サクラは兄弟子たちをリビングに招き入れ、冷たいお茶を出した。
「何もありませんが、どうぞ」
「ああ、我々こそご連絡もなしに押しかけてしまって済みません」
兄弟子たちは恐縮しながら出されたお茶に口をつけると、居住まいを正し、順番に自己紹介した。
ユージを背負っていた背の高い長髪の男は、天界で神官と薬師を兼業しているジン。
魔法使いのローブを着た短髪の男は、天界で魔法使いのトップ・天導師という地位についている、魔法使いのヤン。
眼鏡を掛けた小柄の男は、『コウノトリ』のセンター長のクワン。
そして、とびきりの美少女は、クワンの娘のアルファ。
彼らは、サクラとは初対面にも関わらず、何か困りごとがあれば力になると申し出た。そして、男性にはなかなか話しにくいこともあるだろうからと、アルファを今後の相談先として紹介してくれたのだ。
「娘は外見はこのとおりですが、中身は立派な大人でしてな。『コウノトリ』で私の助手として働いてもらっているので、子供の扱いにも慣れています。困ったことがあったら何でも聞いて下さい」
「サクラお姉様。お困りの際には何なりとお申し付けくださいね」
クワンの言葉を受けて、アルファは微笑みながら頼もしく請け負った。
お姉様と呼ばれたサクラは、ユージ同様照れながらも、
「お、お姉様なんてガラじゃないけど――ありがとう、アルファちゃん。とっても心強いわ」
と、アルファの申し出に素直に感謝した。
(皆さん、すごく気さくで、いい人たちじゃない)
サクラはこの人たちであればと、思い切って現在抱えている心配事を打ち明けてみた。ジムルグへの旅行から戻ってきてからのユージの異変についてである。
「そうでしたか。詳しくは存じませんが、ユージ君は研究のことで悩んでいるようでした。今はまだ、彼の中でも明確な答えが見つからず迷いの中にいるのではないでしょうか」
サクラの話を聞き終えた後、落ち着いた声でジンが口を開いた。
「ユージ、何も話してくれなくて。こんなことは今までなかったんです」
サクラは膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。
「あたし、ユージの力になりたいのに、それさえも拒否されているみたいで――正直、不安で堪らなくて。でも、どうしていいのかわからなくて」
「サクラさんには、何でも相談できる人はいますか?ユージ君以外に」
ジンの問いかけに、サクラは頷いた。
「ひとりですが、います」
サクラは目を上げて、兄弟子たちを交互に見た。
「ユージにも教えてないんですけど、実は魔界に姉弟子がいるんです――皆さんはご存じですか?」
サクラの問いかけに、兄弟子たちは互いに顔を見合わせた。どうやら心当たりはなさそうだった。
「師匠は何処で何をしているのかよくわからない人だから、我々が知らないお弟子さんがあちこちにいても全く不思議ではないでしょうなあ」
ヤンは、己の顎を触りながら、のんびりとした口調で言った。
(確かにそうよね)
今ここで、これまで縁がなかった兄弟子たちと会っているのもある意味奇跡のようなものだ、とサクラは思う。
「サクラさんの身近に相談できる方がいらっしゃると聞いて安心しました」
ジンは魔界に居るまだ見ぬ妹弟子には特に関心はなさそうだった。
「私が思うに、ここはユージ君が悩みを打ち明ける気になるまで待つしかないと思います。その間、サクラさんが辛くてどうしようもなくなったら、アルファでもその方でもいいので話だけでも聞いてもらって下さい。ひとりで思いを抱え込んでしまうのは一番良くないことですから」
ジンはふと例の顔で微笑んだ。
「もし、感情のぶつけ先に困るようでしたら、遠慮なく私を呼んで下さい。八つ当たりでも何でも受け止めて差し上げます」
「え……でも」
戸惑ったように視線を動かすサクラに、
「サクラさん。魔界では縁がないと思いますが、神官というのは庶民の愚痴や罵詈雑言を黙って聞いてやるのも重要な仕事でしてな。感情のぶちまけ先には最適ですよ」
と、ヤンが茶目っ気たっぷりに解説した。
この日は夜遅かったこともあり、兄弟子たちは30分ほどの滞在で帰っていった。
そして、兄弟子たちとの出会いは、サクラを少しだけ強くした。