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第十八話 ある施設

ー/ー



 斎藤プロダクションの取材クルーは、山梨県の山奥にある「青葉の里」という施設の取材を今終えたところだ。車に乗り込んだ4人の表情には、どこか物足りなさが漂っている。
 
「どうだった?」
 
 運転席の高橋ディレクターが尋ねる。

「正直、あまり面白くなかったですね」

 カメラマンの木村が答える。

「確かに不思議な雰囲気はあったけど、怖いっていうほどでもなくて」
「そうだな」と高橋は頷いた。「企画は没かな」

 車は山道を下り始めた。窓の外には夕暮れの山々が広がる。赤く染まる空と静寂な風景が、不思議なほど心に重くのしかかる。

「でも、あの管理人、なんか変じゃなかった?」

 助手席に座るアシスタントの岩佐が言った。

「ああ、確かに」
 
 レポーターの中村が同意する。

「妙に警戒してるっていうか……何か隠してるような感じがしたんだよね」

 岩佐の声を遮るように高橋の携帯電話が鳴った。画面を見ると、「青葉の里」からだった。

「はい、高橋です」
 電話の向こうから聞こえてきた管理人の声は明らかに動揺していた。

「高橋さん……申し訳ありませんが、すぐに戻ってきていただけませんか?」
「え?どうしたんですか?」
「説明は後ほど……とにかく、すぐに」

 高橋は困惑した表情で他のメンバーを見た。
 
「わかりました。すぐに戻ります」

 電話を切ると、高橋は車を転回させた。
 
「え? なんだって?」
 
 木村が尋ねる。
 
「わからない。とにかく戻れってさ」

 20分後――。
 一行が再び「青葉の里」に到すると、管理人の男性が明らかに焦った様子で彼らを出迎える。

「お待ちしていました。こちらへどうぞ」

 息を荒げる管理人は彼らを事務所へ案内した。そこには大きなモニターが置かれている。

「実は……施設内には監視カメラが設置されています」
 管理人は続ける。
「撮影中の様子を確認していたところ……」

 彼はモニターの電源を入れる。モニターには彼らが撮影していた時の場面が映っていた。

「ここです」
 管理人が指さしたそのシーンを見た高橋は息を呑んだ。
 映像には、中村が明らかに普通ではない動きをしている姿が映っていた。まるで何かに取り憑かれたかのように、不自然な動きで壁際をカサカサと虫のように這い回っている。

「これは……!」
 高橋はそれから言葉を失った。
「い、いったい、なんてことをしてくれたんですか!」
 管理人の声が怒りに震えている。

 中村は困惑した表情で「私……何もしていませんよ」 と答えた。

「映像をご覧ください!」
 管理人は声を荒げる。

「これは明らかに……」
 と、そこで彼はその言葉を途中で止めて目線をそらしながら低い声で続けた。
「とにかく……謝罪していただきたい」
 
 高橋は頭を下げた。
「申し訳ありません。でも具体的に何があったのか……」

 管理人が首を振る。
「それは言えません。ただ……二度とここには来ないでください」

 一行は混乱したまま施設を後にした。その車内では全員が沈黙を保っていた。
 
 「中村さん、本当に何もなかったんですか?」
 岩佐が恐る恐る尋ねると、中村は首を振った。
 「本当に覚えがないんだ……」
 高橋はバックミラー越しに中村を見る。その顔にはいつもの中村らしい表情がある。だが、ふとしたタイミングでどこか違和感も感じられる。
 中村に感じる違和感――それが何なのかわからないまま、一行は山道を下り続けた。

 青葉の里――。その施設は彼らの後ろで静かに佇んでいる。
 山を下る一行の心には言い知れぬ不安だけが残されていた。
 何が起きたのか?中村は、本当に何もしていなかったのか?
 あの施設自体、一体何をする施設だったというのだろうか?
 答えようとする者をはばかるように青葉の里は佇んでいる。
 ただ、訪れた者たちの疑問だけが、夜闇へ溶け込んでいく。


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 斎藤プロダクションの取材クルーは、山梨県の山奥にある「青葉の里」という施設の取材を今終えたところだ。車に乗り込んだ4人の表情には、どこか物足りなさが漂っている。
「どうだった?」
 運転席の高橋ディレクターが尋ねる。
「正直、あまり面白くなかったですね」
 カメラマンの木村が答える。
「確かに不思議な雰囲気はあったけど、怖いっていうほどでもなくて」
「そうだな」と高橋は頷いた。「企画は没かな」
 車は山道を下り始めた。窓の外には夕暮れの山々が広がる。赤く染まる空と静寂な風景が、不思議なほど心に重くのしかかる。
「でも、あの管理人、なんか変じゃなかった?」
 助手席に座るアシスタントの岩佐が言った。
「ああ、確かに」
 レポーターの中村が同意する。
「妙に警戒してるっていうか……何か隠してるような感じがしたんだよね」
 岩佐の声を遮るように高橋の携帯電話が鳴った。画面を見ると、「青葉の里」からだった。
「はい、高橋です」
 電話の向こうから聞こえてきた管理人の声は明らかに動揺していた。
「高橋さん……申し訳ありませんが、すぐに戻ってきていただけませんか?」
「え?どうしたんですか?」
「説明は後ほど……とにかく、すぐに」
 高橋は困惑した表情で他のメンバーを見た。
「わかりました。すぐに戻ります」
 電話を切ると、高橋は車を転回させた。
「え? なんだって?」
 木村が尋ねる。
「わからない。とにかく戻れってさ」
 20分後――。
 一行が再び「青葉の里」に到すると、管理人の男性が明らかに焦った様子で彼らを出迎える。
「お待ちしていました。こちらへどうぞ」
 息を荒げる管理人は彼らを事務所へ案内した。そこには大きなモニターが置かれている。
「実は……施設内には監視カメラが設置されています」
 管理人は続ける。
「撮影中の様子を確認していたところ……」
 彼はモニターの電源を入れる。モニターには彼らが撮影していた時の場面が映っていた。
「ここです」
 管理人が指さしたそのシーンを見た高橋は息を呑んだ。
 映像には、中村が明らかに普通ではない動きをしている姿が映っていた。まるで何かに取り憑かれたかのように、不自然な動きで壁際をカサカサと虫のように這い回っている。
「これは……!」
 高橋はそれから言葉を失った。
「い、いったい、なんてことをしてくれたんですか!」
 管理人の声が怒りに震えている。
 中村は困惑した表情で「私……何もしていませんよ」 と答えた。
「映像をご覧ください!」
 管理人は声を荒げる。
「これは明らかに……」
 と、そこで彼はその言葉を途中で止めて目線をそらしながら低い声で続けた。
「とにかく……謝罪していただきたい」
 高橋は頭を下げた。
「申し訳ありません。でも具体的に何があったのか……」
 管理人が首を振る。
「それは言えません。ただ……二度とここには来ないでください」
 一行は混乱したまま施設を後にした。その車内では全員が沈黙を保っていた。
 「中村さん、本当に何もなかったんですか?」
 岩佐が恐る恐る尋ねると、中村は首を振った。
 「本当に覚えがないんだ……」
 高橋はバックミラー越しに中村を見る。その顔にはいつもの中村らしい表情がある。だが、ふとしたタイミングでどこか違和感も感じられる。
 中村に感じる違和感――それが何なのかわからないまま、一行は山道を下り続けた。
 青葉の里――。その施設は彼らの後ろで静かに佇んでいる。
 山を下る一行の心には言い知れぬ不安だけが残されていた。
 何が起きたのか?中村は、本当に何もしていなかったのか?
 あの施設自体、一体何をする施設だったというのだろうか?
 答えようとする者をはばかるように青葉の里は佇んでいる。
 ただ、訪れた者たちの疑問だけが、夜闇へ溶け込んでいく。