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第73話 割り切って、明日を迎えるために

ー/ー



 ひとまず大槻が部活を辞めることはなくなった。

 もちろん、だからといって大槻がしたことは消えないし、何かの拍子に不満や怒りを加速させる要因になるかもしれない。
 誰かは許さないでいるかもしれないし、誰かはこれから態度を変えるかもしれない。

 それでも俺たちは部活が好きでそのための集まりなんだと再認識した。
 思えばみんなでここまで腹を割って話したことはないのではないだろうか。
 俺の知らないところであるのかもしれないが、俺たち全員が揃ってちゃんと向き合って、話し合って、ぶつかり合ったのはこれが初めてかもしれない。

 それが良いか悪いかは別として、個人的に昨日今日で知ったことは多かった。
 そしてこれから知らないといけないことが少しだけ見えた。

 ただ、今は純粋に喜ぼう。無事にこれからもみんなで部活ができることに。

「ねぇー樫田。さっきから杉野が黙っているけどどうしたんだろー?」

「お前バカ。ありゃ疲れて思考が明後日の方向に行ってんだよ」

「なるほどー、すっごい気持ち悪い笑みだねー」

「言ってやんな。本人は満足そうになんだから」

 …………なにやら、俺の横で山路と樫田が小声で話していた。
 いや、君たちさぁ。

「……聞こえてんぞ」

「あ、やっぱりー?」

「まるでエンドロールに独白している主人公みたいだったぞ」

 え、それってかっこよくない?
 そう思う俺とは裏腹に、ちょっと引いている樫田。
 そうですかそんなにキモかったですか。
 じゃあ、現実に戻ります。

「そろそろいいか大槻?」

「男子だけに話って何―?」

「女子も見えなくなったことだしな」

 そう、俺たち男子四人はまだ公園にいた。
 あの後、解散の流になったのだが、大槻から男子だけで話したそうな雰囲気を感じた(物理的にもアイコンタクトされていた)ので、樫田が上手く女子三人を先に帰らせた。

 三人とも怪しんではいたが、疲れがあったのか察したのか素直に帰ってくれた。
 ちなみにさっきのは、女子がいなくなるのを見守りながらの独白だった。

「ああ、そうだな……」

 少し緊張気味な大槻。
 なんだ? 無事終わったっていうのに?
 俺だけでなく樫田や山路も不思議そうにしている。

「その、なんだ。昨日今日のことちゃんと謝りたくてな……」

「謝るって、そのためにさっきまで話していただろ」

「だねー」

「そうだぞ。どうした今になって」

「そうじゃなくて! いやそうなんだけど!」

 え、何それ禅問答?
 あるようでなくて、ないようであるような話?
 樫田も山路もよく分からないといった様子だった。

「それは部活としてだろ! 友達として迷惑かけたことを謝りたいんだ!」

 大槻がそう説明した。
 んんん? どゆこと?

「筋を通したいってことー?」

「俺たちにそんな殊勝なこといらないだろ」

 山路と樫田が笑いながら言う。
 あ、これ分かっていなかったの俺だけなやつだ。
 なるほどね、筋を通したいってことね。

 わかった!(わかってない)

「けどよ!」

 不服そうな大槻。
 要はアレか。何か謝罪というか罰を受けたいってことか(今更理解)。

 そんなこと言われてもなぁ。
 俺がどうするよ? と二人の方を見ると、なぜか二人ともこっちを見ていた。

「? どうした?」

「いやなに、こういうのは今日のMVPに決めてもらおうかなって」

「大岡裁き任せたよー」

 そう言って二人は俺の後ろに回った。
 大岡裁き?

「「よろしく」」

 俺の両肩にそれぞれ手を置き、大槻の方へ押した。
 え、ちょ。
 前に出た俺を、大槻が覚悟を決めた表情で見る。

「杉野、頼む」

 マジっすか? 俺が決めるの?
 後ろをちらっと振り返ると、満面の笑みで樫田と山路が見ていた。
 こいつら。ったく。
 こういうのって樫田の仕事じゃないのか、と思いながらも一応考える。

 きっとこれは大槻なりの覚悟なのだろう。
 ひょっとしたら今日を忘れないための儀式なのかもしれない。
 喉元過ぎれば熱さを忘れる。なんて言葉があるが、まさにその通りで人間一日経つだけで大抵のことはその情熱のピークが過ぎる。
 この二日間の出来事も、夏休みが始めることには思い出の彼方に行ってしまう。
 なら、せめて今日という日が色濃く残るようにするのがいいのではないだろうか。

 となると――。

「じゃあさ」

 俺は言う。俺なりの判決を。



 ――――――――――――――――――――――――――――




「待った。俺女子にカラオケ代貰うの忘れてんじゃん」

「あ」

「「?」」

 突然、樫田が思い出しように言った。
 大槻と山路は何のことかといった感じだった。
 そういえば、あの時のカラオケ代払ってないな。
 樫田が俺の方を向く。

「はぁ、いいや。とりあえず杉野」

「ああ、そうだな。いくらだった?」

 樫田から金額を聞くと、俺は財布を取り出して払った。

「ピッタリだな。ありがとう」

「おう」

「…………なぁ杉野」

 樫田から感謝を言われていると、、大槻が話しかけてきた。

「どうした大槻。そんな申し訳なさそうにして。カラオケ屋のことか?」

「いや、それは知らないけど。本当にこれでいいのか?」

「今更だねー」

「だな」

「ってことだ」

 みんなで問題ないと否定する俺たち。
 すると、丁度店員さんが運んできた。

「お待たせしました、味噌ラーメン大盛り四つでーす!」

 俺たち四人が座っているテーブルに続々とラーメンが並べられる。
 そう、ここはラーメン屋だった。
 俺が下したのは、夜ご飯を奢るという罰だった。

「まぁ、食べながら話そうや」

「そうだな」

「「「「頂きます」」」」

 手を合わせて、声をそろえる。
 そしてそれぞれ食べ始める。
 う~ん! うまい! この疲れた体に油が染みる!

「んにしても、激動の二日だったな」

「全くだねー。ゴールデンウィークももうすぐ終わりだしねー」

「……なんか、去年の今頃もこんな話してなかったか?」

「あー、そういえば去年の歓迎会のときも……」

 樫田と山路がそんな話をし出した。
 思わず大槻の方を見ると笑っていた。
 おそらく、俺と同じことを思ったのだろう。
 俺は笑顔がバレないように麵をすすった。

「そういえば、増倉と話しているときに言ってたやつだけど、何? お前たち一年生と会ったん?」

「それ気になってたんだよねー」

「ああ、それはな――」

 大槻が一年生と会ったこと、そしてそこで何を話したかを説明した。
 そういえば、あの後一年生たちはちゃんと結論出せたかな。

「渇望の話か……懐かしいな」

「歴史は繰り返すってことかねー」

「かもな」

 三人が俺を見る。
 ん? な、何でしょうか?

「今年の春大会はどうなることやら」

「演出とかどうするんだろーねー」

「津田先輩じゃね?」

 何事もなかったかのように話を続ける三人。
 いや! 何!?
 俺が目で訴えると、笑いながら樫田が説明する。

「いやそう睨むなって、去年のことを思い出しただけだよ」

「去年のこと?」

「そうだよ―、去年の杉野が渇望どうのこうのって悩んでたなーって」

「まぁ、確かに悩んでいたが……」

「別に深い意味はないって。一年たったんだなって思っただけ」

「人を見て歴史を感じないでくれません!?」

 俺が突っ込むと笑う三人。
 ああ、こうしていると実感する。
 この何気ない会話が最高だと。

 去年のことや昨日のこと、話題が二転三転しながらも俺たちは部活のことを話し続けた。
 些細なこの瞬間を、俺はこう思う。
 
 ああ、青春ってね。



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 ひとまず大槻が部活を辞めることはなくなった。
 もちろん、だからといって大槻がしたことは消えないし、何かの拍子に不満や怒りを加速させる要因になるかもしれない。
 誰かは許さないでいるかもしれないし、誰かはこれから態度を変えるかもしれない。
 それでも俺たちは部活が好きでそのための集まりなんだと再認識した。
 思えばみんなでここまで腹を割って話したことはないのではないだろうか。
 俺の知らないところであるのかもしれないが、俺たち全員が揃ってちゃんと向き合って、話し合って、ぶつかり合ったのはこれが初めてかもしれない。
 それが良いか悪いかは別として、個人的に昨日今日で知ったことは多かった。
 そしてこれから知らないといけないことが少しだけ見えた。
 ただ、今は純粋に喜ぼう。無事にこれからもみんなで部活ができることに。
「ねぇー樫田。さっきから杉野が黙っているけどどうしたんだろー?」
「お前バカ。ありゃ疲れて思考が明後日の方向に行ってんだよ」
「なるほどー、すっごい気持ち悪い笑みだねー」
「言ってやんな。本人は満足そうになんだから」
 …………なにやら、俺の横で山路と樫田が小声で話していた。
 いや、君たちさぁ。
「……聞こえてんぞ」
「あ、やっぱりー?」
「まるでエンドロールに独白している主人公みたいだったぞ」
 え、それってかっこよくない?
 そう思う俺とは裏腹に、ちょっと引いている樫田。
 そうですかそんなにキモかったですか。
 じゃあ、現実に戻ります。
「そろそろいいか大槻?」
「男子だけに話って何―?」
「女子も見えなくなったことだしな」
 そう、俺たち男子四人はまだ公園にいた。
 あの後、解散の流になったのだが、大槻から男子だけで話したそうな雰囲気を感じた(物理的にもアイコンタクトされていた)ので、樫田が上手く女子三人を先に帰らせた。
 三人とも怪しんではいたが、疲れがあったのか察したのか素直に帰ってくれた。
 ちなみにさっきのは、女子がいなくなるのを見守りながらの独白だった。
「ああ、そうだな……」
 少し緊張気味な大槻。
 なんだ? 無事終わったっていうのに?
 俺だけでなく樫田や山路も不思議そうにしている。
「その、なんだ。昨日今日のことちゃんと謝りたくてな……」
「謝るって、そのためにさっきまで話していただろ」
「だねー」
「そうだぞ。どうした今になって」
「そうじゃなくて! いやそうなんだけど!」
 え、何それ禅問答?
 あるようでなくて、ないようであるような話?
 樫田も山路もよく分からないといった様子だった。
「それは部活としてだろ! 友達として迷惑かけたことを謝りたいんだ!」
 大槻がそう説明した。
 んんん? どゆこと?
「筋を通したいってことー?」
「俺たちにそんな殊勝なこといらないだろ」
 山路と樫田が笑いながら言う。
 あ、これ分かっていなかったの俺だけなやつだ。
 なるほどね、筋を通したいってことね。
 わかった!(わかってない)
「けどよ!」
 不服そうな大槻。
 要はアレか。何か謝罪というか罰を受けたいってことか(今更理解)。
 そんなこと言われてもなぁ。
 俺がどうするよ? と二人の方を見ると、なぜか二人ともこっちを見ていた。
「? どうした?」
「いやなに、こういうのは今日のMVPに決めてもらおうかなって」
「大岡裁き任せたよー」
 そう言って二人は俺の後ろに回った。
 大岡裁き?
「「よろしく」」
 俺の両肩にそれぞれ手を置き、大槻の方へ押した。
 え、ちょ。
 前に出た俺を、大槻が覚悟を決めた表情で見る。
「杉野、頼む」
 マジっすか? 俺が決めるの?
 後ろをちらっと振り返ると、満面の笑みで樫田と山路が見ていた。
 こいつら。ったく。
 こういうのって樫田の仕事じゃないのか、と思いながらも一応考える。
 きっとこれは大槻なりの覚悟なのだろう。
 ひょっとしたら今日を忘れないための儀式なのかもしれない。
 喉元過ぎれば熱さを忘れる。なんて言葉があるが、まさにその通りで人間一日経つだけで大抵のことはその情熱のピークが過ぎる。
 この二日間の出来事も、夏休みが始めることには思い出の彼方に行ってしまう。
 なら、せめて今日という日が色濃く残るようにするのがいいのではないだろうか。
 となると――。
「じゃあさ」
 俺は言う。俺なりの判決を。
 ――――――――――――――――――――――――――――
「待った。俺女子にカラオケ代貰うの忘れてんじゃん」
「あ」
「「?」」
 突然、樫田が思い出しように言った。
 大槻と山路は何のことかといった感じだった。
 そういえば、あの時のカラオケ代払ってないな。
 樫田が俺の方を向く。
「はぁ、いいや。とりあえず杉野」
「ああ、そうだな。いくらだった?」
 樫田から金額を聞くと、俺は財布を取り出して払った。
「ピッタリだな。ありがとう」
「おう」
「…………なぁ杉野」
 樫田から感謝を言われていると、、大槻が話しかけてきた。
「どうした大槻。そんな申し訳なさそうにして。カラオケ屋のことか?」
「いや、それは知らないけど。本当にこれでいいのか?」
「今更だねー」
「だな」
「ってことだ」
 みんなで問題ないと否定する俺たち。
 すると、丁度店員さんが運んできた。
「お待たせしました、味噌ラーメン大盛り四つでーす!」
 俺たち四人が座っているテーブルに続々とラーメンが並べられる。
 そう、ここはラーメン屋だった。
 俺が下したのは、夜ご飯を奢るという罰だった。
「まぁ、食べながら話そうや」
「そうだな」
「「「「頂きます」」」」
 手を合わせて、声をそろえる。
 そしてそれぞれ食べ始める。
 う~ん! うまい! この疲れた体に油が染みる!
「んにしても、激動の二日だったな」
「全くだねー。ゴールデンウィークももうすぐ終わりだしねー」
「……なんか、去年の今頃もこんな話してなかったか?」
「あー、そういえば去年の歓迎会のときも……」
 樫田と山路がそんな話をし出した。
 思わず大槻の方を見ると笑っていた。
 おそらく、俺と同じことを思ったのだろう。
 俺は笑顔がバレないように麵をすすった。
「そういえば、増倉と話しているときに言ってたやつだけど、何? お前たち一年生と会ったん?」
「それ気になってたんだよねー」
「ああ、それはな――」
 大槻が一年生と会ったこと、そしてそこで何を話したかを説明した。
 そういえば、あの後一年生たちはちゃんと結論出せたかな。
「渇望の話か……懐かしいな」
「歴史は繰り返すってことかねー」
「かもな」
 三人が俺を見る。
 ん? な、何でしょうか?
「今年の春大会はどうなることやら」
「演出とかどうするんだろーねー」
「津田先輩じゃね?」
 何事もなかったかのように話を続ける三人。
 いや! 何!?
 俺が目で訴えると、笑いながら樫田が説明する。
「いやそう睨むなって、去年のことを思い出しただけだよ」
「去年のこと?」
「そうだよ―、去年の杉野が渇望どうのこうのって悩んでたなーって」
「まぁ、確かに悩んでいたが……」
「別に深い意味はないって。一年たったんだなって思っただけ」
「人を見て歴史を感じないでくれません!?」
 俺が突っ込むと笑う三人。
 ああ、こうしていると実感する。
 この何気ない会話が最高だと。
 去年のことや昨日のこと、話題が二転三転しながらも俺たちは部活のことを話し続けた。
 些細なこの瞬間を、俺はこう思う。
 ああ、青春ってね。