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お願い

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朝食を終えて二人の従兄の出勤を見送った私は、自室に戻り、スマートフォンの画面を前に大きく一つ息を吐きました。そして、徐に、『エリック・オブ・リーランド』の名前を押したのです。
10秒ほどの呼び出し音の後、
『――はい。こんにちは、リリ。何かありました?』
画面の向こうでエリックの穏やかな声が響きました。
「こんにちは、エリック。突然ごめんなさい。今、お時間は大丈夫?」
『ええ。通勤途中で、まだ後10分くらい運転してますよ』
「よかった。――あのね、先日、ルイスから聞いたのだけど。あなたが新しい薔薇を作ったのだって」
『―あ、はい。あの薔薇のことかな。〈光〉の薔薇ですか?』
「そう、その薔薇です。それで私、今朝、そのことを従兄たちに話してしまったの。そうしたら――」
歯切れ悪く口篭もった私とは対照的に、
『あぁ、話が見えてきました』
エリックは朗らかに笑っているような気配です。
『エトガル殿の薔薇好きは有名ですもんね。――〈光〉の薔薇、一株差し上げましょうか?』
エリックから切り出してくれたので、私は内心、盛大に安堵の息を吐きました。
「お願いできますか?」
『リリのお願いだから、特別ですよ』
そう言ってエリックは笑っている気配です。そして、こう付け加えました。
『ただ、その薔薇はこのロイシュライゼにはないんです。だから、リーフリヘリオスの実家の母に連絡して、こちらに送ってくれるように――』
「あ、いえ!」
私は慌ててエリックを遮りました。
「それではあまりに申し訳ないので。受け取りに伺います」
画面の向こうに沈黙が広がりました。3秒ほどの静寂を破って、
『…誰がですか?』
「私が」
『どちらまで?』
「ですから、リーフリヘリオスのリーランドのお屋敷まで」
そう答えると、エリックは堪らないといった様子で声を上げて笑い始めました。
『なるほど。きっと、そうなさいって従兄上方に言われたんですね――!あなたも大変だ』
クスクスと笑いの名残を滲ませて、エリックはそう言いました。
『それじゃ、そのように実家の方にも伝えておきますよ。お互いの都合もあるでしょうし、そちらの希望の日程が決まったらまた俺に連絡してくださいね』
「どうもありがとう、エリック――!」
心を込めてお礼を言って、私は通話を終えました。
やれやれ、どうにか〈光〉の薔薇に続く第一関門は突破したようです――…。


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朝食を終えて二人の従兄の出勤を見送った私は、自室に戻り、スマートフォンの画面を前に大きく一つ息を吐きました。そして、徐に、『エリック・オブ・リーランド』の名前を押したのです。
10秒ほどの呼び出し音の後、
『――はい。こんにちは、リリ。何かありました?』
画面の向こうでエリックの穏やかな声が響きました。
「こんにちは、エリック。突然ごめんなさい。今、お時間は大丈夫?」
『ええ。通勤途中で、まだ後10分くらい運転してますよ』
「よかった。――あのね、先日、ルイスから聞いたのだけど。あなたが新しい薔薇を作ったのだって」
『―あ、はい。あの薔薇のことかな。〈光〉の薔薇ですか?』
「そう、その薔薇です。それで私、今朝、そのことを従兄たちに話してしまったの。そうしたら――」
歯切れ悪く口篭もった私とは対照的に、
『あぁ、話が見えてきました』
エリックは朗らかに笑っているような気配です。
『エトガル殿の薔薇好きは有名ですもんね。――〈光〉の薔薇、一株差し上げましょうか?』
エリックから切り出してくれたので、私は内心、盛大に安堵の息を吐きました。
「お願いできますか?」
『リリのお願いだから、特別ですよ』
そう言ってエリックは笑っている気配です。そして、こう付け加えました。
『ただ、その薔薇はこのロイシュライゼにはないんです。だから、リーフリヘリオスの実家の母に連絡して、こちらに送ってくれるように――』
「あ、いえ!」
私は慌ててエリックを遮りました。
「それではあまりに申し訳ないので。受け取りに伺います」
画面の向こうに沈黙が広がりました。3秒ほどの静寂を破って、
『…誰がですか?』
「私が」
『どちらまで?』
「ですから、リーフリヘリオスのリーランドのお屋敷まで」
そう答えると、エリックは堪らないといった様子で声を上げて笑い始めました。
『なるほど。きっと、そうなさいって従兄上方に言われたんですね――!あなたも大変だ』
クスクスと笑いの名残を滲ませて、エリックはそう言いました。
『それじゃ、そのように実家の方にも伝えておきますよ。お互いの都合もあるでしょうし、そちらの希望の日程が決まったらまた俺に連絡してくださいね』
「どうもありがとう、エリック――!」
心を込めてお礼を言って、私は通話を終えました。
やれやれ、どうにか〈光〉の薔薇に続く第一関門は突破したようです――…。