「
小笠原さん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
今年の新人の子だわ。
出社して来るなり
私の彼に真っ先に笑顔向けたりして。なんなの?
「
渡辺さん、おはようございます」
「……おはよう、
中野さん」
そのままへらへら笑って、私にも声掛けて来るんだから。目を合わせられたら逸らせないじゃない。わたしが悪者になるでしょ。
あの人が居なかったら、無視してやりたいくらいよ。
仕事も碌にできないくせに男に、……わたしのあの人に媚びを売るのだけは達者なのね。──嫌な子。
「おー、中野さん、おはよう!」
「おはようございます、主任」
「早速だけど、昨日のこれさ。一箇所だけ確認したいんだけど。でも、本当によくできてたよ」
「あ、ありがとうございます。……どういったところでしょうか」
その日の仕事帰り。
退社は別々だけど、いつも通り会社の最寄り駅で待ち合わせて一人暮らしのわたしの部屋に帰って来たの。
「亨。今朝、中野さんに随分愛想よくしてたわね」
ダイニングの椅子に腰を下ろした途端、咎めるような言葉が零れてしまう。そうよわたし、朝からずっと我慢してたんだから。
「今朝、って何かあったか? 中野さん、……てあの新入社員だよな? 俺、あの子とは朝の挨拶しかしてない、と思うけど」
不思議そうに首を捻るあなた。それさえ少し気に障る。
「あんなにいい顔で笑わなくてもいいじゃない! ただの同僚なんだから、もっと普通に──」
「……いや、何言ってんだ? 職場で挨拶は大事だろ? そんな仏頂面で返せるかよ。ましてや入社したばっかの若い子に」
「だって!」
「未散。俺はお前のことだけ好きだよ。他の女の子なんてどうでもいいんだから。もっと自信持ってくれよ」
あなたの困ったような顔。
どうして。どうしてわかってくれないの? 好きなのよ。愛してるの。
──わたしの、わたしだけの、あなた。
◇ ◇ ◇
「小笠原さーん、ミロードさんの件なんですけど!」
後輩の女子社員がバタバタ駆けて来て彼を捉まえる。落ち着きないわね。
「
今村さん、何かあった?」
「あの、それがぁ。もしかして、あたしじゃ不満なんじゃないかって──」
わたしより二歳下のあの子。
もう二年目なのに、何を彼に甘えてるの? その幼稚な喋り方、何とかしなさいよ! 本当に社会人の自覚あるの!?
「ミロードさんの
田無さん、一見とっつきにくく感じるかもしれないけど別に難しい人じゃないから。穏やかないい人だよ。それとも何か言われたとか?」
「……いえ、それはないですけどぉ。あの方、あんまり笑わないし」
「だけど不愛想ってわけじゃないだろ? むしろ感情的な人よりずっとやり易いと思うよ」
優しく言い聞かせるような亨。もっときつく突き放せばいいのに。
男に色目使うより他にすることあるでしょ。もう完全に引き継いだ仕事なんだから、いちいち前任だからって彼にベタベタするのやめなさいよ。
そういう無責任さが、相手にも見抜かれてるんじゃないの?
わたしの彼に、構わないで。