表示設定
表示設定
目次 目次




ー/ー



「亨、今村さんのことなんか放っておいてよ!」
 わたしの部屋で、ドアが閉まるなり玄関先であなたを(なじ)ってしまう。

「未散!? いきなりどうしたんだよ。今村さんは単独で担当するの今回のミロードさんが初めてだからさ。大袈裟だけど、ひとりで社名を背負うわけじゃん? 不安になるのも無理ないだろ」
 (なだ)めるような声。これじゃわたしがただ我が儘言ってるみたいじゃない! 違うわ、これは恋人としての正当な要求よ。許せなくて当然だわ。
 その筈、なのに。

「でも──」
「俺は彼女とはホントに仕事の話しかしてないよ。見てたんならわかるよな?」
 眉根を寄せるあなた。
 ……なんでそんな顔するのよ。わたしは何も間違ってないでしょう?

    ◇  ◇  ◇
「今村さん、田野倉(たのくら)さん、今日はどこにします?」
「パスタもいいかな。七恵(ななえ)は?」
「そーねぇ……。あ! あたし達ランチ行くんですけど、小笠原さんもご一緒しませんか?」
 ドアに向かうために傍を通り掛かっただけのあなたに、すかさず声を掛ける後輩。女三人の食事に男の人を誘うなんてどういうつもりなの!? しかもわたしの彼を! 

「今村さん、悪い。もうちょっと、キリのいいとこまでやっときたいんだ。ゴメンな」
「いえ、わかりました。また今度、是非〜」
 デスクを指して如才なく断る亨に、あからさまにがっかりした顔。いい加減にして! 会社は男漁りに来るところじゃないのよ。

「ざんねーん。あたし、こないだ小笠原さんに励ましてもらえて、担当の仕事も上手く行きそうなの。お礼もだけどもっといろいろ聞きたいわぁ」
「あー、あのミロードさんの。七恵、結構悩んでたもんね」
「そうそう。……真美(まみ)にはいろいろ愚痴聞いてもらってごめーん」
「大変そうですけど、きっとやりがいもあるんでしょうね。私も早く担当持たせていただけるようになりたいです」
「中野ちゃんならすぐじゃない? ね、七恵」
 ……もしかして、わたしの居ないところでは女と食事に行ったりしてるの!?
 居ても立っても居られずに、わたしは椅子から立ち上がる。ぺちゃくちゃとくだらないお喋りしてる子たちの背後を通って、オフィスを出た彼を追い掛けた。

「亨!」
 廊下を歩くあなたに追い付いて、後ろから肘を掴む。

「未散……」
 慌てたように振り向いたあなたに、そのままフロアの端まで連れて行かれた。少し死角になった、自販機とテーブルセットが置かれた休憩コーナー。

「社内恋愛は禁止じゃないけどさ。ちゃんとけじめはつけてくれよ。公私混同は嫌なんだ」
「でも!」
「……とにかく、帰りにお前の部屋に行くから。ちょっと話が──」
 亨が何か言い掛けたところに掛かる声。

「お、小笠原」
 飲み物を買いに来たらしい同じ課の社員に、あなたはハッとしてわたしに作り笑顔を向ける。

「じゃあね、み、──渡辺さん」
「ああ、渡辺さんもいたんだ」
 その声に我に返って、わたしは彼におざなりに会釈だけ返した。
 オフィスに戻るために自然急ぎ足になりながら、わたしはもうあなたのことしか考えられない。




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「亨、今村さんのことなんか放っておいてよ!」
 わたしの部屋で、ドアが閉まるなり玄関先であなたを|詰《なじ》ってしまう。
「未散!? いきなりどうしたんだよ。今村さんは単独で担当するの今回のミロードさんが初めてだからさ。大袈裟だけど、ひとりで社名を背負うわけじゃん? 不安になるのも無理ないだろ」
 |宥《なだ》めるような声。これじゃわたしがただ我が儘言ってるみたいじゃない! 違うわ、これは恋人としての正当な要求よ。許せなくて当然だわ。
 その筈、なのに。
「でも──」
「俺は彼女とはホントに仕事の話しかしてないよ。見てたんならわかるよな?」
 眉根を寄せるあなた。
 ……なんでそんな顔するのよ。わたしは何も間違ってないでしょう?
    ◇  ◇  ◇
「今村さん、|田野倉《たのくら》さん、今日はどこにします?」
「パスタもいいかな。|七恵《ななえ》は?」
「そーねぇ……。あ! あたし達ランチ行くんですけど、小笠原さんもご一緒しませんか?」
 ドアに向かうために傍を通り掛かっただけのあなたに、すかさず声を掛ける後輩。女三人の食事に男の人を誘うなんてどういうつもりなの!? しかもわたしの彼を! 
「今村さん、悪い。もうちょっと、キリのいいとこまでやっときたいんだ。ゴメンな」
「いえ、わかりました。また今度、是非〜」
 デスクを指して如才なく断る亨に、あからさまにがっかりした顔。いい加減にして! 会社は男漁りに来るところじゃないのよ。
「ざんねーん。あたし、こないだ小笠原さんに励ましてもらえて、担当の仕事も上手く行きそうなの。お礼もだけどもっといろいろ聞きたいわぁ」
「あー、あのミロードさんの。七恵、結構悩んでたもんね」
「そうそう。……|真美《まみ》にはいろいろ愚痴聞いてもらってごめーん」
「大変そうですけど、きっとやりがいもあるんでしょうね。私も早く担当持たせていただけるようになりたいです」
「中野ちゃんならすぐじゃない? ね、七恵」
 ……もしかして、わたしの居ないところでは女と食事に行ったりしてるの!?
 居ても立っても居られずに、わたしは椅子から立ち上がる。ぺちゃくちゃとくだらないお喋りしてる子たちの背後を通って、オフィスを出た彼を追い掛けた。
「亨!」
 廊下を歩くあなたに追い付いて、後ろから肘を掴む。
「未散……」
 慌てたように振り向いたあなたに、そのままフロアの端まで連れて行かれた。少し死角になった、自販機とテーブルセットが置かれた休憩コーナー。
「社内恋愛は禁止じゃないけどさ。ちゃんとけじめはつけてくれよ。公私混同は嫌なんだ」
「でも!」
「……とにかく、帰りにお前の部屋に行くから。ちょっと話が──」
 亨が何か言い掛けたところに掛かる声。
「お、小笠原」
 飲み物を買いに来たらしい同じ課の社員に、あなたはハッとしてわたしに作り笑顔を向ける。
「じゃあね、み、──渡辺さん」
「ああ、渡辺さんもいたんだ」
 その声に我に返って、わたしは彼におざなりに会釈だけ返した。
 オフィスに戻るために自然急ぎ足になりながら、わたしはもうあなたのことしか考えられない。