さすがにもう離れたくなってきた。
いくら寄りかかってきたのが可愛い女子高生だとしても、既に最寄り駅を6つも過ぎている。しかも相手は起きる気配がない。
次だ。次の駅で起きなかったらなるべく穏便な方法で起こそう。心の中で決意を固め、なんとか起きてくれることを願う。
大体この子も寝てて大丈夫なのか。降りる駅なんてとっくに通り過ぎてるんじゃないか。
ジッと座った時からほぼ同じポーズで待つこと数分、とうとう電車は駅についてしまった。
無理やりにでも起こすしかない。キョロキョロと辺りを見回すが、車内にはあまり乗客がいない。俺が不埒を働いていないことを証言してくれる人はいなそうだ。
しかしこれ以上時間を無為に過ごすのも許容できない。俺はゴクッと生唾を呑み込み、もはや殆ど横になって寝ている美少女の肩を叩いた。
トン、トン、と2回。軽く叩いてみる――無反応。すやすや眠っている。
もう1回、今度は少し小刻みに。最後に軽く揺さぶると「んぅ……」と美少女が声を漏らす。
ここで退いたらだめだ。俺はさらにゆるく拳を作ってコツコツと肩の骨を叩く。
すると美少女は意外にもムクッと普通に起き上がり、パチパチと目を瞬かせた。
どうやら寄りかかっていたことにまだ気付いていない。チャンスは今しかない。
スッと何事もなかったかのように立ち上がり、俺は電車を降りる。本来ここで降りるつもりでしたみたいな顔で降りて、チラッとさっきまで座っていたところへ視線をやる。
美少女がびっくりした顔でキョロキョロしていた。きっと自分がこんなところまで来てしまったことに驚いているのだろう。
せいぜい無事に帰ってくれ。なんて思っていると、不意に美少女が外を、俺を見つけた。
大きな目を真ん丸にして俺を見ている。ブラウンでもレッドでもない、オレンジ色の瞳の美しさに俺は思わず言葉を失う。
寝ていたから分からなかったけど、あんな目をしていたなんて。
なんだか人間離れした美しさに俺は見惚れてしまい、なぜか美少女も俺を見つめ続ける。
やがて車両の扉が閉まる。ゆっくりと電車が動き始めたが、俺と美少女は互いに目を離すことができずにいた。
美少女が視界から遠ざかり、見えなくなったところで俺はようやく瞬きをする。
なんというか、すごいものを見てしまったような気がする。オレンジ色の瞳の真っ白な制服を着た美少女。あの子と見つめ合った時間はたった数秒だというのに、やけに長く感じた。
それだけじゃない。さっきまでグルグルと胸の中で渦巻いていた元恋人への後悔とか疑問とか、全部消えてなくなっていた。どうでもよくなっていたのだ。
家に帰って誰もいない空間に向かってくだを巻きながら酒を煽ってそのまま床で寝るつもりだったのに、今はなにも考えられない。
ただ俺を見つめ続けるあの美少女の顔しか、頭の中に浮かんでこなかった。
「あー……とりあえず帰ろう」
駅のホームで一人呟き、反対側へ向かう。
ずっと寄りかかられていたせいで、左の太ももに少しだけ熱が残っている気がした。