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リンデンベルク屋敷

ー/ー



ファルケンブルク本邸を出発してから2時間弱のドライブの末、ナビを頼りにやっとたどり着いたのは、山間の古びた城館で――…

「ここか――?」

私のために助手席の扉を開けつつ、グンヴァルトソン准将はちょっと呑まれたように、背の高い石造りの塀に囲まれた古城を見上げます。
塀の上からは、石に穴をうがっただけのような、素っ気ないほど小さい窓がポツンポツンと点在する薄汚れた城館の白壁と、鐘の見当たらない物見塔が突き出して覗いていました。

「ええ、ここです」

囁くように答えて、グンヴァルトソン准将に手を貸してもらいながら車から降り、私は准将の傍らに並び立ってその屋敷――というより城館、を眺めました。

「…屋敷の外から眺めるのは初めてだわ」
「そうか。――平気か?」
「意外と」

強がりではなく、本当に意外なほど、この光景を前にして、私は平静でした。

「…俺はわりと絶望してるよ。なんだ、このやたらと高い、足がかりもない分厚い壁は」
「難攻不落ね」

軽口を叩いて笑い、私は城館の周辺を見渡しました。

「感動するほど、何もないのね――」

辺りに見えるのは、春の野の花が可憐に咲く草原と、四方を守る切り立った山々。
所々に自生するマグノリアの木々には白い花がもう咲いていて、甘やかな芳香がここまで漂ってきています。
はるか昔には、きっと近くに村落があったのでしょう――ここに来るまでの道筋には、そのなれはてといったような、崩れた住居や朽ちた小屋を数多見かけました。

「本当に、寂しい場所――…」

呟いて空を見上げると、青い空すらも山々に切り取られたかのように広がることを阻まれていて、この地に立つと、世界は有限だ――と言われても信じてしまいそうな、それはそれは美しくも閉じられた場所なのでした。

ここは元はといえば、私の父――前のファルツフェルド伯爵フランツ・ジギスムントが、その愛人である私とラグナルの生母を囲った場所のはず。
こんな場所に自分の愛人を住まわせるって――…父は一体どんな人だったのでしょう。
臆病だったのか、冷酷だったのか、ロマンティストだったのか――あるいは、その全てか。

思考の渦に巻き込まれそうな私を遮ったのは、肩にそっと置かれた温かい大きな手でした。

「行こうか。――城門は開いている。俺たちが来ることは伝わっているらしい」

私たちは敢えて車で乗り込まずに、歩いて、錆の目立つ青銅色の城門を潜ったのでした――…


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「ここか――?」
私のために助手席の扉を開けつつ、グンヴァルトソン准将はちょっと呑まれたように、背の高い石造りの塀に囲まれた古城を見上げます。
塀の上からは、石に穴をうがっただけのような、素っ気ないほど小さい窓がポツンポツンと点在する薄汚れた城館の白壁と、鐘の見当たらない物見塔が突き出して覗いていました。
「ええ、ここです」
囁くように答えて、グンヴァルトソン准将に手を貸してもらいながら車から降り、私は准将の傍らに並び立ってその屋敷――というより城館、を眺めました。
「…屋敷の外から眺めるのは初めてだわ」
「そうか。――平気か?」
「意外と」
強がりではなく、本当に意外なほど、この光景を前にして、私は平静でした。
「…俺はわりと絶望してるよ。なんだ、このやたらと高い、足がかりもない分厚い壁は」
「難攻不落ね」
軽口を叩いて笑い、私は城館の周辺を見渡しました。
「感動するほど、何もないのね――」
辺りに見えるのは、春の野の花が可憐に咲く草原と、四方を守る切り立った山々。
所々に自生するマグノリアの木々には白い花がもう咲いていて、甘やかな芳香がここまで漂ってきています。
はるか昔には、きっと近くに村落があったのでしょう――ここに来るまでの道筋には、そのなれはてといったような、崩れた住居や朽ちた小屋を数多見かけました。
「本当に、寂しい場所――…」
呟いて空を見上げると、青い空すらも山々に切り取られたかのように広がることを阻まれていて、この地に立つと、世界は有限だ――と言われても信じてしまいそうな、それはそれは美しくも閉じられた場所なのでした。
ここは元はといえば、私の父――前のファルツフェルド伯爵フランツ・ジギスムントが、その愛人である私とラグナルの生母を囲った場所のはず。
こんな場所に自分の愛人を住まわせるって――…父は一体どんな人だったのでしょう。
臆病だったのか、冷酷だったのか、ロマンティストだったのか――あるいは、その全てか。
思考の渦に巻き込まれそうな私を遮ったのは、肩にそっと置かれた温かい大きな手でした。
「行こうか。――城門は開いている。俺たちが来ることは伝わっているらしい」
私たちは敢えて車で乗り込まずに、歩いて、錆の目立つ青銅色の城門を潜ったのでした――…