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「おかえり~」
 マンション自室ドアの前に(うずくま)ってた白っぽい塊が、帰宅して廊下を進む俺に声を掛けて来た。
 エレベータを降りた段階では、ゴミか袋かくらいに見えて「人んちの前に何置いてくれてんだよ」としか感じなかったけど人間なのか!?
 しかもこの声、子どもだ。女の子?

「……誰だ?」
 そのまま止まらずに部屋の前まで来て、間近で見たはまだ幼い。どう見ても小学生、しかも低学年だ。

「ゆうべ助けてもらった猫ちゃんでえす!」
 昨夜。
 確かに帰り道、駅からここへ向かう途中で水のない溝に落ちて鳴いてた仔猫を拾い上げてやったけどさ。
 茶虎、って言うのか明るい茶色の縞模様で、腹側が白かったっけ。
 野良猫っていうよりは、親とはぐれた飼い猫って感じだったな。躊躇わずに触れるくらいには綺麗だったし。

「とにかく帰ってくれ! 『一人暮らしの部屋に知らない小さい女の子連れ込んだ』なんて俺の人生終了だろ!」
 茶色い髪と大きな丸い瞳に白いワンピースの、よく見ると可愛いその子にきつく言い渡す。

「恩返ししないと帰れないんだもん。そのために人間に化けてるから、猫に戻れなくなっちゃう」
 ふざけんな、このガキ、と喉元まで出そうになった言葉をどうにか飲み込んだ。
 怒鳴って泣かせたら、下手すりゃ警察呼ばれる。俺は善良で平凡な二十代会社員なんだよ!
「恩返ししたきゃよそでやれば? 家のお手伝いとか町の掃除とか、子どもにもできそうなこといろいろあるじゃん? それを俺への恩返しにしてくれ」
 相手するのもばからしい、と思いつつもどうにか言い包めて帰さなきゃ自宅に入れない。

光太(こうた)に直接じゃないとダメなの! それが『猫界』のオキテだから!」
 なんで俺の名前知ってんだ?
 ああ、そういや郵便受けのプレートにフルネーム書いてたっけ。
 郵便配達の人にはその方が親切だし男だから平気だと思ったのに、やっぱ名前出すのってマズいんだな。

「いっこでいいの。何か恩返ししたら帰るから」
「今大人しく帰ってくれるのが一番の『恩返し』なんだよ」
 意地でもここを動かない、と体中の毛を逆立ててるように見える子どもに、俺は言葉とは裏腹に妥協案を出すことにした。
 もしかしたら親に虐待されてるとか、何か事情があるのかもしれない。
 だってそうでもなきゃ、夜の二十一時過ぎにこんな子どもが一人で外ふらふらしてること自体異常だろ。

「俺一人の部屋には何があっても入れられねえ。だから『彼女』呼ぶけどいいな⁉」
 彼女。もう二年の付き合いになる由貴(ゆき)の部屋は、ここからは三駅離れてるけどどっちも駅から近いから意外とすぐなんだ。

「うん。いいよ」
 自称猫ちゃんの返事を確かめて、俺は彼女に電話を掛ける。




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「おかえり~」
 マンション自室ドアの前に|蹲《うずくま》ってた白っぽい塊が、帰宅して廊下を進む俺に声を掛けて来た。
 エレベータを降りた段階では、ゴミか袋かくらいに見えて「人んちの前に何置いてくれてんだよ」としか感じなかったけど人間なのか!?
 しかもこの声、子どもだ。女の子?
「……誰だ?」
 そのまま止まらずに部屋の前まで来て、間近で見た《《彼女》》はまだ幼い。どう見ても小学生、しかも低学年だ。
「ゆうべ助けてもらった猫ちゃんでえす!」
 昨夜。
 確かに帰り道、駅からここへ向かう途中で水のない溝に落ちて鳴いてた仔猫を拾い上げてやったけどさ。
 茶虎、って言うのか明るい茶色の縞模様で、腹側が白かったっけ。
 野良猫っていうよりは、親とはぐれた飼い猫って感じだったな。躊躇わずに触れるくらいには綺麗だったし。
「とにかく帰ってくれ! 『一人暮らしの部屋に知らない小さい女の子連れ込んだ』なんて俺の人生終了だろ!」
 茶色い髪と大きな丸い瞳に白いワンピースの、よく見ると可愛いその子にきつく言い渡す。
「恩返ししないと帰れないんだもん。そのために人間に化けてるから、猫に戻れなくなっちゃう」
 ふざけんな、このガキ、と喉元まで出そうになった言葉をどうにか飲み込んだ。
 怒鳴って泣かせたら、下手すりゃ警察呼ばれる。俺は善良で平凡な二十代会社員なんだよ!
「恩返ししたきゃよそでやれば? 家のお手伝いとか町の掃除とか、子どもにもできそうなこといろいろあるじゃん? それを俺への恩返しにしてくれ」
 相手するのもばからしい、と思いつつもどうにか言い包めて帰さなきゃ自宅に入れない。
「|光太《こうた》に直接じゃないとダメなの! それが『猫界』のオキテだから!」
 なんで俺の名前知ってんだ?
 ああ、そういや郵便受けのプレートにフルネーム書いてたっけ。
 郵便配達の人にはその方が親切だし男だから平気だと思ったのに、やっぱ名前出すのってマズいんだな。
「いっこでいいの。何か恩返ししたら帰るから」
「今大人しく帰ってくれるのが一番の『恩返し』なんだよ」
 意地でもここを動かない、と体中の毛を逆立ててるように見える子どもに、俺は言葉とは裏腹に妥協案を出すことにした。
 もしかしたら親に虐待されてるとか、何か事情があるのかもしれない。
 だってそうでもなきゃ、夜の二十一時過ぎにこんな子どもが一人で外ふらふらしてること自体異常だろ。
「俺一人の部屋には何があっても入れられねえ。だから『彼女』呼ぶけどいいな⁉」
 彼女。もう二年の付き合いになる|由貴《ゆき》の部屋は、ここからは三駅離れてるけどどっちも駅から近いから意外とすぐなんだ。
「うん。いいよ」
 自称猫ちゃんの返事を確かめて、俺は彼女に電話を掛ける。