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2-3・ふぅっと天井に向かって息を吐き、ドアが閉まるのを待つ。

ー/ー



 明日部美穂のお願いを突っぱねてから、1週間ほど経過した。
 電車に乗る時間をズラしたおかげで彼女とはあれから会ってない。
 そもそも彼女の登校時間と被るのは特定の曜日だけだ。1週間のうち1日しかない。気を付ければ鉢合わせは避けられる。
 我ながら薄情かなとは思うがだからといってなにができるというのだろう。
 俺はただの学生だ。医者でもなければ魔法使いでもない。自分の面倒で精一杯なんだ。
 ぼんやりとした眠気に襲われながらも、俺はいつも通り電車へと乗る。
 今日は鉢合わせしてしまう曜日だが、いつもより早く家を出て時間をずらしている。遭遇することはないだろう。
 人と人との間に挟まれながら揺れる車内でボーっと外を眺める。
 そうこうしている間にも電車は次の駅に着いて電子音と共にドアが開く。
 電車へ乗り込んでくる人々の中で、何人かホプ女の特徴的な白い制服を着た女の子がいた。
 まぁ待て、落ち着け。ホプ女の生徒が乗ってくるのは当たり前だ。焦る必要はない。
 ふぅっと天井に向かって息を吐き、ドアが閉まるのを待つ。
 そうやって待っていると、ドアの閉まる音が聴こえてくる。同時に電車が動き出し、俺はなんの気なしに前を向いた。
 視界の奥、一番近くのドア付近に美穂ちゃんがいた。近くに同級生らしき女の子もいて、小さな声でお喋りをしている。
 しまった。最近会っていなかったら油断してた。今のところ相手は俺に気付いていないようだし、ここは少しだけ動いて距離を取ろう。
 そうと決まれば移動開始――するよりも前に、気付いてしまった。
 初めて会ったときの彼女とは全く違う姿。青い顔にはおよそ生気が感じられなくて、爛々と輝いていたオレンジ色の瞳には陰りが見える。
 ドアに寄りかかって友達の話を聞いている彼女は明らかに疲れているようで、心ここにあらずというか、端的に言うと憔悴していた。
 眠れていないのだろうか。彼女からのお願いを断って1週間だ。そこから一睡もしてないとか。いや、さすがに少しは寝てるだろう。こうやって学校へ登校しているのだから体調も問題ないはず――
『それは……そうですけど。でも、パパとママにバレたら、もっと心配かけちゃう……』
 ついこの間の美穂ちゃんの言葉を思い出す。病院に行くべきだと言ったら両親に心配かけたくないと言っていた。
 彼女の口ぶりから察するにご両親は、自分の娘が不眠症気味なのを知らないのかもしれない。
 いや本当にそうなのか。隠せるものなのか。俺だってパッと見で具合悪いって分かるぞあれ。両親が把握してないとは思えない。もしも知らないとしたらそれはもうネグレクトじゃないか。
「……はぁ」
 気持ちを切り替えるように俺は息を吐く。
 なに考えてるんだ俺は。全部憶測じゃないか。しかも俺には関係ない。考えたって意味ない。
 これ以上彼女の様子を見ていると良くないことばかり思い浮かびそうで、なにより相手に気付かれそうなので、俺は吊革を掴んで身体の向きをずらし、無心でやり過ごした。


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 明日部美穂のお願いを突っぱねてから、1週間ほど経過した。
 電車に乗る時間をズラしたおかげで彼女とはあれから会ってない。
 そもそも彼女の登校時間と被るのは特定の曜日だけだ。1週間のうち1日しかない。気を付ければ鉢合わせは避けられる。
 我ながら薄情かなとは思うがだからといってなにができるというのだろう。
 俺はただの学生だ。医者でもなければ魔法使いでもない。自分の面倒で精一杯なんだ。
 ぼんやりとした眠気に襲われながらも、俺はいつも通り電車へと乗る。
 今日は鉢合わせしてしまう曜日だが、いつもより早く家を出て時間をずらしている。遭遇することはないだろう。
 人と人との間に挟まれながら揺れる車内でボーっと外を眺める。
 そうこうしている間にも電車は次の駅に着いて電子音と共にドアが開く。
 電車へ乗り込んでくる人々の中で、何人かホプ女の特徴的な白い制服を着た女の子がいた。
 まぁ待て、落ち着け。ホプ女の生徒が乗ってくるのは当たり前だ。焦る必要はない。
 ふぅっと天井に向かって息を吐き、ドアが閉まるのを待つ。
 そうやって待っていると、ドアの閉まる音が聴こえてくる。同時に電車が動き出し、俺はなんの気なしに前を向いた。
 視界の奥、一番近くのドア付近に美穂ちゃんがいた。近くに同級生らしき女の子もいて、小さな声でお喋りをしている。
 しまった。最近会っていなかったら油断してた。今のところ相手は俺に気付いていないようだし、ここは少しだけ動いて距離を取ろう。
 そうと決まれば移動開始――するよりも前に、気付いてしまった。
 初めて会ったときの彼女とは全く違う姿。青い顔にはおよそ生気が感じられなくて、爛々と輝いていたオレンジ色の瞳には陰りが見える。
 ドアに寄りかかって友達の話を聞いている彼女は明らかに疲れているようで、心ここにあらずというか、端的に言うと憔悴していた。
 眠れていないのだろうか。彼女からのお願いを断って1週間だ。そこから一睡もしてないとか。いや、さすがに少しは寝てるだろう。こうやって学校へ登校しているのだから体調も問題ないはず――
『それは……そうですけど。でも、パパとママにバレたら、もっと心配かけちゃう……』
 ついこの間の美穂ちゃんの言葉を思い出す。病院に行くべきだと言ったら両親に心配かけたくないと言っていた。
 彼女の口ぶりから察するにご両親は、自分の娘が不眠症気味なのを知らないのかもしれない。
 いや本当にそうなのか。隠せるものなのか。俺だってパッと見で具合悪いって分かるぞあれ。両親が把握してないとは思えない。もしも知らないとしたらそれはもうネグレクトじゃないか。
「……はぁ」
 気持ちを切り替えるように俺は息を吐く。
 なに考えてるんだ俺は。全部憶測じゃないか。しかも俺には関係ない。考えたって意味ない。
 これ以上彼女の様子を見ていると良くないことばかり思い浮かびそうで、なにより相手に気付かれそうなので、俺は吊革を掴んで身体の向きをずらし、無心でやり過ごした。