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Side - 16 - 29 - それぞれのにちじょう、ひにちじょう、に -

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Side - 16 - 29 - それぞれのにちじょう、ひにちじょう、に -


〜ラングレー王国 港街カルタス〜

もっしゃもっしゃ・・・

ごっごっごっ・・・

「ぷはぁ!、一仕事終えた後の昼ごはんはうまいっす!、午後からはお休みだから家に帰って寝てもいいっすけど今日はいい天気・・・お客さんを案内する新店舗の開拓でもするっすかね」

「フィーちゃん相変わらずいい食いっぷりだね」

「はいっす!、ウチは身体が資本っすからね、いっぱい食べていっぱい鍛えるっす!」

ムキーン!

「さすがゴンドラ漕ぎだ、俺の腕より逞しいな・・・って女の子にこんな事言っちゃダメだな、ごめんよ」

「気にしなくていいっすよ」

私の名前はミッフィー・コング、このカルタスの街で人気のゴンドラ漕ぎをやっています。

普段の口調は外見に合わせておどけた感じになっていますが本当の私は内気で可愛いものが大好きな女の子、街の人達にも私の素顔は見せた事がありません。

「あ、売店のおばちゃんだ、こんにちはっす!」

「おや、フィーちゃん今日はお休みかい?」

「はいっす、お昼からお休みをいただいているっすよ・・・あ、これは見た事のない木工細工っすね」

「今度ここで売り出す新商品さ、私の手作りだよ」

「へー、可愛いっすね、ゴンドラのお客にも紹介していいっすか?」

「あぁ、もちろんだよ、こっちからお願いしようと思ってたんだ」

この街は大陸中から訪れる観光客で栄えています、だからお土産屋さんや飲食店が沢山あって大通りはとても賑やか、暇な時にはこの辺のお店によく顔を出しているので店主さん達とは顔馴染みなのです。

「少し路地裏も散策するっすかね」

ゴンドラに乗ってくれたお客に紹介するお店は全部私が歩き回って見つけた素敵なお店、「フィーちゃんのおすすめスポット」はとても好評で何度も利用してくれるお客もいます、だから新しいお店を見つける為にお休みの時はこの街の隅々まで足を伸ばします。

「おっと、ここは確か空き家だった筈っす、可愛いお店が出来てるっすね、でもまだ開店してないみたいっす・・・」

大通りから狭い路地に入った一番奥にある目立たない場所、この先は行き止まりで他にはパン屋さんとお菓子屋さん、それとレストランが2軒あるだけ・・・人通りは少ないけれど4軒とも素晴らしい味の文字通り穴場スポット。

のぞきっ・・・

「えーと、近日開店・・・リゼとマリアンヌの雑貨店、小物やぬいぐるみ、魔道具などを取り扱い・・・」

ドアの横にある看板の文字を読んでいるとお店の中に人の気配がしました、窓から中を覗くと・・・。

「あれ、あの子はこの前私のゴンドラに乗ってくれたお客っすね」

銀髪の13歳くらいの女の子、左目には眼帯をして足が不自由なのか杖を使っています、特徴のある子だから印象に残って・・・あ、女の子と目が合った。

とてとて・・・

がちゃ

「あ、こんにちはっす、勝手に中を覗いてごめんなさい、何のお店か気になって・・・」

店の外に出て来た女の子はじっと私を見ています、冷たい目をしていて無表情・・・余計なお世話かもしれないけれど接客向きじゃないかも・・・。

「こんにちは・・・フィーちゃんさん?・・・この前ゴンドラに乗せてくれた・・・」

向こうも私を覚えてくれてたみたい、自慢じゃないけど私は印象が強いから人に覚えてもらえるし、この子はとても無口だけど前に街を案内していた時に得意の話術で結構仲良くなったのです。

「はいそうっすよ、ここでお店始めるんっすか?」

「うん、このお店はお母様への誕生日プレゼント・・・お母様お裁縫が得意だからここで売ろうかと思って・・・中を見る?」

相変わらず声が小さくて聞き取りにくいなぁ、お店丸ごとプレゼントってこの子はお金持ちの貴族様かな、開店準備中のお店を見せてくれるみたいです。

「どうぞ・・・」

「わぁ・・・可愛い!」

思わず素の口調に戻ってしまいました、おしゃれな内装、お店の棚には沢山の可愛いぬいぐるみが飾られています、それに色鮮やかな帽子やバッグ、しかもどれも可愛い・・・これは人気店になりそう。

中にはもう一人、棚にぬいぐるみを飾っている長身の女性・・・細いけれどまるで騎士様のような引き締まった筋肉、とても美人さんです。

「すごく素敵なお店っすね」

どういった原理か全く分からない、私の足元で勝手に動いて尻尾を振る小動物のぬいぐるみを横目に見ながら女の子に言いました。

「ありがとう・・・これは全部私とお母様の手作り、でも私やお母様は接客苦手だから店員さんを雇う予定なの・・・よろしく・・・」

「店員さんはもう雇ったんっすか?」

「ううん、まだ・・・この街知り合い居なくて・・・」

「私の友達にいい子が居るっすよ、大通りの雑貨店で雇われてた子なんっすけど、店長さん身体悪くして閉店するとかで解雇になっちゃって・・・働き者のいい子っすから良かったら紹介しましょうか?」

「うん、お願いできる・・・かな?」







〜日本 東京都内某所〜

かきかき・・・

すっ・・・

「どうぞ」

「あぁ、ありがとう、いつも悪いね」

「・・・いえ」

「これ面白かったよ、4巻はもう出てるのかい?」

「・・・いえ、来月発売・・・です」

「そう、1階にある書店に予約を入れておこう」

「あの・・・送られて来た献本があるので・・・良かったら・・・」

「いや、ファンとしては作家さんを買い支えないとね、私が買ったくらいじゃそんなに変わらないだろうけど」

「・・・」

こんにちは、私の名前は薄刃沙霧(うすばさぎり)、26歳独身・・・。

今私の目の前に居る久露鬼猫介(くろきねこすけ)警部補の補佐官をやらせてもらっています。

彼が手に持っている本は私が書いた小説・・・雌垣翔太(めすがきしょうた)著、「メスガキお嬢様はゴリマッチョがお好き」の3巻、久露鬼警部補からお願いされて本にサインを書いた所です。

本の表紙は生意気そうな令嬢が筋肉モリモリマッチョマンに「ピー」されているところが新進気鋭のイラストレーター、Yas-M!(やすむ)先生による可愛らしい絵で描かれ、帯には「メスガキ死すともマッチョは死せず」「シリーズ累計150万部突破」の文字が大きく・・・。

フルフル・・・

「ど・・・どうしたんだい?、また体調でも悪く・・・」

「いえ!、何でもありません!」

警部補から目を逸らすとついこの前までは画集や洋書、心理学などのお堅い本が並んでいた本棚が目に入ります、その棚を侵食しつつある雌垣翔太(めすがきしょうた)のエロ小説が異彩を放ち、初回特典のポスターや抽選で当たるサイン色紙が額装されて壁に・・・。

モノトーンの家具で統一されたクールで居心地のいいオフィスが私のせいで・・・。

「嫌あぁぁぁぁぁぁ!」

「沙霧くん?」

「・・・申し訳ありません、少し情緒不安定で・・・突然叫びたくなりまして、もう大丈夫ですので!・・・こほん・・・今日の午後からのスケジュールは15時から首相官邸で・・・」

今はまだ良いのです、彼は書店で目に付いた新刊を中心に買っているので・・・。

でも全部集めたいと言ってたし時間の問題かも、内容がハードボイルド過ぎて売れず、重版もされなかったあの作品、あれが彼に読まれてしまったら私は・・・私わぁぁ!。

「本当に大丈夫?、顔色が悪いよ・・・」

「大丈夫です!」

作品のタイトルは「黒猫ダブルダウン」、主人公のモデルは久露鬼警部補、ヒロインは超絶美化した私、政府から命じられた危険な仕事の途中、密室に閉じ込められもはやこれまでという状況で2人は欲望のままに肌を重ね・・・というお話、私の性癖と妄想がダダ漏れの特級呪物・・・。

担当編集さんからは・・・。

「いやぁ良いですね先生!、処女の妄想大爆発って感じで超エロいわぁ・・・あ、でもお尻攻めのところは過激過ぎて真似されるとちょっと問題になりそうなので・・・指定した箇所を書き直して欲しいです!」

などと言って貰ったのに全く売れなかったから絶版に・・・久露鬼警部補が古書店にまで足を伸ばして本を手に入れる性格じゃない事を祈るしかありません。








〜日本 東京都内某飲食店〜

がやがや・・・

ざわざわ・・・

「ねぇ、あの男の人かっこいい」

「え・・・あれ女性じゃないかな、小さいけど胸あるし」

「嘘ぉ!」

・・・

「・・・小さいは余計だろ(ぼそっ)」

「あはは、また男と間違えられてるね佳子(けいこ)ちゃん」

都内、ダメダ珈琲店の奥の席でノートパソコンを眺めてる私の名前は京羽泰芽(きょうはやすめ)、そこそこ大きな企業でOLをやっています。

今日は休日、友達と待ち合わせてお買い物・・・の前にお昼を食べています、私の目の前には別の会社に勤めている唐手乃佳子(からてのけいこ)ちゃん、ボーイッシュでかっこいい私の幼馴染です。

私はOLの他に副業もやっていて・・・実はYas-M!(やすむ)というペンネームで商業活動中のイラストレーターなのです!。

最近少し寝不足で本業の時に居眠りしそう、私は受付嬢だからお客様がいない時は本当に・・・zzz。

「ダメだぁ、また意識が飛びかけた!、もっとちゃんとしないと・・・お仕事と趣味、両立するって決めたのに」

「相当疲れてるっぽいね、受付で寝てるんじゃないの?」

「ね・・・寝てないよ!」

「趣味の方も本格的にお仕事になっちゃったね、忙しそうだけど大丈夫?」

「うん、雌垣(めすがき)先生の新刊が3冊立て続けに出るから忙しかっただけ、でも昨日の晩に3冊目の表紙イラスト入稿できたから・・・」

「今やベストセラー作家の挿絵担当かぁ、本業より儲けてるよね?」

「えと・・・本業の方もお給料いいけど、その2倍くらい?」

「わぁ・・・羨ましいなぁ、・・・それにしても凄い名前だねー、メスガキ先生・・・最近はエロ神様とか淫魔神って呼ばれてるんだっけ」

「うん、そうなの、先生はすごいの!、もうエロ描写が神懸ってるし!」

「3冊とも別のお話なんでしょ、普通は他のイラストレーターさんが分担して書くものじゃないの?」

「そうなんだけど、最初のお仕事で先生に気に入られちゃって・・・次の新作もお願い、その次も・・・って感じでね・・・」

「で、ほとんど専属になったと・・・でも結構メスガキ先生に影響されてきてるよね、最近の泰芽(やすめ)ちゃんのイラストほんっとにエロいし!」

「修正無しのやつ、いる?」

「うん」

「メールでいい?」

「うん」

ぽちー

「・・・あっ、間違えて真希ちゃんにも送っちゃった・・・」

「あはははは!」









〜ラングレー王国 セフィーロの街〜

ぐつぐつ・・・

まぜまぜ・・・

つまみっ

「ふむ・・・この香りと味わい、ソースはほぼ完璧に再現できたようだ、あとはパンと肉だな・・・パンの代わりにはピザ生地を使うとして、ひき肉を丸めて上からソースかけるか」

俺の名前はディアズ・オーケー、訳あってこれは偽名だ、本当の名前はイッヌ・ネッコォ、没落したローゼリア王国上級貴族、ネッコォ家の長男だった。

そんな俺が貴族の身分を捨ててこの国に来てから早いもので22年になる、今は小さな田舎街のレストラン「アップルツリー」の雇われ店長だ。

ここ数日俺は悩んでいた、悩みの原因は店のオーナーから預かったティナという少女だ、食事と住む場所を与えて働かせてくれ、給金はいらない・・・そう言って俺に丸投げされた。

問題の少女はというと・・・今は機嫌を損ねて口もきいてくれない、あぁ、分かってるよ、悪いのは俺だ。

彼女が使う日用品を定期的に届けてくれるリベラ嬢ちゃん、彼女が持ってきたモスヴァーガァという食べ物・・・今まで嗅いだ事のないいい香りがして俺は思わずティナ嬢ちゃんの為に用意されたそいつを食った。

すげぇ美味かったな、柔らかいパンと肉、そして絶品のソース・・・その味を堪能しているとドアの向こうでこの世の終わりのような顔をしたティナ嬢ちゃんが立っていた。

「”$`!、&$@^@#!!T_T#!」

大声で何か叫んで俺に襲い掛かって来たが何も無いところで躓いてコケた、しかも顔から・・・痛そうだ。

おそらく俺がモスヴァーガァとやらを食っちまった事に怒っているんだろう、だが美味過ぎて途中で止まらなかったんだから仕方ないじゃねぇか。

「わあぁぁぁ!、えぐっ・・・うぐっ、うわぁぁん!」

ティナ嬢ちゃんは顔から倒れたまま号泣してる、ガチ泣きだった。

「おい、大丈夫か?、これすげぇ美味いな、食っちまったのは謝る・・・」

「うっく・・・ひっく」

ぐしぐし・・・

立ち上がったティナ嬢ちゃんの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた、袖で拭くなよ汚ねぇなぁ。

だっ・・・

それから丸一日飯も食わずに部屋に閉じ籠ってた、流石に罪悪感を感じた俺は謝りに行ったが扉越しに声をかけても反応が無い。

次の日も閉じ籠ってるのかと思ったら部屋から出て来て厨房の皿を洗い始めた、だが俺に対して目も合わせてくれない、相当怒ってるな。

彼女と会話がないまま2日が過ぎた頃、店にリベラ嬢ちゃんがやって来た、手にはモスヴァーガァと思われる紙袋、今度は俺の分もあるようだ、俺はリベラ嬢ちゃんに伝言を頼んだ。

伝言が伝わったかどうか分からないが、仕事が終わり店を閉めた後の厨房で俺はモスヴァーガァの味を再現している、主原料と思われるトマトや玉葱、香辛料は市場で買ってある、あとは俺の腕次第だ。

「形は全然違うが味は同じになったぜ・・・」

コンコン・・・

「おーい、ティナー、美味いもん作って来てやったぞ・・・って言葉通じないんだったな」

ガチャ・・・

「入るぞー」

ベッドの上で横になっていたティナ嬢ちゃんは俺が部屋に入って来て驚いたのか起き上がった、・・・俺が持ってる皿をガン見してるな、どうだ、いい匂いがするだろう!」

コトリ・・・

「ほら食えよ、この前のお詫びだ」

俺はテーブルにモスヴァーガァを似せて作った料理と、リベラ嬢ちゃんに教わった詫びの言葉を書いた紙を置いて部屋を出た。


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〜ラングレー王国 港街カルタス〜
もっしゃもっしゃ・・・
ごっごっごっ・・・
「ぷはぁ!、一仕事終えた後の昼ごはんはうまいっす!、午後からはお休みだから家に帰って寝てもいいっすけど今日はいい天気・・・お客さんを案内する新店舗の開拓でもするっすかね」
「フィーちゃん相変わらずいい食いっぷりだね」
「はいっす!、ウチは身体が資本っすからね、いっぱい食べていっぱい鍛えるっす!」
ムキーン!
「さすがゴンドラ漕ぎだ、俺の腕より逞しいな・・・って女の子にこんな事言っちゃダメだな、ごめんよ」
「気にしなくていいっすよ」
私の名前はミッフィー・コング、このカルタスの街で人気のゴンドラ漕ぎをやっています。
普段の口調は外見に合わせておどけた感じになっていますが本当の私は内気で可愛いものが大好きな女の子、街の人達にも私の素顔は見せた事がありません。
「あ、売店のおばちゃんだ、こんにちはっす!」
「おや、フィーちゃん今日はお休みかい?」
「はいっす、お昼からお休みをいただいているっすよ・・・あ、これは見た事のない木工細工っすね」
「今度ここで売り出す新商品さ、私の手作りだよ」
「へー、可愛いっすね、ゴンドラのお客にも紹介していいっすか?」
「あぁ、もちろんだよ、こっちからお願いしようと思ってたんだ」
この街は大陸中から訪れる観光客で栄えています、だからお土産屋さんや飲食店が沢山あって大通りはとても賑やか、暇な時にはこの辺のお店によく顔を出しているので店主さん達とは顔馴染みなのです。
「少し路地裏も散策するっすかね」
ゴンドラに乗ってくれたお客に紹介するお店は全部私が歩き回って見つけた素敵なお店、「フィーちゃんのおすすめスポット」はとても好評で何度も利用してくれるお客もいます、だから新しいお店を見つける為にお休みの時はこの街の隅々まで足を伸ばします。
「おっと、ここは確か空き家だった筈っす、可愛いお店が出来てるっすね、でもまだ開店してないみたいっす・・・」
大通りから狭い路地に入った一番奥にある目立たない場所、この先は行き止まりで他にはパン屋さんとお菓子屋さん、それとレストランが2軒あるだけ・・・人通りは少ないけれど4軒とも素晴らしい味の文字通り穴場スポット。
のぞきっ・・・
「えーと、近日開店・・・リゼとマリアンヌの雑貨店、小物やぬいぐるみ、魔道具などを取り扱い・・・」
ドアの横にある看板の文字を読んでいるとお店の中に人の気配がしました、窓から中を覗くと・・・。
「あれ、あの子はこの前私のゴンドラに乗ってくれたお客っすね」
銀髪の13歳くらいの女の子、左目には眼帯をして足が不自由なのか杖を使っています、特徴のある子だから印象に残って・・・あ、女の子と目が合った。
とてとて・・・
がちゃ
「あ、こんにちはっす、勝手に中を覗いてごめんなさい、何のお店か気になって・・・」
店の外に出て来た女の子はじっと私を見ています、冷たい目をしていて無表情・・・余計なお世話かもしれないけれど接客向きじゃないかも・・・。
「こんにちは・・・フィーちゃんさん?・・・この前ゴンドラに乗せてくれた・・・」
向こうも私を覚えてくれてたみたい、自慢じゃないけど私は印象が強いから人に覚えてもらえるし、この子はとても無口だけど前に街を案内していた時に得意の話術で結構仲良くなったのです。
「はいそうっすよ、ここでお店始めるんっすか?」
「うん、このお店はお母様への誕生日プレゼント・・・お母様お裁縫が得意だからここで売ろうかと思って・・・中を見る?」
相変わらず声が小さくて聞き取りにくいなぁ、お店丸ごとプレゼントってこの子はお金持ちの貴族様かな、開店準備中のお店を見せてくれるみたいです。
「どうぞ・・・」
「わぁ・・・可愛い!」
思わず素の口調に戻ってしまいました、おしゃれな内装、お店の棚には沢山の可愛いぬいぐるみが飾られています、それに色鮮やかな帽子やバッグ、しかもどれも可愛い・・・これは人気店になりそう。
中にはもう一人、棚にぬいぐるみを飾っている長身の女性・・・細いけれどまるで騎士様のような引き締まった筋肉、とても美人さんです。
「すごく素敵なお店っすね」
どういった原理か全く分からない、私の足元で勝手に動いて尻尾を振る小動物のぬいぐるみを横目に見ながら女の子に言いました。
「ありがとう・・・これは全部私とお母様の手作り、でも私やお母様は接客苦手だから店員さんを雇う予定なの・・・よろしく・・・」
「店員さんはもう雇ったんっすか?」
「ううん、まだ・・・この街知り合い居なくて・・・」
「私の友達にいい子が居るっすよ、大通りの雑貨店で雇われてた子なんっすけど、店長さん身体悪くして閉店するとかで解雇になっちゃって・・・働き者のいい子っすから良かったら紹介しましょうか?」
「うん、お願いできる・・・かな?」
〜日本 東京都内某所〜
かきかき・・・
すっ・・・
「どうぞ」
「あぁ、ありがとう、いつも悪いね」
「・・・いえ」
「これ面白かったよ、4巻はもう出てるのかい?」
「・・・いえ、来月発売・・・です」
「そう、1階にある書店に予約を入れておこう」
「あの・・・送られて来た献本があるので・・・良かったら・・・」
「いや、ファンとしては作家さんを買い支えないとね、私が買ったくらいじゃそんなに変わらないだろうけど」
「・・・」
こんにちは、私の名前は薄刃沙霧(うすばさぎり)、26歳独身・・・。
今私の目の前に居る久露鬼猫介(くろきねこすけ)警部補の補佐官をやらせてもらっています。
彼が手に持っている本は私が書いた小説・・・雌垣翔太(めすがきしょうた)著、「メスガキお嬢様はゴリマッチョがお好き」の3巻、久露鬼警部補からお願いされて本にサインを書いた所です。
本の表紙は生意気そうな令嬢が筋肉モリモリマッチョマンに「ピー」されているところが新進気鋭のイラストレーター、Yas-M!(やすむ)先生による可愛らしい絵で描かれ、帯には「メスガキ死すともマッチョは死せず」「シリーズ累計150万部突破」の文字が大きく・・・。
フルフル・・・
「ど・・・どうしたんだい?、また体調でも悪く・・・」
「いえ!、何でもありません!」
警部補から目を逸らすとついこの前までは画集や洋書、心理学などのお堅い本が並んでいた本棚が目に入ります、その棚を侵食しつつある雌垣翔太(めすがきしょうた)のエロ小説が異彩を放ち、初回特典のポスターや抽選で当たるサイン色紙が額装されて壁に・・・。
モノトーンの家具で統一されたクールで居心地のいいオフィスが私のせいで・・・。
「嫌あぁぁぁぁぁぁ!」
「沙霧くん?」
「・・・申し訳ありません、少し情緒不安定で・・・突然叫びたくなりまして、もう大丈夫ですので!・・・こほん・・・今日の午後からのスケジュールは15時から首相官邸で・・・」
今はまだ良いのです、彼は書店で目に付いた新刊を中心に買っているので・・・。
でも全部集めたいと言ってたし時間の問題かも、内容がハードボイルド過ぎて売れず、重版もされなかったあの作品、あれが彼に読まれてしまったら私は・・・私わぁぁ!。
「本当に大丈夫?、顔色が悪いよ・・・」
「大丈夫です!」
作品のタイトルは「黒猫ダブルダウン」、主人公のモデルは久露鬼警部補、ヒロインは超絶美化した私、政府から命じられた危険な仕事の途中、密室に閉じ込められもはやこれまでという状況で2人は欲望のままに肌を重ね・・・というお話、私の性癖と妄想がダダ漏れの特級呪物・・・。
担当編集さんからは・・・。
「いやぁ良いですね先生!、処女の妄想大爆発って感じで超エロいわぁ・・・あ、でもお尻攻めのところは過激過ぎて真似されるとちょっと問題になりそうなので・・・指定した箇所を書き直して欲しいです!」
などと言って貰ったのに全く売れなかったから絶版に・・・久露鬼警部補が古書店にまで足を伸ばして本を手に入れる性格じゃない事を祈るしかありません。
〜日本 東京都内某飲食店〜
がやがや・・・
ざわざわ・・・
「ねぇ、あの男の人かっこいい」
「え・・・あれ女性じゃないかな、小さいけど胸あるし」
「嘘ぉ!」
・・・
「・・・小さいは余計だろ(ぼそっ)」
「あはは、また男と間違えられてるね佳子(けいこ)ちゃん」
都内、ダメダ珈琲店の奥の席でノートパソコンを眺めてる私の名前は京羽泰芽(きょうはやすめ)、そこそこ大きな企業でOLをやっています。
今日は休日、友達と待ち合わせてお買い物・・・の前にお昼を食べています、私の目の前には別の会社に勤めている唐手乃佳子(からてのけいこ)ちゃん、ボーイッシュでかっこいい私の幼馴染です。
私はOLの他に副業もやっていて・・・実はYas-M!(やすむ)というペンネームで商業活動中のイラストレーターなのです!。
最近少し寝不足で本業の時に居眠りしそう、私は受付嬢だからお客様がいない時は本当に・・・zzz。
「ダメだぁ、また意識が飛びかけた!、もっとちゃんとしないと・・・お仕事と趣味、両立するって決めたのに」
「相当疲れてるっぽいね、受付で寝てるんじゃないの?」
「ね・・・寝てないよ!」
「趣味の方も本格的にお仕事になっちゃったね、忙しそうだけど大丈夫?」
「うん、雌垣(めすがき)先生の新刊が3冊立て続けに出るから忙しかっただけ、でも昨日の晩に3冊目の表紙イラスト入稿できたから・・・」
「今やベストセラー作家の挿絵担当かぁ、本業より儲けてるよね?」
「えと・・・本業の方もお給料いいけど、その2倍くらい?」
「わぁ・・・羨ましいなぁ、・・・それにしても凄い名前だねー、メスガキ先生・・・最近はエロ神様とか淫魔神って呼ばれてるんだっけ」
「うん、そうなの、先生はすごいの!、もうエロ描写が神懸ってるし!」
「3冊とも別のお話なんでしょ、普通は他のイラストレーターさんが分担して書くものじゃないの?」
「そうなんだけど、最初のお仕事で先生に気に入られちゃって・・・次の新作もお願い、その次も・・・って感じでね・・・」
「で、ほとんど専属になったと・・・でも結構メスガキ先生に影響されてきてるよね、最近の泰芽(やすめ)ちゃんのイラストほんっとにエロいし!」
「修正無しのやつ、いる?」
「うん」
「メールでいい?」
「うん」
ぽちー
「・・・あっ、間違えて真希ちゃんにも送っちゃった・・・」
「あはははは!」
〜ラングレー王国 セフィーロの街〜
ぐつぐつ・・・
まぜまぜ・・・
つまみっ
「ふむ・・・この香りと味わい、ソースはほぼ完璧に再現できたようだ、あとはパンと肉だな・・・パンの代わりにはピザ生地を使うとして、ひき肉を丸めて上からソースかけるか」
俺の名前はディアズ・オーケー、訳あってこれは偽名だ、本当の名前はイッヌ・ネッコォ、没落したローゼリア王国上級貴族、ネッコォ家の長男だった。
そんな俺が貴族の身分を捨ててこの国に来てから早いもので22年になる、今は小さな田舎街のレストラン「アップルツリー」の雇われ店長だ。
ここ数日俺は悩んでいた、悩みの原因は店のオーナーから預かったティナという少女だ、食事と住む場所を与えて働かせてくれ、給金はいらない・・・そう言って俺に丸投げされた。
問題の少女はというと・・・今は機嫌を損ねて口もきいてくれない、あぁ、分かってるよ、悪いのは俺だ。
彼女が使う日用品を定期的に届けてくれるリベラ嬢ちゃん、彼女が持ってきたモスヴァーガァという食べ物・・・今まで嗅いだ事のないいい香りがして俺は思わずティナ嬢ちゃんの為に用意されたそいつを食った。
すげぇ美味かったな、柔らかいパンと肉、そして絶品のソース・・・その味を堪能しているとドアの向こうでこの世の終わりのような顔をしたティナ嬢ちゃんが立っていた。
「”$`!、&$@^@#!!T_T#!」
大声で何か叫んで俺に襲い掛かって来たが何も無いところで躓いてコケた、しかも顔から・・・痛そうだ。
おそらく俺がモスヴァーガァとやらを食っちまった事に怒っているんだろう、だが美味過ぎて途中で止まらなかったんだから仕方ないじゃねぇか。
「わあぁぁぁ!、えぐっ・・・うぐっ、うわぁぁん!」
ティナ嬢ちゃんは顔から倒れたまま号泣してる、ガチ泣きだった。
「おい、大丈夫か?、これすげぇ美味いな、食っちまったのは謝る・・・」
「うっく・・・ひっく」
ぐしぐし・・・
立ち上がったティナ嬢ちゃんの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた、袖で拭くなよ汚ねぇなぁ。
だっ・・・
それから丸一日飯も食わずに部屋に閉じ籠ってた、流石に罪悪感を感じた俺は謝りに行ったが扉越しに声をかけても反応が無い。
次の日も閉じ籠ってるのかと思ったら部屋から出て来て厨房の皿を洗い始めた、だが俺に対して目も合わせてくれない、相当怒ってるな。
彼女と会話がないまま2日が過ぎた頃、店にリベラ嬢ちゃんがやって来た、手にはモスヴァーガァと思われる紙袋、今度は俺の分もあるようだ、俺はリベラ嬢ちゃんに伝言を頼んだ。
伝言が伝わったかどうか分からないが、仕事が終わり店を閉めた後の厨房で俺はモスヴァーガァの味を再現している、主原料と思われるトマトや玉葱、香辛料は市場で買ってある、あとは俺の腕次第だ。
「形は全然違うが味は同じになったぜ・・・」
コンコン・・・
「おーい、ティナー、美味いもん作って来てやったぞ・・・って言葉通じないんだったな」
ガチャ・・・
「入るぞー」
ベッドの上で横になっていたティナ嬢ちゃんは俺が部屋に入って来て驚いたのか起き上がった、・・・俺が持ってる皿をガン見してるな、どうだ、いい匂いがするだろう!」
コトリ・・・
「ほら食えよ、この前のお詫びだ」
俺はテーブルにモスヴァーガァを似せて作った料理と、リベラ嬢ちゃんに教わった詫びの言葉を書いた紙を置いて部屋を出た。