13
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スミレの彼女は、一見すると大人しそうな女だった。顔は悪くないが、自分に自信がないのか伏し目がちで、時折探るような視線をオレに向けてくる。
まずふたりでお茶でも飲めと言って、スミレが場をセッティングしたものの、正直いらぬ世話だった。この女には感情を一切使いたくないし、ただ人形のように抱いて終わりにしたかった。それなのに、なぜか苛立ちばかりが募る。
「言っとくけど、好きでもない女に優しくする義理なんてねぇから」
適当に会話を切り上げてホテルに入ったあと、その苛立ちをぶつけると、女は嬉しそうな表情を浮かべた。そういう性癖というわけか。余計に忌々しい。
スミレの彼女だろうが、関係なかった。オレが大切にしたいと思っていたのは、スミレひとりだけ。ほかの女なんてどうでもいいし、顔も名前も覚えたくはない。行為の最中はその女の顔を消して、頭の中でスミレを思い浮かべていた。そうでもしないと、体が反応してくれそうになかったからだ。
なぜ、こんなことをしているのだろうか。自分への嫌悪からくる吐き気を、必死に抑えた。
恋愛感情なんかなくても、セックス自体はできる。オレ自身の言葉だが、その行為がこんなにも苦しいものだとは思わなかった。
どう考えても、スミレはオレを精神的に追い詰めようとしている。分かっていたはずだ。オレが、こんなことを割り切れる性格じゃないということを。
「ねぇ、また会える?」
ホテルを出ると女にそう言われたので、スミレに訊けとだけ答えて、さっさと家路についた。帰宅後すぐにシャワーを浴びたが、女のニオイや体に渦巻く負の感情までは洗い流せない。その夜はなにも喉を通らず吐いてばかりで、ほとんど眠れなかったのを覚えている。
こんなふうに追い詰められて苦しんだ先に、一体どんな景色が見えるというのか。そのときのオレには、まだなにも分からなかった。
「浅尾、大丈夫?」
翌日学校へ行くと、長岡が心配そうな顔で話しかけてきた。
「なんかフラついているけど……」
「ああ、寝ていないだけ」
「この前も、そんなことを言っていただろ。ちゃんと寝ないと。最近、顔色が悪すぎるよ」
癖が強い人間ばかり集まっている高校の中でも浮いているオレに、こんなことを言ってくるのは長岡ぐらいだ。こいつは周りのことなんか気にしないし、変な先入観も一切持たない。
「しかも痩せただろ」
「そうかもな。ウエストが、ゆるくなってきたし」
「食べて寝るのは基本じゃないか。絵を描くのも体力いるんだから。うちの米、またお裾分けしようか?」
長岡の祖父母は新潟に住んでいて、よく米を送ってくる。以前、世田谷にある長岡の自宅まで貰いに行ったことがあるが、長岡と同じ顔をした母親が出てきて思わず吹き出しそうになった。ちなみに新潟出身なのは父親で、母親は鹿児島らしい。それを聞いたときは、妙に納得した。
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まずふたりでお茶でも飲めと言って、スミレが場をセッティングしたものの、正直いらぬ世話だった。この女には感情を一切使いたくないし、ただ人形のように抱いて終わりにしたかった。それなのに、なぜか苛立ちばかりが募る。
「言っとくけど、好きでもない女に優しくする義理なんてねぇから」
適当に会話を切り上げてホテルに入ったあと、その苛立ちをぶつけると、女は嬉しそうな表情を浮かべた。そういう性癖というわけか。余計に忌々しい。
スミレの彼女だろうが、関係なかった。オレが大切にしたいと思っていたのは、スミレひとりだけ。ほかの女なんてどうでもいいし、顔も名前も覚えたくはない。行為の最中はその女の顔を消して、頭の中でスミレを思い浮かべていた。そうでもしないと、体が反応してくれそうになかったからだ。
なぜ、こんなことをしているのだろうか。自分への嫌悪からくる吐き気を、必死に抑えた。
恋愛感情なんかなくても、セックス自体はできる。オレ自身の言葉だが、その行為がこんなにも苦しいものだとは思わなかった。
どう考えても、スミレはオレを精神的に追い詰めようとしている。分かっていたはずだ。オレが、こんなことを割り切れる性格じゃないということを。
「ねぇ、また会える?」
ホテルを出ると女にそう言われたので、スミレに訊けとだけ答えて、さっさと家路についた。帰宅後すぐにシャワーを浴びたが、女のニオイや体に渦巻く負の感情までは洗い流せない。その夜はなにも喉を通らず吐いてばかりで、ほとんど眠れなかったのを覚えている。
こんなふうに追い詰められて苦しんだ先に、一体どんな景色が見えるというのか。そのときのオレには、まだなにも分からなかった。
「浅尾、大丈夫?」
翌日学校へ行くと、長岡が心配そうな顔で話しかけてきた。
「なんかフラついているけど……」
「ああ、寝ていないだけ」
「この前も、そんなことを言っていただろ。ちゃんと寝ないと。最近、顔色が悪すぎるよ」
癖が強い人間ばかり集まっている高校の中でも浮いているオレに、こんなことを言ってくるのは長岡ぐらいだ。こいつは周りのことなんか気にしないし、変な先入観も一切持たない。
「しかも痩せただろ」
「そうかもな。ウエストが、ゆるくなってきたし」
「食べて寝るのは基本じゃないか。絵を描くのも体力いるんだから。うちの米、またお裾分けしようか?」
長岡の祖父母は新潟に住んでいて、よく米を送ってくる。以前、世田谷にある長岡の自宅まで貰いに行ったことがあるが、長岡と同じ顔をした母親が出てきて思わず吹き出しそうになった。ちなみに新潟出身なのは父親で、母親は鹿児島らしい。それを聞いたときは、妙に納得した。