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秘密の花園

ー/ー



ティータイムが終わると、時刻はもう夕刻でした。
サルーンを去り際、ロード・ヴィンセントがこう仰いました。
「今宵は、歓迎の意を込めて、ささやかながら晩餐の宴をご用意しております」
やれやれ、有り難いことですが、他家を訪問するというのは、中々気骨の折れることなのであります――…。

庭を案内して頂く予定だったので、私たちはそのままリーランド家の女性陣――レディ・リーランド、レディ・シャーロット、レディ・フランシス――と、外へ出ました。
「晩餐まであまり時間もございませんので、今日のところは簡単にご案内いたしますね」
庭仕事をこよなく愛すと評判のレディ・リーランドに先導されて進みます。
屋敷の裏手には、建物と庭を隔てるように背の高い生垣があり、そこに淡いオレンジ色の大輪の薔薇とアイヴォリーの花弁が波打つ可愛らしい薔薇が絡むように這って、今を盛りとばかり咲き誇っています。
「藤も素敵でしたけど、薔薇も今が盛りですね」
「ええ。――薔薇といえば、温室にもご案内したいのですけれど、ここからは少々離れておりまして…」
そう告げるレディ・リーランドの言葉の後半は、私の耳に届いていませんでした。
何故なら、オレンジとアイヴォリーで彩られた緑のアーチを潜った先、突然目の前に広がった光景に心を奪われていたから――…

そこは――控えめに言っても、楽園のようでした。

そろそろ桃がかった金色に染まり始める空を背景に、花壇には色彩柔らかに多種多様な花々が溢れ、碧々と育った木々の間を通り抜ける微風に、ふわふわと可憐な様子で花弁を揺らしています。夕刻の柔らかいオレンジ色の木漏れ日が石畳を敷いた小道に複雑な影を投げかけ、傍を流れる小川には煌めきをもたらしていました。周囲に漂う甘い香りは、古木に絡んだ藤と背後の桃色の薔薇の刈り込みから漂ってくるようです。

「…素晴らしいわ」

それは、深紅や純白の薔薇を粛々と植えて、型にはまった豪華さや重苦しいまでの壮麗さを全面に押し出したファルケンブルク邸の庭とは全く別物の、柔和な優しいお庭でした。
すっかり魅入られた私は、殆ど同伴者のことを忘れてふわふわと庭をそぞろ歩き、この夢のような場所を、時間を、香りの中を、揺蕩うて過ごしたのでした――…。


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ティータイムが終わると、時刻はもう夕刻でした。
サルーンを去り際、ロード・ヴィンセントがこう仰いました。
「今宵は、歓迎の意を込めて、ささやかながら晩餐の宴をご用意しております」
やれやれ、有り難いことですが、他家を訪問するというのは、中々気骨の折れることなのであります――…。
庭を案内して頂く予定だったので、私たちはそのままリーランド家の女性陣――レディ・リーランド、レディ・シャーロット、レディ・フランシス――と、外へ出ました。
「晩餐まであまり時間もございませんので、今日のところは簡単にご案内いたしますね」
庭仕事をこよなく愛すと評判のレディ・リーランドに先導されて進みます。
屋敷の裏手には、建物と庭を隔てるように背の高い生垣があり、そこに淡いオレンジ色の大輪の薔薇とアイヴォリーの花弁が波打つ可愛らしい薔薇が絡むように這って、今を盛りとばかり咲き誇っています。
「藤も素敵でしたけど、薔薇も今が盛りですね」
「ええ。――薔薇といえば、温室にもご案内したいのですけれど、ここからは少々離れておりまして…」
そう告げるレディ・リーランドの言葉の後半は、私の耳に届いていませんでした。
何故なら、オレンジとアイヴォリーで彩られた緑のアーチを潜った先、突然目の前に広がった光景に心を奪われていたから――…
そこは――控えめに言っても、楽園のようでした。
そろそろ桃がかった金色に染まり始める空を背景に、花壇には色彩柔らかに多種多様な花々が溢れ、碧々と育った木々の間を通り抜ける微風に、ふわふわと可憐な様子で花弁を揺らしています。夕刻の柔らかいオレンジ色の木漏れ日が石畳を敷いた小道に複雑な影を投げかけ、傍を流れる小川には煌めきをもたらしていました。周囲に漂う甘い香りは、古木に絡んだ藤と背後の桃色の薔薇の刈り込みから漂ってくるようです。
「…素晴らしいわ」
それは、深紅や純白の薔薇を粛々と植えて、型にはまった豪華さや重苦しいまでの壮麗さを全面に押し出したファルケンブルク邸の庭とは全く別物の、柔和な優しいお庭でした。
すっかり魅入られた私は、殆ど同伴者のことを忘れてふわふわと庭をそぞろ歩き、この夢のような場所を、時間を、香りの中を、揺蕩うて過ごしたのでした――…。