表示設定
表示設定
目次 目次




第72話 成すこと、したいこと、本音そして決着

ー/ー



「待ちなさい」

 樫田の言葉を聞いて、椎名がすかさず止める。
 まぁ、ルール変更ってのはつまり椎名が納得しないことに対してだろう。
 止めに入るのも無理はない。

「それぞれが納得することについては曲げないって言ったはずよ」

「ああ、だから変えるのは条件じゃなくてルールだ」

「……ルール?」

「全員が納得すること。この条件は変わらない。だが話し合いを大槻とそれぞれ一対一でするというルールは変更だ」

「それは私が納得しないからかしら?」

「違う」

 樫田は断言した。
 その圧を感じてか、椎名は黙った。
 両者、毅然とした態度のまま樫田は話を続けた。

「椎名と大槻、二人の話が途中から議論になっていなかったからだ」

「……」

「言いたいこと、言わないといけないことではあったかもしれないが、二人とも感情論が混ざり過ぎていた。あれじゃあ、お互いの意見の擦り合わせじゃなくてただの言い争いだ」

「妥協をしろと?」

「まさか。ただ納得しないことと尊重しないことは別だろ?」

「…………そうね。分かったわ」

 おお、さすがは樫田だ。あの椎名が賛同した。
 周りのみんなも一安心といった様子だ。
 樫田は大槻の方を見る。

「とはいえ、大槻が椎名を納得させないといけないのは変わらない。それはいいか?」

「ああ、そうだな」

「では、変更するルールのは一つ。一対一ではなくみんなでの話し合いと行こう」

 なんだか、結局こうなるのかっていう考えといつもの感じになってきたと安心感が入り混じる。
 けれどもあのまま話が進んでいたら、椎名は納得せずに終わっていただろう。
 そう考えると良い打開策なのかもしれない。

「…………」

 ふと、樫田がこっちを見ていたことに気づく。
 ? なんだ?
 俺が何か言う前に樫田が口を開く。

「分かっていると思うが、杉野。お前も含めてみんなだからな。今まで横でずっと聞いてきていただろ? 言いたいことがあるなら言っていいぞ」

 みんなの視線が俺に集まった。
 え、いや、ちょ待って。

 急に振るんじゃねーよ! 何も考えてないわ。
 俺は脳みそをフル回転させて言葉を絞り出す。
 これはあくまで大槻が椎名を納得させるための言葉なければならない。
 俺が答えを言ってはいけない。
 大槻の言葉を引き出すきっかけになるような……。

「……俺は、椎名の言い分も理解できる」

 俺の言葉にみんな様々な反応を見せる。
 驚きや興味、懐疑などが俺に向けられる中で大槻は黙して次の言葉を待っていた。

「もちろん、言い方とか全面的な賛同ができないところもある。けど言っていることはそんなに間違っていないと思う。俺たちはもう二年生で、これからは自分たちで演劇部をまとめて進んでいかないといけない」

「でも、大槻の言うようにみんなで相談しないといけないこともあると思うけど」

 増倉がすぐに意見を言った。
 確かにそうだ。全てが独裁的であってはいけない。
 俺は頷く。

「ああ……でも今までの大槻は人の意見に合わせることばかりで自分の意見を言うことは少なかった」

「その理由はさっき大槻が言っていた」

「ああそうだな、夏村。あの叫びは俺も響いた。でもそれって主体性も殺していたんじゃないか?」

「そうかもな。結局意見が通るやつが決まっているって思うと、浮かんだアイデアも言えなくなるよな」

 樫田が俺に賛同する。
 目線を向けると、樫田は笑っていた。
たぶん、俺の言いたいことを察している。

「椎名が言ってほしいのは、そういう日頃殺していた大槻のしたいことでいいんじゃないか?」

「なるほどねー。難しく考えすぎていたのかもねー」

 山路の言葉に続くように増倉や夏村もなるほど、と好感触だった。
 ただ椎名はじっと俺を見て何も言わず、大槻は何かを考えて真剣な表情をしていた。
 少しだけ間が生まれ、みんな何か言うべきか悩み始める。
 そんな中、大槻が椎名の方を見た。
 注目が二人へ行く。

「椎名……さっき言ったことに嘘はない。けど、そんな俺にだってしたいことはある」

「なにかしら」

「俺だって! 演技の個人賞取りたいし、みんなで最優秀賞だって取りたい! 先輩たちに恩返しだってしたいし後輩たちとも仲良くなりたい……それに、それになりより俺は、俺は! お前たちと演劇がしたいんだ!!」

 ありったけの思いがこもった言葉だった。
 聞けば誰しもが思うようなありふれた内容なのかもしれない。

 大会で結果を残したい。先輩に感謝をしたい。後輩といい関係でありたい。
 そんなごくごく普通のこと。
 突き詰めたら、高校生が部活に望むことなんてそんな普通のことだったりするのかもしれない。
 けれど、サボり魔だった大槻からそのありふれた言葉が出た。

 彼が手放し、諦め、避けてきたこと。
 それと向き合ったのだ。
 みんなと、ではなく自分がしたいこと。
 内からくる渇望と。

「…………それには、覚悟と行動が必要になるわよ?」

 みんなが息を呑む中、椎名が大槻に問う。
 ありふれたそれを手にすることの大変さ、重さを確認する。

「ああ、俺はもう逃げない」

 大槻は真っ直ぐに椎名を見て断言した。
 椎名はみんなの顔を見渡した後、短く答えた。

「なら、私から言うことはないわね」

「え?」

 ! それって。
 大槻の方を見ると、椎名の言ったことを分かってなかったのか困惑そうな顔をしていた。
 それに気づいたのか、椎名はぼそっと言った。

「……納得したってことよ」

「……っ! ありがとう!」

 大槻が感謝を述べる。
 椎名は、もう話すことはないと言わんばかりにそっぽ向いた。

「ははは、良かったな」

「だねー、これで無事決着かなー」

「どうなるかと思ったよ」

「一件落着」

 さっきまでの真剣な雰囲気と一転して、和気あいあいとしだす。
 こうして、大槻の問題は一段落したのであった。



スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「待ちなさい」
 樫田の言葉を聞いて、椎名がすかさず止める。
 まぁ、ルール変更ってのはつまり椎名が納得しないことに対してだろう。
 止めに入るのも無理はない。
「それぞれが納得することについては曲げないって言ったはずよ」
「ああ、だから変えるのは条件じゃなくてルールだ」
「……ルール?」
「全員が納得すること。この条件は変わらない。だが話し合いを大槻とそれぞれ一対一でするというルールは変更だ」
「それは私が納得しないからかしら?」
「違う」
 樫田は断言した。
 その圧を感じてか、椎名は黙った。
 両者、毅然とした態度のまま樫田は話を続けた。
「椎名と大槻、二人の話が途中から議論になっていなかったからだ」
「……」
「言いたいこと、言わないといけないことではあったかもしれないが、二人とも感情論が混ざり過ぎていた。あれじゃあ、お互いの意見の擦り合わせじゃなくてただの言い争いだ」
「妥協をしろと?」
「まさか。ただ納得しないことと尊重しないことは別だろ?」
「…………そうね。分かったわ」
 おお、さすがは樫田だ。あの椎名が賛同した。
 周りのみんなも一安心といった様子だ。
 樫田は大槻の方を見る。
「とはいえ、大槻が椎名を納得させないといけないのは変わらない。それはいいか?」
「ああ、そうだな」
「では、変更するルールのは一つ。一対一ではなくみんなでの話し合いと行こう」
 なんだか、結局こうなるのかっていう考えといつもの感じになってきたと安心感が入り混じる。
 けれどもあのまま話が進んでいたら、椎名は納得せずに終わっていただろう。
 そう考えると良い打開策なのかもしれない。
「…………」
 ふと、樫田がこっちを見ていたことに気づく。
 ? なんだ?
 俺が何か言う前に樫田が口を開く。
「分かっていると思うが、杉野。お前も含めてみんなだからな。今まで横でずっと聞いてきていただろ? 言いたいことがあるなら言っていいぞ」
 みんなの視線が俺に集まった。
 え、いや、ちょ待って。
 急に振るんじゃねーよ! 何も考えてないわ。
 俺は脳みそをフル回転させて言葉を絞り出す。
 これはあくまで大槻が椎名を納得させるための言葉なければならない。
 俺が答えを言ってはいけない。
 大槻の言葉を引き出すきっかけになるような……。
「……俺は、椎名の言い分も理解できる」
 俺の言葉にみんな様々な反応を見せる。
 驚きや興味、懐疑などが俺に向けられる中で大槻は黙して次の言葉を待っていた。
「もちろん、言い方とか全面的な賛同ができないところもある。けど言っていることはそんなに間違っていないと思う。俺たちはもう二年生で、これからは自分たちで演劇部をまとめて進んでいかないといけない」
「でも、大槻の言うようにみんなで相談しないといけないこともあると思うけど」
 増倉がすぐに意見を言った。
 確かにそうだ。全てが独裁的であってはいけない。
 俺は頷く。
「ああ……でも今までの大槻は人の意見に合わせることばかりで自分の意見を言うことは少なかった」
「その理由はさっき大槻が言っていた」
「ああそうだな、夏村。あの叫びは俺も響いた。でもそれって主体性も殺していたんじゃないか?」
「そうかもな。結局意見が通るやつが決まっているって思うと、浮かんだアイデアも言えなくなるよな」
 樫田が俺に賛同する。
 目線を向けると、樫田は笑っていた。
たぶん、俺の言いたいことを察している。
「椎名が言ってほしいのは、そういう日頃殺していた大槻のしたいことでいいんじゃないか?」
「なるほどねー。難しく考えすぎていたのかもねー」
 山路の言葉に続くように増倉や夏村もなるほど、と好感触だった。
 ただ椎名はじっと俺を見て何も言わず、大槻は何かを考えて真剣な表情をしていた。
 少しだけ間が生まれ、みんな何か言うべきか悩み始める。
 そんな中、大槻が椎名の方を見た。
 注目が二人へ行く。
「椎名……さっき言ったことに嘘はない。けど、そんな俺にだってしたいことはある」
「なにかしら」
「俺だって! 演技の個人賞取りたいし、みんなで最優秀賞だって取りたい! 先輩たちに恩返しだってしたいし後輩たちとも仲良くなりたい……それに、それになりより俺は、俺は! お前たちと演劇がしたいんだ!!」
 ありったけの思いがこもった言葉だった。
 聞けば誰しもが思うようなありふれた内容なのかもしれない。
 大会で結果を残したい。先輩に感謝をしたい。後輩といい関係でありたい。
 そんなごくごく普通のこと。
 突き詰めたら、高校生が部活に望むことなんてそんな普通のことだったりするのかもしれない。
 けれど、サボり魔だった大槻からそのありふれた言葉が出た。
 彼が手放し、諦め、避けてきたこと。
 それと向き合ったのだ。
 みんなと、ではなく自分がしたいこと。
 内からくる渇望と。
「…………それには、覚悟と行動が必要になるわよ?」
 みんなが息を呑む中、椎名が大槻に問う。
 ありふれたそれを手にすることの大変さ、重さを確認する。
「ああ、俺はもう逃げない」
 大槻は真っ直ぐに椎名を見て断言した。
 椎名はみんなの顔を見渡した後、短く答えた。
「なら、私から言うことはないわね」
「え?」
 ! それって。
 大槻の方を見ると、椎名の言ったことを分かってなかったのか困惑そうな顔をしていた。
 それに気づいたのか、椎名はぼそっと言った。
「……納得したってことよ」
「……っ! ありがとう!」
 大槻が感謝を述べる。
 椎名は、もう話すことはないと言わんばかりにそっぽ向いた。
「ははは、良かったな」
「だねー、これで無事決着かなー」
「どうなるかと思ったよ」
「一件落着」
 さっきまでの真剣な雰囲気と一転して、和気あいあいとしだす。
 こうして、大槻の問題は一段落したのであった。