「――懐かしい…訳ないよな」
城館の入り口まで続くアプローチの石畳を歩きつつ、周囲に視線を走らせながら、「悪い」と、グンヴァルトソン准将は短く謝罪しました。
「いいの。でも、懐かしい、というよりは――…どうしましょう。私、この感情を正しく表す言葉が、分からない」
私は立ち止まり、ぐるりと四方を見渡しました。
正面には、薄汚れてほとんど灰色になった城館の壁、縦横無尽に壁を這う緑色の蔦、ぽっかり空いた黒い穴のような旧式の窓。
左手には、青々と葉を茂らせた庭一番大きなリンデンの木――初夏にはクリーム色の花を咲かせるでしょう。その奥にあるリンゴの木立――もうそろそろ花の蕾が付くころのはず。その先に少しだけ見える礼拝堂のステンドグラス。
右手には、ずっと前から使われていない小さな古井戸、そして、馬のいない厩舎。脇にそれる道は、その昔、門番を兼ねていた使用人夫妻が住んでいたコテージへと続いています。
全ての物に、確かに、見覚えがありました。けれど、決して懐かしくはない――懐かしい、とは呼びたくない、この感情。
おそらく、懐かしいという言葉には、どこかしら慕わしさがついてまわるからでしょう。
そうです、私にはこの光景は全く慕わしくないのです。
その事実は、私を少しばかり絶望させました。
この光景を受け入れられないのは私の方なのに、17まで育った屋敷に冷たく拒絶されたような気がして――…救いを求めて視線を上げると、グンヴァルトソン准将の気遣わしげな青緑色の瞳とぶつかりました。
「――帰るか?」
森の中の湖面のような静かな眼差し、バリトンの深い声音、武骨だけれど温かい手、筋肉質の厚い胸板、そして、私の大好きな――太陽と干し草と柑橘を混ぜたような――彼の香り。
〈慕わしさ〉の塊のような人物が目の前にいたことに、私は心から感謝しました。おかげで、どうにか感情を失わずに持ちこたえられる――…そう思ったのです。
「いいえ。参りましょう。――入り口まで、もう少しです」