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第一章:決意なんてしなければよかった

ー/ー



 六畳一間の部屋。
 カーテン代わりに窓を覆うのはアニメやゲームキャラのポスター群。部屋中に散らばる空のペットボトルや食べかすが、何年も動いていない生活を物語っている。窓の外は真冬。乾いた風が枯れ枝を揺らす音がかすかに聞こえるが、この部屋の中には届かない。

 30歳、無職、ひきこもり歴10年。

「小森高志」は、パソコンのモニターに映るライトノベルの無料掲載サイトを眺めながら、いつものように怠惰な時間を過ごしていた。

「異世界に転生して俺TUEEE、か……。どうせみんな同じ話ばっかだよな」

 口をついて出たのは、日課のようになった文句。でも、スクロールする手は止まらない。タイトルを見るだけで内容が想像できる作品ばかりなのに、読まずにはいられないのだ。

「最強の魔法使いに転生した俺が、異世界で無双する件について……って、毎回似たようなタイトルばっかじゃん。でもさ、俺も異世界に行けたら、このクソみたいな人生なんとかなるのかな……」

 つぶやいた後、ふっと笑いがこみ上げた。そんなことあるはずがない。これはただの現実逃避——誰にも期待されず、誰にも必要とされていない自分を誤魔化すための妄想だ。

 ……そう、頭ではわかっているのに。

 そんな時だった。たまたま開いた掲示板のスレッドに、妙なタイトルが目に飛び込んできた。

「【驚愕】エレベーターで異世界に行く方法が発見された件【マジか】」

 高志の指が止まる。スレッドを開くと、そこには詳細な手順が書かれていた。

「1. エレベーターに一人で乗る」
「2. 指定された階を順番に押す(4→2→6→2→10)」
「3. 最後の10階で止まったら、そのまま5階に行け」

 そして最後には、スレ主の断言が記されている。

「この手順を実行すれば、確実に異世界へ行ける」

「ははっ、バカじゃねーの……」

 そう思いつつも、高志の心はざわついていた。どこかで信じてしまいたい自分がいる。「異世界でなら俺は何者かになれる」——そんな甘い幻想が頭をもたげる。

「……やるか」

 気づけば、高志は呟いていた。

「でも、外に出なきゃいけないんだよな……」

 現実の厳しさが、冷や汗と共に襲ってきた。10年間ほとんど外出していない自分にとって、玄関のドアを開けることすら大きな壁だ。

「……いや、違う。これは俺の人生を変えるチャンスなんだ……!」

 そう自分に言い聞かせながら、まずは鏡の前に立つ。映った自分の姿に、全身の力が抜けた。

 伸び放題の髪、無精ひげ、油ぎった肌。薄汚れたスウェット姿は、まさに「ダメ人間」を体現している。

「これじゃ外に出られるわけねーよ……」

 一度は諦めかけたが、胸に浮かぶのは掲示板のスレッドで見た“異世界”という言葉だった。

「……やるしかねぇ!」
 
 震える手で、まずは風呂場に向かう。

 浴室での戦いは壮絶だった。湯船を張るだけで給湯器と格闘し、鏡の前で自分の髪を切ろうとしてハサミで指を切り、「いてっ!」と叫びながら何度も顔を剃刀で傷つけた。それでも、1時間後には「ひとまず外に出られるくらい」の姿になった。

 鏡に映る自分を見て、高志は小さくつぶやいた。

「ま、なんとかなるだろ……」

 そう言いながら、部屋に戻り、いつの間にか体がきつくなった服を引っ張り出して着込む。そして、震える手で玄関のドアノブに触れる。

「い、行くぞ……!」

 ドアを開けると、冬の乾いた冷気が頬を刺した。その瞬間、長年閉ざされていた世界が、一気に広がるような感覚を覚えた。

「……俺、行く。異世界へ……!」


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 六畳一間の部屋。
 カーテン代わりに窓を覆うのはアニメやゲームキャラのポスター群。部屋中に散らばる空のペットボトルや食べかすが、何年も動いていない生活を物語っている。窓の外は真冬。乾いた風が枯れ枝を揺らす音がかすかに聞こえるが、この部屋の中には届かない。
 30歳、無職、ひきこもり歴10年。
「小森高志」は、パソコンのモニターに映るライトノベルの無料掲載サイトを眺めながら、いつものように怠惰な時間を過ごしていた。
「異世界に転生して俺TUEEE、か……。どうせみんな同じ話ばっかだよな」
 口をついて出たのは、日課のようになった文句。でも、スクロールする手は止まらない。タイトルを見るだけで内容が想像できる作品ばかりなのに、読まずにはいられないのだ。
「最強の魔法使いに転生した俺が、異世界で無双する件について……って、毎回似たようなタイトルばっかじゃん。でもさ、俺も異世界に行けたら、このクソみたいな人生なんとかなるのかな……」
 つぶやいた後、ふっと笑いがこみ上げた。そんなことあるはずがない。これはただの現実逃避——誰にも期待されず、誰にも必要とされていない自分を誤魔化すための妄想だ。
 ……そう、頭ではわかっているのに。
 そんな時だった。たまたま開いた掲示板のスレッドに、妙なタイトルが目に飛び込んできた。
「【驚愕】エレベーターで異世界に行く方法が発見された件【マジか】」
 高志の指が止まる。スレッドを開くと、そこには詳細な手順が書かれていた。
「1. エレベーターに一人で乗る」
「2. 指定された階を順番に押す(4→2→6→2→10)」
「3. 最後の10階で止まったら、そのまま5階に行け」
 そして最後には、スレ主の断言が記されている。
「この手順を実行すれば、確実に異世界へ行ける」
「ははっ、バカじゃねーの……」
 そう思いつつも、高志の心はざわついていた。どこかで信じてしまいたい自分がいる。「異世界でなら俺は何者かになれる」——そんな甘い幻想が頭をもたげる。
「……やるか」
 気づけば、高志は呟いていた。
「でも、外に出なきゃいけないんだよな……」
 現実の厳しさが、冷や汗と共に襲ってきた。10年間ほとんど外出していない自分にとって、玄関のドアを開けることすら大きな壁だ。
「……いや、違う。これは俺の人生を変えるチャンスなんだ……!」
 そう自分に言い聞かせながら、まずは鏡の前に立つ。映った自分の姿に、全身の力が抜けた。
 伸び放題の髪、無精ひげ、油ぎった肌。薄汚れたスウェット姿は、まさに「ダメ人間」を体現している。
「これじゃ外に出られるわけねーよ……」
 一度は諦めかけたが、胸に浮かぶのは掲示板のスレッドで見た“異世界”という言葉だった。
「……やるしかねぇ!」
 震える手で、まずは風呂場に向かう。
 浴室での戦いは壮絶だった。湯船を張るだけで給湯器と格闘し、鏡の前で自分の髪を切ろうとしてハサミで指を切り、「いてっ!」と叫びながら何度も顔を剃刀で傷つけた。それでも、1時間後には「ひとまず外に出られるくらい」の姿になった。
 鏡に映る自分を見て、高志は小さくつぶやいた。
「ま、なんとかなるだろ……」
 そう言いながら、部屋に戻り、いつの間にか体がきつくなった服を引っ張り出して着込む。そして、震える手で玄関のドアノブに触れる。
「い、行くぞ……!」
 ドアを開けると、冬の乾いた冷気が頬を刺した。その瞬間、長年閉ざされていた世界が、一気に広がるような感覚を覚えた。
「……俺、行く。異世界へ……!」