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クロスワン→ヒロイン 意味は伏せる

ー/ー



同窓会。それは悪魔の集会(サバト)

若かった男女がわざわざ密になり、コロナインフルマイコプラズマあらゆるウイルス感染の危険を無視し、過去を美化し互いの傷を舐め合う、何の生産性もない、明日なき暗黒。そんな暗黒の集会は参加するイカれた男がいた。

その名は

浅井栞公郎(あさいかんくろう) 


「浅井か!おまえはクラスで19人目の正社員になったそうじゃねえか!!」
「第一同窓生がまさかのラマーかよ」

浅井を出迎えたこの色黒の男は喇嘛田(らまだ)クリントン。通称ラマー。片親がクルド人、日本なのに名前がクリントン、色黒、陽気、日本国籍という個性や多様性の時代を生まれながらに掴んむ多様性ネイティブオトコだ。

「この調子ならうちのクラスで長者番付を独占して、橅高校のある町は令和の加治屋町と呼ばれるぜ!あとは司馬遼太郎的な小説家雇って知名度を上げてソシャゲを作れば完璧だ。浅井の知り合いにいないのかよ?木立とか天野とかいい感じの小説家ってのは?」

「加治屋町なんて歴史を学ぶことを強いられていた時代のやつらだって知らない地名じゃん。せめてベガスとか燃えなかったロサンゼルスとかにしといたほうがいいだろ?あとメディアミックスなら今はアニメ全盛、作画が安定したアニメ会社を探した方がいいんじゃないか?」

ラマーは学生時代から挨拶すら交わしたことがない隣のクラスの羽生がアイススケートの日本代表になったことを我が事のように自慢し、藤井が将棋の達人になった時も将棋未経験なのに我がことのように自慢していた。そしてその姿勢は七つの大罪が全部エンヴィーなジェラシー社会においても変わらないのだから本物だ。

「そして、詩織(しおり)のやつがPR会社を立ち上げたんだ。この調子じゃあ次の知事選、それも東京都知事選挙ににまで絡んでくるんじゃねえか」ことについて語っている。

詩織。その名前には覚えがある
というか実際にこの会場にいる。

向けた視線の先、そこだけが明るい。元々人の顔と名前を覚えるのが苦手なこの俺がラマー以外では唯一モブと判定していない女性がいる。

深井詩織(ふかいしおり)

おそらく西洋人の血が入ってるややホリの深めなキレイ系の顔、くびれてメリハリあるスタイル。なにより恐るべきはお腹からヒップにかけての曲線の鋭さに反してバストがおとなしめという凄まじき黄金比ボディに金色の精神を宿す黄金比の人間。このバランスが大事なのな。ここでうっかりバストまでビッグスケールだったら、詩織は今よりダイナミックで美しくなる。しかし、「派手で綺麗だし日頃から努力しててその結果として美しいのはわかりますけどごめんなさい」という、素材が良くて盛り付けが奇麗なせいでかえって食欲を減退させるダイエット食品と化した高級なおせち同然の扱いを受けるのだ。詩織に流れる間違いなく日本人の血がもたらしたこの繊細なバランス感覚が、彼女の人生を豊か過ぎるほど豊かにしている。

「はっは!大人になったアイツを見てやっぱり思うところがすげーあるんだろう?好きだったもんな!」

ラマーに言い当てられるのが癪だが、ラマーにバレても仕方がない。そもそも雑だった人物描写がいきなり気合い入ってた時点でお察しだ。ああもうこの際一人称視点を活かしてぶっちゃけてしまうが、詩織は俺の想い人、つまりは好きな人であり、今も片想い相手なのだ。告白回数は当然0。むしろ告らずじまいは英断だった。あの時うっかり告白して玉砕、あるいはもののはずみでOKされ、その後ついていけずにフラれたりした場合、この同窓会参加は常軌を逸した行為を遥かに超え、自分の手首のリストカット画像を主要SNSを通じて世界に公開するに準ずる行為となり、今ごろ精神科クリニックの20床しかない貴重なベッドに縛り付けられていてもおかしくはない。

そもそも詩織の人生は俺と違って濃密だ。義務教育も半分過ぎた12歳で女だてらにブレイクダンスを初め、いろいろあって橅高校に入り、卒業後は某総理大臣の母校である成形大学に入学、その後いつの間にかアメリカに留学してソラで英語を喋れるようになり、日本への帰国と大学卒業と結婚と大学の仲間とベンチャー企業の立ち上げを一度に成し遂げ、その後なぜか鹿児島に移住してイソスタにいつも酒を飲む動画をアップし、今はこうして同窓会に出席しているのだ。

自分の人生を詩織のと同レベルに圧縮したらまだ小学五年生なのではないだろうか?なにせ27年生きてきてまだブレイクダンスすら始めていない。



同窓会は終わり、浅井は1人、駅のホームにいた。

なんやかんやで同窓会は1人の死人も一つの他殺体も出ず、もちろん浮いた話の一つも出ることなく無事に終わった。つまらないかもしれないが、これは大成功だ。イベントというのは防衛戦だ。参加者が1人でも死体になればデスゲームでもない限りどんな楽しいイベントもどんな伝統ある行事も終わる。


「いまさら言われてもねー、この前まで結婚してたし、やりたいこともいろいろ会う身の上だし、当分自宅で男を飼うのは見合わせと期待状況だし」


浅井 栞公郎 
死亡 
享年27歳
死因・片思いの相手に結婚報告を対面でされた。
戒名・準備中

「やはりそうだったか、俺に想い人など必要なかったのだ…」

「アンタは昔からそうやって失敗すると中二っぽいことをつぶやいてどこかに消えようとするから黙ってたのに。ていうかそっちは線路!誰が電車に轢かれて砕け散った肉片や内臓を片付けるとおもってんの戻ってこい!」


一時間十分後
一つの片思いは終わり、人身事故は未遂に終わり、されども荷物挟まりで結局電車が止まった駅の同じベンチであった。

「落ち着いた?」
「ああ。詩織とは人生の濃さが違うのさ、一緒になれば蒸発して雲になり、雨となって降り注ぐ 秋川雅史の「千の風になって」を地で行くことになってしまう」

「じゃあなーんでいかにも告っても玉砕するかその後玉砕の二択でどう考えてもダメそうなのに特別攻撃命令すらされずに告白してきたわけ?まさかオンナを一度誰かのモノになるのを待ってから奪って手に入れたって実感に浸りたかったとか?」

「そんな痴のつながりですべてを語りたがる浅はかな人間と一緒にされては困るな。俺のような人間には「奇跡を信じ、ヤケクソになる」という人工知能にはない優れた機能があるからさ、満足かい人の傷抉り女の深井さん?」

「結局自分のしたいようにしてしまうってやつじゃん。これで変に色恋に奥手じゃなかったらやめるつもりがない現在進行形の不倫の悩みを異性に対して真剣に相談してくる真面目系クズになってそうというか」


「辛辣っ! 結婚するとここまでジャブのキレが良くなるもんなんだな」

そう、詩織はもう結婚している、俺には幸か不幸かBSSと叫んで明日の全国ニュースに実名を刻めるほど強い思い込みもない。それでもワンチャンあるかもというバカげた希望と片思いの鎖が結婚によって断ち切られた今、失恋相手と話しているのに少しもつらくない。今なら雪の女王の代役として雪原でありのままの姿くらいは晒せるかもしれぬ。

「結婚は関係ないんじゃない?こちとらもう3ヶ月前に離婚してるしさ」

運転再開を知らせるアナウンスの音量が小さくなった。悪いが雪の女王の代役はキャンセルだ。他をあたってほしい。

「いや、そんなこと言って大丈夫なワケ?」
「なんで?」
「こちとら高校から今までずっと片思いを燻らせててさっき告白に失敗して男女関係限定無敵の人になってるからだよ!下手すりゃここで大変なことになってもおかしくないことをおま」
「クロウにそんな度胸があれば、あからさまにこの辺を歩こうとか言い出して人気がなくて押し倒すのに最適な場所にでも連れてこうとするでしょ?そうしない時点でクロウは無敵の人どころか七人の敵がいるから問題なし!だいたい高校の時点でそういうチャンス全部棒に振ってきて今も毎日チャンスで素振りを欠かさないタイプの童貞続けてる時点で無理でしょ?」

詩織にとって自分は飯炊き器物扱いであった。水と米を入れてボタンを押せばカピカピのご飯を炊くように、思わせぶりな仕草を順番にすればお金やメシを出すからくり扱い。こちとら童貞とはいえ竿も玉もついてんのにである。

「じゃあね、明後日鹿児島に戻る前に話せて楽しかったよ」
「深井さん。お願いがございます」

急にかしこまって あと堅苦しすぎるから深井さんってのは

詩織、お願いがあるんだ!

「ちょっと馴れ馴れしくない?

「じゃあどうしろってんだ。クロスワンガール」

「性欲や下心を今すぐ捨ててこいなんてこの際言わないから、もうすこし落ち着いた感じで外面を繕う努力をしなよ距離感バグ太郎?」


明らかに何か目論んでるのが透けて見えるから取り繕う詩織さん

「俺も、鹿児島について行ってもいいかな?向こうで手伝えることとかあったら力になれたらな…って…」

「ダメ。こんな下心とペニスが生えた人間のぬいぐるみをホイホイ向こうに連れていくと思った?」

THE EMD
ハッピーエンド?出す日を守らなければ回収されないゴミ同然のものに拘泥するのは大概にしておけ。 おい、ここにあるはずの送信ボタンがないz


二日後

Pカード利用明細
24000円 埼玉⇆鹿児島の往復費用
40000円 ARAホテル鹿児島 7DAYSプラン



かつて、金がなければほしいものはあきらめるしかなかった。片思いは勇気がなければあきらめるしかなかった。

「美山陶遊館、玻璃と灯り つれづれの湯。訪れるコンセプトは雨の日でも遊びに行ける場所」
「飛行機飛ぶ前からそんな調子じゃ向こうでバテちゃうよ」

ダメ元で頼んでみたらまさかのOK。参勤交代する詩織について、鹿児島に渡ることになった。インフルエンサー的なというかインフルエンサーという仕事を始めるための、カメラの前で飲食したりサウナに入ったり以外全般を担う要員を必要としていた。そして片思いを終えて気心は知れていて七人の敵がいる自分はインフルエンサーを目指す詩織からするとなぜかうってつけだったようだ。 

大人になった自分には勇気とクレカがあった。学生時代の片思いとおなじように、最初から諦めなければいけなかったものを諦めずに済むと言うのはまさに大人の大人たるゆえんであり、画期的であり、魔法としか言いようがない。


「にしてもどうして同じ飛行機で同じ便で隣の席なのか?いろいろくすぶってるものがある以上余計な火種を機内に持ち込むのは」
「7日分の打ち合わせに決まってるでしょ?仕事の飛んでる間も無駄にはできないんだから」
詩織はやっぱしパワフルすぎる。いまさらながら鹿児島で蒸発して桜島の火山灰と混じって薩摩の地に降り注ぐことになったりしないだろうかという心配がリメンバー中である。いずれにせよ、試用期間も兼ねたこの7日間で何が起きるのかは飛行機が離陸すらしていない今はまだわからない。
ずっと停滞していた何かが、再び動き出したことは間違いない。


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同窓会。それは悪魔の集会《サバト》
若かった男女がわざわざ密になり、コロナインフルマイコプラズマあらゆるウイルス感染の危険を無視し、過去を美化し互いの傷を舐め合う、何の生産性もない、明日なき暗黒。そんな暗黒の集会は参加するイカれた男がいた。
その名は
浅井栞公郎《あさいかんくろう》 
「浅井か!おまえはクラスで19人目の正社員になったそうじゃねえか!!」
「第一同窓生がまさかのラマーかよ」
浅井を出迎えたこの色黒の男は喇嘛田《らまだ》クリントン。通称ラマー。片親がクルド人、日本なのに名前がクリントン、色黒、陽気、日本国籍という個性や多様性の時代を生まれながらに掴んむ多様性ネイティブオトコだ。
「この調子ならうちのクラスで長者番付を独占して、橅高校のある町は令和の加治屋町と呼ばれるぜ!あとは司馬遼太郎的な小説家雇って知名度を上げてソシャゲを作れば完璧だ。浅井の知り合いにいないのかよ?木立とか天野とかいい感じの小説家ってのは?」
「加治屋町なんて歴史を学ぶことを強いられていた時代のやつらだって知らない地名じゃん。せめてベガスとか燃えなかったロサンゼルスとかにしといたほうがいいだろ?あとメディアミックスなら今はアニメ全盛、作画が安定したアニメ会社を探した方がいいんじゃないか?」
ラマーは学生時代から挨拶すら交わしたことがない隣のクラスの羽生がアイススケートの日本代表になったことを我が事のように自慢し、藤井が将棋の達人になった時も将棋未経験なのに我がことのように自慢していた。そしてその姿勢は七つの大罪が全部エンヴィーなジェラシー社会においても変わらないのだから本物だ。
「そして、詩織《しおり》のやつがPR会社を立ち上げたんだ。この調子じゃあ次の知事選、それも東京都知事選挙ににまで絡んでくるんじゃねえか」ことについて語っている。
詩織。その名前には覚えがある
というか実際にこの会場にいる。
向けた視線の先、そこだけが明るい。元々人の顔と名前を覚えるのが苦手なこの俺がラマー以外では唯一モブと判定していない女性がいる。
深井詩織《ふかいしおり》
おそらく西洋人の血が入ってるややホリの深めなキレイ系の顔、くびれてメリハリあるスタイル。なにより恐るべきはお腹からヒップにかけての曲線の鋭さに反してバストがおとなしめという凄まじき黄金比ボディに金色の精神を宿す黄金比の人間。このバランスが大事なのな。ここでうっかりバストまでビッグスケールだったら、詩織は今よりダイナミックで美しくなる。しかし、「派手で綺麗だし日頃から努力しててその結果として美しいのはわかりますけどごめんなさい」という、素材が良くて盛り付けが奇麗なせいでかえって食欲を減退させるダイエット食品と化した高級なおせち同然の扱いを受けるのだ。詩織に流れる間違いなく日本人の血がもたらしたこの繊細なバランス感覚が、彼女の人生を豊か過ぎるほど豊かにしている。
「はっは!大人になったアイツを見てやっぱり思うところがすげーあるんだろう?好きだったもんな!」
ラマーに言い当てられるのが癪だが、ラマーにバレても仕方がない。そもそも雑だった人物描写がいきなり気合い入ってた時点でお察しだ。ああもうこの際一人称視点を活かしてぶっちゃけてしまうが、詩織は俺の想い人、つまりは好きな人であり、今も片想い相手なのだ。告白回数は当然0。むしろ告らずじまいは英断だった。あの時うっかり告白して玉砕、あるいはもののはずみでOKされ、その後ついていけずにフラれたりした場合、この同窓会参加は常軌を逸した行為を遥かに超え、自分の手首のリストカット画像を主要SNSを通じて世界に公開するに準ずる行為となり、今ごろ精神科クリニックの20床しかない貴重なベッドに縛り付けられていてもおかしくはない。
そもそも詩織の人生は俺と違って濃密だ。義務教育も半分過ぎた12歳で女だてらにブレイクダンスを初め、いろいろあって橅高校に入り、卒業後は某総理大臣の母校である成形大学に入学、その後いつの間にかアメリカに留学してソラで英語を喋れるようになり、日本への帰国と大学卒業と結婚と大学の仲間とベンチャー企業の立ち上げを一度に成し遂げ、その後なぜか鹿児島に移住してイソスタにいつも酒を飲む動画をアップし、今はこうして同窓会に出席しているのだ。
自分の人生を詩織のと同レベルに圧縮したらまだ小学五年生なのではないだろうか?なにせ27年生きてきてまだブレイクダンスすら始めていない。
同窓会は終わり、浅井は1人、駅のホームにいた。
なんやかんやで同窓会は1人の死人も一つの他殺体も出ず、もちろん浮いた話の一つも出ることなく無事に終わった。つまらないかもしれないが、これは大成功だ。イベントというのは防衛戦だ。参加者が1人でも死体になればデスゲームでもない限りどんな楽しいイベントもどんな伝統ある行事も終わる。
「いまさら言われてもねー、この前まで結婚してたし、やりたいこともいろいろ会う身の上だし、当分自宅で男を飼うのは見合わせと期待状況だし」
浅井 栞公郎 
死亡 
享年27歳
死因・片思いの相手に結婚報告を対面でされた。
戒名・準備中
「やはりそうだったか、俺に想い人など必要なかったのだ…」
「アンタは昔からそうやって失敗すると中二っぽいことをつぶやいてどこかに消えようとするから黙ってたのに。ていうかそっちは線路!誰が電車に轢かれて砕け散った肉片や内臓を片付けるとおもってんの戻ってこい!」
一時間十分後
一つの片思いは終わり、人身事故は未遂に終わり、されども荷物挟まりで結局電車が止まった駅の同じベンチであった。
「落ち着いた?」
「ああ。詩織とは人生の濃さが違うのさ、一緒になれば蒸発して雲になり、雨となって降り注ぐ 秋川雅史の「千の風になって」を地で行くことになってしまう」
「じゃあなーんでいかにも告っても玉砕するかその後玉砕の二択でどう考えてもダメそうなのに特別攻撃命令すらされずに告白してきたわけ?まさかオンナを一度誰かのモノになるのを待ってから奪って手に入れたって実感に浸りたかったとか?」
「そんな痴のつながりですべてを語りたがる浅はかな人間と一緒にされては困るな。俺のような人間には「奇跡を信じ、ヤケクソになる」という人工知能にはない優れた機能があるからさ、満足かい人の傷抉り女の深井さん?」
「結局自分のしたいようにしてしまうってやつじゃん。これで変に色恋に奥手じゃなかったらやめるつもりがない現在進行形の不倫の悩みを異性に対して真剣に相談してくる真面目系クズになってそうというか」
「辛辣っ! 結婚するとここまでジャブのキレが良くなるもんなんだな」
そう、詩織はもう結婚している、俺には幸か不幸かBSSと叫んで明日の全国ニュースに実名を刻めるほど強い思い込みもない。それでもワンチャンあるかもというバカげた希望と片思いの鎖が結婚によって断ち切られた今、失恋相手と話しているのに少しもつらくない。今なら雪の女王の代役として雪原でありのままの姿くらいは晒せるかもしれぬ。
「結婚は関係ないんじゃない?こちとらもう3ヶ月前に離婚してるしさ」
運転再開を知らせるアナウンスの音量が小さくなった。悪いが雪の女王の代役はキャンセルだ。他をあたってほしい。
「いや、そんなこと言って大丈夫なワケ?」
「なんで?」
「こちとら高校から今までずっと片思いを燻らせててさっき告白に失敗して男女関係限定無敵の人になってるからだよ!下手すりゃここで大変なことになってもおかしくないことをおま」
「クロウにそんな度胸があれば、あからさまにこの辺を歩こうとか言い出して人気がなくて押し倒すのに最適な場所にでも連れてこうとするでしょ?そうしない時点でクロウは無敵の人どころか七人の敵がいるから問題なし!だいたい高校の時点でそういうチャンス全部棒に振ってきて今も毎日チャンスで素振りを欠かさないタイプの童貞続けてる時点で無理でしょ?」
詩織にとって自分は飯炊き器物扱いであった。水と米を入れてボタンを押せばカピカピのご飯を炊くように、思わせぶりな仕草を順番にすればお金やメシを出すからくり扱い。こちとら童貞とはいえ竿も玉もついてんのにである。
「じゃあね、明後日鹿児島に戻る前に話せて楽しかったよ」
「深井さん。お願いがございます」
急にかしこまって あと堅苦しすぎるから深井さんってのは
詩織、お願いがあるんだ!
「ちょっと馴れ馴れしくない?
「じゃあどうしろってんだ。クロスワンガール」
「性欲や下心を今すぐ捨ててこいなんてこの際言わないから、もうすこし落ち着いた感じで外面を繕う努力をしなよ距離感バグ太郎?」
明らかに何か目論んでるのが透けて見えるから取り繕う詩織さん
「俺も、鹿児島について行ってもいいかな?向こうで手伝えることとかあったら力になれたらな…って…」
「ダメ。こんな下心とペニスが生えた人間のぬいぐるみをホイホイ向こうに連れていくと思った?」
THE EMD
ハッピーエンド?出す日を守らなければ回収されないゴミ同然のものに拘泥するのは大概にしておけ。 おい、ここにあるはずの送信ボタンがないz
二日後
Pカード利用明細
24000円 埼玉⇆鹿児島の往復費用
40000円 ARAホテル鹿児島 7DAYSプラン
かつて、金がなければほしいものはあきらめるしかなかった。片思いは勇気がなければあきらめるしかなかった。
「美山陶遊館、玻璃と灯り つれづれの湯。訪れるコンセプトは雨の日でも遊びに行ける場所」
「飛行機飛ぶ前からそんな調子じゃ向こうでバテちゃうよ」
ダメ元で頼んでみたらまさかのOK。参勤交代する詩織について、鹿児島に渡ることになった。インフルエンサー的なというかインフルエンサーという仕事を始めるための、カメラの前で飲食したりサウナに入ったり以外全般を担う要員を必要としていた。そして片思いを終えて気心は知れていて七人の敵がいる自分はインフルエンサーを目指す詩織からするとなぜかうってつけだったようだ。 
大人になった自分には勇気とクレカがあった。学生時代の片思いとおなじように、最初から諦めなければいけなかったものを諦めずに済むと言うのはまさに大人の大人たるゆえんであり、画期的であり、魔法としか言いようがない。
「にしてもどうして同じ飛行機で同じ便で隣の席なのか?いろいろくすぶってるものがある以上余計な火種を機内に持ち込むのは」
「7日分の打ち合わせに決まってるでしょ?仕事の飛んでる間も無駄にはできないんだから」
詩織はやっぱしパワフルすぎる。いまさらながら鹿児島で蒸発して桜島の火山灰と混じって薩摩の地に降り注ぐことになったりしないだろうかという心配がリメンバー中である。いずれにせよ、試用期間も兼ねたこの7日間で何が起きるのかは飛行機が離陸すらしていない今はまだわからない。
ずっと停滞していた何かが、再び動き出したことは間違いない。