晩餐会
ー/ー
小一時間ほど庭を漫ろ歩いて、夢の名残を引きずりつつ花に酔ったような調子で部屋に帰った私たちは、急速に現実に引き戻されました。ーー晩餐会の支度をしなくては。
「何をお召しになります?」
「髪を結い直しましょうね」
カタリナとロサルヴァがテキパキと私の支度を手伝ってくれます。
背中が大きく開いたエメラルドグリーンのドレスに身を包み、髪を結い上げて、真珠で身を飾れば完成です。
カタリナとロサルヴァも着替えてきました。
カタリナはパステルイエローのドレス、ロサルヴァはペイルシャンパンの、それぞれ主である私よりはずっと控えめな色とデザインでした。
ノックの音と共に、やはり礼装に身を包んでプラチナブロンドの髪の毛を綺麗になでつけたフィリップが迎えに来て、私たちは部屋を後にしたのでした――。
サルーンの大扉は大きく開いていました。
お茶会のときと同じで、私が入室すると皆一斉に立ち上がりました。四方から視線が突き刺さるのを感じながら、シャンデリアの明かりが眩く照らす中を、私は強いて優雅な笑みを刷き、ゆっくりと歩を進めます。挫けそうになる内心にこう言い聞かせながら。
優雅に、そして、勇敢に――…一歩、また一歩。着実に。
…全く、本当に、高位貴族――帝室に連なる血筋――でいるのも楽ではありません。
ロイシュライゼの覇者と呼ばれるファルケンブルク一門に属する私は、便宜上、ファルツフェルド伯爵令嬢と呼ばれていますが、実際は「プリンセス」のタイトルを保持しています。
なぜって、曾祖母が偉大なるイェラン帝の愛娘ヴィクトリアで、そのヴィクトリアがファルケンブルクに嫁いだため、勅許により、溺愛する娘の子孫には、「プリンス」「プリンセス」のタイトルが許されることになったのです。
当事者の立場からでも思うのですが、この帝国の身分制の称号やら爵位、呼び名というものはとても複雑で、誰が何であるやら、時としてついて行けなくなります。
まぁ、そんな頭の痛い話はさておき――…
私の左隣は水色のドレスに身を包んだレディ・シャーロット、向かいはロード・ヴィンセント、右隣は護衛のフィリップでした。
他に、プラムカラーのドレスをお召しになったリーランド伯爵夫妻のご長女レディ・フランシス、暗い紫色のドレス姿のレディ・シャーロットのお母様の、ダンリード男爵夫人ことレディ・ダンリード、淡いローズカラーのドレスの妹御のジ・オナラブル・ヘンリエッタ、リーランド伯爵夫妻の次男、サー・デイヴィッド。そして、この晩餐会のホストであるリーランド伯爵夫妻はそれぞれテーブルの両端に。レディ・リーランドは深い蒼のドレスをお召しでした。
総勢12名の――内輪の――晩餐です。
春という季節柄、お料理はジビエなどのあまりワイルドなものはありませんでした。
しかし、やはり土地が違うと料理も変わるもので、グリンピースのスープにはその目にも鮮やかな緑色に驚かされ、格子柄に模様をつけた大きなパイも、ロイシュライゼではちょっと見慣れぬ料理でした。ソースの使い方もわりと独特で、お肉にかけられたサワーソースには、刻んだフレッシュミントが大量に混ざっていて、食べ慣れぬ私などには風変わりな味に思われましたね。
初めてお目に掛かる料理に内心目を白黒させながら、夜の時間は、和やかに――というよりは、整然と過ぎていきます。リーランド家ではどうやら、お行儀が良いのがモットーのようでした。
晩餐会が終わったのは、午後10時くらいだったでしょうか。
本来の晩餐会ならば男性陣はスモーキング・ルームに場を移して強いお酒などを嗜み、女性陣はドローイング・ロームに下がってコーヒーや食後酒など片手にお喋りとなるところでしょうが、生憎、私もスールバラン姉妹も、長旅の後で疲れていました。そこで、フィリップはともかく、私たち3人は速やかにそれぞれの部屋へと舞い戻り、明日からまた待ち構える社交の日々に備えて、ぐっすりと休息をとることにしたのでした――…。
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「何をお召しになります?」
「髪を結い直しましょうね」
カタリナとロサルヴァがテキパキと私の支度を手伝ってくれます。
背中が大きく開いたエメラルドグリーンのドレスに身を包み、髪を結い上げて、真珠で身を飾れば完成です。
カタリナとロサルヴァも着替えてきました。
カタリナはパステルイエローのドレス、ロサルヴァはペイルシャンパンの、それぞれ主である私よりはずっと控えめな色とデザインでした。
ノックの音と共に、やはり礼装に身を包んでプラチナブロンドの髪の毛を綺麗になでつけたフィリップが迎えに来て、私たちは部屋を後にしたのでした――。
サルーンの大扉は大きく開いていました。
お茶会のときと同じで、私が入室すると皆一斉に立ち上がりました。四方から視線が突き刺さるのを感じながら、シャンデリアの明かりが眩く照らす中を、私は強いて優雅な笑みを刷き、ゆっくりと歩を進めます。挫けそうになる内心にこう言い聞かせながら。
優雅に、そして、勇敢に――…一歩、また一歩。着実に。
…全く、本当に、高位貴族――帝室に連なる血筋――でいるのも楽ではありません。
ロイシュライゼの覇者と呼ばれるファルケンブルク一門に属する私は、便宜上、ファルツフェルド伯爵令嬢と呼ばれていますが、実際は「プリンセス」のタイトルを保持しています。
なぜって、曾祖母が偉大なるイェラン帝の愛娘ヴィクトリアで、そのヴィクトリアがファルケンブルクに嫁いだため、勅許により、溺愛する娘の子孫には、「プリンス」「プリンセス」のタイトルが許されることになったのです。
当事者の立場からでも思うのですが、この帝国の身分制の称号やら爵位、呼び名というものはとても複雑で、誰が何であるやら、時としてついて行けなくなります。
まぁ、そんな頭の痛い話はさておき――…
私の左隣は水色のドレスに身を包んだレディ・シャーロット、向かいはロード・ヴィンセント、右隣は護衛のフィリップでした。
他に、プラムカラーのドレスをお召しになったリーランド伯爵夫妻のご長女レディ・フランシス、暗い紫色のドレス姿のレディ・シャーロットのお母様の、ダンリード男爵夫人ことレディ・ダンリード、淡いローズカラーのドレスの妹御のジ・オナラブル・ヘンリエッタ、リーランド伯爵夫妻の次男、サー・デイヴィッド。そして、この晩餐会のホストであるリーランド伯爵夫妻はそれぞれテーブルの両端に。レディ・リーランドは深い蒼のドレスをお召しでした。
総勢12名の――内輪の――晩餐です。
春という季節柄、お料理はジビエなどのあまりワイルドなものはありませんでした。
しかし、やはり土地が違うと料理も変わるもので、グリンピースのスープにはその目にも鮮やかな緑色に驚かされ、格子柄に模様をつけた大きなパイも、ロイシュライゼではちょっと見慣れぬ料理でした。ソースの使い方もわりと独特で、お肉にかけられたサワーソースには、刻んだフレッシュミントが大量に混ざっていて、食べ慣れぬ私などには風変わりな味に思われましたね。
初めてお目に掛かる料理に内心目を白黒させながら、夜の時間は、和やかに――というよりは、整然と過ぎていきます。リーランド家ではどうやら、お行儀が良いのがモットーのようでした。
晩餐会が終わったのは、午後10時くらいだったでしょうか。
本来の晩餐会ならば男性陣はスモーキング・ルームに場を移して強いお酒などを嗜み、女性陣はドローイング・ロームに下がってコーヒーや食後酒など片手にお喋りとなるところでしょうが、生憎、私もスールバラン姉妹も、長旅の後で疲れていました。そこで、フィリップはともかく、私たち3人は速やかにそれぞれの部屋へと舞い戻り、明日からまた待ち構える社交の日々に備えて、ぐっすりと休息をとることにしたのでした――…。