表示設定
表示設定
目次 目次




神様仏様お母様 1

ー/ー



(あきら)はどの季節が好き?」母が蜜柑の皮を剥きながら聞いてくる。床に敷かれたホットカーペットに、明は寝そべっていた。暖かくて、身体が床に張り付いたように動かない。窓の外へ目を向けると、太陽が傾き、部屋が暗くなり始めていた。
「冬!」
「あら即答ね」
 母は一瞬、目を大きく見開き、その後で小さく笑った。「どうして冬なの?」
 明は高揚した気持ちをそのままに身を起こす。えーとね、と数えながら指を折る。
「まず冬は雪遊びができるでしょ。それにクリスマスにはサンタさんが来る。大晦日は遅くまで起きてもお母さんに怒られないでしょ。そして年が明ければお年玉が貰えるんだよ」
 母は嬉しそうに目を細めた。
「そうねえ。冬休みは短いけれど、楽しみなイベントが沢山詰まってる」
「中でも一番は」と身振り手振りを交えながら明は続ける。
「タケル君が遊びに来るのが楽しみ。サンタさんから貰ったゲームで遊ぶんだ」
『タケル君』とは親戚で、母の妹。その息子である。明が一年生でタケルが二年生。年齢がひとつ離れているが、そのようなことが気にならない程に仲が良いのだ。長期休みには毎回遊びに来るので明は楽しみにしていた。
 えーと、と母は呟き、携帯電話のメールを確認する。「そうそう、元旦のお昼過ぎには来るみたいよ」
「じゃあ明日だね。楽しみだよ」
 明はテレビ台に置いてあるゲーム機に目を向ける。母は視線に気づいたのか柔らかく微笑む。
「サンタさんに欲しかったゲームをもらえたものね」
「うん!」
 明は「早く対戦したい」と気持ちが浮き足立っていた。そのゲームソフトが欲しくなったのは、タケルの家に遊びに行ったのがきっかけである。「明はまだまだだな」とタケルの得意げな顔を思い出す。明は格闘ゲームを遊ぶのは初めてのため、複雑な操作についていけず、惨敗してしまったのだ。
 だが悔しさ以上に、楽しさが(まさ)っていた。それまではすごろくとミニゲームが組み合わさっているゲームしか遊んだことのない明にとって、格闘ゲームの駆け引き、爽快感は新鮮だった。
 明は父からパソコンの使い方を教えてもらい、遊び方の動画を見た。戦法を覚えていくのは、さながら修行のような気分である。当時は夏休みにも関わらず、明はサンタさんに頼もうと決めていた。目標は、いい子になること。以来、勉強に力を入れ、家の手伝いも積極的に行なった。初めは打算的な理由だったが気がつくと習慣となっていた。勉強と家の手伝いを行わないと落ち着かないのである。両親はそのような明の姿に感心していた。甲斐あってテストも高得点。明は達成感に包まれた状態で冬休みを迎えることができた。
 そしてクリスマスの日。起床し、クリスマスツリーの下にプレゼントの包み紙を発見した時、明は嬉しくて飛び上がった。
「お母さん、お父さん、見て見て。サンタさんからだよ」プレゼントを掲げ、振り回す。赤と緑の包装がされており、右上のシールにはメリークリスマス、と英語で書かれている。
「明は良い子にしていたし、その姿をサンタさんはしっかり見てくれたんだな」
 父は明の頭をがしがしと撫でる。
「よかったじゃない明。中身は何かな?」
 母に促され、明は包装紙をびりびりと破く。
「ああ、包装が」と父は声を上げ、母は「それほど嬉しいんでしょう」と笑っている。
 中身は明が欲しかった格闘ゲームだった。「やった!」と嬉しさのあまり叫んでしまう。「欲しかったゲームだよ」
 明はゲーム売り場に行く度にソフトを手に取り、食い入るようにパッケージの隅々を眺めていた。だからこそ今、手元にあることに明は感動を覚えていた。裏面には『敵を場外へ吹っ飛ばせ。最強は誰だ?』と書かれている。体力ゲージを減らすのではなく、ステージから相手を落とすことが勝利条件だ。駆け引き、一瞬の判断の攻防が売りの一つである。クラスの男子の間でも流行っていた。明は母に聞く。
「ねえ。今からやってもいい?」
 明は今すぐ遊びたい気持ちを、全身から発散させていた。母はため息をつきながらも口角は上がっている。
「仕方ない。今日だけよ」
「お母さんありがとう。よーし、やるぞ」
 明は早速テレビの前に座り、ゲーム機本体にソフトを入れる。ゲームの起動時間が待ち遠しく、コントローラーのボタンを意味もなくカチカチと押してしまう。
「明」と父が教師のように指を立てた。「但し、宿題もしっかりするんだぞ」
 燃え上がる炎に、いきなり冷水をかけられた気分だった。明は唇を尖らせる。「分かってるって」
「ならよし」父は頷くと明の隣に腰を下ろす。「じゃあはお父さんもやるか」
 明は驚く。「え?お父さんもこのゲーム知ってるの?」
「知ってるも何も、お父さんが子供の頃に初代が発売されたんだぞ」父は懐かしむように目を細め、得意げに胸を張る。「友達からは最強だって言われてたんだ」
「そうなんだ」明は不思議な気分で父を眺める。お父さんにも子供の頃があったのか、と。当たり前のことであるが、どうしても想像ができなかった。何にせよ、最強は身近にいたらしい。ゲームの起動画面が終わり、映像が流れ始めた。父はキャラクターの数と映像の美麗さに圧倒され「すげえ」と呟いている。明は「おお」と声を上げた。戦う映像が目まぐるしく移り変わっていく。明は自分もその世界に飛び込んでいくんだ、と気分が高揚していくのを感じていた。
「負けないよ。ぼくが最強なんだ」
「お、いいな。お父さんも負けないぞ」
 母は「どっちが子供なんだか」と呆れていた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 神様仏様お母様 2


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「|明《あきら》はどの季節が好き?」母が蜜柑の皮を剥きながら聞いてくる。床に敷かれたホットカーペットに、明は寝そべっていた。暖かくて、身体が床に張り付いたように動かない。窓の外へ目を向けると、太陽が傾き、部屋が暗くなり始めていた。
「冬!」
「あら即答ね」
 母は一瞬、目を大きく見開き、その後で小さく笑った。「どうして冬なの?」
 明は高揚した気持ちをそのままに身を起こす。えーとね、と数えながら指を折る。
「まず冬は雪遊びができるでしょ。それにクリスマスにはサンタさんが来る。大晦日は遅くまで起きてもお母さんに怒られないでしょ。そして年が明ければお年玉が貰えるんだよ」
 母は嬉しそうに目を細めた。
「そうねえ。冬休みは短いけれど、楽しみなイベントが沢山詰まってる」
「中でも一番は」と身振り手振りを交えながら明は続ける。
「タケル君が遊びに来るのが楽しみ。サンタさんから貰ったゲームで遊ぶんだ」
『タケル君』とは親戚で、母の妹。その息子である。明が一年生でタケルが二年生。年齢がひとつ離れているが、そのようなことが気にならない程に仲が良いのだ。長期休みには毎回遊びに来るので明は楽しみにしていた。
 えーと、と母は呟き、携帯電話のメールを確認する。「そうそう、元旦のお昼過ぎには来るみたいよ」
「じゃあ明日だね。楽しみだよ」
 明はテレビ台に置いてあるゲーム機に目を向ける。母は視線に気づいたのか柔らかく微笑む。
「サンタさんに欲しかったゲームをもらえたものね」
「うん!」
 明は「早く対戦したい」と気持ちが浮き足立っていた。そのゲームソフトが欲しくなったのは、タケルの家に遊びに行ったのがきっかけである。「明はまだまだだな」とタケルの得意げな顔を思い出す。明は格闘ゲームを遊ぶのは初めてのため、複雑な操作についていけず、惨敗してしまったのだ。
 だが悔しさ以上に、楽しさが|勝《まさ》っていた。それまではすごろくとミニゲームが組み合わさっているゲームしか遊んだことのない明にとって、格闘ゲームの駆け引き、爽快感は新鮮だった。
 明は父からパソコンの使い方を教えてもらい、遊び方の動画を見た。戦法を覚えていくのは、さながら修行のような気分である。当時は夏休みにも関わらず、明はサンタさんに頼もうと決めていた。目標は、いい子になること。以来、勉強に力を入れ、家の手伝いも積極的に行なった。初めは打算的な理由だったが気がつくと習慣となっていた。勉強と家の手伝いを行わないと落ち着かないのである。両親はそのような明の姿に感心していた。甲斐あってテストも高得点。明は達成感に包まれた状態で冬休みを迎えることができた。
 そしてクリスマスの日。起床し、クリスマスツリーの下にプレゼントの包み紙を発見した時、明は嬉しくて飛び上がった。
「お母さん、お父さん、見て見て。サンタさんからだよ」プレゼントを掲げ、振り回す。赤と緑の包装がされており、右上のシールにはメリークリスマス、と英語で書かれている。
「明は良い子にしていたし、その姿をサンタさんはしっかり見てくれたんだな」
 父は明の頭をがしがしと撫でる。
「よかったじゃない明。中身は何かな?」
 母に促され、明は包装紙をびりびりと破く。
「ああ、包装が」と父は声を上げ、母は「それほど嬉しいんでしょう」と笑っている。
 中身は明が欲しかった格闘ゲームだった。「やった!」と嬉しさのあまり叫んでしまう。「欲しかったゲームだよ」
 明はゲーム売り場に行く度にソフトを手に取り、食い入るようにパッケージの隅々を眺めていた。だからこそ今、手元にあることに明は感動を覚えていた。裏面には『敵を場外へ吹っ飛ばせ。最強は誰だ?』と書かれている。体力ゲージを減らすのではなく、ステージから相手を落とすことが勝利条件だ。駆け引き、一瞬の判断の攻防が売りの一つである。クラスの男子の間でも流行っていた。明は母に聞く。
「ねえ。今からやってもいい?」
 明は今すぐ遊びたい気持ちを、全身から発散させていた。母はため息をつきながらも口角は上がっている。
「仕方ない。今日だけよ」
「お母さんありがとう。よーし、やるぞ」
 明は早速テレビの前に座り、ゲーム機本体にソフトを入れる。ゲームの起動時間が待ち遠しく、コントローラーのボタンを意味もなくカチカチと押してしまう。
「明」と父が教師のように指を立てた。「但し、宿題もしっかりするんだぞ」
 燃え上がる炎に、いきなり冷水をかけられた気分だった。明は唇を尖らせる。「分かってるって」
「ならよし」父は頷くと明の隣に腰を下ろす。「じゃあはお父さんもやるか」
 明は驚く。「え?お父さんもこのゲーム知ってるの?」
「知ってるも何も、お父さんが子供の頃に初代が発売されたんだぞ」父は懐かしむように目を細め、得意げに胸を張る。「友達からは最強だって言われてたんだ」
「そうなんだ」明は不思議な気分で父を眺める。お父さんにも子供の頃があったのか、と。当たり前のことであるが、どうしても想像ができなかった。何にせよ、最強は身近にいたらしい。ゲームの起動画面が終わり、映像が流れ始めた。父はキャラクターの数と映像の美麗さに圧倒され「すげえ」と呟いている。明は「おお」と声を上げた。戦う映像が目まぐるしく移り変わっていく。明は自分もその世界に飛び込んでいくんだ、と気分が高揚していくのを感じていた。
「負けないよ。ぼくが最強なんだ」
「お、いいな。お父さんも負けないぞ」
 母は「どっちが子供なんだか」と呆れていた。