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サクラの逆襲(1)

ー/ー



 しかし。
 サクラは降って湧いたような離婚話に、ただただ涙にくれて徒に時間を食い潰すような女ではなかった。とはいえ、ユージから話を聞かされた当日は流石にショックを受けてしんなりしていたけれども。
 
 その翌日。
 サクラは朝から誰かと連絡を取り合った後、ボストンバッグにお泊りセットと着替えを詰め込み、
 「2日ほど留守にします」
 と、ユージ宛にメッセージを送ると、颯爽と出かけて行った。
 
 サクラはマンションの前でタクシーを拾い、『コウノトリ』に向かった。そして、研究棟の前でボストンバッグを片手に待っていたアルファを拾い、更に郊外へ向かう。
 「アルファちゃん、急にごめんなさいね」
 サクラが詫びると、アルファは、にこにこと首を横に振った。
 「いいえ。サクラお姉様のお誘いなら喜んで。しかも、一緒にお泊りなんて嬉しいです」
 「これから行くところはあたしのお友達のところなんだけど、きっとアルファちゃんも仲良くなれるわ」
 「本当ですか!うふふ、楽しみです」
 アルファは嬉しそうに頬を紅潮させた。
 
 『コウノトリ』から目的地までは30分以上かかったが、二人でお喋りを楽しんでいたせいか、さほど苦にはならなかった。
 「アルファちゃん、こっちこっち」
 タクシーから降りると、サクラは瀟洒な一軒家にアルファを誘った。
 玄関に通じる小径の両脇には季節の花が風に揺れている。
 「わあ、素敵なおうちですね。私、一戸建てに来たの初めてです」
 アルファはサクラと並んでゆっくりと小径を歩きつつ、興味深そうにその家を見渡した。
 「そっか。確かに魔界で一戸建てに住んでる人ってあんまりいないかもね」
 サクラは頷きながら、呼び鈴を鳴らす。
 
 「はあい」
 家の中から女性の声がした。良く通る声音だ。
 「サクラです」
 サクラが声を掛けると、すぐさまドアが開いた。
 顔を出したのは、風が吹き抜けるような軽い素材のロング丈のワンピースを身に着け、長い髪を青色と紫色に染め上げた女性だった。年の頃はサクラと同じぐらいだろうか。
 「サクラ、久し振り。よく来たわね」
 その女性は両手を広げてサクラを出迎えた。サクラは躊躇なくその腕の中に取り込まれ、軽く抱擁し合った。
 「連絡貰った時は心配したけど、へこたれてなさそうね」
 「ふふ、昨日はぺっちゃんこだったけど、今日は無理矢理元気出してみたの」
 そんな言葉を交わすと、二人はあはは、と声を出して笑った。そして、
 「ステラ。こちら、アルファちゃん。あたしの新しいお友達よ」
 と、サクラは彼女の前にアルファを誘った。
 「ああ、話に出てた子ね。ホントに奇麗な子だわ」
 ステラと呼ばれたそのひとは、初対面にもかかわらず、アルファを抱擁した。
 「ようこそ、アルファちゃん。私はステラ。よかったら私ともお友達になってね」
 「え?あっ、はい」
 突然のことに、アルファは心底驚いたように目を見開いている。
 「あっ、ごめんなさい。びっくりさせちゃった?」
 と、ステラは小さく舌を出した。そんなステラに、アルファはうーん、と小首を傾げた。
 「ステラお姉様。失礼ですけど何処かでお見かけしたような……?」

 アルファがステラを見かけたのは、先日開催された音楽イベントのライブ配信の映像だった。
 ステラは、天界と魔界を又にかけて精力的にライブ活動をしている『エトワール』というバンドのボーカルで、所謂「歌姫」である。

 
 「散らかってるけど、どうぞ楽にして。何処でも好きなところに座って頂戴」
 ステラはサクラとアルファを居間に招き入れた。
 床の上に大小様々なラグマットが乱雑に敷かれ、一番大きなラグマットの上には、座るのに丁度いい厚さのクッションと丸いテーブルが置いてあった。
 テーブルにはフルーツ入りアイスティーがたっぷり入ったガラス製のピッチャーと人数分のグラス、それに色々な種類のお菓子の袋が置かれている。
 「アルファちゃん。うちではみんなが好きなように過ごすのが唯一のルールなの。絶対に気なんか使っちゃダメよ」
 そう言って、ステラはアルファに笑いかけた。これはステラ流の気遣いだ。
 「はい、ありがとうございます!」
 アルファもまた笑顔を返すと、早速気に入った柄のクッションの上に座り込んだ。
 「二人とも、忘れてるみたいだけど、今日のメインテーマは私のサポートなんだからね」
 サクラは早速アイスティーに口をつけると、冗談めかしてステラとアルファを交互に見た。
 「そうだったわね、本当に忘れるところだったわ」
 と、軽口で返したステラに対し、アルファは生真面目に問いかけた。
 「サクラお姉様。私、そのお話を詳しく知らないので、説明して頂いてもいいですか?」
 「そうね。今日はアルファちゃんのアドバイスも欲しくて、一緒に来てもらったんだもの」
 サクラは背筋を伸ばして座り直すと、事のあらましを話し始めた。
 夫婦で中道界のジムルグへ旅行に行ったこと。帰ってきてからのユージの変化。そして、昨日突然言い渡された離婚宣言。
 「……そんなわけで、ユージったら、あたしの気持ちも聞かないで勝手に決めちゃったのよ。酷いでしょ?」
 サクラの瞳に怒りの炎が宿っている。
 「サクラの話を聞いた感じだと、その間話し合いも何もなかった、ってことよね?」
 ステラはクッキーの袋を開けると、一枚口に放り込んだ。
 「そうなの。ユージの態度がおかしくなってからは完全に避けられてた感じ。まるで家庭内別居状態」
 「でも、ユージお兄様、サクラお姉様のことが嫌いになったとは言ってないんですよね?」
 アルファの言葉に、サクラは淋しそうに微笑んだ。
 「そうね。結婚生活を続けるのは無理としか言われてないけど……ユージは優しい子だから、面と向かって嫌いになったなんて言えないだけかも知れないわ」
 「だけど、魔界に帰るまでは仲良かったんでしょ?その後、何かあったの?」
 「ユージ、自分の研究のことで悩んでたみたいだけど……それ以上のことはわからないの。何しろノーコミュニケーションだし」
 サクラはポテトチップスの袋を開け、一枚齧った。
 「そっか」
 ステラはアイスティーに口をつけると、
 「アルファちゃんはどう思う?」
 と、水を向けた。
 「私は、今回のことはサクラお姉様が原因ではないと思います」
 「そうね。私もそう思うわ」
 ステラは、アルファの見解に同意した。
 「話を聞いた感じ、ユージ君がジムルグに行くって決めたことが全てのような気がするのよ」
 ステラは頬杖を突きながら、斜めにサクラを見上げた。



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 しかし。
 サクラは降って湧いたような離婚話に、ただただ涙にくれて徒に時間を食い潰すような女ではなかった。とはいえ、ユージから話を聞かされた当日は流石にショックを受けてしんなりしていたけれども。
 その翌日。
 サクラは朝から誰かと連絡を取り合った後、ボストンバッグにお泊りセットと着替えを詰め込み、
 「2日ほど留守にします」
 と、ユージ宛にメッセージを送ると、颯爽と出かけて行った。
 サクラはマンションの前でタクシーを拾い、『コウノトリ』に向かった。そして、研究棟の前でボストンバッグを片手に待っていたアルファを拾い、更に郊外へ向かう。
 「アルファちゃん、急にごめんなさいね」
 サクラが詫びると、アルファは、にこにこと首を横に振った。
 「いいえ。サクラお姉様のお誘いなら喜んで。しかも、一緒にお泊りなんて嬉しいです」
 「これから行くところはあたしのお友達のところなんだけど、きっとアルファちゃんも仲良くなれるわ」
 「本当ですか!うふふ、楽しみです」
 アルファは嬉しそうに頬を紅潮させた。
 『コウノトリ』から目的地までは30分以上かかったが、二人でお喋りを楽しんでいたせいか、さほど苦にはならなかった。
 「アルファちゃん、こっちこっち」
 タクシーから降りると、サクラは瀟洒な一軒家にアルファを誘った。
 玄関に通じる小径の両脇には季節の花が風に揺れている。
 「わあ、素敵なおうちですね。私、一戸建てに来たの初めてです」
 アルファはサクラと並んでゆっくりと小径を歩きつつ、興味深そうにその家を見渡した。
 「そっか。確かに魔界で一戸建てに住んでる人ってあんまりいないかもね」
 サクラは頷きながら、呼び鈴を鳴らす。
 「はあい」
 家の中から女性の声がした。良く通る声音だ。
 「サクラです」
 サクラが声を掛けると、すぐさまドアが開いた。
 顔を出したのは、風が吹き抜けるような軽い素材のロング丈のワンピースを身に着け、長い髪を青色と紫色に染め上げた女性だった。年の頃はサクラと同じぐらいだろうか。
 「サクラ、久し振り。よく来たわね」
 その女性は両手を広げてサクラを出迎えた。サクラは躊躇なくその腕の中に取り込まれ、軽く抱擁し合った。
 「連絡貰った時は心配したけど、へこたれてなさそうね」
 「ふふ、昨日はぺっちゃんこだったけど、今日は無理矢理元気出してみたの」
 そんな言葉を交わすと、二人はあはは、と声を出して笑った。そして、
 「ステラ。こちら、アルファちゃん。あたしの新しいお友達よ」
 と、サクラは彼女の前にアルファを誘った。
 「ああ、話に出てた子ね。ホントに奇麗な子だわ」
 ステラと呼ばれたそのひとは、初対面にもかかわらず、アルファを抱擁した。
 「ようこそ、アルファちゃん。私はステラ。よかったら私ともお友達になってね」
 「え?あっ、はい」
 突然のことに、アルファは心底驚いたように目を見開いている。
 「あっ、ごめんなさい。びっくりさせちゃった?」
 と、ステラは小さく舌を出した。そんなステラに、アルファはうーん、と小首を傾げた。
 「ステラお姉様。失礼ですけど何処かでお見かけしたような……?」
 アルファがステラを見かけたのは、先日開催された音楽イベントのライブ配信の映像だった。
 ステラは、天界と魔界を又にかけて精力的にライブ活動をしている『エトワール』というバンドのボーカルで、所謂「歌姫」である。
 「散らかってるけど、どうぞ楽にして。何処でも好きなところに座って頂戴」
 ステラはサクラとアルファを居間に招き入れた。
 床の上に大小様々なラグマットが乱雑に敷かれ、一番大きなラグマットの上には、座るのに丁度いい厚さのクッションと丸いテーブルが置いてあった。
 テーブルにはフルーツ入りアイスティーがたっぷり入ったガラス製のピッチャーと人数分のグラス、それに色々な種類のお菓子の袋が置かれている。
 「アルファちゃん。うちではみんなが好きなように過ごすのが唯一のルールなの。絶対に気なんか使っちゃダメよ」
 そう言って、ステラはアルファに笑いかけた。これはステラ流の気遣いだ。
 「はい、ありがとうございます!」
 アルファもまた笑顔を返すと、早速気に入った柄のクッションの上に座り込んだ。
 「二人とも、忘れてるみたいだけど、今日のメインテーマは私のサポートなんだからね」
 サクラは早速アイスティーに口をつけると、冗談めかしてステラとアルファを交互に見た。
 「そうだったわね、本当に忘れるところだったわ」
 と、軽口で返したステラに対し、アルファは生真面目に問いかけた。
 「サクラお姉様。私、そのお話を詳しく知らないので、説明して頂いてもいいですか?」
 「そうね。今日はアルファちゃんのアドバイスも欲しくて、一緒に来てもらったんだもの」
 サクラは背筋を伸ばして座り直すと、事のあらましを話し始めた。
 夫婦で中道界のジムルグへ旅行に行ったこと。帰ってきてからのユージの変化。そして、昨日突然言い渡された離婚宣言。
 「……そんなわけで、ユージったら、あたしの気持ちも聞かないで勝手に決めちゃったのよ。酷いでしょ?」
 サクラの瞳に怒りの炎が宿っている。
 「サクラの話を聞いた感じだと、その間話し合いも何もなかった、ってことよね?」
 ステラはクッキーの袋を開けると、一枚口に放り込んだ。
 「そうなの。ユージの態度がおかしくなってからは完全に避けられてた感じ。まるで家庭内別居状態」
 「でも、ユージお兄様、サクラお姉様のことが嫌いになったとは言ってないんですよね?」
 アルファの言葉に、サクラは淋しそうに微笑んだ。
 「そうね。結婚生活を続けるのは無理としか言われてないけど……ユージは優しい子だから、面と向かって嫌いになったなんて言えないだけかも知れないわ」
 「だけど、魔界に帰るまでは仲良かったんでしょ?その後、何かあったの?」
 「ユージ、自分の研究のことで悩んでたみたいだけど……それ以上のことはわからないの。何しろノーコミュニケーションだし」
 サクラはポテトチップスの袋を開け、一枚齧った。
 「そっか」
 ステラはアイスティーに口をつけると、
 「アルファちゃんはどう思う?」
 と、水を向けた。
 「私は、今回のことはサクラお姉様が原因ではないと思います」
 「そうね。私もそう思うわ」
 ステラは、アルファの見解に同意した。
 「話を聞いた感じ、ユージ君がジムルグに行くって決めたことが全てのような気がするのよ」
 ステラは頬杖を突きながら、斜めにサクラを見上げた。