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血の宴の後始末

ー/ー



 この侵略戦争を起こした悪逆の指導者、ユーグリッド・レグラスはなおも、このボヘミティリア王国が血と涙に塗れされることを望んでいた。リョーガイの軍が500万金両を奪い狂喜乱舞して凱旋(がいせん)するのを見届けた後、ユーグリッドは再びソキンと合流して戦況の報告を受けていた。

 ソキンは大砲で大量虐殺を果たした後とは思えないほど柔和な顔をしており、慇懃無礼な畏まった様子で王の前に跪いていた。

「はい、では現在のボヘミティリア王国での戦況を報告させていただきます。我々ソキン軍はボヘミティリアの西地区、北地区に1万の兵を放ち領民兵士の虐殺を行いました。同様にタイイケン軍もボヘミティリアの東地区、南地区で1万の兵力数で虐殺を行いました。そして残りの我々アルポート軍の5000兵分の兵力は今東西南北の城門前に陣を構え、脱走者を発見次第殺害を行っております。

 ほぼ全てのボヘミティリアの区域での制圧が完了しており、ご命令通り壺の中から棚の裏まで隈なく民家を索敵しました。もはやボヘミティリアの地には一人の生存者すらも残っていないでしょう。

 全てはユーグリッド陛下の御心のままに、ボヘミティリア王国の国民を根絶やしにすることが達成できたのです」

 ソキンの淡々とした禍々しい戦況報告に、悪鬼ユーグリッドは満足そうに頷く。

「そうか、ご苦労だったソキン。だがまだ上手く隠れている奴がいるかもしれない。それにこれからボヘミティリア王国に戻ってくる覇王軍にも住処を与えるわけにもいかない。タイイケンが戻り次第、覇王の国の焼き討ちを始めるぞ!」

「はい、承知しております。各地に既に工作兵を待機させており、火計の準備は万全に整っております。大鐘部隊の合図とともに、すぐに全領土に火を放つように手配してあります。そうすればこのボヘミティリアの地は1時間と立たないうちに全て火の海に沈むことになるでしょう。

 もはや覇王の国が再起することは不可能、このボヘミティリア王国はユーグリッド陛下のお望み通り、二度と人が住むことができない屍の国となるのです」

 ソキンは跪いた姿勢のまま、王に殺戮の万全な準備が進んでいることを告げる。
その敵国の完全破壊の計が成る瞬間が近づき、ユーグリッドは残忍に恐ろしくほくそ笑んだ。

「そうか、ついにここまで来たか。ようやく俺は覇王の喉元に剣を突きつけることができたのだな。故郷を失った覇王軍はもはや野盗の群れも同然。後は飢え渇き跪く覇王に、この黄金の剣を薙ぎ払うだけだ」

「ええ、ついに我々アルポート王国は栄光ある独立した国家として、覇王の支配から解放されたのです。長きに渡る覇王との隷属関係もこれで終わり、アルポート王国の赫赫(かっかく)たる繁栄の時代が始まるのです。

 あなた様のこのボヘミティリア王国殲滅の決断に、亡き海城王もさぞお喜びになられていることでしょう。あなた様はアルポート王国を救った英雄として称えられ、未来永劫その偉大なる王家レグラス家一門の名を、アルポート王国の歴史に刻むことになるでしょう」

「そうか、俺は歴史に名を残す英雄か。その響きも中々悪くない。俺もアーシュマハ大陸の王侯どもの注目の的になり、皇帝からも王の称号を正式に授与されることになるだろう。そうなれば俺の王としての名声も父上と並ぶことができる」

 重鎮ソキンの主君の褒めちぎる様に、王は強かに慢心する。もはや王の瞳には覇王が飢えて苦しみ、そして死する光景が確信となって浮かび上がっていたのだ。血に塗れた手で握る栄光の瞬間を、王は黄金の両手剣に写し鏡として投影していた。

 このボヘミティリア王国の戦争の勝敗はもはや決している。後は覇王の10万の軍とどう(かた)をつけるのか戦略を練り、彼の者との因縁を終わらせるだけだ。

 その血の臭いと勝利に酔いしれる王の元に、猛進する軍馬の群れが駆けつけてくる。その先頭にいるのは、東と南のボヘミティリアの地区で、つい先程領民どもの殺戮を終えたばかりの大将軍、タイイケン・シンギであった。

 タイイケンの白銀の双剣は既に刀身を全て真紅に染めており、その最強の男自身も底なしの胃袋を持った熊のように、大量に人を食い殺したかの如く赤く染まった鎧兜を身に纏っていた。タイイケンは王の元に着き次第、早速快活な声で報告を始める。

「ユーグリッド! ようやく見つけたぞっ! やはり貴様はここにいたか! 貴様の指示通り、ボヘミティリアの領民どもを全て皆殺しにしてやったわ!!」

「ああ、ご苦労だったタイイケン。して、覇王の軍事工場は見つかったか?」

「応よっ、東地区の南東に団塊となって建てられておったが、全て爆破して破壊してやったわ! 中で働いていた技士どもも全て殺し、作られていた大量の兵器もこの俺自身が全て叩き切ってやったわ! あの(にっく)き50機の投石機どもも、今では木くずの塊よ! 後は貴様の焼き打ちの命令を受け、このボヘミティリア王国を永遠に覇王が住めぬ廃城とするのを待つのみよ!!」

 タイイケンは喜び勇んで戦いの成果を王に披露する。かつて海城王とともに戦場を駆けていた頃を思い出し、若かった頃の血潮の滾りを蘇らせていた。
そんな興奮するタイイケンに王はしかと頷き、一人の自分の家臣としてねぎらいの言葉を送る。

「そうか、よくやったタイイケン。これで海城王への手向けの炎の準備はできた。お主がこの城攻めの策を授けてくれたからこそ、俺もこの戦に勝利することができたのだ」

「フン、貴様の世辞の言葉などいらぬわ。貴様など生涯海城王様の仇なのだからな。だが、貴様がこのボヘミティリア王国を陥落させた功績だけは認めてやってもいい」

 タイイケンはそっぽを向き、悪態の言葉と賞賛の言葉を並べる。そんな捻くれ者のタイイケンもこの殺戮に心を踊らせ楽しんでいたのだ。かつて去年の4月の春に覇王軍がアルポート王国に襲来した時、タイイケンは武人として海城王と共に死ぬことを望んでいた。

 しかし今、その武人の魂に再び生きた闘志の炎が宿り、新たな敬意を示すべき主君を見出さんとしている。口にこそ出さなかったが、タイイケンは師として、ユーグリッドの成長に喜びを感じていたのだった。もはやこの虐殺の成功はアルポート王国の全ての兵の結束を固めるものだった。

 覇王打倒への未来はまもなく訪れる。その希望あるアルポートの命運に導いたユーグリッドに、アルポート軍の誰もが畏怖と尊敬の念を抱いていたのである。

「さあ、貴様が決断したこの戦いも間もなく終わりだッ!! ユーグリッド!! 焼き討ちの命令を全軍に言い渡せッ!!」

「ああ、わかっている。この戦争の勝者は我々アルポート王国だ! このボヘミティリア王国攻略の勝鬨(かちどき)をアルポート王国の全国民に、そして我が父海城王ヨーグラスに捧げるッ!!」

 ユーグリッド王は黄金の剣を天に突き刺すように掲げ、画竜点睛(がりょうてんせい)の号令を放つ。

「大鐘部隊ッ!! 鐘を鳴らせぇっ!! 全軍にボヘミティリア王国に火を放つ合図を送るのだぁっ!! その後我が軍は、ボヘミティリア王国の西門前に集合するッ!! 覇王軍が帰還する前に、全速力でアルポート王国まで転進するのだぁッ!!」

 王の凱旋(がいせん)の叫びとともに、大鐘部隊が鐘を鳴らす。それに呼応して、ボヘミティリア王国の各地で配備された他の大鐘部隊も鐘を揺らし始める。

 戦争に勝利したユーグリッド王を称えるように、覇王デンガダイの敗北を祝うように鐘の(ぜつ)の大音が天に高く響き上がる。
そしてボヘミティリアの全てが炎に焼かれた。

 その煌々(こうこう)とした(きら)めきの中、アルポート王国の全軍が迅速に城を脱出する。血を吸いきった兵士たちが西門の前に到着した時、ボヘミティリア王国は真っ赤な硝煙で溢れ返っていた。

 ボヘミティリアの虐殺も、栄光も、歴史も、そしてそこに確かにあった大国としての存在さえも、全て赤い煉獄の中に消えていく。

 兵士たちはその焦土から巻き上がる莫大な数の赤蛇の群れを眺めながら、まるで祭りのように、まるで花火が打ち上がったかのように、大声で拳を振り上げ盛り上がっていた。

 喜びの声を叫び、アルポート王国の繁栄を叫び、覇王に向かって「ざまあ見ろッ」と叫んでいる。それはまるで100年に一度しか訪れない流星が舞い降りたかのように、兵士の胸の内に何度も追憶される記憶として刻まれていた。

 この光景を絶対に忘れない。これからも、いつまでも、永遠に。そのアルポートの名誉ある記念の日を守るために兵士たちはこれからも覇王と戦い抜くのだ。

 やがてユーグリッドは全軍に撤退の号令を出す。名残惜しさを残したまま、虐殺の豪炎を後にした。

 1月27日朝8時、覇王が絶望を迎えるまで後1日となった。



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 ソキンは大砲で大量虐殺を果たした後とは思えないほど柔和な顔をしており、慇懃無礼な畏まった様子で王の前に跪いていた。
「はい、では現在のボヘミティリア王国での戦況を報告させていただきます。我々ソキン軍はボヘミティリアの西地区、北地区に1万の兵を放ち領民兵士の虐殺を行いました。同様にタイイケン軍もボヘミティリアの東地区、南地区で1万の兵力数で虐殺を行いました。そして残りの我々アルポート軍の5000兵分の兵力は今東西南北の城門前に陣を構え、脱走者を発見次第殺害を行っております。
 ほぼ全てのボヘミティリアの区域での制圧が完了しており、ご命令通り壺の中から棚の裏まで隈なく民家を索敵しました。もはやボヘミティリアの地には一人の生存者すらも残っていないでしょう。
 全てはユーグリッド陛下の御心のままに、ボヘミティリア王国の国民を根絶やしにすることが達成できたのです」
 ソキンの淡々とした禍々しい戦況報告に、悪鬼ユーグリッドは満足そうに頷く。
「そうか、ご苦労だったソキン。だがまだ上手く隠れている奴がいるかもしれない。それにこれからボヘミティリア王国に戻ってくる覇王軍にも住処を与えるわけにもいかない。タイイケンが戻り次第、覇王の国の焼き討ちを始めるぞ!」
「はい、承知しております。各地に既に工作兵を待機させており、火計の準備は万全に整っております。大鐘部隊の合図とともに、すぐに全領土に火を放つように手配してあります。そうすればこのボヘミティリアの地は1時間と立たないうちに全て火の海に沈むことになるでしょう。
 もはや覇王の国が再起することは不可能、このボヘミティリア王国はユーグリッド陛下のお望み通り、二度と人が住むことができない屍の国となるのです」
 ソキンは跪いた姿勢のまま、王に殺戮の万全な準備が進んでいることを告げる。
その敵国の完全破壊の計が成る瞬間が近づき、ユーグリッドは残忍に恐ろしくほくそ笑んだ。
「そうか、ついにここまで来たか。ようやく俺は覇王の喉元に剣を突きつけることができたのだな。故郷を失った覇王軍はもはや野盗の群れも同然。後は飢え渇き跪く覇王に、この黄金の剣を薙ぎ払うだけだ」
「ええ、ついに我々アルポート王国は栄光ある独立した国家として、覇王の支配から解放されたのです。長きに渡る覇王との隷属関係もこれで終わり、アルポート王国の赫赫《かっかく》たる繁栄の時代が始まるのです。
 あなた様のこのボヘミティリア王国殲滅の決断に、亡き海城王もさぞお喜びになられていることでしょう。あなた様はアルポート王国を救った英雄として称えられ、未来永劫その偉大なる王家レグラス家一門の名を、アルポート王国の歴史に刻むことになるでしょう」
「そうか、俺は歴史に名を残す英雄か。その響きも中々悪くない。俺もアーシュマハ大陸の王侯どもの注目の的になり、皇帝からも王の称号を正式に授与されることになるだろう。そうなれば俺の王としての名声も父上と並ぶことができる」
 重鎮ソキンの主君の褒めちぎる様に、王は強かに慢心する。もはや王の瞳には覇王が飢えて苦しみ、そして死する光景が確信となって浮かび上がっていたのだ。血に塗れた手で握る栄光の瞬間を、王は黄金の両手剣に写し鏡として投影していた。
 このボヘミティリア王国の戦争の勝敗はもはや決している。後は覇王の10万の軍とどう方《かた》をつけるのか戦略を練り、彼の者との因縁を終わらせるだけだ。
 その血の臭いと勝利に酔いしれる王の元に、猛進する軍馬の群れが駆けつけてくる。その先頭にいるのは、東と南のボヘミティリアの地区で、つい先程領民どもの殺戮を終えたばかりの大将軍、タイイケン・シンギであった。
 タイイケンの白銀の双剣は既に刀身を全て真紅に染めており、その最強の男自身も底なしの胃袋を持った熊のように、大量に人を食い殺したかの如く赤く染まった鎧兜を身に纏っていた。タイイケンは王の元に着き次第、早速快活な声で報告を始める。
「ユーグリッド! ようやく見つけたぞっ! やはり貴様はここにいたか! 貴様の指示通り、ボヘミティリアの領民どもを全て皆殺しにしてやったわ!!」
「ああ、ご苦労だったタイイケン。して、覇王の軍事工場は見つかったか?」
「応よっ、東地区の南東に団塊となって建てられておったが、全て爆破して破壊してやったわ! 中で働いていた技士どもも全て殺し、作られていた大量の兵器もこの俺自身が全て叩き切ってやったわ! あの憎《にっく》き50機の投石機どもも、今では木くずの塊よ! 後は貴様の焼き打ちの命令を受け、このボヘミティリア王国を永遠に覇王が住めぬ廃城とするのを待つのみよ!!」
 タイイケンは喜び勇んで戦いの成果を王に披露する。かつて海城王とともに戦場を駆けていた頃を思い出し、若かった頃の血潮の滾りを蘇らせていた。
そんな興奮するタイイケンに王はしかと頷き、一人の自分の家臣としてねぎらいの言葉を送る。
「そうか、よくやったタイイケン。これで海城王への手向けの炎の準備はできた。お主がこの城攻めの策を授けてくれたからこそ、俺もこの戦に勝利することができたのだ」
「フン、貴様の世辞の言葉などいらぬわ。貴様など生涯海城王様の仇なのだからな。だが、貴様がこのボヘミティリア王国を陥落させた功績だけは認めてやってもいい」
 タイイケンはそっぽを向き、悪態の言葉と賞賛の言葉を並べる。そんな捻くれ者のタイイケンもこの殺戮に心を踊らせ楽しんでいたのだ。かつて去年の4月の春に覇王軍がアルポート王国に襲来した時、タイイケンは武人として海城王と共に死ぬことを望んでいた。
 しかし今、その武人の魂に再び生きた闘志の炎が宿り、新たな敬意を示すべき主君を見出さんとしている。口にこそ出さなかったが、タイイケンは師として、ユーグリッドの成長に喜びを感じていたのだった。もはやこの虐殺の成功はアルポート王国の全ての兵の結束を固めるものだった。
 覇王打倒への未来はまもなく訪れる。その希望あるアルポートの命運に導いたユーグリッドに、アルポート軍の誰もが畏怖と尊敬の念を抱いていたのである。
「さあ、貴様が決断したこの戦いも間もなく終わりだッ!! ユーグリッド!! 焼き討ちの命令を全軍に言い渡せッ!!」
「ああ、わかっている。この戦争の勝者は我々アルポート王国だ! このボヘミティリア王国攻略の勝鬨《かちどき》をアルポート王国の全国民に、そして我が父海城王ヨーグラスに捧げるッ!!」
 ユーグリッド王は黄金の剣を天に突き刺すように掲げ、画竜点睛《がりょうてんせい》の号令を放つ。
「大鐘部隊ッ!! 鐘を鳴らせぇっ!! 全軍にボヘミティリア王国に火を放つ合図を送るのだぁっ!! その後我が軍は、ボヘミティリア王国の西門前に集合するッ!! 覇王軍が帰還する前に、全速力でアルポート王国まで転進するのだぁッ!!」
 王の凱旋《がいせん》の叫びとともに、大鐘部隊が鐘を鳴らす。それに呼応して、ボヘミティリア王国の各地で配備された他の大鐘部隊も鐘を揺らし始める。
 戦争に勝利したユーグリッド王を称えるように、覇王デンガダイの敗北を祝うように鐘の舌《ぜつ》の大音が天に高く響き上がる。
そしてボヘミティリアの全てが炎に焼かれた。
 その煌々《こうこう》とした煌《きら》めきの中、アルポート王国の全軍が迅速に城を脱出する。血を吸いきった兵士たちが西門の前に到着した時、ボヘミティリア王国は真っ赤な硝煙で溢れ返っていた。
 ボヘミティリアの虐殺も、栄光も、歴史も、そしてそこに確かにあった大国としての存在さえも、全て赤い煉獄の中に消えていく。
 兵士たちはその焦土から巻き上がる莫大な数の赤蛇の群れを眺めながら、まるで祭りのように、まるで花火が打ち上がったかのように、大声で拳を振り上げ盛り上がっていた。
 喜びの声を叫び、アルポート王国の繁栄を叫び、覇王に向かって「ざまあ見ろッ」と叫んでいる。それはまるで100年に一度しか訪れない流星が舞い降りたかのように、兵士の胸の内に何度も追憶される記憶として刻まれていた。
 この光景を絶対に忘れない。これからも、いつまでも、永遠に。そのアルポートの名誉ある記念の日を守るために兵士たちはこれからも覇王と戦い抜くのだ。
 やがてユーグリッドは全軍に撤退の号令を出す。名残惜しさを残したまま、虐殺の豪炎を後にした。
 1月27日朝8時、覇王が絶望を迎えるまで後1日となった。