第六頁 VS毒の王子様1
ー/ー
パラメラの方は、やはり処置を終えていたようで元気な様子だった。
「ありがとうございます、商人さん」
僕は胡座をかき、その中にパラメラを座らせる。パラメラは、柔らかな波を彷彿とさせるように尾を揺らし、商人の方を見ていた。
「いいさ。あそこで見捨てるほど私も廃れちゃいない。こちらこそありがとう、私を守ってくれて」
「きゅう〜」
僕たちの言葉を理解している訳ではないと思うが、パラメラは細く可愛らしい声で鳴いた。
僕は、そんなパラメラを褒める意味も込めて頭を撫でた。丸い耳を畳み、目をつぶってされるがままとなる。
「私はこれからハバティの方に行こうと思っているんだ。君たちはどこへ?」
「そうなんですか? 僕たちもちょうどハバティに行こうと思っていたんですよ」
まさかの偶然だった。と言ってもまぁ、イルミナを出てこの森を通る人の多くはハバティ目的だろうから奇跡とは言えないが。
「へぇそうかい、そりゃ奇遇だなぁ」
商人は木の切り口部分に座り、くつろぎながら目を丸くさせた。
「異世界書物が好きで、ハバティで開催される異世界書物の劇を観に行こうかと思っていたところなんです」
「なるほどな、そいや明日にはあの名作、色覚探偵の劇をやるらしいからなぁ」
「そうなんですか? それは絶対観に行かないとですね」
僕はその異世界書物の名前を聞いて噛み付いた。色覚探偵、あれは僕も好きな物語だ。見逃す手はない。
「おや、知らなかったのかい? 私はその劇の観客が多くなると見越して、商売をしに行こうと思ってね」
「そういうことですか」
確かに少し離れたところに、大量の商品らしき物が積まれている木製のカートが置いてあった。人力車のような構造となっている。大方、これを運ぶのに疲れてここで休んでいたら僕たちと出くわしたのだろう。
「ああそうだ、ここで会ったのも何かの縁だし、これをあげるよ」
すると商人はおもむろに立ち上がり、肩に下げていた小さな布袋から5枚セットになっている紙切れを持ち出した。そのまま、僕の方へと差し出してくる。
見たところ、この人のお店で使える割引券のようだ。
「ああ、ありがとうございます」
えらく商売上手な人だなと思いつつ、受け取らない手もないので僕は割引券を貰った。半分に折りたたみ、胸ポケットに入れておく。
まぁ、ハバティに寄った時に買ってみよう。
「それじゃ、私はこの辺で。ああそうだ。少年、先程異世界書物が好きだと言っていたね」
「え? はい」
何でそんなことを聞いてきたのか分からないが、とりあえず「はい」と答えた。すると商人は、ある一点を指さす。
「あれも異世界書物のように見えるんだが、君のものかな?」
異世界書物? もしかしてペイマジを落としたのかなと思いつつ、リュックは開いてないからそれは有り得ないとわかっていた。
とりあえず商人が指さした方、僕からして後ろの方を振り返ってみると、確かに一冊の本らしきものが置いてあるのが分かった。場所的には、さっきポイズンスライムが立っていた場所だ。
「あれ、本当だ」
特に何も考えず、僕はパラメラを抱え上げてその場に下ろすと、その本がある所へと足を向かわせた。
拾い上げてみる。タイトルは、見た事のあるものだった。
「毒の王子様……ポイズンスライムが落として行ったのかな」
いつ落としたのかは知らないが、角の部分が削れていることからも、あいつの持っていたものだと判断できた。それを数秒ほど見つめて、僕の中で何かが引っかかった。
そういえば、あいつは捕食したレイナさんの影響を受けて魔法が使えるようになったと言っていた。それなら、記憶や好きな物のことなども引き継いでいるのだろうか。
思えば、ただレイナさんの魔法が使いたいだけならわざわざ異世界書物など持ち歩くものなのだろうかと不思議に感じる。
気がつけばページを捲っていた。窓から外の光を浴びる場面、男性に「好き」だと言われる場面、外へ連れ出される場面、僕の中で印象的に残っていたシーンの箇所を眺めてみる。
「……」
何ページか見て分かったが、何ヶ所かにポイズンスライムの液体らしきものが付着していた。ある程度時間が経過しているであろう証となるシミもある。これはつまり、レイナさんではなくポイズンスライム自身が何度か読んだ証拠だ。
「もしかして……」
僕の中で引っかかっていたものが、徐々にその姿を現す。そしてそれは、僕が次にどうするべきなのかヒントを与えてくれた。
僕は、パラメラと商人の方へ戻ると、パラメラを頭の上に乗っけた。
「パラメラ、ちょっと寄り道していくよ」
パラメラはピンと来ていない鳴き声をあげる。それを無視して、僕はハバティとは反対の方向、つまり森の奥……ポイズンスライムの逃げていった方へと体を向けた。
「商人さん、ちょっと僕行かなきゃいけないところができたので、これで失礼しますね」
「ん? おお、またハバティで会おう、少年」
「はい」
僕と商人は一通りの会話を済ませると、互いに礼をしてその場を去っていく。双方反対の方向へと足を向かわせる中、僕は手に持った異世界書物、毒の王子様を読み直した。いつものようにただ楽しむために読むのではなく、学校の教科書を読む時のように、少しだけ真面目に。
私は、何者なんだろうか。人の姿をしているが、その中身はドロドロとした毒性の液体で溢れている。なら、モンスターだろうか。
……そんなことは明白か。私はポイズンスライムであり、人と戦闘を繰り広げるブラッドモンスターだ。けれど、なんだかそれは嫌だ。
私は、私の望む何者かでありたい。
気がつけば私は、森の少し開けた場所の真ん中で立ち尽くしていた。何かがある訳でもない、ちょっとした広場のような場所、ここは私にとって少しだけ、心地の良い場所だったのだ。
外の世界の温かみが感じられる、そんな場所だ。
「あはは……私、何してるのかしら」
自分を蔑むかのように、乾いた笑いが零れた。膝に手をつき、息を乱す。ぐるりと辺りを見回して、周囲に誰も居ないの確認すると、そのまま近くの木にもたれかかった。
そして、今日の出来事や今までのことを振り返ってみる。レイナという人を捕食してから、私は変わってしまった。それまでただのスライムとして生きていたのに、趣味趣向や好きな物に嫌いなものまで、全て変わってしまったのだ。
レイナの捕食による影響なのは分かりきっている。捕食した翌日の朝、目を覚ますと私の姿はレイナと全く同じになっていた。それからだ、外見的にも内面的にも私が変わってしまったのは。
それまで一つも理解できなかった人語が理解できるようになり、話せるようになり……時には年頃の女らしくお洒落をしたくなったり、人が食べるものを食すようになったりした。そして、特に影響を受けたのは読書の習慣だった。気がつけば、夜寝る前か起床した際に、捕食される直前までレイナが持っていた毒の王子様を読むのがルーティンになっていた。
正直、初めのうちは「自分は何をしているんだろう」と思っていた。でもだからこそ、すぐに理解できた。「ああ、これはレイナがこれまでやっていたことで、レイナという一人の人間の生活の様なんだ」と。
でも、元はモンスターの身、いつまでも人と同じ生活を送るわけにもいかないし、環境がそれを許さない。だからある日を境にして、私はレイナのルーティンをまるっきり止めて、自分の姿もポイズンスライムに戻れるよう練習を重ねた。そうして一週間もしないうちに私は、元の姿とレイナの姿を自在に行き来できるようになった。
それからはポイズンスライムとしていつもの生活を送るようにしたのだけれど、それでも何故か、毒の王子様だけは手放せなかった。いつも私が隠れている場所に、本を置いておくようにしたわ。
そして何日かが経過した時、私は自身の異変に気がついた。体を自由に操れるようになってからも私は、無意識のうちに、夜寝る前にはレイナの姿に戻り毒の王子様を読んでいたのよ。それで自覚した。
私は、ブラッドモンスターでありながら、人としての感情を持ってしまったのだと。その初めての感情が、「好き」だった。毒の王子様が好きで好きで堪らず、私自身、レイナと同様に毒のお姫様に憧れるようになった。
それからだ、私が今日テトラ達に仕掛けたように、お姫様を演じて連れ出してもらうようにしたのは。自身の毒で毒模様は出せるから、体調不良を装うのは簡単だった。でも、毎回失敗に終わってしまう。
どうやら私の体は、人の姿をしていても元の性質は変わらないらしい。化け始めた最初のうちは大丈夫だが、徐々に体の末端となる手足から、目視できない程度の毒が漏れ始め、さらには体の内部もスライムっぽくなり軽くなってしまう。だから結局、最後の最後でバレてしまう。本当に、ただ化けの皮を被っただけのポイズンスライムに違いなかった。
私は、毒の王子様に憧れるレイナであり、ポイズンスライム……人にもモンスターにもなりきれない、何者ですらない。
けれど、これだけは断言できた。私は、毒の王子様が好きだ。だから探す。私をこの森から連れ出し、外の景色を見させてくれる毒の王子様を。
きっと、叶うはずだ。異世界書物の物語は、異世界での実話、願い行動に移していればきっといつか、叶うはずだ。……そうであって欲しい。
「……はぁ、疲れた。今日はもう大人しくしていようかしら」
私は、深呼吸をして息を整えると、ポイズンスライムの姿に戻ろうとする。ちょうどよかった、すぐそこにいつもの隠れ場所がある。
けど、そこで自分がいつもより盛大な失敗を犯していることに気がついた。異世界書物が、ない。
「……しまった。もしかしたらさっき……」
テトラと商人が居た場所、あるいはここまでの道中で落としたのかもしれない。……まずい。そう思い、私がまだレイナの身体を維持したまま振り返って来た道を戻ろうとした時だった。
視界の中央、私の前方からゆっくりと、落ち着いて歩いてくる姿が見えた。見覚えのある姿だ。そして確信する。あれはテトラ、そしてパラメラと呼ばれていたブルーモンスターだ。
幸か不幸か、その手には異世界書物、毒の王子様が握られていた。
「やぁ、見つけたよ」
テトラは真剣な表情で私を見つめ、たった一言、そう呟いた。きっと、これから起きることは避けられないだろう。これまでの経験からも、私は確信していた。
……ああ、現実はどうしてこうも、残酷な物語なのだろう。
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パラメラの方は、やはり処置を終えていたようで元気な様子だった。
「ありがとうございます、商人さん」
僕は|胡座《あぐら》をかき、その中にパラメラを座らせる。パラメラは、柔らかな波を彷彿とさせるように尾を揺らし、商人の方を見ていた。
「いいさ。あそこで見捨てるほど私も廃れちゃいない。こちらこそありがとう、私を守ってくれて」
「きゅう〜」
僕たちの言葉を理解している訳ではないと思うが、パラメラは細く可愛らしい声で鳴いた。
僕は、そんなパラメラを褒める意味も込めて頭を撫でた。丸い耳を畳み、目をつぶってされるがままとなる。
「私はこれからハバティの方に行こうと思っているんだ。君たちはどこへ?」
「そうなんですか? 僕たちもちょうどハバティに行こうと思っていたんですよ」
まさかの偶然だった。と言ってもまぁ、イルミナを出てこの森を通る人の多くはハバティ目的だろうから奇跡とは言えないが。
「へぇそうかい、そりゃ奇遇だなぁ」
商人は木の切り口部分に座り、くつろぎながら目を丸くさせた。
「異世界書物が好きで、ハバティで開催される異世界書物の劇を観に行こうかと思っていたところなんです」
「なるほどな、そいや明日にはあの名作、|色《・》|覚《・》|探《・》|偵《・》の劇をやるらしいからなぁ」
「そうなんですか? それは絶対観に行かないとですね」
僕はその異世界書物の名前を聞いて噛み付いた。色覚探偵、あれは僕も好きな物語だ。見逃す手はない。
「おや、知らなかったのかい? 私はその劇の観客が多くなると見越して、商売をしに行こうと思ってね」
「そういうことですか」
確かに少し離れたところに、大量の商品らしき物が積まれている木製のカートが置いてあった。人力車のような構造となっている。大方、これを運ぶのに疲れてここで休んでいたら僕たちと出くわしたのだろう。
「ああそうだ、ここで会ったのも何かの縁だし、これをあげるよ」
すると商人はおもむろに立ち上がり、肩に下げていた小さな布袋から5枚セットになっている紙切れを持ち出した。そのまま、僕の方へと差し出してくる。
見たところ、この人のお店で使える割引券のようだ。
「ああ、ありがとうございます」
えらく商売上手な人だなと思いつつ、受け取らない手もないので僕は割引券を貰った。半分に折りたたみ、胸ポケットに入れておく。
まぁ、ハバティに寄った時に買ってみよう。
「それじゃ、私はこの辺で。ああそうだ。少年、先程異世界書物が好きだと言っていたね」
「え? はい」
何でそんなことを聞いてきたのか分からないが、とりあえず「はい」と答えた。すると商人は、ある一点を指さす。
「あれも異世界書物のように見えるんだが、君のものかな?」
異世界書物? もしかしてペイマジを落としたのかなと思いつつ、リュックは開いてないからそれは有り得ないとわかっていた。
とりあえず商人が指さした方、僕からして後ろの方を振り返ってみると、確かに一冊の本らしきものが置いてあるのが分かった。場所的には、さっきポイズンスライムが立っていた場所だ。
「あれ、本当だ」
特に何も考えず、僕はパラメラを抱え上げてその場に下ろすと、その本がある所へと足を向かわせた。
拾い上げてみる。タイトルは、見た事のあるものだった。
「毒の王子様……ポイズンスライムが落として行ったのかな」
いつ落としたのかは知らないが、角の部分が削れていることからも、あいつの持っていたものだと判断できた。それを数秒ほど見つめて、僕の中で何かが引っかかった。
そういえば、あいつは捕食したレイナさんの影響を受けて魔法が使えるようになったと言っていた。それなら、記憶や好きな物のことなども引き継いでいるのだろうか。
思えば、ただレイナさんの魔法が使いたいだけならわざわざ異世界書物など持ち歩くものなのだろうかと不思議に感じる。
気がつけばページを|捲《めく》っていた。窓から外の光を浴びる場面、男性に「好き」だと言われる場面、外へ連れ出される場面、僕の中で印象的に残っていたシーンの箇所を眺めてみる。
「……」
何ページか見て分かったが、何ヶ所かにポイズンスライムの液体らしきものが付着していた。ある程度時間が経過しているであろう証となるシミもある。これはつまり、レイナさんではなくポイズンスライム自身が何度か読んだ証拠だ。
「もしかして……」
僕の中で引っかかっていたものが、徐々にその姿を現す。そしてそれは、僕が次にどうするべきなのかヒントを与えてくれた。
僕は、パラメラと商人の方へ戻ると、パラメラを頭の上に乗っけた。
「パラメラ、ちょっと寄り道していくよ」
パラメラはピンと来ていない鳴き声をあげる。それを無視して、僕はハバティとは反対の方向、つまり森の奥……ポイズンスライムの逃げていった方へと体を向けた。
「商人さん、ちょっと僕行かなきゃいけないところができたので、これで失礼しますね」
「ん? おお、またハバティで会おう、少年」
「はい」
僕と商人は一通りの会話を済ませると、互いに礼をしてその場を去っていく。双方反対の方向へと足を向かわせる中、僕は手に持った異世界書物、毒の王子様を読み直した。いつものようにただ楽しむために読むのではなく、学校の教科書を読む時のように、少しだけ真面目に。
私は、何者なんだろうか。人の姿をしているが、その中身はドロドロとした毒性の液体で溢れている。なら、モンスターだろうか。
……そんなことは明白か。私はポイズンスライムであり、人と戦闘を繰り広げるブラッドモンスターだ。けれど、なんだかそれは嫌だ。
私は、私の望む何者かでありたい。
気がつけば私は、森の少し開けた場所の真ん中で立ち尽くしていた。何かがある訳でもない、ちょっとした広場のような場所、ここは私にとって少しだけ、心地の良い場所だったのだ。
外の世界の温かみが感じられる、そんな場所だ。
「あはは……私、何してるのかしら」
自分を蔑むかのように、乾いた笑いが零れた。膝に手をつき、息を乱す。ぐるりと辺りを見回して、周囲に誰も居ないの確認すると、そのまま近くの木にもたれかかった。
そして、今日の出来事や今までのことを振り返ってみる。レイナという人を捕食してから、私は変わってしまった。それまでただのスライムとして生きていたのに、趣味趣向や好きな物に嫌いなものまで、全て変わってしまったのだ。
レイナの捕食による影響なのは分かりきっている。捕食した翌日の朝、目を覚ますと私の姿はレイナと全く同じになっていた。それからだ、外見的にも内面的にも私が変わってしまったのは。
それまで一つも理解できなかった人語が理解できるようになり、話せるようになり……時には年頃の女らしくお洒落をしたくなったり、人が食べるものを食すようになったりした。そして、特に影響を受けたのは読書の習慣だった。気がつけば、夜寝る前か起床した際に、捕食される直前までレイナが持っていた毒の王子様を読むのがルーティンになっていた。
正直、初めのうちは「自分は何をしているんだろう」と思っていた。でもだからこそ、すぐに理解できた。「ああ、これはレイナがこれまでやっていたことで、レイナという一人の人間の生活の様なんだ」と。
でも、元はモンスターの身、いつまでも人と同じ生活を送るわけにもいかないし、環境がそれを許さない。だからある日を境にして、私はレイナのルーティンをまるっきり止めて、自分の姿もポイズンスライムに戻れるよう練習を重ねた。そうして一週間もしないうちに私は、元の姿とレイナの姿を自在に行き来できるようになった。
それからはポイズンスライムとしていつもの生活を送るようにしたのだけれど、それでも何故か、毒の王子様だけは手放せなかった。いつも私が隠れている場所に、本を置いておくようにしたわ。
そして何日かが経過した時、私は自身の異変に気がついた。体を自由に操れるようになってからも私は、無意識のうちに、夜寝る前にはレイナの姿に戻り毒の王子様を読んでいたのよ。それで自覚した。
私は、ブラッドモンスターでありながら、人としての感情を持ってしまったのだと。その初めての感情が、「好き」だった。毒の王子様が好きで好きで堪らず、私自身、レイナと同様に毒のお姫様に憧れるようになった。
それからだ、私が今日テトラ達に仕掛けたように、お姫様を演じて連れ出してもらうようにしたのは。自身の毒で毒模様は出せるから、体調不良を装うのは簡単だった。でも、毎回失敗に終わってしまう。
どうやら私の体は、人の姿をしていても元の性質は変わらないらしい。化け始めた最初のうちは大丈夫だが、徐々に体の末端となる手足から、目視できない程度の毒が漏れ始め、さらには体の内部もスライムっぽくなり軽くなってしまう。だから結局、最後の最後でバレてしまう。本当に、ただ化けの皮を被っただけのポイズンスライムに違いなかった。
私は、毒の王子様に憧れるレイナであり、ポイズンスライム……人にもモンスターにもなりきれない、何者ですらない。
けれど、これだけは断言できた。私は、毒の王子様が好きだ。だから探す。私をこの森から連れ出し、外の景色を見させてくれる毒の王子様を。
きっと、叶うはずだ。異世界書物の物語は、異世界での実話、願い行動に移していればきっといつか、叶うはずだ。……そうであって欲しい。
「……はぁ、疲れた。今日はもう大人しくしていようかしら」
私は、深呼吸をして息を整えると、ポイズンスライムの姿に戻ろうとする。ちょうどよかった、すぐそこにいつもの隠れ場所がある。
けど、そこで自分がいつもより盛大な失敗を犯していることに気がついた。異世界書物が、ない。
「……しまった。もしかしたらさっき……」
テトラと商人が居た場所、あるいはここまでの道中で落としたのかもしれない。……まずい。そう思い、私がまだレイナの身体を維持したまま振り返って来た道を戻ろうとした時だった。
視界の中央、私の前方からゆっくりと、落ち着いて歩いてくる姿が見えた。見覚えのある姿だ。そして確信する。あれはテトラ、そしてパラメラと呼ばれていたブルーモンスターだ。
幸か不幸か、その手には異世界書物、毒の王子様が握られていた。
「やぁ、見つけたよ」
テトラは真剣な表情で私を見つめ、たった一言、そう呟いた。きっと、これから起きることは避けられないだろう。これまでの経験からも、私は確信していた。
……ああ、現実はどうしてこうも、残酷な物語なのだろう。