2
ー/ー
僕が現実をプラスティックだと思わなかった時期。
想子は白く仄かで儚げだった。一人で立ってるのは辛そうな女の子だった。
くるくると表情を変える想子は大輝の前。静かに泣いてる想子は僕の前。そうやって上手くやってきたじゃないか。
空の色は曇ったグレー。僕の元から少なかった物の部屋はあれからもっと少なくなり、モノクロに包まれた空虚な部屋だ。
「ああ、こうやってしまうのは君が忘れられない僕の罪のせいだね」
僕の部屋に響く自分の声は随分静かで、部屋は空っぽなのにまるで響かない。
僕の心には想子だけがいる。僕はこの日、今日という日。きっと君と僕が本当の意味で結ばれた日を忘れられない。僕の腹部に残した傷跡は想子との記念だ。
ーーあの日。想子が死んだ日。あの日の東京と想子の鮮明さは燦爛としていて僕の目を焼き切ってしまったようだ。
僕は想子が死んだ時にあったナイフと同じものを持っている。そのナイフだけは鮮明で、木材の柄には艶があり、ナイフ部分は包丁とまで行かないがペティナイフよりは大きめだ。
僕はそれを強く枕に突き刺した。突き刺したナイフを枕から引き抜くと、はらわたのように噴き出てくる綿。綿は広がり宙を舞う。そこに僕は自分の掌を刺して血を流した。
そうこれは、あの日の僕だ。
「これが僕で、君はここにいて笑ってる」
笑顔の想子は僕をみていて、僕に語りかけている。
「きっとこれで全てが完成するの」
僕には一つもわからなかった。きっとこれは僕の浅はかさであり、罪なんだろう。
やけに鮮明に残っているのは過去の記憶だけだ。僕たちは煌めく都会に卒業旅行に来ていた。よく女の子一人、男二人の3人の中学生を旅行に出してくれたものだと思っていた。
あの時、僕を刺したのは紛れもなく想子。なのに、想子は栗毛気味の髪の毛をベッドに投げやって、寝ていた。綺麗にも思えたその様子を覆すのは赤い色だった。
赤色の鮮明さだけはやけに今でも現実的で、気持ちを潜らせる度、想子は僕に何を伝えたかったのかを考える。
大輝には内緒の時間。大輝はきっと何も知らないんだろう。こんな二人の劣情を。
想子の部屋には僕と想子。これからあるのはいつもの泣いている想子の慰めの相手だと思っていた。僕の彼女は紛れもなく想子で、まともに想子は愛を伝えて来なかった。だが「大輝には言えないの」これが想子の口癖だった。
いつものように涙ぐむ様子に僕は想子を抱き寄せる。その瞬間だ。
一瞬の出来事であった。
二人の空間突然起きた僕への危害。僕のはらわたに刺さるように想子は刺していた。現実味がなかった現実は、痛さと共にやってきた。
「想子、どうしたの」僕がやっと言えたのはその言葉だった。
「やっと、やっとよ」
想子はそう言いながらくるくると笑って、ベッドに座る。想子は今までで一番可愛かった。ぼんやりとしてくる視界の中で、僕が視界に入っていないことがわかる。
流れていく血を見るとまるで自分が道端で轢かれた鳥のようになっている気持ちになった。道端に転がっている石のようにも感じた。だが、僕はぼやける視界をなんとか開けようと抗う。でも、想子は気づいた時には居なくなっていた。
物理的にいなくなっていたわけではなくて、眠り姫のように寝ていた。鮮明に映るその姿は、栗毛気味の髪の毛をベッドに投げやって、寝ていた。綺麗にも思えたその様子を覆すのは赤い色だった。まるで天使だった。この世を終わりを告げるような天使の姿だった。
そして、部屋は扉の音が聞こえる。まるで全てが仕組まれたようだった。
僕が目を覚ますと、そこは病院だった。僕が見れたのは本当に眠りから覚めない眠り姫になってしまった想子の姿。そして、僕は誰よりも最後に目覚め見るのも一番最後だった。
体温があったはずの体は冷たくて、今はもう遠い人であることを叩きつけられた。僕は一人想子に祈るように呟き続けた。
何があったと言うんだ想子。僕たちはなんだかんだ上手くやってきたじゃないか。僕たち3人はどうしようもない関係だったが、上手くやってきたじゃないか。僕が最後に見たのは想子の笑顔だった。何にそんなに喜んでいたと言うんだ。僕にも教えてよ。僕は上手く君への劣情を隠してきていただろう。
祈りはどこにも届かない。色彩もどこかに消えていってしまった。きっと君が浅はかな僕には無用な長物だと奪っていってしまったのだろう。
愛してる。どこまでいっても。どうしようもない僕だけれど。こんなことになっても君を忘れない。この世のどこにもいない君は僕のもので僕が愛している。最初で最後の最愛の人だ。
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想子は白く仄かで儚げだった。一人で立ってるのは辛そうな女の子だった。
くるくると表情を変える想子は大輝の前。静かに泣いてる想子は僕の前。そうやって上手くやってきたじゃないか。
空の色は曇ったグレー。僕の元から少なかった物の部屋はあれからもっと少なくなり、モノクロに包まれた空虚な部屋だ。
「ああ、こうやってしまうのは君が忘れられない僕の罪のせいだね」
僕の部屋に響く自分の声は随分静かで、部屋は空っぽなのにまるで響かない。
僕の心には想子だけがいる。僕はこの日、今日という日。きっと君と僕が本当の意味で結ばれた日を忘れられない。僕の腹部に残した傷跡は想子との記念だ。
ーーあの日。想子が死んだ日。あの日の東京と想子の鮮明さは燦爛としていて僕の目を焼き切ってしまったようだ。
僕は想子が死んだ時にあったナイフと同じものを持っている。そのナイフだけは鮮明で、木材の柄には艶があり、ナイフ部分は包丁とまで行かないがペティナイフよりは大きめだ。
僕はそれを強く枕に突き刺した。突き刺したナイフを枕から引き抜くと、はらわたのように噴き出てくる綿。綿は広がり宙を舞う。そこに僕は自分の掌を刺して血を流した。
そうこれは、あの日の僕だ。
「これが僕で、君はここにいて笑ってる」
笑顔の想子は僕をみていて、僕に語りかけている。
「きっとこれで全てが完成するの」
僕には一つもわからなかった。きっとこれは僕の浅はかさであり、罪なんだろう。
やけに鮮明に残っているのは過去の記憶だけだ。僕たちは煌めく都会に卒業旅行に来ていた。よく女の子一人、男二人の3人の中学生を旅行に出してくれたものだと思っていた。
あの時、僕を刺したのは紛れもなく想子。なのに、想子は栗毛気味の髪の毛をベッドに投げやって、寝ていた。綺麗にも思えたその様子を覆すのは赤い色だった。
赤色の鮮明さだけはやけに今でも現実的で、気持ちを潜らせる度、想子は僕に何を伝えたかったのかを考える。
大輝には内緒の時間。大輝はきっと何も知らないんだろう。こんな二人の劣情を。
想子の部屋には僕と想子。これからあるのはいつもの泣いている想子の慰めの相手だと思っていた。僕の彼女は紛れもなく想子で、まともに想子は愛を伝えて来なかった。だが「大輝には言えないの」これが想子の口癖だった。
いつものように涙ぐむ様子に僕は想子を抱き寄せる。その瞬間だ。
一瞬の出来事であった。
二人の空間突然起きた僕への危害。僕のはらわたに刺さるように想子は刺していた。現実味がなかった現実は、痛さと共にやってきた。
「想子、どうしたの」僕がやっと言えたのはその言葉だった。
「やっと、やっとよ」
想子はそう言いながらくるくると笑って、ベッドに座る。想子は今までで一番可愛かった。ぼんやりとしてくる視界の中で、僕が視界に入っていないことがわかる。
流れていく血を見るとまるで自分が道端で轢かれた鳥のようになっている気持ちになった。道端に転がっている石のようにも感じた。だが、僕はぼやける視界をなんとか開けようと抗う。でも、想子は気づいた時には居なくなっていた。
物理的にいなくなっていたわけではなくて、眠り姫のように寝ていた。鮮明に映るその姿は、栗毛気味の髪の毛をベッドに投げやって、寝ていた。綺麗にも思えたその様子を覆すのは赤い色だった。まるで天使だった。この世を終わりを告げるような天使の姿だった。
そして、部屋は扉の音が聞こえる。まるで全てが仕組まれたようだった。
僕が目を覚ますと、そこは病院だった。僕が見れたのは本当に眠りから覚めない眠り姫になってしまった想子の姿。そして、僕は誰よりも最後に目覚め見るのも一番最後だった。
体温があったはずの体は冷たくて、今はもう遠い人であることを叩きつけられた。僕は一人想子に祈るように呟き続けた。
何があったと言うんだ想子。僕たちはなんだかんだ上手くやってきたじゃないか。僕たち3人はどうしようもない関係だったが、上手くやってきたじゃないか。僕が最後に見たのは想子の笑顔だった。何にそんなに喜んでいたと言うんだ。僕にも教えてよ。僕は上手く君への劣情を隠してきていただろう。
祈りはどこにも届かない。色彩もどこかに消えていってしまった。きっと君が浅はかな僕には無用な長物だと奪っていってしまったのだろう。
愛してる。どこまでいっても。どうしようもない僕だけれど。こんなことになっても君を忘れない。この世のどこにもいない君は僕のもので僕が愛している。最初で最後の最愛の人だ。