表示設定
表示設定
目次 目次




二人で

ー/ー



 白い曇り空は、窓が切り取る四角い画用紙みたいだ。
 そこには何も描かれていなくて、憂鬱で退屈で。
 体育祭が終わってからは本格的に梅雨に入り、何ともぱっとしない傘マークの日々が続いていた。

「なんか楽しいことないかなぁ」
 どこに行っても纏わりついてくる湿気にうんざりして、思わずそんなことを呟いたのがまずかったのだ。
「じゃあさ、二人でどっか出かけない?」

 小林雄眞からそう打診された時、盟子はその問いかけに返事をすることができなかった。
「き、急だね、随分と」
 そして混乱した頭でわけのわからないことを返してしまう。
 二人で。
 言わばデートとってことだ。
 それに急なんかじゃない。4月に告白されて、もう7月になるのだから。

 こんなにも慌ててしまうのは、つまりそういうことを全く考えていなかったせいだ。
 いや、考えていなかったというより考えることから逃げていた。

 一緒に帰る回数がなんとなく増えたこと。4月から変わったのはそのくらいだった。まあこんなもんかと思っていた。
 だから雄眞がそれを望んでいるだろうなんて思い浮かばなかった。

 熱っぽい視線を受け止め続けるのに耐えられず、盟子は窓の外へ視線を泳がせた。

「どこ行きたい?」
 二人だけの教室で雄眞が覗き込んでくる。許容できるギリギリのパーソナルスペースを侵されると、頭の中で警報が鳴り出した。剥き出しの腕と腕が事故的に触れてしまって、盟子は慌てて引っ込めた。

「なぁ、どこ行きたいの?」
 出かけると言われても、こういう時どこへ行くものなのか見当がつかない。何せ初めてだから。
 デートって皆どこへ行って何してるんだろう。二人してこなす特別なタスクのようなものがあるんだろうか。

「え、駅前……」
「で、何すんの?」
「ドーナツとか……」
 とりあえず思いついたことを言ってみる。
「食うことしか考えてねーのかよ」

 おかしいな。
 いつもの軽口を、今日はいつも通りに受け流せない。
 あんなに気楽だった雄眞との関係がここ最近息苦しくて仕方ない。今だってこの場を逃げ出したくてたまらない、できることなら。

「買い物とか……」
「どこで、何を?」

 微かな貧乏ゆすりの振動が机を伝わってくる。
「盟子の好きなところでいいんだぞ」
 ついこの間までは苗字で呼んでいたのに、急に下の名で呼ばれる違和感は格別だ。

 好きなところ。好きなところ。
 必死で考える。

 気のせいか――いや気のせいじゃなく、雄眞は明らかに苛立っている。自分は紳士的に主導権を渡してやったのに、嬉々として女の子らしい行き先を提案してこない「彼女」に。

「えーと、美術展、とか」
 苦し紛れに、そうひねり出した。

 ちょうど開催中の企画展の招待券があるのだ。
 先日アルバイト先で絵の搬入を手伝った時に守谷からもらったもの。それがまだ使われないまましまってある。健全な行き先といえばそのくらいしか思いつかない。

「いいよ」
 雄眞の承認がおりたのでほっとした。
 けれど何だか腑に落ちない。
 どうして盟子がお願いして雄眞が許可する形になっているんだろう。別に頼んでなんかいないのに。

 飲み下すことのできない、喉に魚の骨が刺さっているようなチクチクした不快感が消えてくれない。
 どんなに気づかない振りをしても。

 


次のエピソードへ進む 初デート!


みんなのリアクション

 白い曇り空は、窓が切り取る四角い画用紙みたいだ。
 そこには何も描かれていなくて、憂鬱で退屈で。
 体育祭が終わってからは本格的に梅雨に入り、何ともぱっとしない傘マークの日々が続いていた。
「なんか楽しいことないかなぁ」
 どこに行っても纏わりついてくる湿気にうんざりして、思わずそんなことを呟いたのがまずかったのだ。
「じゃあさ、二人でどっか出かけない?」
 小林雄眞からそう打診された時、盟子はその問いかけに返事をすることができなかった。
「き、急だね、随分と」
 そして混乱した頭でわけのわからないことを返してしまう。
 二人で。
 言わばデートとってことだ。
 それに急なんかじゃない。4月に告白されて、もう7月になるのだから。
 こんなにも慌ててしまうのは、つまりそういうことを全く考えていなかったせいだ。
 いや、考えていなかったというより考えることから逃げていた。
 一緒に帰る回数がなんとなく増えたこと。4月から変わったのはそのくらいだった。まあこんなもんかと思っていた。
 だから雄眞がそれを望んでいるだろうなんて思い浮かばなかった。
 熱っぽい視線を受け止め続けるのに耐えられず、盟子は窓の外へ視線を泳がせた。
「どこ行きたい?」
 二人だけの教室で雄眞が覗き込んでくる。許容できるギリギリのパーソナルスペースを侵されると、頭の中で警報が鳴り出した。剥き出しの腕と腕が事故的に触れてしまって、盟子は慌てて引っ込めた。
「なぁ、どこ行きたいの?」
 出かけると言われても、こういう時どこへ行くものなのか見当がつかない。何せ初めてだから。
 デートって皆どこへ行って何してるんだろう。二人してこなす特別なタスクのようなものがあるんだろうか。
「え、駅前……」
「で、何すんの?」
「ドーナツとか……」
 とりあえず思いついたことを言ってみる。
「食うことしか考えてねーのかよ」
 おかしいな。
 いつもの軽口を、今日はいつも通りに受け流せない。
 あんなに気楽だった雄眞との関係がここ最近息苦しくて仕方ない。今だってこの場を逃げ出したくてたまらない、できることなら。
「買い物とか……」
「どこで、何を?」
 微かな貧乏ゆすりの振動が机を伝わってくる。
「盟子の好きなところでいいんだぞ」
 ついこの間までは苗字で呼んでいたのに、急に下の名で呼ばれる違和感は格別だ。
 好きなところ。好きなところ。
 必死で考える。
 気のせいか――いや気のせいじゃなく、雄眞は明らかに苛立っている。自分は紳士的に主導権を渡してやったのに、嬉々として女の子らしい行き先を提案してこない「彼女」に。
「えーと、美術展、とか」
 苦し紛れに、そうひねり出した。
 ちょうど開催中の企画展の招待券があるのだ。
 先日アルバイト先で絵の搬入を手伝った時に守谷からもらったもの。それがまだ使われないまましまってある。健全な行き先といえばそのくらいしか思いつかない。
「いいよ」
 雄眞の承認がおりたのでほっとした。
 けれど何だか腑に落ちない。
 どうして盟子がお願いして雄眞が許可する形になっているんだろう。別に頼んでなんかいないのに。
 飲み下すことのできない、喉に魚の骨が刺さっているようなチクチクした不快感が消えてくれない。
 どんなに気づかない振りをしても。