誰にも言わないで
ー/ー 鳥居が見える通りまで……と思っていたのだけれど。
とりとめもない話をしながら、気が付けば初田神社の鳥居をくぐってしまっていた。
容赦ない昼間の陽射しはいつのまにか遠のき、鎮守の森の向こうに見える空は心なしか色褪せて見えた。
「……何を見に来たんですか?」
境内は賑やかで、参道に並んだ屋台が熱気を放っている。チョコバナナ、ソースせんべい、焼きそば、スーパーボール。
何年ぶりだろう。子供の頃に500円玉を握りしめて並んだのが懐かしい。透明な水あめを纏った赤いあんずの酸っぱさが舌に蘇る。
「神楽」
そうとだけ、返ってきた。
「かぐら?」
その言葉と守谷とがあまりに結び付かなすぎて、盟子はつい聞き返してしまう。
「あー今時の子は神楽なんて知らないか」
「知ってますよ、そのくらい!」
神楽。
お面と着物をつけて踊るアレ、というくらいは知っている。お祭りの日に遊びにくれば嫌でも目にする。ただ、一度だけ真面目に鑑賞したことがあるけれど、何を表現しているのかよく解らなかったのだ。
「でも、どうして神楽なんですか?」
「見たいから」
確かに、もうすぐ17時からの上演が始まるはずだ。
続く守谷の返事を待ったけれど、それ以上の言葉が出てこないのはきっと言いたくないのだろうと考えて口を噤む。
雅楽の音色が緩やかに聞こえていた。
いつもはひっそりと閉じている高床式の神楽殿が解放され、舞台前には特設の青いベンチが並べられている。守谷はその最前列の端に腰を下ろした。
「梅ちゃんありがとう、もう帰って大丈夫よ」
「はぁ」
テスト勉強のことが気にかかりながらも、何となく帰りたくない気がしていた。でも隣に座るのは気が引けて、少し後ろの方で佇んで開演を待つ。
しばらくすると、神楽殿の垂木に下げられた御神燈の提灯にぽっと灯りがともった。ふわふわと風に揺れるそれは、朧げな人魂みたいで幻想的だ。
17時が近づくにつれ、ぽつぽつと人が集まって来た。
「梅ちゃんあんた、勉強しなきゃでしょ?」
「はい……」
勉強はしなきゃいけないのだけれど、守谷が見たいという、しかも最前列で見たいというそれが気にかかるのだ。
とりとめもない話をしながら、気が付けば初田神社の鳥居をくぐってしまっていた。
容赦ない昼間の陽射しはいつのまにか遠のき、鎮守の森の向こうに見える空は心なしか色褪せて見えた。
「……何を見に来たんですか?」
境内は賑やかで、参道に並んだ屋台が熱気を放っている。チョコバナナ、ソースせんべい、焼きそば、スーパーボール。
何年ぶりだろう。子供の頃に500円玉を握りしめて並んだのが懐かしい。透明な水あめを纏った赤いあんずの酸っぱさが舌に蘇る。
「神楽」
そうとだけ、返ってきた。
「かぐら?」
その言葉と守谷とがあまりに結び付かなすぎて、盟子はつい聞き返してしまう。
「あー今時の子は神楽なんて知らないか」
「知ってますよ、そのくらい!」
神楽。
お面と着物をつけて踊るアレ、というくらいは知っている。お祭りの日に遊びにくれば嫌でも目にする。ただ、一度だけ真面目に鑑賞したことがあるけれど、何を表現しているのかよく解らなかったのだ。
「でも、どうして神楽なんですか?」
「見たいから」
確かに、もうすぐ17時からの上演が始まるはずだ。
続く守谷の返事を待ったけれど、それ以上の言葉が出てこないのはきっと言いたくないのだろうと考えて口を噤む。
雅楽の音色が緩やかに聞こえていた。
いつもはひっそりと閉じている高床式の神楽殿が解放され、舞台前には特設の青いベンチが並べられている。守谷はその最前列の端に腰を下ろした。
「梅ちゃんありがとう、もう帰って大丈夫よ」
「はぁ」
テスト勉強のことが気にかかりながらも、何となく帰りたくない気がしていた。でも隣に座るのは気が引けて、少し後ろの方で佇んで開演を待つ。
しばらくすると、神楽殿の垂木に下げられた御神燈の提灯にぽっと灯りがともった。ふわふわと風に揺れるそれは、朧げな人魂みたいで幻想的だ。
17時が近づくにつれ、ぽつぽつと人が集まって来た。
「梅ちゃんあんた、勉強しなきゃでしょ?」
「はい……」
勉強はしなきゃいけないのだけれど、守谷が見たいという、しかも最前列で見たいというそれが気にかかるのだ。
この人をそうまでさせるものって、一体なんだろう。
……しかし17時をまわっても、それが始まる気配は一向になかった。
10分ほどが過ぎたところで、雅楽の向こうで鳴っている遠いサイレン音に気がついた。それが音量を増しながらこちらに近づいてきているのは、たぶん気のせいじゃない。
嫌な予感がする。
やがて耳障りな程のサイレンを響かせて、鳥居の脇の駐車場に救急車が停車した。救急隊員が担架を持って乗り込んでくると、物々しい雰囲気の中、神楽殿から誰かが運び出された。あっという間の出来事だった。
「申し訳ございません。17時からの奉演は中止になります」
白髪の神職がやってきて告げて回る。彼はこの神社の宮司で盟子も顔見知りだ。
氏子らしい老夫婦との会話によると、どうも神楽の舞い手が急病とのことだった。
「いやー参りましたよ、19時の薪神楽は地元のテレビ取材も入るのに……」
「あの、つかぬことをお伺いするんですが」
……しかし17時をまわっても、それが始まる気配は一向になかった。
10分ほどが過ぎたところで、雅楽の向こうで鳴っている遠いサイレン音に気がついた。それが音量を増しながらこちらに近づいてきているのは、たぶん気のせいじゃない。
嫌な予感がする。
やがて耳障りな程のサイレンを響かせて、鳥居の脇の駐車場に救急車が停車した。救急隊員が担架を持って乗り込んでくると、物々しい雰囲気の中、神楽殿から誰かが運び出された。あっという間の出来事だった。
「申し訳ございません。17時からの奉演は中止になります」
白髪の神職がやってきて告げて回る。彼はこの神社の宮司で盟子も顔見知りだ。
氏子らしい老夫婦との会話によると、どうも神楽の舞い手が急病とのことだった。
「いやー参りましたよ、19時の薪神楽は地元のテレビ取材も入るのに……」
「あの、つかぬことをお伺いするんですが」
すると。
頭を抱える宮司と氏子夫婦との会話に、突然守谷が割って入った。
「確かここ、遠峰社中さんのご奉納でしたよね? 19時の演目は何になります?」
いつものなよなよした雰囲気を完全に封印した好青年然とした口調で。
「ええ、遠峰さんですよ。『天孫降臨』の予定だったんですけどねぇ、いやはや困った」
と。次に続く言葉など到底予想していないだろう宮司が肩を落とす。
「私が代打で出ます」
「は?」
「もしご迷惑でなければ」
その言葉にぎょっとしたのは、宮司と老夫婦だけではなかった。
「えっと……お宅、どちらさんですか?」
その質問には完全に同意しかなくて、盟子も全身を耳にして守谷の返事に聞き耳を立てる。だって玲峰先生はうちの高校の美術の先生じゃないの!?
ほんの少し、不自然な間があった。
「内密にしておいてほしいんですけど……」
守谷はひどくバツが悪そうに視線を揺らした。
「私、遠峰神社の倅なんです」
「ええっ!?」
「初田さんのお名前は前々から伺っておりましたもので、もしかしたらと思いまして」
「っていうと、御本家さん? ええと確か……そう、守谷さん!?」
宮司はあわあわして目を剥いている。
「そんな大層なものでもないですけれど、舞だけはそれはもうみっちり仕込まれてますから、お手伝いできればと……」
「それはもう、ぜひぜひと言いますか」
「それでですね、あの、このことは実家にはくれぐれも内密にお願いしたくて……」
やけに必死に、「実家には内密に」を強調する守谷に、盟子は噴き出しそうになった。
「ええ、はぁ、それはもう」
「私、実家に勘当されておりまして……」
「わかりました」
守谷に深々と頭を下げられ、若者らしく反抗でもしてるのだろうと事情を察してくれたらしい宮司は苦笑いで了承した。
「では社務所に来てもらって、遠峰社中さんとお話を」
あっという間に連行されていく背中を、盟子は呆然と見つめる。何やらとんでもないことになった。
「せ……先生! 本当に出るんですか!?」
守谷はちらりと振り返り、長い人差し指をぴっとローズレッドの口元に当てた。
「誰にも言うんじゃないよ! 梅ちゃんは帰ってテスト勉強しなさい!」
言っとくけど見にきたりしたら呪詛するからね!と、最後に不穏なことを言われた。
いや。
これは。
呪われたって見に来るしかないでしょ。
てか、バレなきゃいいでしょ。
ええと、一旦帰ってご飯食べて、19時までに戻ってこよう!
何だろう。
ここまではっきりとした自分の意思で何かを決心したのは久しぶりだ。
自分の中にこんなにも強い思いがあったのが、不思議なような嬉しいような。
とにかく19時までにここに戻ってくるべく、盟子は家に向かって走り出した。
「確かここ、遠峰社中さんのご奉納でしたよね? 19時の演目は何になります?」
いつものなよなよした雰囲気を完全に封印した好青年然とした口調で。
「ええ、遠峰さんですよ。『天孫降臨』の予定だったんですけどねぇ、いやはや困った」
と。次に続く言葉など到底予想していないだろう宮司が肩を落とす。
「私が代打で出ます」
「は?」
「もしご迷惑でなければ」
その言葉にぎょっとしたのは、宮司と老夫婦だけではなかった。
「えっと……お宅、どちらさんですか?」
その質問には完全に同意しかなくて、盟子も全身を耳にして守谷の返事に聞き耳を立てる。だって玲峰先生はうちの高校の美術の先生じゃないの!?
ほんの少し、不自然な間があった。
「内密にしておいてほしいんですけど……」
守谷はひどくバツが悪そうに視線を揺らした。
「私、遠峰神社の倅なんです」
「ええっ!?」
「初田さんのお名前は前々から伺っておりましたもので、もしかしたらと思いまして」
「っていうと、御本家さん? ええと確か……そう、守谷さん!?」
宮司はあわあわして目を剥いている。
「そんな大層なものでもないですけれど、舞だけはそれはもうみっちり仕込まれてますから、お手伝いできればと……」
「それはもう、ぜひぜひと言いますか」
「それでですね、あの、このことは実家にはくれぐれも内密にお願いしたくて……」
やけに必死に、「実家には内密に」を強調する守谷に、盟子は噴き出しそうになった。
「ええ、はぁ、それはもう」
「私、実家に勘当されておりまして……」
「わかりました」
守谷に深々と頭を下げられ、若者らしく反抗でもしてるのだろうと事情を察してくれたらしい宮司は苦笑いで了承した。
「では社務所に来てもらって、遠峰社中さんとお話を」
あっという間に連行されていく背中を、盟子は呆然と見つめる。何やらとんでもないことになった。
「せ……先生! 本当に出るんですか!?」
守谷はちらりと振り返り、長い人差し指をぴっとローズレッドの口元に当てた。
「誰にも言うんじゃないよ! 梅ちゃんは帰ってテスト勉強しなさい!」
言っとくけど見にきたりしたら呪詛するからね!と、最後に不穏なことを言われた。
いや。
これは。
呪われたって見に来るしかないでしょ。
てか、バレなきゃいいでしょ。
ええと、一旦帰ってご飯食べて、19時までに戻ってこよう!
何だろう。
ここまではっきりとした自分の意思で何かを決心したのは久しぶりだ。
自分の中にこんなにも強い思いがあったのが、不思議なような嬉しいような。
とにかく19時までにここに戻ってくるべく、盟子は家に向かって走り出した。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
鳥居が見える通りまで……と思っていたのだけれど。
とりとめもない話をしながら、気が付けば初田神社の鳥居をくぐってしまっていた。
容赦ない昼間の陽射しはいつのまにか遠のき、鎮守の森の向こうに見える空は心なしか色褪せて見えた。
とりとめもない話をしながら、気が付けば初田神社の鳥居をくぐってしまっていた。
容赦ない昼間の陽射しはいつのまにか遠のき、鎮守の森の向こうに見える空は心なしか色褪せて見えた。
「……何を見に来たんですか?」
境内は賑やかで、参道に並んだ屋台が熱気を放っている。チョコバナナ、ソースせんべい、焼きそば、スーパーボール。
何年ぶりだろう。子供の頃に500円玉を握りしめて並んだのが懐かしい。透明な水あめを纏った赤いあんずの酸っぱさが舌に蘇る。
何年ぶりだろう。子供の頃に500円玉を握りしめて並んだのが懐かしい。透明な水あめを纏った赤いあんずの酸っぱさが舌に蘇る。
「|神楽《かぐら》」
そうとだけ、返ってきた。
「かぐら?」
その言葉と守谷とがあまりに結び付かなすぎて、盟子はつい聞き返してしまう。
「あー今時の子は神楽なんて知らないか」
「知ってますよ、そのくらい!」
そうとだけ、返ってきた。
「かぐら?」
その言葉と守谷とがあまりに結び付かなすぎて、盟子はつい聞き返してしまう。
「あー今時の子は神楽なんて知らないか」
「知ってますよ、そのくらい!」
|神楽《かぐら》。
お面と着物をつけて踊るアレ、というくらいは知っている。お祭りの日に遊びにくれば嫌でも目にする。ただ、一度だけ真面目に鑑賞したことがあるけれど、何を表現しているのかよく解らなかったのだ。
「でも、どうして神楽なんですか?」
「見たいから」
確かに、もうすぐ17時からの上演が始まるはずだ。
続く守谷の返事を待ったけれど、それ以上の言葉が出てこないのはきっと言いたくないのだろうと考えて口を噤む。
お面と着物をつけて踊るアレ、というくらいは知っている。お祭りの日に遊びにくれば嫌でも目にする。ただ、一度だけ真面目に鑑賞したことがあるけれど、何を表現しているのかよく解らなかったのだ。
「でも、どうして神楽なんですか?」
「見たいから」
確かに、もうすぐ17時からの上演が始まるはずだ。
続く守谷の返事を待ったけれど、それ以上の言葉が出てこないのはきっと言いたくないのだろうと考えて口を噤む。
雅楽の音色が緩やかに聞こえていた。
いつもはひっそりと閉じている高床式の神楽殿が解放され、舞台前には特設の青いベンチが並べられている。守谷はその最前列の端に腰を下ろした。
「梅ちゃんありがとう、もう帰って大丈夫よ」
「はぁ」
テスト勉強のことが気にかかりながらも、何となく帰りたくない気がしていた。でも隣に座るのは気が引けて、少し後ろの方で佇んで開演を待つ。
いつもはひっそりと閉じている高床式の神楽殿が解放され、舞台前には特設の青いベンチが並べられている。守谷はその最前列の端に腰を下ろした。
「梅ちゃんありがとう、もう帰って大丈夫よ」
「はぁ」
テスト勉強のことが気にかかりながらも、何となく帰りたくない気がしていた。でも隣に座るのは気が引けて、少し後ろの方で佇んで開演を待つ。
しばらくすると、神楽殿の垂木に下げられた御神燈の提灯にぽっと灯りがともった。ふわふわと風に揺れるそれは、朧げな人魂みたいで幻想的だ。
17時が近づくにつれ、ぽつぽつと人が集まって来た。
17時が近づくにつれ、ぽつぽつと人が集まって来た。
「梅ちゃんあんた、勉強しなきゃでしょ?」
「はい……」
勉強はしなきゃいけないのだけれど、守谷が見たいという、しかも最前列で見たいというそれが気にかかるのだ。 この人をそうまでさせるものって、一体なんだろう。
「はい……」
勉強はしなきゃいけないのだけれど、守谷が見たいという、しかも最前列で見たいというそれが気にかかるのだ。 この人をそうまでさせるものって、一体なんだろう。
……しかし17時をまわっても、それが始まる気配は一向になかった。
10分ほどが過ぎたところで、雅楽の向こうで鳴っている遠いサイレン音に気がついた。それが音量を増しながらこちらに近づいてきているのは、たぶん気のせいじゃない。
嫌な予感がする。
10分ほどが過ぎたところで、雅楽の向こうで鳴っている遠いサイレン音に気がついた。それが音量を増しながらこちらに近づいてきているのは、たぶん気のせいじゃない。
嫌な予感がする。
やがて耳障りな程のサイレンを響かせて、鳥居の脇の駐車場に救急車が停車した。救急隊員が担架を持って乗り込んでくると、物々しい雰囲気の中、神楽殿から誰かが運び出された。あっという間の出来事だった。
「申し訳ございません。17時からの奉演は中止になります」
白髪の神職がやってきて告げて回る。彼はこの神社の宮司で盟子も顔見知りだ。
氏子らしい老夫婦との会話によると、どうも神楽の舞い手が急病とのことだった。
氏子らしい老夫婦との会話によると、どうも神楽の舞い手が急病とのことだった。
「いやー参りましたよ、19時の薪神楽は地元のテレビ取材も入るのに……」
「あの、つかぬことをお伺いするんですが」
「あの、つかぬことをお伺いするんですが」
すると。
頭を抱える宮司と氏子夫婦との会話に、突然守谷が割って入った。
「確かここ、|遠峰《とおみね》社中さんのご奉納でしたよね? 19時の演目は何になります?」
いつものなよなよした雰囲気を完全に封印した好青年然とした口調で。
「ええ、|遠峰《とおみね》さんですよ。『天孫降臨』の予定だったんですけどねぇ、いやはや困った」
と。次に続く言葉など到底予想していないだろう宮司が肩を落とす。
「確かここ、|遠峰《とおみね》社中さんのご奉納でしたよね? 19時の演目は何になります?」
いつものなよなよした雰囲気を完全に封印した好青年然とした口調で。
「ええ、|遠峰《とおみね》さんですよ。『天孫降臨』の予定だったんですけどねぇ、いやはや困った」
と。次に続く言葉など到底予想していないだろう宮司が肩を落とす。
「私が代打で出ます」
「は?」
「もしご迷惑でなければ」
「は?」
「もしご迷惑でなければ」
その言葉にぎょっとしたのは、宮司と老夫婦だけではなかった。
「えっと……お宅、どちらさんですか?」
その質問には完全に同意しかなくて、盟子も全身を耳にして守谷の返事に聞き耳を立てる。だって玲峰先生はうちの高校の美術の先生じゃないの!?
「えっと……お宅、どちらさんですか?」
その質問には完全に同意しかなくて、盟子も全身を耳にして守谷の返事に聞き耳を立てる。だって玲峰先生はうちの高校の美術の先生じゃないの!?
ほんの少し、不自然な間があった。
「内密にしておいてほしいんですけど……」
守谷はひどくバツが悪そうに視線を揺らした。
「内密にしておいてほしいんですけど……」
守谷はひどくバツが悪そうに視線を揺らした。
「私、|遠峰《とおみね》神社の倅なんです」
「ええっ!?」
「初田さんのお名前は前々から伺っておりましたもので、もしかしたらと思いまして」
「っていうと、御本家さん? ええと確か……そう、守谷さん!?」
宮司はあわあわして目を剥いている。
「そんな大層なものでもないですけれど、舞だけはそれはもうみっちり仕込まれてますから、お手伝いできればと……」
「それはもう、ぜひぜひと言いますか」
「それでですね、あの、このことは実家にはくれぐれも内密にお願いしたくて……」
やけに必死に、「実家には内密に」を強調する守谷に、盟子は噴き出しそうになった。
「ええ、はぁ、それはもう」
「私、実家に勘当されておりまして……」
「わかりました」
守谷に深々と頭を下げられ、若者らしく反抗でもしてるのだろうと事情を察してくれたらしい宮司は苦笑いで了承した。
「ええっ!?」
「初田さんのお名前は前々から伺っておりましたもので、もしかしたらと思いまして」
「っていうと、御本家さん? ええと確か……そう、守谷さん!?」
宮司はあわあわして目を剥いている。
「そんな大層なものでもないですけれど、舞だけはそれはもうみっちり仕込まれてますから、お手伝いできればと……」
「それはもう、ぜひぜひと言いますか」
「それでですね、あの、このことは実家にはくれぐれも内密にお願いしたくて……」
やけに必死に、「実家には内密に」を強調する守谷に、盟子は噴き出しそうになった。
「ええ、はぁ、それはもう」
「私、実家に勘当されておりまして……」
「わかりました」
守谷に深々と頭を下げられ、若者らしく反抗でもしてるのだろうと事情を察してくれたらしい宮司は苦笑いで了承した。
「では社務所に来てもらって、遠峰社中さんとお話を」
あっという間に連行されていく背中を、盟子は呆然と見つめる。何やらとんでもないことになった。
あっという間に連行されていく背中を、盟子は呆然と見つめる。何やらとんでもないことになった。
「せ……先生! 本当に出るんですか!?」
守谷はちらりと振り返り、長い人差し指をぴっとローズレッドの口元に当てた。
「誰にも言うんじゃないよ! 梅ちゃんは帰ってテスト勉強しなさい!」
言っとくけど見にきたりしたら呪詛するからね!と、最後に不穏なことを言われた。
「誰にも言うんじゃないよ! 梅ちゃんは帰ってテスト勉強しなさい!」
言っとくけど見にきたりしたら呪詛するからね!と、最後に不穏なことを言われた。
いや。
これは。
呪われたって見に来るしかないでしょ。
てか、バレなきゃいいでしょ。
ええと、一旦帰ってご飯食べて、19時までに戻ってこよう!
これは。
呪われたって見に来るしかないでしょ。
てか、バレなきゃいいでしょ。
ええと、一旦帰ってご飯食べて、19時までに戻ってこよう!
何だろう。
ここまではっきりとした自分の意思で何かを決心したのは久しぶりだ。
自分の中にこんなにも強い思いがあったのが、不思議なような嬉しいような。
とにかく19時までにここに戻ってくるべく、盟子は家に向かって走り出した。
ここまではっきりとした自分の意思で何かを決心したのは久しぶりだ。
自分の中にこんなにも強い思いがあったのが、不思議なような嬉しいような。
とにかく19時までにここに戻ってくるべく、盟子は家に向かって走り出した。