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裏切りの冬

ー/ー



ㅤ結婚当初からお義母さんの冷たい視線を感じていた。

ㅤその視線の理由を知ったのは、結婚一年目の冬のことである。

――夫である辰巳(たつみ)の浮気が発覚したのだ。

ㅤけれど、発覚したのはそれだけでは無い。

ㅤなんと、その浮気を支援していたのがお義母さんだったのだ⋯⋯。



花咲(はなさき)家の長男の嫁として嫁ぎ、高校の同級生でもある辰巳(たつみ)のお義母さんと一つ屋根の下で生活することには、なんの躊躇いも無かった筈なのに⋯⋯。

ㅤ辰巳との出会いは高校生の頃だったが、当時は仲の良い友達だったけれど、短大を卒業し、就職して一年が過ぎた頃、同窓会のお知らせが来たので参加したところ、そこで辰巳も参加しており、二人は再会することになる。

ㅤ同窓会の席では思いの外話が盛り上り、彼女と辰巳は意気投合し、その後の二次会には参加せずそのまま二人きりで飲み明かすこととなり、向かった先の、飲み屋の個室で辰巳から告白されたのが付き合うきっかけだった。

ㅤその時、辰巳には両親がいたのだけれど、父親が病気で亡くなり、今は母と二人暮しなのだと聞いていたので、付き合うようになって半年経過したころのこと、結婚を意識し始めた彼女は、辰巳と結婚したら義母含め三人で暮らすんだと前もってシュミレーションしていたからだろうか、結婚後、一緒に暮らすことになった際に何の抵抗も無かった。

ㅤけれど、短大を卒業後、就職してから二年後に結婚したものの、結婚当初から、お義母さんの冷たい視線を感じながら暮らしてきた花咲彩音(はなさきあやね)は、何かの誤解かもしれないと思いつつも、その視線に心がざわつくことが多かった。

ㅤとくに夕食の席での会話が途切れるたびに、義母の視線が刺さるように感じられたが、わざわざ辰巳には相談せず、黙って過ごしたのは、仲良く暮らしたい思いがあったからなのだろう。

「彩音さん、今日の夕食は何を作るの?」

ㅤいつも通り、義母の声は、どこか冷ややかだった。

「今日は、辰巳さんの好きな鱈の入ったお鍋を作ります。ㅤㅤお義母さんもお好きだと聞いていたので⋯⋯」

ㅤ彩音は笑顔で答えたが、その笑顔の裏には不安があった。

ㅤ義母は一瞬だけ黙り込んだ後、「そう。まあ、楽しみにしてるわ」とだけ言って、視線を逸らされた。

ㅤ彩音の顔は無表情であったが、誰がどう見ても、明らかに嫌な気分になっていたことだろう。

ㅤしかし、その視線の理由を知ったのは、結婚一年目の冬のことだった。ㅤㅤある日、辰巳の帰りが遅く、心配した彩音は、珍しく電話をかけてみることにした。

「辰巳さん、今日は遅いね。ㅤㅤ大丈夫?」

「ちょっと仕事が立て込んでて、遅くなるよ。心配しないで、先に寝ててくれ」

ㅤ辰巳の声はどこか急いでいる感じかした。

ㅤ彩音は不安を抱えつつも、仕方なく電話を切ることにする。

ㅤしかし、その夜、どうしても眠れずにいた彩音は、ふと辰巳の部屋に向うと、そこで見つけたのは、彼が帰宅後に隠すようにしていたスマートフォンだった。

ㅤ仕事用も兼ねて、スマートフォンを二台持っていることは知っていたが、見つけたからには気になって仕方が無い。

「何か怪しい...」

ㅤ彩音は、躊躇いながらもスマートフォンを手に取ると、以前、彼の手元を見てこっそり入手していたパスコードを入力してみることにした。

ㅤところが、パスコードを入力する手元が震えるせいで、中々入力が上手く出来ない。

ㅤ辰巳が戻ってくる前に、急いで入力しなければならない⋯⋯焦れば、焦る程、全身まで震えてきた。

ㅤやっとの思いで入力が終えると、パスコードは変更されておらず、すぐにロックを解除することに成功したので、勇気を出し、次にメッセージボックスを確認してみることに試みる。

ㅤ震える指先でメールをタッチするすると、そこには、見知らぬ女性との親密なやり取りがあるではないか。

ㅤそれを目にし、呆然と立ちすくむ彩音だったが、急に胸が痛み出し、自然と涙があふれでてくる。

ㅤ泣いてたら変に思われてしまうため、涙をとめたいのに、自分ではその涙を止められない。

「こんなことって...」

ㅤ彼女はそう呟くと、そのままリビングに戻り、ソファに座り込んだが、タイミング悪く義母がリビングに現れた。

「彩音さん、どうしたの?ㅤㅤこんな時間に...」

ㅤ義母の声は、いつもと違い少し優しげに聞こえる。

「お義母さん、辰巳さんが...浮気してるんです」

ㅤ彩音は、涙を拭きながら、話しをする。

ㅤ義母は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに冷静さを取り戻すと、静かに口を開いた。

「そう、知っていたわ」

「えっ...知っていたんですか?」

ㅤ彩音は驚き、義母の顔を見つめた。

「ええ、知っていたわ。ㅤㅤ実はね、その女性は私が紹介したのよ」

「えっ、お義母さんが?」

ㅤ義母の言葉に彩音は耳を疑った。

「どうして、私がいるのに、そんなことを⋯⋯」

ㅤ彩音の声は震えていた。

「あなたが息子の嫁、妻に相応しくないと思ったからよ。ㅤㅤ辰巳にはもっとふさわしい女性がいるはずだとずっと思っていたの」

ㅤ義母の言葉は冷酷だった。

「お義母さん⋯⋯どうしてそんなことを」

ㅤ彩音はそれ以上の言葉が出ない。

ㅤその瞬間、辰巳が帰ってきて、リビングに入ってきた。

「一体何があったんだ?ㅤㅤ彩音、泣いてるのか?」

ㅤ彼の声には驚きが含まれていた。

「あなたが浮気していることを知ったの。ㅤㅤそして、お義母さんがそれを支援していたこともね」

ㅤ彩音は涙を拭いながら言葉を発する。

ㅤ辰巳は一瞬黙り込んだが、すぐに義母を責めるような目で見た。

「母さん、どうして話したんだよ」

「辰巳、私はただあなたの幸せを願っていただけよ。ㅤㅤ彩音さんとは合わないと思ったの、あなたもそう感じてたでしょ、だからあの子と関係が続いてたんじゃないの?」

ㅤ義母の声は冷静だった。

ㅤその夜、彩音と辰巳は深く話し合いをすることになり、彼の浮気と義母の行動について真剣に向き合うことに。

「どうして?」

ㅤ辰巳に問いただす私の心の中には、怒りと悲しみが渦巻いていた。

ㅤ彼の裏切りだけではない、それを手伝っていたお義母さんの存在が私の心をさらに深く傷つけているのだ。

ㅤところが、辰巳は何も話そうとしない。

「ちゃんと説明してちょうだい」

ㅤ彼女の苛立ちは増していくばかりだった。

ㅤ彼の携帯電話を見てしまったことは謝ったが、そこには、彼が別の女性と親密にやり取りしているメッセージが大量に残されていたのは事実であり、これが浮気の証拠でもある。

ㅤ衝撃に打たれた私が、さらに辰巳に問い詰めたことで、彼の浮気相手が誰であるかを知ることとなった。

ㅤ浮気相手は、私と彼の高校時代の同級生だった。

ㅤ名前を聴いても私は彼女と接点が無かったせいか、よく知らない。

ㅤ彼も接点がなかったとはいうものの、母親同士仲が良く、そのこともあってか、義母が紹介したのだと知ることになる。

ㅤどうやら、彼女との関係は、私たちが結婚する前から続いていたらしい。

ㅤそして、その関係を知っていた義母は、私たちの結婚後も、彼らの関係を支援し続けていたのだという。

ㅤそして、義母は、私が結婚してからというもの、私に対して冷たい態度を崩さなかったので、私はその態度の理由をずっと考え続けてきたのだけれど、真逆、その答えがこんな形で明らかになるとは思ってもいなかったのだ。

「お義母さん、どうして…?」

ㅤ涙を流しながら問いかけた私に、義母が冷たく言い放った言葉が脳裏に蘇り、繰り返し再生される。

「あなたが彼の妻にふさわしくないからよ。彼にはもっとふさわしい女性がいるの」

ㅤ脳裏で再生される度、その言葉は私の心をナイフで刺すように痛かった。

ㅤ彼女が、辰巳との愛を信じて結婚したのは、彼と共に人生を歩むことを誓ったからなのに、その誓いは、彼の裏切りによって無惨にも打ち砕かれたのだ。

ㅤその後、彼女は自分の気持ちを整理するために、一人で考える時間を持つことにした。

ㅤ彼の裏切りと義母の冷酷な行動に対する怒りと悲しみが渦巻く中、彼女は自分の未来について考え始める。

「このまま辰巳と一緒にいるべきなのか?」

ㅤ彩音は自問自答する日々が続いていた。

ㅤしかし、親友に打ち明け相談したこともあってか、彼女の心は徐々に冷静さを取り戻し、ある結論に達したのである。

「私はもっと自分を大切にするべきだ。ㅤㅤ私には、自分を裏切らない人と幸せになる権利がある」

ㅤその決意を胸にすると、彩音は辰巳を避けるように家庭内別居をして暮らしてきたが、数週間が経過してから、漸く前向きに今後の夫婦関係に対して向き合うことにしたのだ。

ㅤ彼との話し合いの中で、彼女は自分の気持ちを率直に伝えた。

ㅤ彼は最初は言い訳を並べ立てたが、最終的には認め「本当にごめん」と謝罪したが、その言葉はもはや彼女の心には届かなかった。

「もう遅いわ。ㅤㅤ私たちはこれ以上一緒にいるべきじゃない」

ㅤその言葉を最後に、彼女は彼との関係を終わらせる決意を固める。

ㅤ義母の冷たい視線と彼の裏切りに傷つけられた彼女だが、その経験を通じて、彼女は自分を取り戻すことができたのだ。

「分かった、離婚しよう」

ㅤ意志の固い彼女を目の前に、彼はそう言った。

ㅤこうして、新しいスタートを切るために、彼女は自分の人生を再構築することを決める。

ㅤこの決意は固く、引越し先と新しい仕事を早々と見つけると、引越しをして、新しい友人を作り、新しい場所で新たな生活を始めることにした。

ㅤ過去の傷は完全に癒えることはないかもしれないが、彼女は前を向いて歩くことを選んだのだ。

ㅤそして、新しい環境で生活を初めてから一年後、冬が再び訪れる頃、彼女は新たな幸福を見つけることができた。

ㅤ自分を大切にし、自分を信じることができるようになった彼女が、再び笑顔を取り戻すことができたのは、親友の支えと、彼女が前向きに生きてこれたからなのかもしれない。

ㅤ裏切りの冬は、彩音の心に大きな傷が残る程辛い経験だったけれど、その経験を通じて彼女はとても強くなっていた。

あの時、二人で乗り越えていく決意を固めなかったのは正解だったに違いないだろう。

ㅤそして、自分を愛することの大切さを学んだ彼女は、幸せの冬を手に入れ、これからも、自分の幸せを最優先し、追求し続けることだろう。

ㅤこれから先、ずっとずっと彩音の幸せが続きますように!



――あれから十年後

「ママ、パパおはよう、今日の朝ごはん何?」

「今日はフレンチトーストとコンスープとトマトとブロッコリーのサラダよ、熱いからフーフーして食べようね」

「はーい、いただきます」

ㅤ彩音は優しい彼と職場で出会い、結婚し、愛してくれる旦那と、5歳になる愛娘と幸せに暮らしています。


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ㅤ結婚当初からお義母さんの冷たい視線を感じていた。
ㅤその視線の理由を知ったのは、結婚一年目の冬のことである。
――夫である|辰巳《たつみ》の浮気が発覚したのだ。
ㅤけれど、発覚したのはそれだけでは無い。
ㅤなんと、その浮気を支援していたのがお義母さんだったのだ⋯⋯。
ㅤ|花咲《はなさき》家の長男の嫁として嫁ぎ、高校の同級生でもある|辰巳《たつみ》のお義母さんと一つ屋根の下で生活することには、なんの躊躇いも無かった筈なのに⋯⋯。
ㅤ辰巳との出会いは高校生の頃だったが、当時は仲の良い友達だったけれど、短大を卒業し、就職して一年が過ぎた頃、同窓会のお知らせが来たので参加したところ、そこで辰巳も参加しており、二人は再会することになる。
ㅤ同窓会の席では思いの外話が盛り上り、彼女と辰巳は意気投合し、その後の二次会には参加せずそのまま二人きりで飲み明かすこととなり、向かった先の、飲み屋の個室で辰巳から告白されたのが付き合うきっかけだった。
ㅤその時、辰巳には両親がいたのだけれど、父親が病気で亡くなり、今は母と二人暮しなのだと聞いていたので、付き合うようになって半年経過したころのこと、結婚を意識し始めた彼女は、辰巳と結婚したら義母含め三人で暮らすんだと前もってシュミレーションしていたからだろうか、結婚後、一緒に暮らすことになった際に何の抵抗も無かった。
ㅤけれど、短大を卒業後、就職してから二年後に結婚したものの、結婚当初から、お義母さんの冷たい視線を感じながら暮らしてきた|花咲彩音《はなさきあやね》は、何かの誤解かもしれないと思いつつも、その視線に心がざわつくことが多かった。
ㅤとくに夕食の席での会話が途切れるたびに、義母の視線が刺さるように感じられたが、わざわざ辰巳には相談せず、黙って過ごしたのは、仲良く暮らしたい思いがあったからなのだろう。
「彩音さん、今日の夕食は何を作るの?」
ㅤいつも通り、義母の声は、どこか冷ややかだった。
「今日は、辰巳さんの好きな鱈の入ったお鍋を作ります。ㅤㅤお義母さんもお好きだと聞いていたので⋯⋯」
ㅤ彩音は笑顔で答えたが、その笑顔の裏には不安があった。
ㅤ義母は一瞬だけ黙り込んだ後、「そう。まあ、楽しみにしてるわ」とだけ言って、視線を逸らされた。
ㅤ彩音の顔は無表情であったが、誰がどう見ても、明らかに嫌な気分になっていたことだろう。
ㅤしかし、その視線の理由を知ったのは、結婚一年目の冬のことだった。ㅤㅤある日、辰巳の帰りが遅く、心配した彩音は、珍しく電話をかけてみることにした。
「辰巳さん、今日は遅いね。ㅤㅤ大丈夫?」
「ちょっと仕事が立て込んでて、遅くなるよ。心配しないで、先に寝ててくれ」
ㅤ辰巳の声はどこか急いでいる感じかした。
ㅤ彩音は不安を抱えつつも、仕方なく電話を切ることにする。
ㅤしかし、その夜、どうしても眠れずにいた彩音は、ふと辰巳の部屋に向うと、そこで見つけたのは、彼が帰宅後に隠すようにしていたスマートフォンだった。
ㅤ仕事用も兼ねて、スマートフォンを二台持っていることは知っていたが、見つけたからには気になって仕方が無い。
「何か怪しい...」
ㅤ彩音は、躊躇いながらもスマートフォンを手に取ると、以前、彼の手元を見てこっそり入手していたパスコードを入力してみることにした。
ㅤところが、パスコードを入力する手元が震えるせいで、中々入力が上手く出来ない。
ㅤ辰巳が戻ってくる前に、急いで入力しなければならない⋯⋯焦れば、焦る程、全身まで震えてきた。
ㅤやっとの思いで入力が終えると、パスコードは変更されておらず、すぐにロックを解除することに成功したので、勇気を出し、次にメッセージボックスを確認してみることに試みる。
ㅤ震える指先でメールをタッチするすると、そこには、見知らぬ女性との親密なやり取りがあるではないか。
ㅤそれを目にし、呆然と立ちすくむ彩音だったが、急に胸が痛み出し、自然と涙があふれでてくる。
ㅤ泣いてたら変に思われてしまうため、涙をとめたいのに、自分ではその涙を止められない。
「こんなことって...」
ㅤ彼女はそう呟くと、そのままリビングに戻り、ソファに座り込んだが、タイミング悪く義母がリビングに現れた。
「彩音さん、どうしたの?ㅤㅤこんな時間に...」
ㅤ義母の声は、いつもと違い少し優しげに聞こえる。
「お義母さん、辰巳さんが...浮気してるんです」
ㅤ彩音は、涙を拭きながら、話しをする。
ㅤ義母は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに冷静さを取り戻すと、静かに口を開いた。
「そう、知っていたわ」
「えっ...知っていたんですか?」
ㅤ彩音は驚き、義母の顔を見つめた。
「ええ、知っていたわ。ㅤㅤ実はね、その女性は私が紹介したのよ」
「えっ、お義母さんが?」
ㅤ義母の言葉に彩音は耳を疑った。
「どうして、私がいるのに、そんなことを⋯⋯」
ㅤ彩音の声は震えていた。
「あなたが息子の嫁、妻に相応しくないと思ったからよ。ㅤㅤ辰巳にはもっとふさわしい女性がいるはずだとずっと思っていたの」
ㅤ義母の言葉は冷酷だった。
「お義母さん⋯⋯どうしてそんなことを」
ㅤ彩音はそれ以上の言葉が出ない。
ㅤその瞬間、辰巳が帰ってきて、リビングに入ってきた。
「一体何があったんだ?ㅤㅤ彩音、泣いてるのか?」
ㅤ彼の声には驚きが含まれていた。
「あなたが浮気していることを知ったの。ㅤㅤそして、お義母さんがそれを支援していたこともね」
ㅤ彩音は涙を拭いながら言葉を発する。
ㅤ辰巳は一瞬黙り込んだが、すぐに義母を責めるような目で見た。
「母さん、どうして話したんだよ」
「辰巳、私はただあなたの幸せを願っていただけよ。ㅤㅤ彩音さんとは合わないと思ったの、あなたもそう感じてたでしょ、だからあの子と関係が続いてたんじゃないの?」
ㅤ義母の声は冷静だった。
ㅤその夜、彩音と辰巳は深く話し合いをすることになり、彼の浮気と義母の行動について真剣に向き合うことに。
「どうして?」
ㅤ辰巳に問いただす私の心の中には、怒りと悲しみが渦巻いていた。
ㅤ彼の裏切りだけではない、それを手伝っていたお義母さんの存在が私の心をさらに深く傷つけているのだ。
ㅤところが、辰巳は何も話そうとしない。
「ちゃんと説明してちょうだい」
ㅤ彼女の苛立ちは増していくばかりだった。
ㅤ彼の携帯電話を見てしまったことは謝ったが、そこには、彼が別の女性と親密にやり取りしているメッセージが大量に残されていたのは事実であり、これが浮気の証拠でもある。
ㅤ衝撃に打たれた私が、さらに辰巳に問い詰めたことで、彼の浮気相手が誰であるかを知ることとなった。
ㅤ浮気相手は、私と彼の高校時代の同級生だった。
ㅤ名前を聴いても私は彼女と接点が無かったせいか、よく知らない。
ㅤ彼も接点がなかったとはいうものの、母親同士仲が良く、そのこともあってか、義母が紹介したのだと知ることになる。
ㅤどうやら、彼女との関係は、私たちが結婚する前から続いていたらしい。
ㅤそして、その関係を知っていた義母は、私たちの結婚後も、彼らの関係を支援し続けていたのだという。
ㅤそして、義母は、私が結婚してからというもの、私に対して冷たい態度を崩さなかったので、私はその態度の理由をずっと考え続けてきたのだけれど、真逆、その答えがこんな形で明らかになるとは思ってもいなかったのだ。
「お義母さん、どうして…?」
ㅤ涙を流しながら問いかけた私に、義母が冷たく言い放った言葉が脳裏に蘇り、繰り返し再生される。
「あなたが彼の妻にふさわしくないからよ。彼にはもっとふさわしい女性がいるの」
ㅤ脳裏で再生される度、その言葉は私の心をナイフで刺すように痛かった。
ㅤ彼女が、辰巳との愛を信じて結婚したのは、彼と共に人生を歩むことを誓ったからなのに、その誓いは、彼の裏切りによって無惨にも打ち砕かれたのだ。
ㅤその後、彼女は自分の気持ちを整理するために、一人で考える時間を持つことにした。
ㅤ彼の裏切りと義母の冷酷な行動に対する怒りと悲しみが渦巻く中、彼女は自分の未来について考え始める。
「このまま辰巳と一緒にいるべきなのか?」
ㅤ彩音は自問自答する日々が続いていた。
ㅤしかし、親友に打ち明け相談したこともあってか、彼女の心は徐々に冷静さを取り戻し、ある結論に達したのである。
「私はもっと自分を大切にするべきだ。ㅤㅤ私には、自分を裏切らない人と幸せになる権利がある」
ㅤその決意を胸にすると、彩音は辰巳を避けるように家庭内別居をして暮らしてきたが、数週間が経過してから、漸く前向きに今後の夫婦関係に対して向き合うことにしたのだ。
ㅤ彼との話し合いの中で、彼女は自分の気持ちを率直に伝えた。
ㅤ彼は最初は言い訳を並べ立てたが、最終的には認め「本当にごめん」と謝罪したが、その言葉はもはや彼女の心には届かなかった。
「もう遅いわ。ㅤㅤ私たちはこれ以上一緒にいるべきじゃない」
ㅤその言葉を最後に、彼女は彼との関係を終わらせる決意を固める。
ㅤ義母の冷たい視線と彼の裏切りに傷つけられた彼女だが、その経験を通じて、彼女は自分を取り戻すことができたのだ。
「分かった、離婚しよう」
ㅤ意志の固い彼女を目の前に、彼はそう言った。
ㅤこうして、新しいスタートを切るために、彼女は自分の人生を再構築することを決める。
ㅤこの決意は固く、引越し先と新しい仕事を早々と見つけると、引越しをして、新しい友人を作り、新しい場所で新たな生活を始めることにした。
ㅤ過去の傷は完全に癒えることはないかもしれないが、彼女は前を向いて歩くことを選んだのだ。
ㅤそして、新しい環境で生活を初めてから一年後、冬が再び訪れる頃、彼女は新たな幸福を見つけることができた。
ㅤ自分を大切にし、自分を信じることができるようになった彼女が、再び笑顔を取り戻すことができたのは、親友の支えと、彼女が前向きに生きてこれたからなのかもしれない。
ㅤ裏切りの冬は、彩音の心に大きな傷が残る程辛い経験だったけれど、その経験を通じて彼女はとても強くなっていた。
あの時、二人で乗り越えていく決意を固めなかったのは正解だったに違いないだろう。
ㅤそして、自分を愛することの大切さを学んだ彼女は、幸せの冬を手に入れ、これからも、自分の幸せを最優先し、追求し続けることだろう。
ㅤこれから先、ずっとずっと彩音の幸せが続きますように!
――あれから十年後
「ママ、パパおはよう、今日の朝ごはん何?」
「今日はフレンチトーストとコンスープとトマトとブロッコリーのサラダよ、熱いからフーフーして食べようね」
「はーい、いただきます」
ㅤ彩音は優しい彼と職場で出会い、結婚し、愛してくれる旦那と、5歳になる愛娘と幸せに暮らしています。