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「あ、由貴? 俺だけど。今から来てくれないか?」
『は!? いきなり何なの?』
 スマホから聞こえる恋人の声は如何にも(いぶか)し気だ。
 無理もないよな。なんの約束もしてないのに、いくら休みの前の日だからって夜に突然来いなんてさ。

「ひとことでは言えねえ。どうしてもお前が必要なんだ!」
 俺の口から出てるとは思えない台詞だ。こんなこと、考えてはいても言ったことなかった。
 そう、ずっと心の中にはあるんだけど。

『……わかった、行くわ。でも支度するから三十分くらいは見てよ。あ、泊まれってことでいいんだよね?』
 声や言葉から俺の切羽詰まった状況が伝わったらしく、由貴がそれ以上詮索せずに受け入れてくれる。ありがたい。

「ああ。いや、悪いな。駅前のあのカフェで待ってる」
 彼女の承諾を確かめて通話を切ると、俺は斜め下に目を向けた。

「今呼んだけど、ちょっと時間掛かるから。そこのカフェ行くぞ」
 由貴が来るまでは何があっても部屋には上げない、って俺の意志が通じたのか、その子は逆らわずについて来た。

「ところでお前の名前は?」
「ミュウ」
 ミュウ、ね。所謂キラキラネームってやつか?
 ……いや、まあ流石にそれは呼び名っていうか愛称で、本名はイマドキっぽい「心夢(みゆ)」とかなんだろうな。どっちにしてもキラキラか。

 目的のカフェまで歩いて店に入る。

「あ、しばらくしたらもう一人来ますんで」
 お二人様ですか? とにこやかに迎えてくれた店員に告げて、四人掛けのボックス席に通された。

「何か食うか?」
「ミルク」
 もしかして家でロクに食わせてもらってなかったりして、と心配になって訊いた俺にミュウが即答する。
 去り掛けてた店員を呼び止めて、自分のホットコーヒーと「熱いのはいや」というミュウのアイスミルクを頼む。
 テーブルを挟んで座り、待つほどもなく届けられた飲み物を手に取った。
 こんな小さい子と話すネタなんてねえよ。
 いったいどうすりゃいいんだ、と気まずさを誤魔化すために飲んでたから、あっという間にコーヒーのカップが空になる。
 ミュウは大人しく持ち手のついたグラスのミルクに口付けてた。

 ドアが開くたびにそちらを見て、何度目かで恋人の姿を捉える。

「どうしたの?」
 多少不機嫌は晒しながらも、即駆けつけてくれた由貴。いくら近いからって、本当に最短で来てくれたんだし大変だったよな……。
 俺だったらまずは電話で理由を問い質して、それで「とにかく来い!」だったら、行くにしても着いたらまずグチグチ言ってた。間違いなく。
 とりあえず座れ、とソファの隣を軽く叩いた俺に、無言でそこへ腰を下ろした彼女は案内してくれた店員にミルクティーを頼んだ。

「で? 光太、何があったの? この子は?」
 由貴が向かい側に座るミュウに目をやって、また俺に視線を戻す。

「俺もわからん。帰って来たら家の前にいたんだよ。あ、名前は『ミュウ』だって」
「警察行った方がいいと思うけど……」
 そう、俺も同感だ。

「やだあ! 光太の家行く!」
 俺たちのひそひそ話を聞きとがめたらしく、ミュウがいきなり声を上げた。

 ここで騒がれんのはマズい。というか、由貴に来てもらってよかったぜ……。



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「あ、由貴? 俺だけど。今から来てくれないか?」
『は!? いきなり何なの?』
 スマホから聞こえる恋人の声は如何にも|訝《いぶか》し気だ。
 無理もないよな。なんの約束もしてないのに、いくら休みの前の日だからって夜に突然来いなんてさ。
「ひとことでは言えねえ。どうしてもお前が必要なんだ!」
 俺の口から出てるとは思えない台詞だ。こんなこと、考えてはいても言ったことなかった。
 そう、ずっと心の中にはあるんだけど。
『……わかった、行くわ。でも支度するから三十分くらいは見てよ。あ、泊まれってことでいいんだよね?』
 声や言葉から俺の切羽詰まった状況が伝わったらしく、由貴がそれ以上詮索せずに受け入れてくれる。ありがたい。
「ああ。いや、悪いな。駅前のあのカフェで待ってる」
 彼女の承諾を確かめて通話を切ると、俺は斜め下に目を向けた。
「今呼んだけど、ちょっと時間掛かるから。そこのカフェ行くぞ」
 由貴が来るまでは何があっても部屋には上げない、って俺の意志が通じたのか、その子は逆らわずについて来た。
「ところでお前の名前は?」
「ミュウ」
 ミュウ、ね。所謂キラキラネームってやつか?
 ……いや、まあ流石にそれは呼び名っていうか愛称で、本名はイマドキっぽい「|心夢《みゆ》」とかなんだろうな。どっちにしてもキラキラか。
 目的のカフェまで歩いて店に入る。
「あ、しばらくしたらもう一人来ますんで」
 お二人様ですか? とにこやかに迎えてくれた店員に告げて、四人掛けのボックス席に通された。
「何か食うか?」
「ミルク」
 もしかして家でロクに食わせてもらってなかったりして、と心配になって訊いた俺にミュウが即答する。
 去り掛けてた店員を呼び止めて、自分のホットコーヒーと「熱いのはいや」というミュウのアイスミルクを頼む。
 テーブルを挟んで座り、待つほどもなく届けられた飲み物を手に取った。
 こんな小さい子と話すネタなんてねえよ。
 いったいどうすりゃいいんだ、と気まずさを誤魔化すために飲んでたから、あっという間にコーヒーのカップが空になる。
 ミュウは大人しく持ち手のついたグラスのミルクに口付けてた。
 ドアが開くたびにそちらを見て、何度目かで恋人の姿を捉える。
「どうしたの?」
 多少不機嫌は晒しながらも、即駆けつけてくれた由貴。いくら近いからって、本当に最短で来てくれたんだし大変だったよな……。
 俺だったらまずは電話で理由を問い質して、それで「とにかく来い!」だったら、行くにしても着いたらまずグチグチ言ってた。間違いなく。
 とりあえず座れ、とソファの隣を軽く叩いた俺に、無言でそこへ腰を下ろした彼女は案内してくれた店員にミルクティーを頼んだ。
「で? 光太、何があったの? この子は?」
 由貴が向かい側に座るミュウに目をやって、また俺に視線を戻す。
「俺もわからん。帰って来たら家の前にいたんだよ。あ、名前は『ミュウ』だって」
「警察行った方がいいと思うけど……」
 そう、俺も同感だ。
「やだあ! 光太の家行く!」
 俺たちのひそひそ話を聞きとがめたらしく、ミュウがいきなり声を上げた。
 ここで騒がれんのはマズい。というか、由貴に来てもらってよかったぜ……。