表示設定
表示設定
目次 目次




第五十六話

ー/ー



 思えば、青はいつだって他の兄弟を思いやる心優しい男であった。それに透からの施しも命が保てる最低限までしかもらうことはなく、より幼い弟や妹たちに分け与える。
 それは、妹や弟、ひいては透を心から信頼し、愛していたからだ。
 透自身に語ることはなかったが、青は透のことを家族としてだけではなく、異性として好きだった。もし大きくなったら、そしてお互いに決まった相手がいなかったとき、青は透と結ばれたいと思っていたのだ。剣崎と橘はそのことを知っているがゆえに、より涙が溢れだし止まらなかったのだ。
 透は、その事実を知らなくとも、非常に義理堅い、家族のために戦う存在。青の魂を確かに受け取ると、大粒の涙を流しながらも残された二人に指示する。
「ケンちゃん、タッちゃん!! ――ここから出ようとするやつは、容赦なく攻撃しろ。俺は――二人の意志の分まで……青の仇を討ちに行ってくる。」
 号泣しながらも、静かに頷いて肯定する二人。そしてその二人の思いも受け継ぎ、礼安のもとへ走る透。
 走りながらも、思い返すは家族の思い出。スラム街で暮らしていたために、全くもって恵まれなかった環境下でありながらも、その生活は辛く楽しいものであった。殺戮された家族との生活も悪くはなかったが、スラムに落ちてからもそれは変わらず。
 青たちとの共同生活で、透は多くのものを学んだ。生きる上で必要な基本知識から、家族であることの大切さ。そしてその間に生まれる、人として大切な情緒。どれだけこの環境であることを強制した存在が憎たらしかろうと、そこで得たものは確かなものばかり。
 涙が、とめどなく溢れる。自分のふがいなさから結局はこうなってしまったがゆえに、自分がとにかく許せなかった。そして、まだ年端もいかない中で、勇猛果敢に殴り込んだ家族たちに対する親ゆえの怒りと、勇敢さを湛える称賛。それが渦巻いていたのだ。
(お前らは……いつだって無茶をする。俺を思ってくれているが故の行動だってのは……分かっているがよォ)
 そう家族への悲しみにふけっていると、遠くの方に人影を見た。それも複数。現時点だと該当者が多かったがために、逆に絞れてしまったのだ。
(――そうかよ。お前はどこまで行っても外道だし……アイツはどこまで行ってもクソお人よしだ)
 血を流しながらも、その場に辿り着いた透。その場では、今まさに礼安が生身のままグラトニーに痛めつけられていたのだ。

 グラトニーは、礼安に対しある提案をしていた。それは、『この天音家が負うはずだった責任を、痛みを以って思い知る』こと。そして既定の『責任』を背負いきれば、子供たちを解放するという。
 無論、幼子にそんなことをさせられないため、礼安はその痛みを請け負った。怪人体となったグラトニーが、一切の情け容赦なく、礼安を蹂躙していたのだ。
 顔面に何発も拳を叩きこみ、腹部には臓器はおろか骨も複雑骨折してしまいそうなほどの暴力を振るわれ。
 しかしそれでも執念で立ち上がり続ける礼安に苛立ち、殺すつもりで拳を振るおうとしていたのだ。
 しかし、それを透が即座に変身し、その拳を何とか受け止め、礼安を下がらせる。
「馬鹿野郎、何でこうなるまで黙って殴られ続けてんだよ!! 死んでもいいのかよ!!」
 透が礼安に対し怒りを露わにすると、彼女は血だらけの状態であっても苦しい表情を見せることなく、ただ笑って見せたのだ。
「だって……あの子たちは天音ちゃんの大切な『家族』だから。それなら……私が傷つくことで万事解決するなら。私は喜んで……天音ちゃんの家族の代わりに傷つけられるよ」
 そのイカれた礼安の思考に、何も言い返すことが出来ずにいた。同じようにして、家族の皆を、身を挺して守り抜いた長男を目の当たりにしていたからだ。
 そんな透を目の当たりにして。グラトニーは嘲笑っていた。先ほどまで自分の暴力への欲を満たしていたばかりに、実に気分良い様子であった。
「いやはや、エントランスでは楽しんでいただけたようでなにより。そこな滝本家のご令嬢が宣ったようなことをあの子供は言い放ちましてねえ。もとは貴女が月に返すはずの借金を返せなかったことが全てですが……そんな目も当てられない醜態をお教えするわけにはいかず。いやはや、実に悲しき物語ですねえ」
「お前が……お前みたいなド畜生が全てやったことだろうが!! 金にしか目のない、意地汚い下種野郎が!!!!」
 そんな透の反抗的な態度に苛立ったグラトニーは、その場で捕らえられていた兄弟たちを殴りぬいたのだ。子供たちは頬に走る激痛に悶えながらも、力強く自分たちを守り続けてくれた姉を見習った影響か、一切泣かなかったのだ。
「実に不愉快です。債務者が債権者に逆らうのですか?」
「もとはお前が理不尽に水増ししていったことだろうが、このクソ野郎!!」
 透が立ち上がろうとしたものの、グラトニーは弟と妹たちを守るべくかばっていた赤の首を乱暴に持ち、透にわざと見せるようにして仁王立ち。
「あーあ、貴女が反抗的な態度をとったことで……再び『あの時』のようになってしまう『妹』が増えてしまう」
 その言葉を聞いてしまった瞬間、透は怒りを忘れ、青ざめ、へたり込んでしまう。
「や、止めてくれ……あ、ああああっ止めて下さい!! どうか、俺が悪かったからああぁぁァァッ!!」
 その豹変した態度に疑問を抱いた礼安は、何とか体を起こしながら問い掛ける。
「い、一体どういうこと……? 天音ちゃんの家族は天音ちゃん含めの八人なんだよね?」
 その礼安の言葉に、グラトニーは笑いをこらえることが出来ずに、紳士然とした態度はいずこへ、大きく下品に笑ったのだった。
「おやおや、この様子だとお仲間にも打ち明けていない様子! よろしい、では天音透がひた隠しにしていた、最悪の真実を打ち明けましょうねェ?? それが、彼女の知的欲求を満たすには十分な題材ですからァ!!」
「や、止めてくれええェェェェェッ!!」
 透の慟哭もむなしく、グラトニーは薄笑いの状態で、高らかに宣言した。
「天音透にはァ!! 見殺し同然に目の前で死んでいった両親のほかに、『天音 明|《アマネ アキラ》』という本当の妹が存在したのです!!」



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第五十七話


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 思えば、青はいつだって他の兄弟を思いやる心優しい男であった。それに透からの施しも命が保てる最低限までしかもらうことはなく、より幼い弟や妹たちに分け与える。
 それは、妹や弟、ひいては透を心から信頼し、愛していたからだ。
 透自身に語ることはなかったが、青は透のことを家族としてだけではなく、異性として好きだった。もし大きくなったら、そしてお互いに決まった相手がいなかったとき、青は透と結ばれたいと思っていたのだ。剣崎と橘はそのことを知っているがゆえに、より涙が溢れだし止まらなかったのだ。
 透は、その事実を知らなくとも、非常に義理堅い、家族のために戦う存在。青の魂を確かに受け取ると、大粒の涙を流しながらも残された二人に指示する。
「ケンちゃん、タッちゃん!! ――ここから出ようとするやつは、容赦なく攻撃しろ。俺は――二人の意志の分まで……青の仇を討ちに行ってくる。」
 号泣しながらも、静かに頷いて肯定する二人。そしてその二人の思いも受け継ぎ、礼安のもとへ走る透。
 走りながらも、思い返すは家族の思い出。スラム街で暮らしていたために、全くもって恵まれなかった環境下でありながらも、その生活は辛く楽しいものであった。殺戮された家族との生活も悪くはなかったが、スラムに落ちてからもそれは変わらず。
 青たちとの共同生活で、透は多くのものを学んだ。生きる上で必要な基本知識から、家族であることの大切さ。そしてその間に生まれる、人として大切な情緒。どれだけこの環境であることを強制した存在が憎たらしかろうと、そこで得たものは確かなものばかり。
 涙が、とめどなく溢れる。自分のふがいなさから結局はこうなってしまったがゆえに、自分がとにかく許せなかった。そして、まだ年端もいかない中で、勇猛果敢に殴り込んだ家族たちに対する親ゆえの怒りと、勇敢さを湛える称賛。それが渦巻いていたのだ。
(お前らは……いつだって無茶をする。俺を思ってくれているが故の行動だってのは……分かっているがよォ)
 そう家族への悲しみにふけっていると、遠くの方に人影を見た。それも複数。現時点だと該当者が多かったがために、逆に絞れてしまったのだ。
(――そうかよ。お前はどこまで行っても外道だし……アイツはどこまで行ってもクソお人よしだ)
 血を流しながらも、その場に辿り着いた透。その場では、今まさに礼安が生身のままグラトニーに痛めつけられていたのだ。
 グラトニーは、礼安に対しある提案をしていた。それは、『この天音家が負うはずだった責任を、痛みを以って思い知る』こと。そして既定の『責任』を背負いきれば、子供たちを解放するという。
 無論、幼子にそんなことをさせられないため、礼安はその痛みを請け負った。怪人体となったグラトニーが、一切の情け容赦なく、礼安を蹂躙していたのだ。
 顔面に何発も拳を叩きこみ、腹部には臓器はおろか骨も複雑骨折してしまいそうなほどの暴力を振るわれ。
 しかしそれでも執念で立ち上がり続ける礼安に苛立ち、殺すつもりで拳を振るおうとしていたのだ。
 しかし、それを透が即座に変身し、その拳を何とか受け止め、礼安を下がらせる。
「馬鹿野郎、何でこうなるまで黙って殴られ続けてんだよ!! 死んでもいいのかよ!!」
 透が礼安に対し怒りを露わにすると、彼女は血だらけの状態であっても苦しい表情を見せることなく、ただ笑って見せたのだ。
「だって……あの子たちは天音ちゃんの大切な『家族』だから。それなら……私が傷つくことで万事解決するなら。私は喜んで……天音ちゃんの家族の代わりに傷つけられるよ」
 そのイカれた礼安の思考に、何も言い返すことが出来ずにいた。同じようにして、家族の皆を、身を挺して守り抜いた長男を目の当たりにしていたからだ。
 そんな透を目の当たりにして。グラトニーは嘲笑っていた。先ほどまで自分の暴力への欲を満たしていたばかりに、実に気分良い様子であった。
「いやはや、エントランスでは楽しんでいただけたようでなにより。そこな滝本家のご令嬢が宣ったようなことをあの子供は言い放ちましてねえ。もとは貴女が月に返すはずの借金を返せなかったことが全てですが……そんな目も当てられない醜態をお教えするわけにはいかず。いやはや、実に悲しき物語ですねえ」
「お前が……お前みたいなド畜生が全てやったことだろうが!! 金にしか目のない、意地汚い下種野郎が!!!!」
 そんな透の反抗的な態度に苛立ったグラトニーは、その場で捕らえられていた兄弟たちを殴りぬいたのだ。子供たちは頬に走る激痛に悶えながらも、力強く自分たちを守り続けてくれた姉を見習った影響か、一切泣かなかったのだ。
「実に不愉快です。債務者が債権者に逆らうのですか?」
「もとはお前が理不尽に水増ししていったことだろうが、このクソ野郎!!」
 透が立ち上がろうとしたものの、グラトニーは弟と妹たちを守るべくかばっていた赤の首を乱暴に持ち、透にわざと見せるようにして仁王立ち。
「あーあ、貴女が反抗的な態度をとったことで……再び『あの時』のようになってしまう『妹』が増えてしまう」
 その言葉を聞いてしまった瞬間、透は怒りを忘れ、青ざめ、へたり込んでしまう。
「や、止めてくれ……あ、ああああっ止めて下さい!! どうか、俺が悪かったからああぁぁァァッ!!」
 その豹変した態度に疑問を抱いた礼安は、何とか体を起こしながら問い掛ける。
「い、一体どういうこと……? 天音ちゃんの家族は天音ちゃん含めの八人なんだよね?」
 その礼安の言葉に、グラトニーは笑いをこらえることが出来ずに、紳士然とした態度はいずこへ、大きく下品に笑ったのだった。
「おやおや、この様子だとお仲間にも打ち明けていない様子! よろしい、では天音透がひた隠しにしていた、最悪の真実を打ち明けましょうねェ?? それが、彼女の知的欲求を満たすには十分な題材ですからァ!!」
「や、止めてくれええェェェェェッ!!」
 透の慟哭もむなしく、グラトニーは薄笑いの状態で、高らかに宣言した。
「天音透にはァ!! 見殺し同然に目の前で死んでいった両親のほかに、『天音 明|《アマネ アキラ》』という本当の妹が存在したのです!!」