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【3】①

ー/ー



「アヤカ。今日はね──」

「宗太! いつまであたしの部屋に居座るつもりなの? 今すぐとは言わないけど、少しは真剣に考えたら⁉」

 定時過ぎ、乱暴に椅子を回転させて立ち上がって荒っぽい足取りでキッチンへ向かったあたしに、ラグに膝抱えて座ってた宗太がぱっと顔上げて話し掛けようとした。

 ……飼い主に構って欲しくて尻尾振る犬かよ! いや、あんたの存在は「犬」にも達してないよね。あたしにやすらぎさえ与えてくれるわけでもないんだからさ。

 今日、仕事で小さなミスをした。
 致命的な失敗ってわけじゃないし、すぐ気づいてちゃんとリカバリもできた。

 上司も同僚もあたしを責めたりしなかったし、「紺野さんにしては珍しいね。あんまり気にしないように」って気遣ってくれたくらい。

 ……でも、だからこそ自分に腹立つわ。なんであんなくだらない勘違い──!

「アヤカ、ごめん。ホントに俺──」

 こんなのただの八つ当たりだよ。だけど、それが何? なんか悪い?
 憂さ晴らしの相手くらいしてもらってもバチ当たんないでしょ。宗太なんか、たいして役にも立たないタダ飯喰らいなんだからさ!

「いっつもそうやって口先だけじゃん! どうせならもっと可愛い小型犬のがいいよ!」
「……飼う、か。そうだね、俺はアヤカに飼われてるよね」

 あたしも、さすがにちょっと言い過ぎたとは思った、けど。
 宗太はそのあとも相変わらず、仕事探しもしないであたしの部屋で優雅に引き籠り生活。

 ああまで言われて何も感じないのっておかしくない? 「犬」以下だって罵られたんだよ!? ……コイツ何なの?


    ◇  ◇  ◇
「今までありがとう、アヤカ。……長い間ごめんな。俺、出てくから」

「出てくって。出てってどうすんのよ。仕事は? 家は?」
 あれからもう一か月なんだけど。ようやく危機感覚えたとでも?

 夕食を終えた食卓でやけに改まった調子で宗太が口にした言葉を、あたしは鼻で笑ってやった。

「なんとかなる、というか、する」
 宗太が真顔で答えるのに、頭の芯が冷えてくのはなんでだろ。

 いつもの、自信なさげなへらへらした表情じゃない。……こんな宗太、久し振りに見た気する。

「俺、ネットでこのあたりの求人情報見てみたんだ。なかなか正社員の口はないけど、まずは契約社員からってのならいくつかあったから面接受けてみようかなって。とりあえずバイトならすぐ見つかると思うし、安いアパートなら──」

 訥々と話す宗太に、あたしは自分でも意味のわからない感情に襲われて叫んでた。

「なんで⁉ なんで急にそんなこと言うのよ! あんたはずっとここで、ペットみたいに、ペットのかわりに、あたしに養われてたらいいんだよ! あんたなんか一人で生きて行けるわけないんだから、……だから、ここにいて」
「あ、アヤカ、──」

 ……あたし、何言ってんの?

 コイツいつまであたしに寄生する気だよ! ってずっと思ってたじゃん。働け、ここから出てけ、って言ってたじゃん。

「……アヤカ。俺、ずっとここで飼われてていいの?」
 あたしのよく知ってる、頼りない宗太の声。

 コイツはこうでなきゃダメなんだよ。あたしの宗太は。

「うん。どうせ宗太はひとりじゃ何もできないんだから。これからもあたしの機嫌取って、ご飯作ってればいい。──犬ほど可愛くもないあんたの存在意義なんてそれだけだよ」
 言い放つあたしに、宗太は嬉しそうに笑うんだ。

 ホントどーしようもない男。



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「アヤカ。今日はね──」
「宗太! いつまであたしの部屋に居座るつもりなの? 今すぐとは言わないけど、少しは真剣に考えたら⁉」
 定時過ぎ、乱暴に椅子を回転させて立ち上がって荒っぽい足取りでキッチンへ向かったあたしに、ラグに膝抱えて座ってた宗太がぱっと顔上げて話し掛けようとした。
 ……飼い主に構って欲しくて尻尾振る犬かよ! いや、あんたの存在は「犬」にも達してないよね。あたしにやすらぎさえ与えてくれるわけでもないんだからさ。
 今日、仕事で小さなミスをした。
 致命的な失敗ってわけじゃないし、すぐ気づいてちゃんとリカバリもできた。
 上司も同僚もあたしを責めたりしなかったし、「紺野さんにしては珍しいね。あんまり気にしないように」って気遣ってくれたくらい。
 ……でも、だからこそ自分に腹立つわ。なんであんなくだらない勘違い──!
「アヤカ、ごめん。ホントに俺──」
 こんなのただの八つ当たりだよ。だけど、それが何? なんか悪い?
 憂さ晴らしの相手くらいしてもらってもバチ当たんないでしょ。宗太なんか、たいして役にも立たないタダ飯喰らいなんだからさ!
「いっつもそうやって口先だけじゃん! どうせ《《飼う》》ならもっと可愛い小型犬のがいいよ!」
「……飼う、か。そうだね、俺はアヤカに飼われてるよね」
 あたしも、さすがにちょっと言い過ぎたとは思った、けど。
 宗太はそのあとも相変わらず、仕事探しもしないであたしの部屋で優雅に引き籠り生活。
 ああまで言われて何も感じないのっておかしくない? 「犬」以下だって罵られたんだよ!? ……コイツ何なの?
    ◇  ◇  ◇
「今までありがとう、アヤカ。……長い間ごめんな。俺、出てくから」
「出てくって。出てってどうすんのよ。仕事は? 家は?」
 あれからもう一か月なんだけど。ようやく危機感覚えたとでも?
 夕食を終えた食卓でやけに改まった調子で宗太が口にした言葉を、あたしは鼻で笑ってやった。
「なんとかなる、というか、する」
 宗太が真顔で答えるのに、頭の芯が冷えてくのはなんでだろ。
 いつもの、自信なさげなへらへらした表情じゃない。……こんな宗太、久し振りに見た気する。
「俺、ネットでこのあたりの求人情報見てみたんだ。なかなか正社員の口はないけど、まずは契約社員からってのならいくつかあったから面接受けてみようかなって。とりあえずバイトならすぐ見つかると思うし、安いアパートなら──」
 訥々と話す宗太に、あたしは自分でも意味のわからない感情に襲われて叫んでた。
「なんで⁉ なんで急にそんなこと言うのよ! あんたはずっとここで、ペットみたいに、ペットのかわりに、あたしに養われてたらいいんだよ! あんたなんか一人で生きて行けるわけないんだから、……だから、ここにいて」
「あ、アヤカ、──」
 ……あたし、何言ってんの?
 コイツいつまであたしに寄生する気だよ! ってずっと思ってたじゃん。働け、ここから出てけ、って言ってたじゃん。
「……アヤカ。俺、ずっとここで飼われてていいの?」
 あたしのよく知ってる、頼りない宗太の声。
 コイツはこうでなきゃダメなんだよ。あたしの宗太は。
「うん。どうせ宗太はひとりじゃ何もできないんだから。これからもあたしの機嫌取って、ご飯作ってればいい。──犬ほど可愛くもないあんたの存在意義なんてそれだけだよ」
 言い放つあたしに、宗太は嬉しそうに笑うんだ。
 ホントどーしようもない男。