③
ー/ー
仕方なく、俺の部屋を目指すために三人でカフェを出る。
「えーと、ミュウちゃん。ちょっとここで待っててね」
玄関を入ると、寝室のベッドの脇のフローリングに丸いクッションを置いて、由貴がミュウに座るように促した。
そして俺の腕を引いて、いったんは通り過ぎたキッチンに戻る。俺のささやか過ぎる城は1Kなんだよ。
極限まで潜めた声の俺の話をじっと聞いていた由貴が、大きく溜息を吐いた。
「家出少女、って言うには小さすぎるね。……光太の予測、当たってるかもよ」
由貴は保育士と幼稚園の先生の資格持ってるらしい。仕事は全然別で普通の事務職の会社員だけど、少なくとも俺よりは子どもの扱いには詳しい筈だ。
「あの子、ちょっと話した印象でしかないけど、虚言癖というか嘘ついて気を引くようには見えない。ただふざけて揶揄ってるならまだいいけど、……本当に『自分は猫だ』って思い込んで辛い現実から逃れようとしてるとか、──そういうのだと危ないよ」
もし親の虐待なら、なんとか引き離さないと、と真顔で呟く彼女。
「とりあえずあの子の写真撮ろう」
「写真? なんで?」
何を悠長なこと言ってんだ? と呆れた俺に、彼女は相変わらず囁き声で告げて来た。
「念のためにね。着替えさせるけど、その前に『最初はこの状態でした』って残しといた方がいい。本当ならすぐ警察届けないといけないのよ。時間置くなら『この子がこの部屋にいたがった。なんか様子がおかしいから強引には連れ出せなかった』って説明しないと」
なるほど。俺にはまったくない発想だな。
「ミュウちゃん、お待たせ。ごめんね。ねえ、写真撮っていい?」
「うん」
寝室に戻るなり笑顔になった由貴がスマホを手にして訊くのに、ミュウは素直に頷いてる。
「あ、写真なら俺の機種の方が──」
「多少の画質の差なんてどうでもいい。アラサー独身男のスマホに小さい女の子の写真はやめた方がいいよ」
リアルな忠告に、俺は自分のスマホに伸ばし掛けた手を引っ込めた。
「じゃあ撮るよ~。ここ、この丸いの見ててね」
カメラのレンズを示しながら、由貴が二、三回シャッターを切る音が聞こえる。
クッションの上にぺたんと座ったミュウが、ちょっと微妙な笑みを浮かべてた。
撮影した画像を確かめてカメラアプリを終了させた彼女が、スマホをバッグに戻してまたミュウに向き直る。
「もう遅いから寝ないとね。お風呂入ろうか?」
「お風呂……、やだ」
ミュウの怯えた様子に、由貴は強要する気はないみたいだ。
「そっか。でもお外に行ったままじゃ寝られないから、身体拭いてお着替えしよう。お姉さんの服があるからね。お手々とお顔洗うのはいい?」
こくんと頷くミュウの手を引いて、恋人はバスルームに向かった。
泊まりの予定だから着替えも持って来たんだろうけど、もともとこの部屋にも最低限の部屋着とか下着に由貴専用のシャンプー類も置いてあるんだよな。
しばらくして戻って来たミュウが着替えさせられた彼女のTシャツは、もともと丈長らしくまるでワンピースだ。
肩も落ちて、半袖が肘近くまで届いてる。首回りがあんまり広く開いてないのはよかったな。
「ミュウちゃん、お姉さんと一緒にベッドで寝ようね。このお兄ちゃんはキッチンで寝かせるから」
恋人の言葉に、まさか板張りの床にそのまま!? と一瞬引いた俺に由貴がクローゼットを指差す。
「今の季節なら予備のマットにシーツ掛けて、毛布だけでもいいでしょ。用意するから」
「わかった。いや、それくらい俺がやる!」
勢い良く立ち上がり、クローゼットからマットとシーツに毛布を取り出した。
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仕方なく、俺の部屋を目指すために三人でカフェを出る。
「えーと、ミュウちゃん。ちょっとここで待っててね」
玄関を入ると、寝室のベッドの脇のフローリングに丸いクッションを置いて、由貴がミュウに座るように促した。
そして俺の腕を引いて、いったんは通り過ぎたキッチンに戻る。俺のささやか過ぎる城は1Kなんだよ。
極限まで潜めた声の俺の話をじっと聞いていた由貴が、大きく溜息を吐いた。
「家出少女、って言うには小さすぎるね。……光太の予測、当たってるかもよ」
由貴は保育士と幼稚園の先生の資格持ってるらしい。仕事は全然別で普通の事務職の会社員だけど、少なくとも俺よりは子どもの扱いには詳しい筈だ。
「あの子、ちょっと話した印象でしかないけど、虚言癖というか嘘ついて気を引くようには見えない。ただふざけて揶揄ってるならまだいいけど、……本当に『自分は猫だ』って思い込んで辛い現実から逃れようとしてるとか、──そういうのだと危ないよ」
もし親の虐待なら、なんとか引き離さないと、と真顔で呟く彼女。
「とりあえずあの子の写真撮ろう」
「写真? なんで?」
何を悠長なこと言ってんだ? と呆れた俺に、彼女は相変わらず囁き声で告げて来た。
「念のためにね。着替えさせるけど、その前に『最初はこの状態でした』って残しといた方がいい。本当ならすぐ警察届けないといけないのよ。時間置くなら『この子がこの部屋にいたがった。なんか様子がおかしいから強引には連れ出せなかった』って説明しないと」
なるほど。俺にはまったくない発想だな。
「ミュウちゃん、お待たせ。ごめんね。ねえ、写真撮っていい?」
「うん」
寝室に戻るなり笑顔になった由貴がスマホを手にして訊くのに、ミュウは素直に頷いてる。
「あ、写真なら俺の機種の方が──」
「多少の画質の差なんてどうでもいい。アラサー独身男のスマホに小さい女の子の写真はやめた方がいいよ」
リアルな忠告に、俺は自分のスマホに伸ばし掛けた手を引っ込めた。
「じゃあ撮るよ~。ここ、この丸いの見ててね」
カメラのレンズを示しながら、由貴が二、三回シャッターを切る音が聞こえる。
クッションの上にぺたんと座ったミュウが、ちょっと微妙な笑みを浮かべてた。
撮影した画像を確かめてカメラアプリを終了させた彼女が、スマホをバッグに戻してまたミュウに向き直る。
「もう遅いから寝ないとね。お風呂入ろうか?」
「お風呂……、やだ」
ミュウの怯えた様子に、由貴は強要する気はないみたいだ。
「そっか。でもお外に行ったままじゃ寝られないから、身体拭いてお着替えしよう。お姉さんの服があるからね。お手々とお顔洗うのはいい?」
こくんと頷くミュウの手を引いて、恋人はバスルームに向かった。
泊まりの予定だから着替えも持って来たんだろうけど、もともとこの部屋にも最低限の部屋着とか下着に由貴専用のシャンプー類も置いてあるんだよな。
しばらくして戻って来たミュウが着替えさせられた彼女のTシャツは、もともと丈長らしくまるでワンピースだ。
肩も落ちて、半袖が肘近くまで届いてる。首回りがあんまり広く開いてないのはよかったな。
「ミュウちゃん、お姉さんと一緒にベッドで寝ようね。このお兄ちゃんは|キッチン《向こう》で寝かせるから」
恋人の言葉に、まさか板張りの床にそのまま!? と一瞬引いた俺に由貴がクローゼットを指差す。
「今の季節なら予備のマットにシーツ掛けて、毛布だけでもいいでしょ。用意するから」
「わかった。いや、それくらい俺がやる!」
勢い良く立ち上がり、クローゼットからマットとシーツに毛布を取り出した。