置き去りの心
ー/ー 季節は初夏。
半袖の腕を伝う風までもがエメラルドな6月が、これから体育祭一色に染まって行く。
「ねーねー、どこまで行った?」
「ねーねー、どこまで行った?」
下駄箱のところで南緒と鉢合わせたら、にやにやしながらそんなことを尋ねてきた。
朝からこういうことを聞かれると、食べた物が胃の中からせり上がってきそうになる。小林雄眞とのことだ。
正直言って雄眞とはそんなこと想像したくもないしされるのも嫌。
「キスくらいはした?」
「してないよ」
彼をそういう対象として意識したこともないのに、否定すればするほど耳が熱くなる。きっと赤くなっているんだろう。それを隠そうと、結び直すふりで髪を下ろす。
「雄眞さ、ずーっと好きだったんだよ。盟子鈍感だからぜんっぜん気付いてなかったけど。てか鈍感すぎ」
そういうのって気づいてあげないといけないものだろうか。気づかない方が悪いんだろうか。
「雄眞は雄眞でトロいしさー、ほんと私が背中押さなかったら永遠に付き合ってなかったよ」
またそれを言う。うんざりするくらい聞かされたセリフを南緒はまた繰り返す。何かとてつもなく立派なことでもしたように。
「盟子もやっと初彼じゃん!」
初彼。
違和感しかないその言葉。
「ほんともう私に感謝してほしい。今度何か奢ってよ!」
「ほんともう私に感謝してほしい。今度何か奢ってよ!」
そんな南緒に、盟子は中途半端に微笑むことしかできない。感謝してと何度言われても、ありがとうと言いたくない自分がいる。でも嫌だとはっきり言って対立するのは怖い。一番嫌いなのはこんな自分。
それにしたって、小林が私を好いてくれてたのは解ったけれど、その逆はどうなのかって考えないの?
私、小林が好きだなんて一言も言ってないんですけど。
そう考えると無性に腹が立ってきて、でも誰にもどこにもぶつけようがない。一方的に守谷に付きまとう南緒にはどうせ理解できないだろう、それはもう絶望的に。「恋愛とか付き合うとか言うのはまずは双方の合意が」なんて説いたところで。
そのくせ、どうにか回避できないものかと他力本願に唇ばかり噛んでいる自分にもうんざりする。
「付き合う」とか「好き」だとかの定義が未だに明確じゃない。
あの時は雄眞に押し切られて拒否できなかったけれど、だとしても拒否できないイコール付き合う、という消去法的図式はやっぱりおかしい気がする。
好きと言う気持ちはもっとこう自発的で、心が弾んだり痛くなったりするものじゃないんだろうか。
そりゃあ、雄眞とならのんびり楽しく気兼ねなくやっていけそうではある。でもそれなら友達のままでも同じ。
心を置き去りにして動き出してしまったこの関係から、本当はいち抜けたい。でもそうしたら南緒は何と言うだろう。雄眞は。
そのことを考え始めると、息ができなくなるような感覚に襲われる。私はこのまま他人の思惑にからめとられて、望まない方向に引っ張られていくのだろうか。
「雄眞と何かあったら相談にも乗るからさ」
何かって、何?
相談?
だったらこういうの、もうやめて。全部やめて。今すぐ。
面と向かってそう言えたらどんなに良いだろう。
それにしたって、小林が私を好いてくれてたのは解ったけれど、その逆はどうなのかって考えないの?
私、小林が好きだなんて一言も言ってないんですけど。
そう考えると無性に腹が立ってきて、でも誰にもどこにもぶつけようがない。一方的に守谷に付きまとう南緒にはどうせ理解できないだろう、それはもう絶望的に。「恋愛とか付き合うとか言うのはまずは双方の合意が」なんて説いたところで。
そのくせ、どうにか回避できないものかと他力本願に唇ばかり噛んでいる自分にもうんざりする。
「付き合う」とか「好き」だとかの定義が未だに明確じゃない。
あの時は雄眞に押し切られて拒否できなかったけれど、だとしても拒否できないイコール付き合う、という消去法的図式はやっぱりおかしい気がする。
好きと言う気持ちはもっとこう自発的で、心が弾んだり痛くなったりするものじゃないんだろうか。
そりゃあ、雄眞とならのんびり楽しく気兼ねなくやっていけそうではある。でもそれなら友達のままでも同じ。
心を置き去りにして動き出してしまったこの関係から、本当はいち抜けたい。でもそうしたら南緒は何と言うだろう。雄眞は。
そのことを考え始めると、息ができなくなるような感覚に襲われる。私はこのまま他人の思惑にからめとられて、望まない方向に引っ張られていくのだろうか。
「雄眞と何かあったら相談にも乗るからさ」
何かって、何?
相談?
だったらこういうの、もうやめて。全部やめて。今すぐ。
面と向かってそう言えたらどんなに良いだろう。
どうして私はそれが言えないんだろう。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
季節は初夏。
半袖の腕を伝う風までもがエメラルドな6月が、これから体育祭一色に染まって行く。
「ねーねー、どこまで行った?」
下駄箱のところで南緒と鉢合わせたら、にやにやしながらそんなことを尋ねてきた。
朝からこういうことを聞かれると、食べた物が胃の中からせり上がってきそうになる。小林雄眞とのことだ。
正直言って雄眞とはそんなこと想像したくもないしされるのも嫌。
朝からこういうことを聞かれると、食べた物が胃の中からせり上がってきそうになる。小林雄眞とのことだ。
正直言って雄眞とはそんなこと想像したくもないしされるのも嫌。
「キスくらいはした?」
「してないよ」
彼をそういう対象として意識したこともないのに、否定すればするほど耳が熱くなる。きっと赤くなっているんだろう。それを隠そうと、結び直すふりで髪を下ろす。
「してないよ」
彼をそういう対象として意識したこともないのに、否定すればするほど耳が熱くなる。きっと赤くなっているんだろう。それを隠そうと、結び直すふりで髪を下ろす。
「雄眞さ、ずーっと好きだったんだよ。盟子鈍感だからぜんっぜん気付いてなかったけど。てか鈍感すぎ」
そういうのって気づいてあげないといけないものだろうか。気づかない方が悪いんだろうか。
「雄眞は雄眞でトロいしさー、ほんと私が背中押さなかったら永遠に付き合ってなかったよ」
またそれを言う。うんざりするくらい聞かされたセリフを南緒はまた繰り返す。何かとてつもなく立派なことでもしたように。
そういうのって気づいてあげないといけないものだろうか。気づかない方が悪いんだろうか。
「雄眞は雄眞でトロいしさー、ほんと私が背中押さなかったら永遠に付き合ってなかったよ」
またそれを言う。うんざりするくらい聞かされたセリフを南緒はまた繰り返す。何かとてつもなく立派なことでもしたように。
「盟子もやっと初彼じゃん!」
初彼。
初彼。
違和感しかないその言葉。
「ほんともう私に感謝してほしい。今度何か奢ってよ!」
「ほんともう私に感謝してほしい。今度何か奢ってよ!」
そんな南緒に、盟子は中途半端に微笑むことしかできない。感謝してと何度言われても、ありがとうと言いたくない自分がいる。でも嫌だとはっきり言って対立するのは怖い。一番嫌いなのはこんな自分。
それにしたって、小林が私を好いてくれてたのは解ったけれど、その逆はどうなのかって考えないの?
私、小林が好きだなんて一言も言ってないんですけど。
私、小林が好きだなんて一言も言ってないんですけど。
そう考えると無性に腹が立ってきて、でも誰にもどこにもぶつけようがない。一方的に守谷に付きまとう南緒にはどうせ理解できないだろう、それはもう絶望的に。「恋愛とか付き合うとか言うのはまずは双方の合意が」なんて説いたところで。
そのくせ、どうにか回避できないものかと他力本願に唇ばかり噛んでいる自分にもうんざりする。
そのくせ、どうにか回避できないものかと他力本願に唇ばかり噛んでいる自分にもうんざりする。
「付き合う」とか「好き」だとかの定義が未だに明確じゃない。
あの時は雄眞に押し切られて拒否できなかったけれど、だとしても拒否できないイコール付き合う、という消去法的図式はやっぱりおかしい気がする。
好きと言う気持ちはもっとこう自発的で、心が弾んだり痛くなったりするものじゃないんだろうか。
あの時は雄眞に押し切られて拒否できなかったけれど、だとしても拒否できないイコール付き合う、という消去法的図式はやっぱりおかしい気がする。
好きと言う気持ちはもっとこう自発的で、心が弾んだり痛くなったりするものじゃないんだろうか。
そりゃあ、雄眞とならのんびり楽しく気兼ねなくやっていけそうではある。でもそれなら友達のままでも同じ。
心を置き去りにして動き出してしまったこの関係から、本当はいち抜けたい。でもそうしたら南緒は何と言うだろう。雄眞は。
そのことを考え始めると、息ができなくなるような感覚に襲われる。私はこのまま他人の思惑にからめとられて、望まない方向に引っ張られていくのだろうか。
心を置き去りにして動き出してしまったこの関係から、本当はいち抜けたい。でもそうしたら南緒は何と言うだろう。雄眞は。
そのことを考え始めると、息ができなくなるような感覚に襲われる。私はこのまま他人の思惑にからめとられて、望まない方向に引っ張られていくのだろうか。
「雄眞と何かあったら相談にも乗るからさ」
何かって、何?
相談?
だったらこういうの、もうやめて。全部やめて。今すぐ。
何かって、何?
相談?
だったらこういうの、もうやめて。全部やめて。今すぐ。
面と向かってそう言えたらどんなに良いだろう。
どうして私はそれが言えないんだろう。