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誕生日翌日は山の日の祝日で、お父さんと智美さんもお休み。
桔平くんは熟睡していて、まったく起きる気配がない。でも私は7時前には目を覚ましちゃったから、ひとりだけ先に起きて近所を散歩することにした。
当たり前だけど、東京と比べたら朝はとっても涼しくて気持ちがいい。玄関を出て背伸びをしながら、新鮮な空気をいっぱいに吸い込んだ。
辛い思い出のほうが多いこの土地。でもやっぱり私は、小樽が大好き。そう思えるようになったのは、紛れもなく桔平くんのおかげだった。自分の過去と正面から向き合って、感情を解放できたから。
桔平くんと出会わなければ、私にとってここは、二度と帰りたくない場所になっていたかもしれない。暗い暗い場所に沈み込んでいた私の心を、優しく掬い上げて光を当ててくれた。だから桔平くんは、私の人生にとってかけがえのない人。
でもそんな大切な人が苦しんでいるというのに、私にはなにもできない。
ド素人の私が絵のことに口出しできるわけないって分かっている。だけど桔平くんにとって、絵は人生そのもの。そのことで苦しんでいるのを目のあたりにしてもなにもできないなんて、やっぱり辛い。
私がそう感じているのを知ったら、桔平くんは絵を描くのやめちゃいそうだから、絶対に表には出さないけどね。
そんなことを考えながら、人も車も通っていない田舎道をブラブラと歩く。空が広くて、なんだか開放的な気分になった。
「え、姫野?」
突然、声をかけられる。振り返ると、柴犬を連れた金髪の男性が立っていた。
「やっぱり、姫野だよな?」
え、誰? 全然覚えがない人なんだけど。ちょっと怖い。
「え、ど、どちら様ですか?」
「三浦だよ、三浦康晃。中学3年間、同じクラスだった」
「み、三浦くん⁉」
三浦くんのことは、しっかり覚えている。だって私、中1の時に告白されたんだもん。そのあと同級生に私の整形のことを聞いたみたいで、なんとなく避けられるようになったけれど。
それにしても、見た目が変わりすぎじゃない? 中学時代は野球部で坊主だったからかもしれないけれど、とっても爽やかなスポーツマンって感じだった。でもいまは、なんかチャラいっていうか。まぁ、大学生だったらこんなものなのかな。いや、大学生かどうかは知らないけども。
「姫野って、東京の大学に行ったんだろ? 夏休みで帰省中?」
「う、うん」
どうして私が東京へ行ったこと知っているんだろう。高校は別なのに。田舎のネットワークって恐ろしい。
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辛い思い出のほうが多いこの土地。でもやっぱり私は、小樽が大好き。そう思えるようになったのは、紛れもなく桔平くんのおかげだった。自分の過去と正面から向き合って、感情を解放できたから。
桔平くんと出会わなければ、私にとってここは、二度と帰りたくない場所になっていたかもしれない。暗い暗い場所に沈み込んでいた私の心を、優しく掬い上げて光を当ててくれた。だから桔平くんは、私の人生にとってかけがえのない人。
でもそんな大切な人が苦しんでいるというのに、私にはなにもできない。
ド素人の私が絵のことに口出しできるわけないって分かっている。だけど桔平くんにとって、絵は人生そのもの。そのことで苦しんでいるのを目のあたりにしてもなにもできないなんて、やっぱり辛い。
私がそう感じているのを知ったら、桔平くんは絵を描くのやめちゃいそうだから、絶対に表には出さないけどね。
そんなことを考えながら、人も車も通っていない田舎道をブラブラと歩く。空が広くて、なんだか開放的な気分になった。
「え、姫野?」
突然、声をかけられる。振り返ると、柴犬を連れた金髪の男性が立っていた。
「やっぱり、姫野だよな?」
え、誰? 全然覚えがない人なんだけど。ちょっと怖い。
「え、ど、どちら様ですか?」
「三浦だよ、三浦康晃。中学3年間、同じクラスだった」
「み、三浦くん⁉」
三浦くんのことは、しっかり覚えている。だって私、中1の時に告白されたんだもん。そのあと同級生に私の整形のことを聞いたみたいで、なんとなく避けられるようになったけれど。
それにしても、見た目が変わりすぎじゃない? 中学時代は野球部で坊主だったからかもしれないけれど、とっても爽やかなスポーツマンって感じだった。でもいまは、なんかチャラいっていうか。まぁ、大学生だったらこんなものなのかな。いや、大学生かどうかは知らないけども。
「姫野って、東京の大学に行ったんだろ? 夏休みで帰省中?」
「う、うん」
どうして私が東京へ行ったこと知っているんだろう。高校は別なのに。田舎のネットワークって恐ろしい。