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商談22 さぁ、剣を取れ!!

ー/ー



島津と話している岩井という男、俺には心当たりがあった。もしかして、あいつかもしれない。
「俺は昔から腰痛がひどくてなぁ? 島津が稽古に来てくれると助かるよ!」
 ......間違いない。こいつは鈴木健作の甥、岩井達郎じゃないか! 千葉県の強豪・房州高校で大将に君臨していた巨漢だ。健作の甥という注目度の高さに加えて、自身の実力も申し分なかった。しかし、あまりの巨体に腰痛を悪化させ、志半ばで現役引退を余儀なくされた不遇な男だと聞いている。
 そんな男が今、剣道居酒屋を開店して第二の人生を謳歌している。彼の剣道人生は、まだ終わっていないのだ。
「よぉし入間、さっそくだが剣を取れ!」
 俺が感傷に浸っているにも拘わらず、島津は空気も読まずに勝負を仕掛けてきた。え? 今なんて言った??
「何をボケっとしているんだ! さぁ、剣を取れ!!」
 やっぱり俺の聞き間違いじゃなかった! 剣を取れって、つまり俺と勝負しろってことか!?
「現役じゃないとか、言い訳は聞かないぜ?」
 島津は不敵な笑みを浮かべている。スポーツバーって、そういうとこじゃないだろ! それに、俺は竹刀(しない)も防具も持ち合わせていないぞ!?
「防具がないとか言いたいんだろ? それなら、店長から借りられるぜ?」
 俺の考えを汲み取っているかのように、島津の言葉は先回りしている。目と目で通じ合う仲とは、時に面倒なこともあるもんだ。道場の壁には、『防具一式貸出(ます)。三千円也』という張り紙が掲示されている。貸防具の相場なんて分からないが、四の五の言ってられない。鹿児島の火竜が、ここで尻尾を巻いて帰るわけにはいかないんだ!! 俺は即座に、店長へ防具一式貸出を申し入れた。
 勢いで防具一式を借りたものの、借り物はどうもしっくりこない。道着と袴は特段の問題はないとして......胴と垂れは、さっき店員(せいと)の高橋が装着していた前掛けだ。確かに防具としての強度はありそうだが、本当にこれで稽古が出来るのか? 俺は不安で一杯だ。
 それに、竹刀もカーボン製で無機質なため振りづらい。竹製の竹刀なら個々に重心などの癖があるため、それに合わせて使い分けることが出来る。しかし、カーボン製では癖も何もない。まぁ、面と小手は比較的まともなので特に支障もないが。
「入間、ゼッケンはこれを使え!」
 島津は自前の防具を備えていたらしく、身なりも格好がいい。そんな島津が手渡してきたのは『武洲館(ぶしゅうかん) 入間』と書かれたゼッケンだった。
 ......いや待て! どうしてお前がそのゼッケンを持っているんだ!?


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島津と話している岩井という男、俺には心当たりがあった。もしかして、あいつかもしれない。
「俺は昔から腰痛がひどくてなぁ? 島津が稽古に来てくれると助かるよ!」
 ......間違いない。こいつは鈴木健作の甥、岩井達郎じゃないか! 千葉県の強豪・房州高校で大将に君臨していた巨漢だ。健作の甥という注目度の高さに加えて、自身の実力も申し分なかった。しかし、あまりの巨体に腰痛を悪化させ、志半ばで現役引退を余儀なくされた不遇な男だと聞いている。
 そんな男が今、剣道居酒屋を開店して第二の人生を謳歌している。彼の剣道人生は、まだ終わっていないのだ。
「よぉし入間、さっそくだが剣を取れ!」
 俺が感傷に浸っているにも拘わらず、島津は空気も読まずに勝負を仕掛けてきた。え? 今なんて言った??
「何をボケっとしているんだ! さぁ、剣を取れ!!」
 やっぱり俺の聞き間違いじゃなかった! 剣を取れって、つまり俺と勝負しろってことか!?
「現役じゃないとか、言い訳は聞かないぜ?」
 島津は不敵な笑みを浮かべている。スポーツバーって、そういうとこじゃないだろ! それに、俺は|竹刀《しない》も防具も持ち合わせていないぞ!?
「防具がないとか言いたいんだろ? それなら、店長から借りられるぜ?」
 俺の考えを汲み取っているかのように、島津の言葉は先回りしている。目と目で通じ合う仲とは、時に面倒なこともあるもんだ。道場の壁には、『防具一式貸出|〼《ます》。三千円也』という張り紙が掲示されている。貸防具の相場なんて分からないが、四の五の言ってられない。鹿児島の火竜が、ここで尻尾を巻いて帰るわけにはいかないんだ!! 俺は即座に、店長へ防具一式貸出を申し入れた。
 勢いで防具一式を借りたものの、借り物はどうもしっくりこない。道着と袴は特段の問題はないとして......胴と垂れは、さっき|店員《せいと》の高橋が装着していた前掛けだ。確かに防具としての強度はありそうだが、本当にこれで稽古が出来るのか? 俺は不安で一杯だ。
 それに、竹刀もカーボン製で無機質なため振りづらい。竹製の竹刀なら個々に重心などの癖があるため、それに合わせて使い分けることが出来る。しかし、カーボン製では癖も何もない。まぁ、面と小手は比較的まともなので特に支障もないが。
「入間、ゼッケンはこれを使え!」
 島津は自前の防具を備えていたらしく、身なりも格好がいい。そんな島津が手渡してきたのは『|武洲館《ぶしゅうかん》 入間』と書かれたゼッケンだった。
 ......いや待て! どうしてお前がそのゼッケンを持っているんだ!?