第二章:外なんて出なければよかった
ー/ー
外に出た瞬間から、高志は世界の広さに圧倒された。道路を走る車、人々の雑踏、冬の空気の冷たさ——全てが久々すぎて刺激的だった。だが、彼にとってそれは試練でしかなかった。
目指すのは「10階建て以上のビル」。そこにあるエレベーターこそ、彼を異世界へ導いてくれる「扉」だ。ネットで調べた地図を確認しながら、徒歩で向かう。
しかし、道中で彼は大きな障害にぶつかる。それは……
「あの……ちょっといいかな?」
突然、背後から声をかけられた高志が振り返ると、そこには警官が立っていた。
「最近この辺で不審者が出るって聞いてね。ちょっと話を聞いてもいいかな?」
職務質問だった。
高志は目の前の警官を見て、頭が真っ白になった。まさか、こんな形で社会と接点を持つことになるとは思っていなかった。
「は、はひ……」
情けない返事をしながら、汗ばんだ手でズボンのポケットをまさぐる。中から取り出したのは中学生の頃から使っているマジックテープ式の財布。ピリリッと音を立てて開けると、中にあったのはボロボロになった保険証。
「えっと、これ、で、す……」
震える手で差し出すと、警官は目を細めて保険証を見る。
「小森高志さん、ね。30歳……」
年齢を確認した警官の視線が、ゆっくりと高志の全身をなめるように流れた。伸びっぱなしの髪と無精ひげ、小さすぎるTシャツに伸びきったパーカー。さらに、スウェットの膝には穴が開いている。
「あのさ、どこに行くの?この寒い中」
警官の質問に、高志は口をパクパクと開閉させる。喉が乾いて声が出ない。「異世界に行くためです」なんて答えられるはずもない。
「……ちょっと散歩、です」
ようやく絞り出した言葉に、警官は一瞬眉をひそめたが、すぐにため息をついた。
「まあ、不審者ってわけじゃなさそうだな。でも、防犯のために気を付けてな」
警官は保険証を返し、少し面倒くさそうに手を振って立ち去った。
「は、はぁ……」
高志はその場にしゃがみ込んだ。全身から汗が吹き出している。さっきのやり取りだけで体力を大幅に消耗してしまった。
「外、怖え……」
小さな声で呟く。10年間閉じこもっていた身には、わずかな人との接触ですら大冒険だった。心臓の音がまだ耳に響いている。
「でも……行かなきゃ」
ポケットの中で強く拳を握りしめ、高志は再び立ち上がる。目指すビルはまだ遠い。
しばらくして、ついに目的地のビルが見えてきた。それは、どこにでもありそうな15階建ての貸しビルだった。外観は古びていて、半分以上のテナントが空き店舗になっているようだ。
「ここだ……!」
高志は深呼吸をしてから中に入る。エレベーターホールには、いかにも昭和の香りが漂うエレベーターが3基並んでいた。
「左から2番目のエレベーターを使え……だっけ?」
彼は掲示板のスレッドを思い出しながら、指定されたエレベーターのボタンを押した。少し錆びついたドアがゆっくりと開く。中に人影はない。
「よし……行くぞ」
エレベーターに乗り込み、指先を震わせながら階数ボタンを押す。スレッドに書かれていた通り、特定の順番でボタンを押していく。
「4階、2階、6階、2階、10階……」
ボタンを押すたびに、エレベーターは上昇と下降を繰り返す。高志の額にはじっとりと汗が浮かんでいた。
そして、最後の10階に到達した時。
「ゴンッ……!」
突然、エレベーターが停止した。
「えっ?」
辺りが真っ暗になり、エレベーター内に響くのは高志の心臓の鼓動だけだった。
「もしかして……成功した?」
その時だった。眩い光が視界を覆い、高志の体がふわりと宙に浮いたような感覚に襲われる。
「うわっ……!」
光が収まり、気が付くとエレベーターのドアがゆっくりと開いていた。
「ここは……」
目の前に広がっていたのは、見渡す限りの草原だった。空には2つの月が輝いている。遠くには、中世ヨーロッパのような大きな城がそびえていた。
「こ、これって……異世界……?」
高志の全身が震えた。ラノベでしか見たことのない世界が、今目の前に広がっている。
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目指すのは「10階建て以上のビル」。そこにあるエレベーターこそ、彼を異世界へ導いてくれる「扉」だ。ネットで調べた地図を確認しながら、徒歩で向かう。
しかし、道中で彼は大きな障害にぶつかる。それは……
「あの……ちょっといいかな?」
突然、背後から声をかけられた高志が振り返ると、そこには警官が立っていた。
「最近この辺で不審者が出るって聞いてね。ちょっと話を聞いてもいいかな?」
職務質問だった。
高志は目の前の警官を見て、頭が真っ白になった。まさか、こんな形で社会と接点を持つことになるとは思っていなかった。
「は、はひ……」
情けない返事をしながら、汗ばんだ手でズボンのポケットをまさぐる。中から取り出したのは中学生の頃から使っているマジックテープ式の財布。ピリリッと音を立てて開けると、中にあったのはボロボロになった保険証。
「えっと、これ、で、す……」
震える手で差し出すと、警官は目を細めて保険証を見る。
「小森高志さん、ね。30歳……」
年齢を確認した警官の視線が、ゆっくりと高志の全身をなめるように流れた。伸びっぱなしの髪と無精ひげ、小さすぎるTシャツに伸びきったパーカー。さらに、スウェットの膝には穴が開いている。
「あのさ、どこに行くの?この寒い中」
警官の質問に、高志は口をパクパクと開閉させる。喉が乾いて声が出ない。「異世界に行くためです」なんて答えられるはずもない。
「……ちょっと散歩、です」
ようやく絞り出した言葉に、警官は一瞬眉をひそめたが、すぐにため息をついた。
「まあ、不審者ってわけじゃなさそうだな。でも、防犯のために気を付けてな」
警官は保険証を返し、少し面倒くさそうに手を振って立ち去った。
「は、はぁ……」
高志はその場にしゃがみ込んだ。全身から汗が吹き出している。さっきのやり取りだけで体力を大幅に消耗してしまった。
「外、怖え……」
小さな声で呟く。10年間閉じこもっていた身には、わずかな人との接触ですら大冒険だった。心臓の音がまだ耳に響いている。
「でも……行かなきゃ」
ポケットの中で強く拳を握りしめ、高志は再び立ち上がる。目指すビルはまだ遠い。
しばらくして、ついに目的地のビルが見えてきた。それは、どこにでもありそうな15階建ての貸しビルだった。外観は古びていて、半分以上のテナントが空き店舗になっているようだ。
「ここだ……!」
高志は深呼吸をしてから中に入る。エレベーターホールには、いかにも昭和の香りが漂うエレベーターが3基並んでいた。
「左から2番目のエレベーターを使え……だっけ?」
彼は掲示板のスレッドを思い出しながら、指定されたエレベーターのボタンを押した。少し錆びついたドアがゆっくりと開く。中に人影はない。
「よし……行くぞ」
エレベーターに乗り込み、指先を震わせながら階数ボタンを押す。スレッドに書かれていた通り、特定の順番でボタンを押していく。
「4階、2階、6階、2階、10階……」
ボタンを押すたびに、エレベーターは上昇と下降を繰り返す。高志の額にはじっとりと汗が浮かんでいた。
そして、最後の10階に到達した時。
「ゴンッ……!」
突然、エレベーターが停止した。
「えっ?」
辺りが真っ暗になり、エレベーター内に響くのは高志の心臓の鼓動だけだった。
「もしかして……成功した?」
その時だった。眩い光が視界を覆い、高志の体がふわりと宙に浮いたような感覚に襲われる。
「うわっ……!」
光が収まり、気が付くとエレベーターのドアがゆっくりと開いていた。
「ここは……」
目の前に広がっていたのは、見渡す限りの草原だった。空には2つの月が輝いている。遠くには、中世ヨーロッパのような大きな城がそびえていた。
「こ、これって……異世界……?」
高志の全身が震えた。ラノベでしか見たことのない世界が、今目の前に広がっている。