一面の銀世界から色とりどりの世界へと日々進んでいく。また一面の銀世界になり色とりどりの世界になっていく。
これが世界の決まりだ。これまでの当たり前と思っていたことが壊れるのは一瞬だ。
実は、性の六時間を共に過ごした相手がいる。共に過ごしたと言っても塾で一緒だったわけでもない。一緒に濃密な時間を過ごした。この時に体の関係は持っていない。何をしたかといえば、ただ二人で失恋ソング縛りで成人のふりをしてカラオケで歌っていた。もしかしたら彼女は成人していたのかもしれない。
その性の六時間の少し前の話。
元々、仲良かったわけでもない。たまたま見てしまったのだ。彼女が教室でカップ麺を勢いよく、周りの目を気にしないような食べ方でずるずるものすごい勢いで、もう、それこそ周りのマドンナという評価を一周するような勢いだった。
そもそもこの高校では基本的にカップ麺は禁止だ。どうしてカップ麵を持ってきたのか、お湯はどうやって沸かしたのか知りたかった。
「あの……」
「バレ……」
ズルッと汁を飲み干していた。
「あークラスメイトの遠藤か」
「はい……。ここでなにをしていた」
まるでボクが悪いことをしていたのように彼女に聞かれる。急に視界が明るくなった気がした。
「……ちっ、めんどくせぇな」
彼女の言葉遣いが悪い。機嫌が悪いのだろう。触らぬ神に祟りなし。
カップ麵のお湯の入手方法などが気になるが去ろう。『ん、んんえぇ、かぁぁぺぇ』とおっさんのような咳をして彼女はボクを呼んだ。
「今日、夜九時、駅前のカラオケな。遅れたら退学処分になるからな」
時間は夜八時四十八分。もう少しで性の六時間だ。童貞卒業は絶対好きな人と決めている。今は彼女は別に好きではない。だから、誘惑されても断る。
「十八分前か」
「十二分だ、バカ」
そのまま階段を登り、予約していたみたいで五階にエレベーターに乗る。
「あれ……」
部屋に入ると彼女は言った。
『君はここに一人で来た。このスマホも君の物だ』
「電波同級生?」
「そうだね、世間一般的にはそうなる」
「どういう?」
『さぁ、今日は失恋ソング縛りだよ』
五時間四十八分ほどドリンクの補充以外ノンストップだった。キレイに失恋ソング縛りだった。曲名が『キミしか見えない』という音楽を入れた時は少し空気が冷えた。極寒にいた気分だった。
「後、十二分かー。ありがとうね、遠藤くん」
「いやーボクも楽しかったし」
「ありがとう、あのカップ麺は魔法で出した水と火で作ったお湯で食べてたんだ。もちろん、カップ麵自身はこの世界製だよ」
「……?」
「最後に誰かに聞いてほしかったんだ、パラレルワールドは存在するし、異世界もある、魔法だってこの世界でも使えるってことを。わたしはその魔法のある異世界から研修に来たこの世界のサブカル文化が大好きな異世界人さ」
「どういう?」
「わたしの魔法は特殊でね、発動条件はマイナス気温な時か、この世界を去るときだけ」
「アニメやマンガ、ラノベみたいな?」
『君はここに一人で来た。このスマホも君のものだ』
まばゆい光が輝いた。優しい光というものがあれば、こういう光だろう。
クラスメイトなのに名前も思い出せない。淡い恋心になりそうな出会いが終わった。
ボクはらしくない一つの決心をした。
――いつか|極寒の魔法の世界《そっち》に行って名前聞くからな