いつもの電車で
ー/ー私はいつものように通勤電車に乗っている。いや、いつもより早い時間に家路に着こうとしているから、いつもより早く、通勤電車に乗っている。
車窓から外を眺めるのもいいが、車内の様子をボケっと眺めるのもなんだか楽しい。
車窓から外を眺めるのもいいが、車内の様子をボケっと眺めるのもなんだか楽しい。
とある駅で、ベビーカーを押したお母さんと小さな男の子が乗ってきた。男の子は3歳くらいかな。ベビーカーには小さな赤ちゃん。
この時間帯、車内はさほど混んではいないが、空いている席もない、と言った感じだった。
だが、ベビーカーがすっと通れるほどの隙間はなかった。お母さんはすみません、すみません、と言いながら、車両の隅の座席の無い部分にベビーカーを移動させた。
ベビーカーにはたくさん荷物がぶらさがっていた。男の子の遊び道具らしい。
男の子は乗車してしばらくは、ベビーカーにつかまって立っていたが、そのうちなんだか顔が険しくなり、ぐずぐずとお母さん何やらに訴え始めた。
お母さんはベビーカーを抑えながら、男の子をなだめていた。そのうち、男の子の声が涙声にかわってきた。
お母さんは手荷物からお菓子を持たせたりしていたが、男の子のぐずぐずは収まらない。そのうち、ベビーカーに乗っている赤ちゃんまで愚図り始めた。お母さんは赤ちゃんと男の子、二人をなだめたりあやしたり。
男の子は「あっちで外が見たい」そういいたいらしいのだが、まだうまく口がまわらないようで、なんだがきーきーと騒いでいるようにしか聞こえなかった。
周囲がどんどん冷たい視線にかわっていく。口には出さなけど、心の中で「うるさい」と叫ぶ声が聞こえてくるようだった。
お母さんは焦った様子でなだめるが、そんなお母さんの不安を感じ取るかのように、赤ちゃんまで泣きだした。
ベビーカーから抱き上げであやすお母さん。その腕につかまり、ぐずぐず言い続ける男の子。お母さんの顔汗でびっしょりだった。
そんな時、ドア付近にいた中学生の男子数人が、「こっちへおいでよ、外が見えるよ」と男の子に声をかけた。
ほんの1メートル先のドアからなら、まだ小さい男の子の視界にも外が見える。でも中学生男子がドア付近を占領していて割り込む隙間はないようにみえていたのだ。
中学生男子の一人がお母さんにむかって「どこの駅で降りるんですか?」と聞いた。それまで、ドア付近で一緒に外を見よう、と男の子に声をかけた。
お兄さんたちとドアから外を見始めた男の子はもうぐずぐずも言わなくなっていた。この路線は電車の操車場や、いろんな路線が並んで走る線路を通るので、色々な電車が見られる。
「あ、スペーシアだ」男の子が叫ぶ。電車柄のTシャツを着ているこの子は電車が大好きなんだ。中学生男子たちも電車好きのようで、ミニ子鉄と大きな子鉄はまるで仲間のように電車談義に花を咲かせていた。
あと少しで男の子の降りる駅というとき横の線路には新幹線が通っている。
「あ、ドクターイエローだ」子鉄たちの視線の先に、黄色の新幹線「ドクターイエロー」が走っていた。「おお、これは幸運だ!」ドクターイエローの走る姿を見ると幸運に恵まれるらしい。
中学生子鉄も、3歳の子鉄も目をきらきらさせながら、ドクターイエローを見つめていた。
そろそろ男の子の降りる駅、と言ったとき中学生の一人が「泣かないでお家に帰るんだぞ。男はママを助けてあげないと」そう男の子に言った。
「大丈夫だ、ぼくはおにいちゃんだもん」男の子が大きな声で答える。
降りる駅に着くと男の子は、ベビーカーとお母さんのところに行き、「その荷物、ぼくが持ってやるよ」と言いながら、お母さんのカバンを持ち、ドアに向かった。
お母さんが中学生たちにお礼を言って、男の子が手を振って降りて行った。
中学生たちも笑顔で見送った。周囲の視線もあたたかくなった。
男の子が降りた電車が動き出す。
最初に男の子に声をかけた中学生が「おれさ、小さい頃電車で泣いて母さんからパンチされた。それが覚えてる最初の記憶」そういって笑った。
私はその男の子が今晩いい夢が見られるといいな、と思った。
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