第二問
ー/ー
私は震える手で画面を開いた。そこには夜の海の画像が表示されている。波打ち際がぼんやりと映し出され、その暗い色合いはどこか不吉だった。そしてその下に新たなメッセージが現れる。
「ここは何処でしょう?」
「やめて……」
スマホを閉じようとした次の瞬間、再び通知音が鳴り響く。恐る恐る画面を見ると、次の画像が表示されていた。
砂浜から海へ近づく視点で撮影された写真。それはまるでカメラを持った誰かが海へ歩み寄っているような構図だった。そしてまたしてもメッセージが届く。
「問題です。これから私は何処に行くでしょう?」
スマホ画面には暗闇に浮かぶ波打ち際が新たに受信されるとともに、メッセージが表示された。
「問題です。この場所はどこでしょう?」
私がその画像を見ると、耳元で水滴が落ちる音が聞こえた。それはスマホのスピーカーから鳴っているようだった。
次々と送られてくる画像には、不気味な変化が加わっていく。
指先は冷たくなり、画面を操作する力すら失いそうになる。
次々に受信される画像とメッセージ。
海に身体が浸かっており、水面に反射する月光が不気味に揺れている。
「問題です。私は今悲しんでいますか?」
水中に半分までカメラが浸かったアングル。画像下半分には泡が浮かび上がっている。
「問題です。私は絶望していますか?」
海底へ沈んでいくような、既にカメラ全体が水中に潜っている画像。暗闇ではあるが、うっすらと無数の手のような影がぼんやりと浮かび上がっている。
「問題です。私の答えは間違っていましたか?」
赤黒い色調に染まった水中。泡立つ暗闇の中で叫び声を上げているような歪んだ顔がぼんやりと見える。
「問ダイです。私はじぎくニますか?」
何も映っていないようでいて、よく見ると無数の小さな泡だけが浮かび上がっている。泡の奥で赤く染まる苦しみ歪んだ顔が複数写り込んでいる。
「ダイで。この先、ワタし、どコヘかいのでにちょう?」
最後には真っ赤な背景の画像。そこには血文字で「あなたも来るべき場所」と書かれていた。
私は耐えきれずスマホを強制的に電源オフにしようとした。しかし、電源ボタンを押しても画面は消えない。それどころか、さらに強制的に通知音が鳴り響き続ける。
「はっはっひっっく」と声にならない息を吐く。次に試したのはアカウント削除だった。しかし、「FINE」のアプリを開こうとすると画面全体が真っ赤になり、「削除できません」という文字だけが表示される。そしてまた新たな通知が来る。
私は耐えきれずに受信したものを確かめないままスマホを投げ捨てた。しかし、スマホが壁に打ち付けられる音すら虚しく響くだけだった。
そして再び通知音――壁際に転がるスマホが赤く光っている。
「問題です。この画像の中にあなたはいますか?」
画面には暗い海底。よく見ると、その中には自分にそっくりな顔が一瞬だけ浮かび上がった。
私は遠目から見えるその忌まわしい画面から目を離すことが出来ないまま、永遠とも思える時間、恐怖を感じていた。翔琉自身がおぞましい存在へ変貌したような錯覚さえ覚える。そして、一度暗転したスマホがすぐに赤く光って、自分自身への問いかけとも取れるメッセージが表示される。
「問題です。私を振った女は地獄に堕ちますか?」
その夜、私は眠ることが出来なかった。スマホを拾い上げ、近くにあるゴミ箱へ投げ捨てた後も、頭の中で「問題です」という翔琉の声が何度もリフレインする。
あの高い声、子供じみた口調。それが今では、頭の中を駆け巡り、耳元で囁かれている様に、背筋が凍るような恐怖に変わっていた。
「どうしてどうしてどうしてどうして」
呟き続けても答えは出ない。翔琉との別れ話を切り出した時の彼の表情が、何度も脳裏に浮かぶ。あの時、彼は笑っていたようにも見えたし、泣いていたようにも見えた。どちらとも取れる曖昧な表情が、今になって追い詰めてくる。
翌日、親友の沙織に会うことにした。沙織は大学時代からの付き合いで、私が心を許せる数少ない人物だった。カフェで向かい合いながら、昨夜の出来事を全て話した。
「それ、本当に翔琉からのメッセージなの?」
沙織は眉をひそめながら言った。「だって、別れたんでしょ?普通そんなことしないよね?」
「そうなんだけど……でも、あれは絶対に翔琉なの……」
「でもさ、SNSってハッキングとかもあるじゃん?もしかしたら誰かが悪ふざけしてるだけかもよ?」
沙織の言葉には一理あった。けれど、心にはどうしても拭いきれない違和感が残っていた。あのメッセージには、翔琉特有の「クセ」があったのだ。それは彼と長く付き合った私だからこそ分かるものだった。
「……でもさ」
沙織がふと口を開く。
「もし本当に翔琉だったら……それって、生きてる人間じゃないよね?」
その言葉に、思わず息を呑んだ。
その日の夜、自分の部屋で一人考え込んでいた。翔琉との日々を思い返すうちに、彼が出してきた数々の水平思考クイズが頭をよぎる。
ある日、翔琉がこんなクイズを出したことがあった。
「問題です。一人暮らしの女性が毎晩寝る前に必ず玄関を確認します。でもある日、その確認を怠った結果、大変なことになりました。それは何故でしょう?」
その時、私は答えられなかった。翔琉は嬉しそうにこう続けた。
「正解は、『玄関の鍵が開いていたから』だよ。そのせいで泥棒に入られて……まあ、大変なことになっちゃうんだよね」
その時はただの怖い話だと思っただけだった。でも今になって、そのクイズには妙なリアリティがあるように思えてならなかった。まるで、翔琉自身が何かを暗示していたかのように――。
その夜、再びスマホが鳴った。「FINE」から新しい通知だ。
「問題です」
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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「ここは何処でしょう?」
「やめて……」
スマホを閉じようとした次の瞬間、再び通知音が鳴り響く。恐る恐る画面を見ると、次の画像が表示されていた。
砂浜から海へ近づく視点で撮影された写真。それはまるでカメラを持った誰かが海へ歩み寄っているような構図だった。そしてまたしてもメッセージが届く。
「問題です。これから私は何処に行くでしょう?」
スマホ画面には暗闇に浮かぶ波打ち際が新たに受信されるとともに、メッセージが表示された。
「問題です。この場所はどこでしょう?」
私がその画像を見ると、耳元で水滴が落ちる音が聞こえた。それはスマホのスピーカーから鳴っているようだった。
次々と送られてくる画像には、不気味な変化が加わっていく。
指先は冷たくなり、画面を操作する力すら失いそうになる。
次々に受信される画像とメッセージ。
海に身体が浸かっており、水面に反射する月光が不気味に揺れている。
「問題です。私は今悲しんでいますか?」
水中に半分までカメラが浸かったアングル。画像下半分には泡が浮かび上がっている。
「問題です。私は絶望していますか?」
海底へ沈んでいくような、既にカメラ全体が水中に潜っている画像。暗闇ではあるが、うっすらと無数の手のような影がぼんやりと浮かび上がっている。
「問題です。私の答えは間違っていましたか?」
赤黒い色調に染まった水中。泡立つ暗闇の中で叫び声を上げているような歪んだ顔がぼんやりと見える。
「問ダイです。私はじぎくニますか?」
何も映っていないようでいて、よく見ると無数の小さな泡だけが浮かび上がっている。泡の奥で赤く染まる苦しみ歪んだ顔が複数写り込んでいる。
「ダイで。この先、ワタし、どコヘかいのでにちょう?」
最後には真っ赤な背景の画像。そこには血文字で「あなたも来るべき場所」と書かれていた。
私は耐えきれずスマホを強制的に電源オフにしようとした。しかし、電源ボタンを押しても画面は消えない。それどころか、さらに強制的に通知音が鳴り響き続ける。
「はっはっひっっく」と声にならない息を吐く。次に試したのはアカウント削除だった。しかし、「FINE」のアプリを開こうとすると画面全体が真っ赤になり、「削除できません」という文字だけが表示される。そしてまた新たな通知が来る。
私は耐えきれずに受信したものを確かめないままスマホを投げ捨てた。しかし、スマホが壁に打ち付けられる音すら虚しく響くだけだった。
そして再び通知音――壁際に転がるスマホが赤く光っている。
「問題です。この画像の中にあなたはいますか?」
画面には暗い海底。よく見ると、その中には自分にそっくりな顔が一瞬だけ浮かび上がった。
私は遠目から見えるその忌まわしい画面から目を離すことが出来ないまま、永遠とも思える時間、恐怖を感じていた。翔琉自身がおぞましい存在へ変貌したような錯覚さえ覚える。そして、一度暗転したスマホがすぐに赤く光って、自分自身への問いかけとも取れるメッセージが表示される。
「問題です。私を振った女は地獄に堕ちますか?」
その夜、私は眠ることが出来なかった。スマホを拾い上げ、近くにあるゴミ箱へ投げ捨てた後も、頭の中で「問題です」という翔琉の声が何度もリフレインする。
あの高い声、子供じみた口調。それが今では、頭の中を駆け巡り、耳元で囁かれている様に、背筋が凍るような恐怖に変わっていた。
「どうしてどうしてどうしてどうして」
呟き続けても答えは出ない。翔琉との別れ話を切り出した時の彼の表情が、何度も脳裏に浮かぶ。あの時、彼は笑っていたようにも見えたし、泣いていたようにも見えた。どちらとも取れる曖昧な表情が、今になって追い詰めてくる。
翌日、親友の沙織に会うことにした。沙織は大学時代からの付き合いで、私が心を許せる数少ない人物だった。カフェで向かい合いながら、昨夜の出来事を全て話した。
「それ、本当に翔琉からのメッセージなの?」
沙織は眉をひそめながら言った。「だって、別れたんでしょ?普通そんなことしないよね?」
「そうなんだけど……でも、あれは絶対に翔琉なの……」
「でもさ、SNSってハッキングとかもあるじゃん?もしかしたら誰かが悪ふざけしてるだけかもよ?」
沙織の言葉には一理あった。けれど、心にはどうしても拭いきれない違和感が残っていた。あのメッセージには、翔琉特有の「クセ」があったのだ。それは彼と長く付き合った私だからこそ分かるものだった。
「……でもさ」
沙織がふと口を開く。
「もし本当に翔琉だったら……それって、生きてる人間じゃないよね?」
その言葉に、思わず息を呑んだ。
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ある日、翔琉がこんなクイズを出したことがあった。
「問題です。一人暮らしの女性が毎晩寝る前に必ず玄関を確認します。でもある日、その確認を怠った結果、大変なことになりました。それは何故でしょう?」
その時、私は答えられなかった。翔琉は嬉しそうにこう続けた。
「正解は、『玄関の鍵が開いていたから』だよ。そのせいで泥棒に入られて……まあ、大変なことになっちゃうんだよね」
その時はただの怖い話だと思っただけだった。でも今になって、そのクイズには妙なリアリティがあるように思えてならなかった。まるで、翔琉自身が何かを暗示していたかのように――。
その夜、再びスマホが鳴った。「FINE」から新しい通知だ。
「問題です」