冬の朝、北の町の小学校では、恒例の「雪だるまコンテスト」が開催されていた。このイベントは地域全体で楽しむ冬の名物で、子どもたちが競い合って個性的な雪だるまを作るのだ。今年もまた、笑顔と歓声に包まれながら、各チームが雪の中で奮闘していた。
「よし、今年は絶対に優勝するぞ！」
小学5年生の太一は、クラスメイトの美咲とケンとともに、特大の雪だるまを作ろうと計画していた。テーマは「雪だるまキング」。大きさも見た目も圧倒的で、審査員の先生たちを驚かせる狙いだ。
「もっと雪を運んでこい！」と太一が檄を飛ばすと、ケンが「もう腕が限界だって！」とぼやきながらも、せっせと雪を運ぶ。美咲は装飾担当で、家から持ってきた帽子やマフラー、さらにボタンの代わりにクッキーまで用意していた。
数時間の奮闘の末、ついに巨大な雪だるまが完成した。高さは子どもたちの倍以上あり、頭には王冠をかぶり、目にはペンキで黒く塗ったビー玉がはめられている。その迫力たるや、他の雪だるまと比べても圧巻だった。
「完璧だな。」太一は満足げに言った。
だが、その夜のことだった。

太一の家の窓を叩く音で、彼は目を覚ました。
「なんだ、風か？」と思いながらカーテンを開けると、そこにはあり得ない光景が広がっていた。昼間作ったはずの雪だるまキングが、まるで生き物のようにゆっくりと歩いているではないか。
「うわぁ！」太一は布団を頭までかぶって震えたが、次第に恐怖よりも好奇心が勝った。そっと外をのぞくと、雪だるまキングが他の雪だるまたちを率いているのが見えた。しかも、次々と雪を集めては自分たちを巨大化させている。
「何をしてるんだ？」太一は恐る恐る外に出た。
雪だるまキングは太一に気づくと、低くうなり声を上げた。いや、よく聞くとそれは言葉になっていた。
「私たちは・・・自由になりたい！」
「自由って、お前、雪だるまだろ！」と太一が叫ぶと、雪だるまキングは挑むようにビー玉の目を光らせた。
「私たちはただの飾りではない！寒い冬の間、じっと動けず眺められるだけの存在に飽きたんだ！今日は反乱の日だ！」
太一は驚きつつも、「そんなことしてどうするんだ？」と尋ねた。雪だるまキングは一瞬黙った後、「とにかく人間たちを見返したいのだ！」と宣言した。

太一は慌てて美咲とケンを呼び出した。二人に事情を説明すると、ケンは「そんな馬鹿な話があるか」と言いながらも、窓の外で雪だるまたちが行進する姿を見て絶句した。
「どうする？このままだと町中が雪だるまで埋まっちゃうかも。」美咲が不安そうに言うと、太一はしばらく考え込んだ。そして急に、「俺たちで彼らを説得するしかない！」と言い出した。
「説得ってどうやって？」ケンが尋ねる。
「作ったのは俺たちだ。責任を取るしかないだろ！」太一は意を決して雪だるまたちの行進を追いかけた。

雪だるまたちは町の広場に集まり、さらに巨大化を続けていた。雪だるまキングの周囲には数十体の雪だるま軍団が並んでおり、まるで兵隊のようだ。
太一たちが広場に飛び込むと、雪だるまキングが低い声でうなった。「また来たか、人間よ。我々を止められると思うな！」
「ちょっと待て！」太一は勇気を振り絞って叫んだ。「お前たちは自由になりたいと言ったけど、本当にそれで幸せになれるのか？」
「何が言いたい？」雪だるまキングは少し動きを止めた。
「お前たちは雪でできてるんだろ？自由に動き回っても、春になれば溶けちゃうじゃないか。それでいいのか？」
その言葉に、雪だるまたちはたじろいだ。雪だるまキングも一瞬動きを止めたが、すぐに「それでも構わない！」と叫んだ。「短い命でも、動ける方が幸せだ！」
太一はさらに言葉を重ねた。「でも、じっとしている間だって、人間たちはお前たちを見て笑顔になってるんだ。それだって悪くないだろ？」
しばらくの沈黙の後、雪だるまキングは深いため息のような音を立てた。「・・・お前の言うことにも一理あるな。」

翌朝、町の人々は驚いた。雪だるまたちは再び元の場所に戻り、動かないただの雪だるまに戻っていた。しかし、どれも少し微笑んでいるように見えたという。
太一たちは一晩中奮闘して疲れ果てていたが、あの「雪だるま反乱」の夜を忘れることはなかった。そして、毎年のコンテストで雪だるまを作るたびに、そっと「ありがとう」と声をかけるようになった。