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【2】①

ー/ー



 あ、小日向せんぱ──。

 放課後の校舎で想い人を見つけて笑みを浮かべて駆け寄ろうとしたあたしの耳に、先輩がお友達と話している声が入って来た。みぶ先輩、だっけ?

幸也(ゆきや)、今日はあの子来ないのかな。なんか有名になってるぞ。ほら、野島の……」
 あたしのことだ。
 あたしの話題出してくれてる、と喜びそうになったところに先輩の台詞が突き刺さる。

「あー、石塚さんね。結構可愛いし別に非常識ってわけじゃないけど、子にあそこまでぐいぐい来られるとちょっと参るんだよな……」
「贅沢言ってんなよ、モテ男!」
 揶揄うような友達に、小日向先輩は真顔になった。

「お前ならどうでもいい子にモテて嬉しいのか?」
「……悪い。余計なこと言っちまった」
「いや。僕もよくなかったよ。お前に当たることじゃないよな。せっかく慕って来てくれる子に冷たくするのもって思っちゃって──」
 あたしのせいで、先輩とお友達が互いに謝ってるのが堪らなく申し訳ない気持ちだった。

 好きでもない、どうでもいい──。
 小日向先輩はあたしのこと邪魔だったんだ。優しいから顔にも出さずに相手してくれてただけで、本当は迷惑に感じてた……?

「これ、ちょっと教えていいか迷ったんだけどさ。実は向坂(さきさか)さんが『小日向くん、彼女出来たのかな』って言ってたって、女子部の森尾(もりお)が……」
 距離があっても顔色を変えたのがわかる先輩に、お友達が言い難そうに続ける。

「だから、その気ないなら曖昧にしない方がいいんじゃないか? 向坂さんに誤解されたら、お前それこそ大変だろ? 森尾も『えりな(向坂さん)が男子の話なんて珍しいから』って。一応、『それはちげーよ』って否定はしといた」

 省吾のこと、「もっと他人の心の機微読めよ!」なんて思ってたくせに、あたしの方がわかってなかったんだ。
 それ以上は二人の会話なんてまったく頭に入らなくて、もうその場を去ることしか考えられなかった。

「茉季、どうかしたのか?」
 先輩に見つからないように慌てて校舎を出たあたしに、どこから見てたのか後ろから走って来た省吾が不安そうに顔を覗き込む。

「え!? 別に何も! なんか変?」
「いや……」
 虚勢を張るあたしに、見抜いてるはずなのに省吾は何も言わない。
 今はそれがありがたかった。
 あたしのこと、よくわかってくれてる幼馴染み。

「小日向先輩、すごくいい人だよね。でも、あたし──」
「茉季、先輩のこと好きなんだろ」
 やっぱ伝わってたか。
 そりゃそうだよね。
 今になって振り返ってみれば、自分がどれだけ形振(なりふ)り構わず必死だったかやっと見えて来た。すごくみっともなかったんだろうってことも。
 何の興味もない後輩の幼馴染みに一方的に纏わりつかれて困ってたのに、それでもあたしには嫌な顔一つしなかった先輩。

 もしかしたらはっきり「やめてくれよ」って言われた方が吹っ切れたのかもしれない。
 だけどあたしが惹かれた、好きで少しでも接点持ちたかった小日向先輩はそういう人じゃなかった。
 きっと、だからあたしも追い掛けるうちに夢中になったのよ。

 好きな人を困らせてたこと、すごく苦しい。
 ばっさり切り捨てられない人だってことに付け込んで、あたしは自分だけが楽しんでたんだ。
 さっきの会話を聞いてなかったら、これからもずっと、本当に心の底から嫌われるまで押して行ったんじゃないかな。
 そうならなくてよかったんだよね。
 今なら「ちょっと困った、後輩の幼馴染みの女の子」だけで済む。



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 あ、小日向せんぱ──。
 放課後の校舎で想い人を見つけて笑みを浮かべて駆け寄ろうとしたあたしの耳に、先輩がお友達と話している声が入って来た。みぶ先輩、だっけ?
「|幸也《ゆきや》、今日はあの子来ないのかな。なんか有名になってるぞ。ほら、野島の……」
 あたしのことだ。
 あたしの話題出してくれてる、と喜びそうになったところに先輩の台詞が突き刺さる。
「あー、石塚さんね。結構可愛いし別に非常識ってわけじゃないけど、《《好きでもない》》子にあそこまでぐいぐい来られるとちょっと参るんだよな……」
「贅沢言ってんなよ、モテ男!」
 揶揄うような友達に、小日向先輩は真顔になった。
「お前ならどうでもいい子にモテて嬉しいのか?」
「……悪い。余計なこと言っちまった」
「いや。僕もよくなかったよ。お前に当たることじゃないよな。せっかく慕って来てくれる子に冷たくするのもって思っちゃって──」
 あたしのせいで、先輩とお友達が互いに謝ってるのが堪らなく申し訳ない気持ちだった。
 好きでもない、どうでもいい──。
 小日向先輩はあたしのこと邪魔だったんだ。優しいから顔にも出さずに相手してくれてただけで、本当は迷惑に感じてた……?
「これ、ちょっと教えていいか迷ったんだけどさ。実は|向坂《さきさか》さんが『小日向くん、彼女出来たのかな』って言ってたって、女子部の|森尾《もりお》が……」
 距離があっても顔色を変えたのがわかる先輩に、お友達が言い難そうに続ける。
「だから、その気ないなら曖昧にしない方がいいんじゃないか? 向坂さんに誤解されたら、お前それこそ大変だろ? 森尾も『|えりな《向坂さん》が男子の話なんて珍しいから』って。一応、『それはちげーよ』って否定はしといた」
 省吾のこと、「もっと他人の心の機微読めよ!」なんて思ってたくせに、あたしの方がわかってなかったんだ。
 それ以上は二人の会話なんてまったく頭に入らなくて、もうその場を去ることしか考えられなかった。
「茉季、どうかしたのか?」
 先輩に見つからないように慌てて校舎を出たあたしに、どこから見てたのか後ろから走って来た省吾が不安そうに顔を覗き込む。
「え!? 別に何も! なんか変?」
「いや……」
 虚勢を張るあたしに、見抜いてるはずなのに省吾は何も言わない。
 今はそれがありがたかった。
 あたしのこと、よくわかってくれてる幼馴染み。
「小日向先輩、すごくいい人だよね。でも、あたし──」
「茉季、先輩のこと好きなんだろ」
 やっぱ伝わってたか。
 そりゃそうだよね。
 今になって振り返ってみれば、自分がどれだけ|形振《なりふ》り構わず必死だったかやっと見えて来た。すごくみっともなかったんだろうってことも。
 何の興味もない後輩の幼馴染みに一方的に纏わりつかれて困ってたのに、それでもあたしには嫌な顔一つしなかった先輩。
 もしかしたらはっきり「やめてくれよ」って言われた方が吹っ切れたのかもしれない。
 だけどあたしが惹かれた、好きで少しでも接点持ちたかった小日向先輩はそういう人じゃなかった。
 きっと、だからあたしも追い掛けるうちに夢中になったのよ。
 好きな人を困らせてたこと、すごく苦しい。
 ばっさり切り捨てられない人だってことに付け込んで、あたしは自分だけが楽しんでたんだ。
 さっきの会話を聞いてなかったら、これからもずっと、本当に心の底から嫌われるまで押して行ったんじゃないかな。
 そうならなくてよかったんだよね。
 今なら「ちょっと困った、後輩の幼馴染みの女の子」だけで済む。