言ってたけど、本当?」
 と、アルファに問いかけた。
 「はい。悲しいことですけど、本当です」
 アルファは顔を曇らせた。
 「出産を待っている間に夫婦仲がこじれたり、出産間近になってやっぱり子供は要らないって言い出す方もいて。以前は赤ちゃんを強制的に両親に引き渡していた時期もあったんですけど、その結果痛ましい事件が連続して起きてしまって――それで、今はどうしても無理という場合に限ってですが、そういった赤ちゃんを『コウノトリ』でお預かりすることにしているんです」
 「赤ちゃんには何の罪もないのに、人間ってどうしてそう勝手なのかしらね」
 三人はしばしの間、その痛みを思い、黙り込んだ。
 「あっ」
 ややあって、アルファが何か思い付いたように声を上げた。
 「お姉様。ちょっとごめんなさい」
 アルファはボストンバッグからタブレット端末を取り出すと、何やら操作し始めた。
 サクラとステラはお菓子を食べながらその様子を見守っている。
 「サクラお姉様、ステラお姉様。これを見て下さい」
 アルファは目当てのページを探し出すと、画面を二人に見せた。
 それは、魔界政府が提供するひとり親支援サービスのページだった。
 「魔界ではずっと出生率が下落しているので、その対策として、ひとり親でも安心して子育て出来るように力を入れているんです。パートナーがいない方にもこの制度を利用して子供を産み育てて欲しいというのが魔界政府の本音ですが、制度としては離婚してひとり親になった方でも問題なく使えるものです」
 「へえ、そんなのがあるのね。全然知らなかったわ」
 サクラはタブレット端末に記載されているサービス内容に目を通した。そして、
 「え、こんなに充実してるの?ベビーシッター無料でしかも利用制限なし、保健局の担当者が24時間体制で育児サポートしてくれて、おまけに助成金も出るの?それ以外にも……凄い!」
 と、目を丸くした。
 「そうなんです――もしかしたら、ユージお兄様はこの制度をご存じだったのでは、と思って」
 アルファの言葉に、サクラは息を呑んだ。
 「離婚すれば、あたしがこの制度を使って子育て出来るから――ってこと?」
 「だとしたら、愛されてるわね、サクラ」
 ステラはご馳走様、とばかりに微笑んだ。
 「……ったく、ばかじゃないの」
 サクラは振り絞るような声で言った。
 「だからって、あたしの気持ちも聞かずに一方的に離婚するなんて、どうかしてるわ。あたしはユージの邪魔をするつもりはないし、行きたいならジムルグでも何処でも行けばいいし。戻るまで待っててくれと言ってくれたら、何時まででも待っててあげるつもりなのに」
 サクラの目からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
 「ユージが居なくたって、子供の一人や二人、頑張って育てるわよ。あたしにもそれ位の覚悟はあるわ。それなのに、自分の思いだけで別れるって、酷いよ、酷すぎるよっ……!」
 サクラは両手で顔を覆い、嗚咽を嚙み殺した。
 「サクラお姉様……」
 サクラを見守るアルファも目を潤ませている。
 その様子を見ていたステラは、細く息をついた。そして、
 「私、個人の星読みはしないことにしているんだけど――サクラ。今日は特別にあなたとユージ君の星読みをしてあげるわ」
 と、席を立った。
 「ステラお姉様。星読みって何ですか?」
 興味津々なアルファに対し、ステラは小さく微笑みを返した。
 「そうね。一種の占いみたいなものだと思ってもらえばいいわ」
 ステラは部屋の棚から液体の入った小瓶を取り出した。
 「折角だから、後でアルファちゃんの星図も出してあげるわね。魔界に住んでいると、中々目にすることもないだろうし」
 『エトワール』のステラ。またの名を「星読みのステラ」――彼女もまた師匠の弟子のひとりで、当代一の星読みである。