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ダイヤモンドダスト

ー/ー



 二人の視線の先の、雪面から少し離れた空間。
 どういうわけか、そこだけキラキラとした小さな光が纏まっている。
 目を凝らしてみると、それは小さな雪の粒の集合体だった。
 「ダイヤモンドダスト……?」
 「いや、でも、もっと寒くねえと出ねえだろ」
 ヒロとマールはうわ言のようにそんな言葉を交わした。

 ちりん、ちりん。
 氷が弾けるような音が響いた。
 
 ダイヤモンドダストの中から、ゆらり、と人影が現れた。
 次第にその光が小さくなり、人影の輪郭が鮮明になっていく。
 瞬くような光の中に現れたのは、高校生の頃のハルだった。
 
 「……ハル……」
 「マジかよ……」
 ヒロは夢のようにその名を呼び、マールは呻くような声を上げた。
 
 ハルは、胸元に高校の名前が入った、真っ白なトレーニングウエアを身に着けていた。
 それは、ハルとヒロが所属していたバスケットボール部で、2年の時に誂えたものだ。
 (ああ……)
 ヒロの脳裏に、ハルと共にコートで汗を流した日々が鮮明に蘇る。
 (俺は、小さな身体で勇敢に戦うお前の姿が、何よりも好きだった)
 ヒロの目に、涙が滲んだ。

 ハルは、自分の前髪を弄ると、あはっ、と口を開けて笑ってみせた。
 「ハル……勘弁してくれよ。あの時のまんまじゃねえかよ」
 マールの声も、涙に揺れている。
 
 ハルの唇が動く。
 何かを喋っているようだが、声が聞こえない。
 「ハル、今、何て?」
 ヒロはハルの近くに行こうとしたが、足が動かない。
 「畜生、何で動けねえんだよっ!」
 隣でマールが苛ついたように吐き捨てた。
 
 ちりん、ちりん。
 再び、氷が弾ける音がした。
 ハルはふと表情を曇らせた。
 また、唇が動く。
 今度は一文字ずつ、はっきりと。

 『あ・り・が・と』

 「……!」
 それを読み取ったヒロとマールの口から、声にならない声が零れた。
 
 氷が弾ける音が、次第に大きくなっていく。
 ハルは微笑むと、軽く右手を上げた。
 「じゃあまた」とでも言うように。

 「!」
 ヒロの顔がひきつった。
 「ハル、待てよっ」
 マールはハルに向けて、必死に手を伸ばした。

 ダイヤモンドダストが輝きを増す。
 ハルの姿が、少しずつ光の中に溶けていく。
 「ハル、行くな!行かないでくれ!」
 「ハル、やめろ!消えるんじゃねえ!」
 ヒロとマールは必死でハルを引き留めた。

 ぱりん。
 ダイヤモンドダストが、一斉に弾けた。

 夢のようなその輝きが儚く消え失せた時。
 そこにはただ、青い空と白い雪原が広がるばかりだった。


 「ああ……」
 ヒロは膝から崩れ落ちた。
 その肩が小刻みに震えている。
 「ヒロ……肩、貸しやがれっ」
 マールはぼすっ、と音を立ててしゃがみ込むと、ヒロの右肩に額を押し当てた。
 マールは、声を殺して泣いていた。
 
 不意に、強い風が吹いた。
 何処からか運ばれてきたのか、青い空に小さな雪がちらちらと流れてきた。
 それはまるで桜の花びらのように、二人の男の上に舞い降りてきた。
 ヒロとマールは、暫くその場から動くことが出来なかった。


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 二人の視線の先の、雪面から少し離れた空間。
 どういうわけか、そこだけキラキラとした小さな光が纏まっている。
 目を凝らしてみると、それは小さな雪の粒の集合体だった。
 「ダイヤモンドダスト……?」
 「いや、でも、もっと寒くねえと出ねえだろ」
 ヒロとマールはうわ言のようにそんな言葉を交わした。
 ちりん、ちりん。
 氷が弾けるような音が響いた。
 ダイヤモンドダストの中から、ゆらり、と人影が現れた。
 次第にその光が小さくなり、人影の輪郭が鮮明になっていく。
 瞬くような光の中に現れたのは、高校生の頃のハルだった。
 「……ハル……」
 「マジかよ……」
 ヒロは夢のようにその名を呼び、マールは呻くような声を上げた。
 ハルは、胸元に高校の名前が入った、真っ白なトレーニングウエアを身に着けていた。
 それは、ハルとヒロが所属していたバスケットボール部で、2年の時に誂えたものだ。
 (ああ……)
 ヒロの脳裏に、ハルと共にコートで汗を流した日々が鮮明に蘇る。
 (俺は、小さな身体で勇敢に戦うお前の姿が、何よりも好きだった)
 ヒロの目に、涙が滲んだ。
 ハルは、自分の前髪を弄ると、あはっ、と口を開けて笑ってみせた。
 「ハル……勘弁してくれよ。あの時のまんまじゃねえかよ」
 マールの声も、涙に揺れている。
 ハルの唇が動く。
 何かを喋っているようだが、声が聞こえない。
 「ハル、今、何て?」
 ヒロはハルの近くに行こうとしたが、足が動かない。
 「畜生、何で動けねえんだよっ!」
 隣でマールが苛ついたように吐き捨てた。
 ちりん、ちりん。
 再び、氷が弾ける音がした。
 ハルはふと表情を曇らせた。
 また、唇が動く。
 今度は一文字ずつ、はっきりと。
 『あ・り・が・と』
 「……!」
 それを読み取ったヒロとマールの口から、声にならない声が零れた。
 氷が弾ける音が、次第に大きくなっていく。
 ハルは微笑むと、軽く右手を上げた。
 「じゃあまた」とでも言うように。
 「!」
 ヒロの顔がひきつった。
 「ハル、待てよっ」
 マールはハルに向けて、必死に手を伸ばした。
 ダイヤモンドダストが輝きを増す。
 ハルの姿が、少しずつ光の中に溶けていく。
 「ハル、行くな!行かないでくれ!」
 「ハル、やめろ!消えるんじゃねえ!」
 ヒロとマールは必死でハルを引き留めた。
 ぱりん。
 ダイヤモンドダストが、一斉に弾けた。
 夢のようなその輝きが儚く消え失せた時。
 そこにはただ、青い空と白い雪原が広がるばかりだった。
 「ああ……」
 ヒロは膝から崩れ落ちた。
 その肩が小刻みに震えている。
 「ヒロ……肩、貸しやがれっ」
 マールはぼすっ、と音を立ててしゃがみ込むと、ヒロの右肩に額を押し当てた。
 マールは、声を殺して泣いていた。
 不意に、強い風が吹いた。
 何処からか運ばれてきたのか、青い空に小さな雪がちらちらと流れてきた。
 それはまるで桜の花びらのように、二人の男の上に舞い降りてきた。
 ヒロとマールは、暫くその場から動くことが出来なかった。