「大丈夫か――?」
見送りのいない城館の入り口を潜るなり、グンヴァルトソン准将が問いました。
「大丈夫――…とは、とても」
城内とは対照的な外の眩しさに目を細めて答えながら、少しでも落ち着こうと、私は冷たい両手のひらを頬に押し当て、大きく外の空気を吸い込みました。
途端、初春の甘く清涼な空気が優しく鼻腔をくすぐります――そのことに少し癒やされて、私はまた空を見上げました。
高い塀に切り取られたような、リンデンベルク屋敷の、青く狭い空。
こんな空でも、人は、確かに空を見上げているときは、不幸にはなれないのでした。
「――でも、私…幸せ、かもしれない」
呆然と空を見上げつつ、藪から棒にそんなことを言い出した私を、グンヴァルトソン准将は訝しげに見遣りました。
「あんな話の後で?」
「はい。――こんなときでもあなたは傍にいてくださる…幸せです」
「こんなときだからこそ、傍にいるよ」
グンヴァルトソン准将は呆れたように溜息をついて、大きな胸の内にしっかりと私の体を抱き留めました。
「――心配事は消えたか?」
「どうでしょう――…」
私はちょっと悩みました。
増えたといえば増えたし、減ったといえば減ったような――…
「今の私の気持ちを率直に申し上げると――もうなんだか、いっそ清々しいわ」
人の気持ちというのは――自分の気持ちですらこんなに複雑なのです。
ましてや、他人の気持ち――父やキャンバーランド伯爵夫人の真意なんか、生涯を掛けて考えたところで、私には解き明かせないでしょう。
「そうか。――あなたは本当に不思議な人だな」
「でも、そこがお好きなのでしょ?」
「そうだ。――帰ろう、従兄上方の待つ屋敷に」