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キエーウ強襲戦 1

ー/ー



 たまには朝食の用意でもしようと、モモはリースと共に料理をしていた。

 その匂いに釣られたのかムツヤが部屋から出てくる。

「ふわーあ、おはようございます。モモさんリースさん」

「あ、ムツヤさんおはようございまず!」

 似たような訛りでリースは挨拶を返す。

「おはようございますムツヤ殿」

「今日はモモさんのお料理ですかー」

「はい、ユモトほど美味しくはないかもしれませんが……」

 少し自信がなさげにモモは言う。

「いやいや、モモさんのお料理も俺好きですよ」

 モモが「そうですか」と言って顔を赤くするのをリースは見逃さなかった。皆もぞろぞろとテントから出てきて全員で朝食を摂る。

「ひょうはいよいよヒエーウほのけっへんね!(今日はいよいよキエーウとの決戦ね!)」

 ルーがハムスターの様に頬に食べ物を貯めながら喋った。

「決戦って言ってもムツヤを送り込んで暴れさせるだけだから私達は暇だがな」

「本当にムツヤさん1人で大丈夫なんでしょうか?」

 ユモトは心配そうにしていたが、ムツヤは何てことなしに料理を食べている。

「下手に私達が付いていったほうが足手まといになる」

「それはそうですが……」

 ユモトはアシノの言葉に一抹の不安を感じずにはいられなかった。

「それじゃあ、作戦を確認するぞ」

 朝食が終わり、アシノがそう声を掛けた。ムツヤの能力で周囲に人が居ないことは確認済みだ。

 また、念の為音の妨害魔法で家を包んでいる。

「まずここから南の枯れたダンジョンに、キエーウの支部がある。ムツヤは人の気配を辿ってその本拠地を叩く」

「はい!」

 勢いよくムツヤは返事をした。アシノは思う、こいつはアホだが戦いに関しては信用できる。

 ただ、人を斬る覚悟だけはまだ出来ていないようだが……

「よし、それじゃ私達だ」

 まぁムツヤなら殺さず、動けないようにするのは簡単だろうと自分に言い聞かせた。

「最強ムツヤ大先生の弱点は私達だ。誰か一人でも人質に取られたらまずい」

「そうなのよねー」

 ルーだけでなく全員がその点には合点がいく。

「だから私達は自分の身を自分達で守ることだけを考えるぞ」

 皆が頷いたのを確認してアシノは話を続ける。

「現時点でだ、この中でムツヤの次に強いのはヨーリィだ」

「私じゃないの!?」

「黙ってろ!!」

 アシノが立ち上がったルーの頭を引っ叩くと「ぷぺら」と言って椅子に戻った。

「中距離近距離の戦いで一番強いのはヨーリィだ。だからヨーリィを一番南に置く」

 ヨーリィは「わかった」と短く言った。

「次、ヨーリィの援護にルーが付く」

「任せちゃってー、ヨーリィちゃんは私が守るわ!」

「後の私達は後方で自分の身を守ることだけを考えろ」

 ユモトとモモ、リースは返事をする。これでキエーウ強襲戦への布陣は決まった。

「それじゃあ行ってきます」

「えぇ、どうかご武運を」

 ムツヤはモモの言葉を聞き終えると風のように森を駆け抜けていく。

「私達も布陣するぞ」

――

――――

――――――――

 ムツヤは千里眼を使い、周りの状況を確認しながら森の中を南に向けて走り続けていた。

 ふと気配を察知して足を止める。凄まじいスピードだったので、足元からは土煙が上がった。

 探知盤を取り出すとやっぱりだ、点が3つこちらへと向かってきていた。裏の道具持ちを仲間の元へ通すわけにはいかない。

 点の方へと走り出し、しばらくすると、接敵するかといった頃合いになる。

 瞬間、小さい何かが大量にこちらへ向かってきた。

 小さい球体状で短い手足のようなものが生えている。とっさにムツヤは雷の魔法でそれらを迎撃した。

 しかし、それらは黒焦げになることもなくムツヤの元へ集まりだし、まとわり付く。

 魔物ではない。人工的に召喚された何かだと思い魔剣ムゲンジゴクを取り出して豪火とともに切り裂いた。

 すると今度は小さい何かが消え去るが、次々とやってきてはムツヤに体当たりをし、まとわり付きキリがない。

 ムツヤは足で魔法を一気に発動させた。

 ムツヤを中心に火柱が上がり、辺り一帯を燃やし尽くす。

 終わったかと思ったが、まだだった。小さい何かはまだまだ現れてムツヤへと向かってくる。

 1つ気づいた事があった。この小さい何かがムツヤに触れると僅かながら魔力を奪われる。そしてその魔力で分裂をしていた。

 無限とも言える魔力を持つムツヤにとって、この小さい何かはまさに天敵である。

 ムツヤが珍しく小さい何かに苦戦している頃、それを見つめる3人の影があった。

「ウートゴ様の言ったとおりね。この精霊はアホのムツヤに効くわ」

 1人は小さい何かを召喚している女の召喚術師だ。やはりこれらは、ムツヤの予想通り人工的に召喚された精霊だった。

 ダメ押しとばかりに女召喚術師は左手に裏の道具の杖を持ち、右手には砂粒を持って詠唱を始める。

 すると、右手の砂粒が小さい精霊となってムツヤの元へ飛んでいった。

「次は俺の番だ」

 キエーウの男がそう言うとムツヤの足元から触手が出てムツヤの足元を捉えようとする。

 だが、飛び跳ねられてそれは躱されてしまう。

「おいおい、しっかりやれよー? トドメは一度きりなんだからな」

 裏の道具は一通り使ったことのあるムツヤだが、使い道や使い方が分からないものは多くあった。

 今回、ムツヤが手こずっている小さい精霊を召喚する杖もそれだ。

 本来ならば砂で強力な精霊を召喚できるはずの杖だったが、使用者の技術が無いために小さい精霊しか召喚が出来ていない。

 しかし、物とは使いようで、今回は逆にそれがムツヤへの有効打となっている。

 ムツヤ1人であれば一生かかっても思いつかなかったかもしれない使い方だった。キエーウも着実に裏の道具の研究を進めているらしい。

 さて、そんな事を知らないムツヤはとりあえず剣と手から火を出し続けて精霊を駆逐していく。

 塔での戦いばかりで、初歩的な精霊の召喚解除魔法を知らないことが仇となった。

 着地し、足で魔法出そうにも触手が邪魔をしてくる。捕まった後引きちぎれればいいが、正体不明の敵と戦うのにムツヤは警戒をしていた。

 そう、ムツヤの未知なる敵への警戒心の強さも今回は足を引っ張っている。

 この触手は仮に捕まったとしてもマヨイギと戦ったときのように、ムツヤの脚力なら余裕で逃げられるのだが……。


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 たまには朝食の用意でもしようと、モモはリースと共に料理をしていた。
 その匂いに釣られたのかムツヤが部屋から出てくる。
「ふわーあ、おはようございます。モモさんリースさん」
「あ、ムツヤさんおはようございまず!」
 似たような訛りでリースは挨拶を返す。
「おはようございますムツヤ殿」
「今日はモモさんのお料理ですかー」
「はい、ユモトほど美味しくはないかもしれませんが……」
 少し自信がなさげにモモは言う。
「いやいや、モモさんのお料理も俺好きですよ」
 モモが「そうですか」と言って顔を赤くするのをリースは見逃さなかった。皆もぞろぞろとテントから出てきて全員で朝食を摂る。
「ひょうはいよいよヒエーウほのけっへんね!(今日はいよいよキエーウとの決戦ね!)」
 ルーがハムスターの様に頬に食べ物を貯めながら喋った。
「決戦って言ってもムツヤを送り込んで暴れさせるだけだから私達は暇だがな」
「本当にムツヤさん1人で大丈夫なんでしょうか?」
 ユモトは心配そうにしていたが、ムツヤは何てことなしに料理を食べている。
「下手に私達が付いていったほうが足手まといになる」
「それはそうですが……」
 ユモトはアシノの言葉に一抹の不安を感じずにはいられなかった。
「それじゃあ、作戦を確認するぞ」
 朝食が終わり、アシノがそう声を掛けた。ムツヤの能力で周囲に人が居ないことは確認済みだ。
 また、念の為音の妨害魔法で家を包んでいる。
「まずここから南の枯れたダンジョンに、キエーウの支部がある。ムツヤは人の気配を辿ってその本拠地を叩く」
「はい!」
 勢いよくムツヤは返事をした。アシノは思う、こいつはアホだが戦いに関しては信用できる。
 ただ、人を斬る覚悟だけはまだ出来ていないようだが……
「よし、それじゃ私達だ」
 まぁムツヤなら殺さず、動けないようにするのは簡単だろうと自分に言い聞かせた。
「最強ムツヤ大先生の弱点は私達だ。誰か一人でも人質に取られたらまずい」
「そうなのよねー」
 ルーだけでなく全員がその点には合点がいく。
「だから私達は自分の身を自分達で守ることだけを考えるぞ」
 皆が頷いたのを確認してアシノは話を続ける。
「現時点でだ、この中でムツヤの次に強いのはヨーリィだ」
「私じゃないの!?」
「黙ってろ!!」
 アシノが立ち上がったルーの頭を引っ叩くと「ぷぺら」と言って椅子に戻った。
「中距離近距離の戦いで一番強いのはヨーリィだ。だからヨーリィを一番南に置く」
 ヨーリィは「わかった」と短く言った。
「次、ヨーリィの援護にルーが付く」
「任せちゃってー、ヨーリィちゃんは私が守るわ!」
「後の私達は後方で自分の身を守ることだけを考えろ」
 ユモトとモモ、リースは返事をする。これでキエーウ強襲戦への布陣は決まった。
「それじゃあ行ってきます」
「えぇ、どうかご武運を」
 ムツヤはモモの言葉を聞き終えると風のように森を駆け抜けていく。
「私達も布陣するぞ」
――
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 ムツヤは千里眼を使い、周りの状況を確認しながら森の中を南に向けて走り続けていた。
 ふと気配を察知して足を止める。凄まじいスピードだったので、足元からは土煙が上がった。
 探知盤を取り出すとやっぱりだ、点が3つこちらへと向かってきていた。裏の道具持ちを仲間の元へ通すわけにはいかない。
 点の方へと走り出し、しばらくすると、接敵するかといった頃合いになる。
 瞬間、小さい何かが大量にこちらへ向かってきた。
 小さい球体状で短い手足のようなものが生えている。とっさにムツヤは雷の魔法でそれらを迎撃した。
 しかし、それらは黒焦げになることもなくムツヤの元へ集まりだし、まとわり付く。
 魔物ではない。人工的に召喚された何かだと思い魔剣ムゲンジゴクを取り出して豪火とともに切り裂いた。
 すると今度は小さい何かが消え去るが、次々とやってきてはムツヤに体当たりをし、まとわり付きキリがない。
 ムツヤは足で魔法を一気に発動させた。
 ムツヤを中心に火柱が上がり、辺り一帯を燃やし尽くす。
 終わったかと思ったが、まだだった。小さい何かはまだまだ現れてムツヤへと向かってくる。
 1つ気づいた事があった。この小さい何かがムツヤに触れると僅かながら魔力を奪われる。そしてその魔力で分裂をしていた。
 無限とも言える魔力を持つムツヤにとって、この小さい何かはまさに天敵である。
 ムツヤが珍しく小さい何かに苦戦している頃、それを見つめる3人の影があった。
「ウートゴ様の言ったとおりね。この精霊はアホのムツヤに効くわ」
 1人は小さい何かを召喚している女の召喚術師だ。やはりこれらは、ムツヤの予想通り人工的に召喚された精霊だった。
 ダメ押しとばかりに女召喚術師は左手に裏の道具の杖を持ち、右手には砂粒を持って詠唱を始める。
 すると、右手の砂粒が小さい精霊となってムツヤの元へ飛んでいった。
「次は俺の番だ」
 キエーウの男がそう言うとムツヤの足元から触手が出てムツヤの足元を捉えようとする。
 だが、飛び跳ねられてそれは躱されてしまう。
「おいおい、しっかりやれよー? トドメは一度きりなんだからな」
 裏の道具は一通り使ったことのあるムツヤだが、使い道や使い方が分からないものは多くあった。
 今回、ムツヤが手こずっている小さい精霊を召喚する杖もそれだ。
 本来ならば砂で強力な精霊を召喚できるはずの杖だったが、使用者の技術が無いために小さい精霊しか召喚が出来ていない。
 しかし、物とは使いようで、今回は逆にそれがムツヤへの有効打となっている。
 ムツヤ1人であれば一生かかっても思いつかなかったかもしれない使い方だった。キエーウも着実に裏の道具の研究を進めているらしい。
 さて、そんな事を知らないムツヤはとりあえず剣と手から火を出し続けて精霊を駆逐していく。
 塔での戦いばかりで、初歩的な精霊の召喚解除魔法を知らないことが仇となった。
 着地し、足で魔法出そうにも触手が邪魔をしてくる。捕まった後引きちぎれればいいが、正体不明の敵と戦うのにムツヤは警戒をしていた。
 そう、ムツヤの未知なる敵への警戒心の強さも今回は足を引っ張っている。
 この触手は仮に捕まったとしてもマヨイギと戦ったときのように、ムツヤの脚力なら余裕で逃げられるのだが……。