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ガラス窓に朝のふり 1話完結

ー/ー



 これは私だけのガラス窓。図書館の2階からの夜の景色は、あなたのものではないよ。図書館という公共の中で"私だけ"が存在する。

 大きな街じゃないから交差点で鮮やかな色彩が交差しては止まっても、冷たい夜風が吹いても緩やかな温かさは感じられる。人は少なく急いでいる人の方が珍しい。

 綺麗で優しい……夜の景色。これは私だけが感じている景色。

 ──朝じゃないのに、朝のふり。

 イングリッシュブレックファーストティーと借りた本を手に、夜景を横目に窓辺の席に座る。一口、ミルクの甘さを感じながら本を開く。この日ばかりは、読む気が削がれて3ページ目で顔を上げる羽目になった。

 するとガラス窓に優しい夜景に滲む"私"を見た。

 おかしな顔だ──と、第一印象。自分の顔なのに、鏡を見て化粧をしたりスキンケアをしたりする時の顔ではない。ふとした瞬間の顔。いつもと変わらないけど不満と満足が混ざっている顔。

 思わずその事実に目を逸らして、本に浮かぶ文字に集中しようとする。けれど上手くいかなくて。何故かは分からない。ただ、何が私の手を止めるのか考えてみる。

 ひとまず手元のイングリッシュブレック……もう長いから割愛しよう。ミルクティーの二口目を味わう。少し時間を置いたからか、ミルクの中に僅かな苦味に気づいた。深みのある味でこれはこれで美味しい。

 考えを続けよう──何が自分の手を止めるのか。

 ガラス窓をもう一度見る。真下の交差点よりの駐車場で車が沢山並んでいる。フェンスに背を預ける二人組みの人影が居て、一人が何か棒のようなものを振り回している。車の方に向かってそれはもう激しく上下に振って身体も大きく動かしている。

 ──何かに向かって激怒している? 何かを伝えようと必死な様子に注意深く見つめていると二人は走り出した。そして、いつのまにか並走していた車を停めて乗って去った。

 ──思わず微笑んでしまった。あれは怒っていたのではなく迎えに来た車への歓喜の舞だったんだ。

 ふとガラス窓をもう一度見ると少しだけ自分に微笑み返した。朝活の真似事をして夜が溶ける。

 日中の忙しなく動く人々の中に、溶け込む自分に安堵を得ているのかもしれない。他人からみると愚かだろうか。図書館は学があり勉強をし、向上心のある人が多く使う場だから、今その机で頬杖をついている私は愚かだろうか。けれどそれでいい。

 何気ない日常の中で、何の意味もなく優しい時間があったって良い。

 ああ、私の手を止めていた正体が分かったかもしれない。図書館の中は人が朝みたいに多いからかもしれない。けして騒がしいわけではない。

 これ以上の思考は止そうと、本をカバンに詰めてコートを着て図書館を後にした。借りた本は期限までに好きなときに読む楽しみにとっておくことにする。

 重い扉を開いて、外に出た瞬間の夜風が刺すように強い。けれど私は口元を緩めた。──少しばかり刺激も求めていたようだと自分を笑う。

 片手のミルクティー、イングリッシュブレックファーストティーは温かいままだ。

 夜道を歩いて交差点に差し掛かると、振り返り見上げた5階ほどの図書館は、眩しい宝石のようだった。先程と違い金色が光る様は刺激的で、どこか優しさを秘めたように感じて美しい。

 私はくるりと足を信号機へ向け、金色の星を背にすると青色信号を堂々と渡っていった。

 ねぇ、知ってる? 夜の次は夢で、その次が朝だよ。明けない夜はないよ。そして朝も夜も愛しい音がする。

 きっとこの金色の星も一緒で、この一瞬の──私だけの優しいガラス窓。





【あとがき】
 少しでも楽しんで頂ければ幸いです。今日の夜空は覚えていますか? Bright like a Diamond.


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 これは私だけのガラス窓。図書館の2階からの夜の景色は、あなたのものではないよ。図書館という公共の中で"私だけ"が存在する。
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 綺麗で優しい……夜の景色。これは私だけが感じている景色。
 ──朝じゃないのに、朝のふり。
 イングリッシュブレックファーストティーと借りた本を手に、夜景を横目に窓辺の席に座る。一口、ミルクの甘さを感じながら本を開く。この日ばかりは、読む気が削がれて3ページ目で顔を上げる羽目になった。
 するとガラス窓に優しい夜景に滲む"私"を見た。
 おかしな顔だ──と、第一印象。自分の顔なのに、鏡を見て化粧をしたりスキンケアをしたりする時の顔ではない。ふとした瞬間の顔。いつもと変わらないけど不満と満足が混ざっている顔。
 思わずその事実に目を逸らして、本に浮かぶ文字に集中しようとする。けれど上手くいかなくて。何故かは分からない。ただ、何が私の手を止めるのか考えてみる。
 ひとまず手元のイングリッシュブレック……もう長いから割愛しよう。ミルクティーの二口目を味わう。少し時間を置いたからか、ミルクの中に僅かな苦味に気づいた。深みのある味でこれはこれで美味しい。
 考えを続けよう──何が自分の手を止めるのか。
 ガラス窓をもう一度見る。真下の交差点よりの駐車場で車が沢山並んでいる。フェンスに背を預ける二人組みの人影が居て、一人が何か棒のようなものを振り回している。車の方に向かってそれはもう激しく上下に振って身体も大きく動かしている。
 ──何かに向かって激怒している? 何かを伝えようと必死な様子に注意深く見つめていると二人は走り出した。そして、いつのまにか並走していた車を停めて乗って去った。
 ──思わず微笑んでしまった。あれは怒っていたのではなく迎えに来た車への歓喜の舞だったんだ。
 ふとガラス窓をもう一度見ると少しだけ自分に微笑み返した。朝活の真似事をして夜が溶ける。
 日中の忙しなく動く人々の中に、溶け込む自分に安堵を得ているのかもしれない。他人からみると愚かだろうか。図書館は学があり勉強をし、向上心のある人が多く使う場だから、今その机で頬杖をついている私は愚かだろうか。けれどそれでいい。
 何気ない日常の中で、何の意味もなく優しい時間があったって良い。
 ああ、私の手を止めていた正体が分かったかもしれない。図書館の中は人が朝みたいに多いからかもしれない。けして騒がしいわけではない。
 これ以上の思考は止そうと、本をカバンに詰めてコートを着て図書館を後にした。借りた本は期限までに好きなときに読む楽しみにとっておくことにする。
 重い扉を開いて、外に出た瞬間の夜風が刺すように強い。けれど私は口元を緩めた。──少しばかり刺激も求めていたようだと自分を笑う。
 片手のミルクティー、イングリッシュブレックファーストティーは温かいままだ。
 夜道を歩いて交差点に差し掛かると、振り返り見上げた5階ほどの図書館は、眩しい宝石のようだった。先程と違い金色が光る様は刺激的で、どこか優しさを秘めたように感じて美しい。
 私はくるりと足を信号機へ向け、金色の星を背にすると青色信号を堂々と渡っていった。
 ねぇ、知ってる? 夜の次は夢で、その次が朝だよ。明けない夜はないよ。そして朝も夜も愛しい音がする。
 きっとこの金色の星も一緒で、この一瞬の──私だけの優しいガラス窓。
【あとがき】
 少しでも楽しんで頂ければ幸いです。今日の夜空は覚えていますか? Bright like a Diamond.