空の遠く
ー/ー翌日。
その日も晴れ上がって美しい色の空でした。
私はファルケンブルク本邸の、冷たい石造りの正面玄関前に立って、空の遠くを眺めていました。
――人は、空を見上げているときは、不幸になれない。
昔読んだ本に書いてあった言葉を思い出しながら、ひたすら上を見上げていると、遠くから微かに車がやってくる音が聞こえます。
ぼんやり視線を戻すと、黒い車がこちらに向かってきていました。
(来たみたいね――…)
果たして、車は私の目の前で停まり、ドアが開いて出てきたのは――…
「おはよう、婚約者殿。――外で待ってたのか。朝はまだ寒いんだから、中に入っていればよかったのに」
言いながら、私の婚約者――黒髪のロアルド・グンヴァルトソン准将は私の手を取って口付け、その冷たさに驚いたかのように顔をしかめて、大きな手で私の手を包み込みました。肌を通して温かさがじんわりと伝わります――その温もりは凍りかけていた心を溶かすようで、私はようやくちょっと表情を動かしました。
「おはようございます、ロアルド。――空を眺めたかったの」
私がそう答えると、グンヴァルトソン准将は笑顔のまま少し沈黙しました。
「あなたは――いつも思うが、不思議な人だね」
「そうですか?」
「普通の女性なら、あなたを待っていたのです――とか言いそうなところで。だが、そこが好きだ」
ありがとうございます、と、私は微笑みました。
「それで、本日のデートはどちらへ?」
助手席の扉を開けながら、准将が聞きます。エスコートされるに任せて助手席に収まると、私は車の外の准将を見上げて言いました。
「リンデンベルク屋敷へ」
グンヴァルトソン准将は不思議そうな顔をしましたが、外の寒気が私の体に障るのを恐れたのでしょうか、ドアを閉めて、自らも運転席に戻りました。
「それで、リンデンベルク屋敷というのは――友人の家かどこかか?」
フロントパネルに手を伸ばしナビゲーターを操作しながら尋ねたグンヴァルトソン准将に、
「いいえ」
私は首を振りました。
「――私が育った屋敷です」
その日も晴れ上がって美しい色の空でした。
私はファルケンブルク本邸の、冷たい石造りの正面玄関前に立って、空の遠くを眺めていました。
――人は、空を見上げているときは、不幸になれない。
昔読んだ本に書いてあった言葉を思い出しながら、ひたすら上を見上げていると、遠くから微かに車がやってくる音が聞こえます。
ぼんやり視線を戻すと、黒い車がこちらに向かってきていました。
(来たみたいね――…)
果たして、車は私の目の前で停まり、ドアが開いて出てきたのは――…
「おはよう、婚約者殿。――外で待ってたのか。朝はまだ寒いんだから、中に入っていればよかったのに」
言いながら、私の婚約者――黒髪のロアルド・グンヴァルトソン准将は私の手を取って口付け、その冷たさに驚いたかのように顔をしかめて、大きな手で私の手を包み込みました。肌を通して温かさがじんわりと伝わります――その温もりは凍りかけていた心を溶かすようで、私はようやくちょっと表情を動かしました。
「おはようございます、ロアルド。――空を眺めたかったの」
私がそう答えると、グンヴァルトソン准将は笑顔のまま少し沈黙しました。
「あなたは――いつも思うが、不思議な人だね」
「そうですか?」
「普通の女性なら、あなたを待っていたのです――とか言いそうなところで。だが、そこが好きだ」
ありがとうございます、と、私は微笑みました。
「それで、本日のデートはどちらへ?」
助手席の扉を開けながら、准将が聞きます。エスコートされるに任せて助手席に収まると、私は車の外の准将を見上げて言いました。
「リンデンベルク屋敷へ」
グンヴァルトソン准将は不思議そうな顔をしましたが、外の寒気が私の体に障るのを恐れたのでしょうか、ドアを閉めて、自らも運転席に戻りました。
「それで、リンデンベルク屋敷というのは――友人の家かどこかか?」
フロントパネルに手を伸ばしナビゲーターを操作しながら尋ねたグンヴァルトソン准将に、
「いいえ」
私は首を振りました。
「――私が育った屋敷です」
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翌日。
その日も晴れ上がって美しい色の空でした。
私はファルケンブルク本邸の、冷たい石造りの正面玄関前に立って、空の遠くを眺めていました。
その日も晴れ上がって美しい色の空でした。
私はファルケンブルク本邸の、冷たい石造りの正面玄関前に立って、空の遠くを眺めていました。
――人は、空を見上げているときは、不幸になれない。
昔読んだ本に書いてあった言葉を思い出しながら、ひたすら上を見上げていると、遠くから微かに車がやってくる音が聞こえます。
ぼんやり視線を戻すと、黒い車がこちらに向かってきていました。
ぼんやり視線を戻すと、黒い車がこちらに向かってきていました。
(来たみたいね――…)
果たして、車は私の目の前で停まり、ドアが開いて出てきたのは――…
「おはよう、婚約者殿。――外で待ってたのか。朝はまだ寒いんだから、中に入っていればよかったのに」
言いながら、私の婚約者――黒髪のロアルド・グンヴァルトソン准将は私の手を取って口付け、その冷たさに驚いたかのように顔をしかめて、大きな手で私の手を包み込みました。肌を通して温かさがじんわりと伝わります――その温もりは凍りかけていた心を溶かすようで、私はようやくちょっと表情を動かしました。
「おはようございます、ロアルド。――空を眺めたかったの」
私がそう答えると、グンヴァルトソン准将は笑顔のまま少し沈黙しました。
「あなたは――いつも思うが、不思議な人だね」
「そうですか?」
「普通の女性なら、あなたを待っていたのです――とか言いそうなところで。だが、そこが好きだ」
「そうですか?」
「普通の女性なら、あなたを待っていたのです――とか言いそうなところで。だが、そこが好きだ」
ありがとうございます、と、私は微笑みました。
「それで、本日のデートはどちらへ?」
助手席の扉を開けながら、准将が聞きます。エスコートされるに任せて助手席に収まると、私は車の外の准将を見上げて言いました。
「リンデンベルク屋敷へ」
グンヴァルトソン准将は不思議そうな顔をしましたが、外の寒気が私の体に障るのを恐れたのでしょうか、ドアを閉めて、自らも運転席に戻りました。
「それで、リンデンベルク屋敷というのは――友人の家かどこかか?」
フロントパネルに手を伸ばしナビゲーターを操作しながら尋ねたグンヴァルトソン准将に、
「いいえ」
私は首を振りました。
「――私が育った屋敷です」
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